中世風自由サンドボックスRPG『歴史の終わり』が面白い。立身出世して世界崩壊を防ぐ、プレイヤーがいなくても生きていくNPC達との唯一無二の物語

本稿では筆者が紡いだ歴史を一例として紹介する。

トライシステムによるインディーゲームレーベルWorldMapは、サンドボックスRPG『歴史の終わり』の早期アクセス配信を12月10日に開始する。対応プラットフォームはPC(Steam)で、価格は税込2800円。

『歴史の終わり』は、広大な中世風の世界を自由に生きる、サンドボックス型のストラテジーRPGだ。本作でプレイヤーは、多数のNPCが暮らすファンタジー世界で自由に振る舞っていく。ゲーム開始時には、ランダムな能力値や名前によって、主人公の方向性を決められる。開始後は王や領主を目指してもいいし、騎士や交易商、盗賊となってもいい自由度の高さが魅力の作品だ。

とはいえ自由度が高すぎると何をすべきか分からないプレイヤーもいるだろう。基本的にはこの世界で活躍して立身出世し、最終的に世界征服することが一つの目的だ。その過程が驚くほど自由で、気づけば数十時間も夢中でプレイしてしまうほどのめり込んでしまった。本稿ではその一例として、筆者が紡いだ歴史を紹介していこう。

※本稿はメーカーより提供を受けたSteamベータ版にもとづき執筆。製品版においては仕様変更となる可能性があることを留意されたい。

空腹と金欠の中でおつかいに奔走する序盤

本作は一般的なRPGとは大きく異なるため、まずは本作における基本的なシステムと序盤の流れを説明しよう。なお、ゲーム中でも要所でチュートリアルやメインクエストが示される。

本作では導入の説明が完了すると広大なフィールドに放り出される。フィールドはインタラクトできるオブジェクトとして城や村が存在する、いわゆるミニチュア型のワールドマップだ。プレイヤーが行動する間だけ世界時間が経過するシステムとなっており、1歩で1時間、24時間で1日、30日ごとに春夏秋冬が巡って、120日で1年が経過する。そして、毎日食料を消費し、食料含めた重量制限もある。本作において食料確保は最後まで最優先事項であり、食料という制限がプレイヤーの選択に重みを与えている。

フィールドではプレイヤーが動く間だけNPCも動く。盗賊から襲われることもある。

食料は街で販売されており、当然ながらお金が必要となる。お金を稼ぐには、各街の特産品を交易したり、ギルドの依頼をこなさなければいけない。依頼は隣街までの配達といったものが多く、隣街までおおむね3日以上かかるため、食料と荷物の重量制限に気を付けながら世界を巡るわけだ。一度の交易や依頼達成で数百のお金を稼ぐことができ、ギルドの依頼を達成すればプレイヤーの名声が上昇する。ちなみに、NPCたちもこの世界で生きていることが特徴で、プレイヤーと同じ条件でお金を稼ぎ、食料を購入し、ときには飢える。プレイヤーだけが特別ではないというリアリティを感じられる。

ギルドの依頼を数回達成するころには名声が上がり、国に士官できるようになる。本作では中央と東西の三国が争っており、筆者は中央の大国に士官することとした。国に所属したことで毎日1桁の給料が発生するので、酒場で兵士を雇う余裕ができるだろう。雇った兵士には毎日給料を払う必要があるのだ。また、所属する国の王からは突発的に主命が下されるようになる。主命と同時に資金援助が貰え、戦争中であれば攻城戦に参加しろだの、戦争後は街の治安や農業を改善しろだのさまざまだ。とはいえ、主命に従うか否かは自由。従うと貢献度が増えて騎士から男爵、子爵など階級が上がって、毎日の給料も増えていく。

移動中・戦闘中問わず、さまざまな主命が突発的に下される。

主命でも挑む本作の攻城戦は数十~数百人規模のリアルタイムアクションだ。ヒット&アウェイやパリィ、回復アイテムを駆使すれば敵が10人くらいまではなんとかなるが、それ以上になるとほぼ勝てない。有力NPCは数十人の兵士を引き連れていることもあるため、アクションよりも味方勢力の兵士数が重要となるストラテジー寄りのバトルとなっている。また、攻城戦は10日以上に及ぶこともあり、戦闘中に食料がなくなると強制撤退。HPが尽きた場合はゲームオーバーにならないものの、お金や兵士を奪われてしまう。とはいえ仮に失敗しても、主命に従った攻城戦であれば活躍に応じて貢献度は増えていくかたちだ。

兵士数が重要なアクションバトル。オートバトルも可能。

このように序盤数時間は交易やギルド、王からの主命に奔走しながらお金を稼ぐのが主な体験であった。率直に言えばおつかいを繰り返すだけであり、自由とはかけ離れている。自由度が高くなっていくのはここからだ。

臣下ができて気分は中間管理職

国に貢献して階級が上がると、NPCを臣下にできるようになる。本作では酒場でNPCと会話すると、さまざまな情報を聞けるとともにNPCのステータスが一つずつ開示されていく。それらのステータスを参考にしつつ、NPCが中立な立場といったいくつかの条件を満たしていれば、プレイヤーの臣下として雇えるわけだ。ちなみに、酒場では一度会話するたびに2時間経過していく。

NPCに対して雇うという選択肢が出てくる。条件を満たしていれば臣下にできる。

この臣下に対して、プレイヤーから主命を下すことができる。これにより、王からの主命をそのまま臣下に丸投げして、自分は他のことをする中間管理職のような立ち回りができるのだ。ただし、臣下に対して毎日給料を払う必要があり、主命を下すときにもお金が必要となる。お金が少ないときには資金獲得を命じることもでき、臣下は何人でも採用できるので、一人は王の主命対応、一人は資金獲得といった役割を分担させるのが楽しいのだ。本作では世界情勢が変化する中でやりたいことは無数に発生するので、まるで自身の分身を作り出して面倒な作業を任せるという全能感が得られる。

複数人に同時に主命を下すことも可能。彼らにも都合があるので失敗することもある。

主命や給料でお金を使うので、まだまだ交易やギルドは必要ながらも、臣下の存在によりこれまでよりも自由に冒険できるようになる。筆者はこのタイミングで未踏だった西の国を訪れたり、後述するオベリスクの謎探しに夢中になってしまった。また、経過する時間にも余裕ができるため、行く先々の酒場でNPCとの交流も積極的におこなった。ちなみに、交流により全てのステータスが開示され、プレイヤーに好印象を持っているNPCには愛人契約を持ちかけることも可能だ。

世界には多数のNPCが生きており、筆者が紡いだ歴史において記憶に強く残ったNPCが二人いる。一人は稀代の天才と称されるシェリーアさん。全てのステータスがほぼMAXという最強NPCであり、同じ国内で別の勢力を率いている。しかし、臣下に誘ったところ主人公の魅力が低いためか断られてしまった。もう一人は初期に臣下となったヤイリさん。彼女は99という最高の魅力をもっていたため、ほぼ常に人材獲得の主命を下し、新たな臣下の獲得に奔走してもらうこととなる。

6つのステータス全てが99に近い天才シェリーアさん

王の主命を臣下に丸投げしながら世界を巡っていても、臣下の活躍によりプレイヤーの階級は上がっていく。階級が上がると王から領土が貰えることがある。領土となった街からは給料とは別に税収が入るようになるのだ。そして治安や農業の改善、商業投資などにより税収も増えていくので、これらも臣下に任せればいい。領土が3つになる頃には毎日数百の税収が入るようになり、資金不足から解消される。交易やギルドのおつかいに頼ることはなくなり、真に自由になる解放感を味わえる。なお、農業値が低いと販売される食料も減ってしまうので、農業の改善は非常に重要だ。領土の運営はさながら経営シミュのような様相を呈している。

国に貢献し続けると領土が貰える。いつ、どこの領土が貰えるのかは運次第。

建国後は独裁無双プレイで世界を蹂躙

3つの領土を持つ頃には、建国して世界征服を目標とするメインクエストが示されるだろう。臣下を増やして準備を整え、お世話になった国の王に申し訳なさを感じつつ、反乱して建国を宣言する。すると、反乱に同調して天才NPCのシェリーアさんも付いてきてくれたのだ。筆者の国の勢力の一つというかたちではあるが、実質的に臣下と同じ扱いとなり、シェリーアさんにも主命を下せるようになる。

反乱と同時に元の国とは戦争に突入する

ここからは世界征服に向けての無双プレイだ。建国したタイミングで10人前後の臣下がいたため、全員に侵攻の主命を下して一斉に突撃すれば楽に領土を奪える。しかもこちらには天才シェリーアさんがいるので負けることはない。奪った領土に対しては一斉に治安回復を命じることで、税収もじゃぶじゃぶ増えていく。最終盤には毎日数万の税収が入るようになり、序盤の金欠が嘘のようだ。

なお、反乱を起こす前は王から好印象であったものの、反乱後は当然ながら悪印象を持たれてしまう。しかし、反乱前に積極的に交流していたことで、反乱後の王に対して愛人契約を持ちかけることも可能であった。愛人となるにはさらに困難なクエストが発生するため、実際に愛人になることはなかったが、本作の自由度の高さを感じるだろう。また、領土を奪う際に倒したNPCは、臣下にするか処刑するかを選択することができる。選択肢には臣下からの印象度の増減が示され、王を臣下にするとシェリーアさんから悪印象を持たれてしまうという理由から、筆者は泣く泣く王を処刑することとした。天才が敵になるのは避けたいのでシェリーアさんには逆らえない。

世界征服途中の世界地図。右側半分以上は筆者の国旗だ。

この間も臣下を増やし続けて、数の暴力で領土を奪い続ける。世界地図がプレイヤーの国旗に染まっていく爽快感がすさまじく、建国から世界征服までの10時間ほどは辞めどきが見つけられなかった。最終的に40人ほどの臣下を自分の手足のように使っていく作業が、大変ながらも非常によくできた仕組みであったため、終盤の快感を是非味わってほしい。なお、臣下の半分以上は魅力99のヤイリさんの勧誘によるものでMVPと言える活躍ぶりであった。しかし、世界征服直前に寿命で亡くなってしまい、このときは本気でショックを受けてしまった。こうしたプレイヤーだけのNPCとの物語も本作の魅力だ。

実は高齢のヤイリさんは70歳で亡くなった。HPとは別の健康値が減ると死亡しやすくなる。

世界の崩壊を防ぐためオベリスクの謎を解く

無事に世界征服は達成したものの、本作にはそれとは異なる真の目的が存在する。本作の世界は崩壊に向かっており、プレイヤーは最後の長命種として、寿命を迎える100年後までに世界の崩壊を防がなくてはいけないのだ。プレイ中には世界崩壊度という「憎悪」と「分断」によって高まる数値が定期的に示され、150に達するとゲームオーバーになってしまう。ゲームを進めていけば世界崩壊度が上下する細かな条件も理解できるので、崩壊度が上がりすぎないような立ち回りも意識する必要がある。

世界征服時点での世界崩壊度。ゲームオーバーにならないよう意識した立ち回りが重要。

また、世界の中央には旧文明の巨大な塔「オベリスク」が建っており、そこに到達すると7つの鍵と7つの遺物を探すクエストが発生する。これらを集めることで世界の謎が判明し、崩壊を防ぐ道筋が示されるだろう。数少ない手がかりをもとに、NPCから情報収集して少しずつ範囲を絞っていく宝探しのような要素となっており、中盤には王からの主命そっちのけでのめりこんでしまった。筆者はすべての鍵と遺物を集めることができたが、集めたときにどうなるのかはプレイヤー自身の目で確かめてほしい。

本作は多数のNPCと一度きりの歴史を紡ぐ作品だ。侵攻を命じたシェリーアさんが出産のために途中で撤退してしまうといった、紹介できなかった物語も山ほどある。NPCたちはプレイヤーがいなくてもこの世界で生きており、プレイヤーが関わることで彼らの運命も変わっていくのだ。ゲーム開始時のシード値によりNPCは変化するので、まったく異なる歴史を紡ぐこともできる。同じシード値で盗賊として成り上がったり、お気に入りのNPCと異なる関係性を築くのも面白いだろう。国産の意欲溢れるサンドボックスRPGで自分だけの歴史を体験してほしい。

『歴史の終わり』は、PC(Steam)向けに12月10日リリース予定。価格は税込2800円だ。

Haruki Maeda
Haruki Maeda

3DアクションRPGと犬をこよなく愛するPCゲーマー。『フォールガイズ』のようなわちゃわちゃ系も大好きです。

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