『バーチャファイター』新作『New VIRTUA FIGHTER』Projectでは、本気でGOTYを狙う。“格闘ゲームの枠”を超える「面白さ」への挑戦

『New VIRTUA FIGHTER』Projectのプロデューサーである山田理一郎氏にインタビューを実施した。本稿では、新作に向け何を基準として新たな要素を取り入れるかなどについて訊いた。

セガが手がける、対戦格闘ゲーム『バーチャファイター』シリーズ。そんな同シリーズの完全新作として、2024年12月に『New VIRTUA FIGHTER』Projectは発表された。

『New VIRTUA FIGHTER』Projectは龍が如くスタジオが開発を担当。コンセプトムービーなどの公開を経つつ、2025年9月には、「東京ゲームショウ 2025」にてバトルシステムなどもお披露目された。今回弊誌はそんな『New VIRTUA FIGHTER』Projectのプロデューサーを務める、山田理一郎氏にインタビューを実施した。本稿では、本作で新たに導入を目指す新要素を加えた基準や、プレイヤー層の拡大を狙う施策について、詳しく掘り下げる。

――自己紹介をお願いします。

山田理一郎氏(以下、山田氏):
プロデューサーの山田理一郎です。僕は1999年にゲームデザイナー/プランナーとしてセガに入り、家庭用ゲームからスマホゲームまでさまざまなゲームにかかわってきました。途中一度セガを退社し、Warner Bros. Entertainmentでゲーム制作に携わっていたのですが、2023年にセガに戻ってきました。いわゆる出戻り組です(笑)

そして今回セガに戻ってきて、「新しい『バーチャファイター』を作るぞ」という流れになりまして、プロジェクトの立ち上げから携わっております。

――『New VIRTUA FIGHTER』Projectとはどういったプロジェクトか教えていただけますか。

山田氏:
『バーチャファイター』シリーズについては、復活してほしい、何とかしてほしいと思うユーザーの方がたくさんいらっしゃいました。今はゲームセンターにおける格闘ゲームの規模も小さくなっているので、ここで家庭用向けに力を入れたいと計画しました。

一方セガでは龍が如くスタジオの中に『バーチャファイター』のチームが入り、それを機に昔のIPも改めてちゃんと手がけようという話になったんですね。そこで『バーチャファイター』を作ろうという声がスタジオ内で上がり、僕がプロデューサーとして担当することになりました。

――プロジェクトの立ち上げ当初、チーム内で掲げた「ゴール」や「合言葉」のようなものはありましたか?

山田氏:
それはもう、「Game of the Year」にエントリーされるような内容にしようというところですね。初代『バーチャファイター』のように、「格闘ゲーム」という枠に収まらないタイトルにしたいっていうのが考えとしてありました。

どうしても格闘ゲームはゲームの中でも特殊なカテゴリーに見られがちなジャンルです。でも『バーチャファイター』は決して特殊なものではなく、誰でも簡単にプレイできるところが良いところだと思っています。だから、みんなが遊べるゲームじゃないと「Game of the Year」にエントリーされるような、人口に膾炙するようなものにはならない。そういう意味で、「Game of the Year」エントリーを目指すというのはありました。

――『New VIRTUA FIGHTER』Projectについては対戦バトルプレイ映像など公開されました。動画では新システムなどの要素もお披露目されています。その導入で目指した新しい遊びなどがありましたらお教えください。

山田氏:
シリーズ作品では新しいものを取り入れつつも、時にはそぎ落とすようなことも必要だと思います。個人的には格闘ゲームのルールはだいたい同じだなと考えていて、そこに少し違う遊びを入れたいと考えています。

不変的な格闘ゲームのルールはずっと面白いものではあるのですが、違う遊びを入れたくて、新ルール「アップライジング」(※)を追加しました。試合中にやることは変わらずとも、ルールが違うことで別の遊びへと発展しているわけです。ベースとなる格闘ゲームのルールが面白いことは大前提として、せっかく新しいことをやる以上、いろいろ試してみたいというのはありますね。

※アップライジング……現時点では、スタンダードとはまったく違う「逆転」をテーマにした新しいコンセプトのバトルルールとなることが明かされている。

――「新しいものを取り入れる」とのことですが、シリーズ過去作では『バーチャファイター5』にて投げ抜けの仕様に変更が入りました。また「バウンドコンボ」も新要素として導入され、ユーザーからは賛否両論あったかと思います。『New VIRTUA FIGHTER』でも賛否両論を覚悟して要素の変更や、新要素に挑戦するのでしょうか?

山田氏:
もちろんです。『バーチャファイター4』から『バーチャファイター5』にかけての新要素追加やシステム変更といった流れは、良し悪しにかかわらずいったん完成したものと考えています。何より今でもプレイしてくれている人がいるということは、完成度も高く、これまでの進化の路線を間違えていないことの証左だと考えています。

だからこそ、その上にさらに単純に積み上げていくだけだと複雑なだけのゲームになってしまう。そこで『New VIRTUA FIGHTER』では、ある程度積み上げたものを一度切り捨て、新たなものを取り入れるという試行錯誤も必要になります。

どの要素を残し、どの要素を切るかというのは、いろいろ試すことになりますが、大事なところは武田(武田洋介バトルディレクター)が守ってくれると思います(笑)ずっとバーチャを作っている人だからこそわかることがある。アクションゲームの要素は、プログラマーやモーションデザイナーだからわかることがあったりして、「ここはこうしたら絶対ダメ」というのを把握している。そこを守ってもらいつつ、新しいものを取り入れていく、という感じです。

当然新要素もいろいろテストして面白いものにして実装することになりますが、その結果「前の方がいい」と思う方が現れるのは仕方ないことだと思います。ただ『バーチャファイター』をやったことない人でもやってみたくなるというのは大事だと思いますから、面白いこと、新しいことには積極的に挑戦したいですね。

――だからこそ『New VIRTUA FIGHTER』だと。

山田氏:
タイトルはまだ確定してないですけど(笑)ただ『New VIRTUA FIGHTER』の制作にあたって「New」とつけていることにはそういう理由があります。タイトルは検討中ですが、「新しいものを作っています」という決意の表れです。

――先ほど対戦バトルプレイ映像についてお話をお聞きしましたが、東京ゲームショウでは「ブレイク&ラッシュ」「スタナー&スタンコンボ」「フロウガード」という新システムが紹介されました。これらを取り入れるにあたって、コアなプレイヤーとライトなプレイヤーへの間口を広げるかのバランス感はどう判断したのでしょうか?

山田氏:
優先したのはライトプレイヤーへの間口を広げる方向です。これはコアなプレイヤーを蔑ろにして、“ただ簡単にしよう”と決めたわけではないです。どう作っても難しい部分、やりこみがある部分は残さないといけない。

――『バーチャファイター』はモーションの種類も非常に多く、複雑ですよね。

山田氏:
そうですね。だからその複雑さが保たれているうちはいくらでも間口を広げるためにいろいろ試せると思っています。だから「ハの字」(足位置)も残していますしね。

あれは格闘ゲームをプレイしている人からすると覚えることが増えてしまう、「訳が分からない要素」の一つだと思うんです。一方で、格闘ゲームをあまりやらない人からすると「そんなところまでこだわっているんだ、すごい」となる要素でもあります。足位置という要素がある結果、覚えるコンボが増えるというのはトップ層などに限られる。なので“複雑な要素”でも、案外間口を狭めるという懸念はそんなになかったりするわけです。

テストプレイでもバーチャをやったことのない人の意見を聞くことがあるんですが、「面白そう」「そんな要素があるんですね」という反応をいただけました。シリーズファンの方々からは懸念や意見もあるのですが、実はゲームをやりこんでいる人の「初心者」の想定は、全然初心者レベルではないこともあります。我々としても、「やる前からそんなこと気にしていない」ということには案外気づきませんでした。いろいろとフラットな目線で考えなければいけないなと感じましたね。

――確かに、一般プレイヤー目線では、足位置が変わっているかどうかもわからないですよね(笑)

山田氏:
でも足位置変えるのって楽しいですよね(笑)ゲーム内にある要素を、できるならやりたいというのは素朴な感情で、足位置の違いで技を変えるなどは、格好いいと感じられる要素だと考えています。ただそれを複雑に、面倒にし過ぎない工夫は必要ですね。ハードルを上げる、イライラする行為になってしまうのは良くないことですから。

――近年では、『ストリートファイター6』や『鉄拳8』、『餓狼伝説 City of the Wolves』などが登場しました。そうした格闘ゲームジャンルの動向を踏まえ、『New VIRTUA FIGHTER』が意識した点はありますか?

山田氏:
まず、格闘ゲームは枠にとらわれないことが大事だと考えています。「格闘ゲーム」という枠は国によってスタンスが違ったりもするので、「特定のジャンルだから」という思想は、考え方が狭くなってしまうのかなと思っています。

それよりは面白いゲームを作る、という根本を意識して進めていくのが大事かなと。最初の『バーチャファイター』がまさにそのスタートだったと思うので。

――『バーチャファイター』は実在の格闘技をゲーム内の動きに、いち早く取り入れた作品だと思います。格闘ゲームというより、“カンフーシミュレーター”のようなタイトルになっているのも、そうした哲学ゆえでしょうか?

山田氏:
そうですね、シミュレーターでもあるし、他の格闘ゲームに似せていないからプレイヤーが集まったのだと思います。他タイトルが成功している点などは踏まえつつ、あくまでも唯一性を大事にしていきたいですね。

――最後に『New VIRTUA FIGHTER』Projectを期待して待つファン、また弊誌読者に向けて一言お願いします。

山田氏:
本作は「格闘ゲーム」という枠に留まらず、今までに本シリーズをやったことがない人たちに向けても面白いゲームだと思ってもらえるように頑張っています。まだゲームの全貌を明らかにしたわけではないのですが、次の公開タイミングあたりでお見せできるかなと思うので、続報を楽しみにしていただければと思います。

――ありがとうございました。

New VIRTUA FIGHTER』Projectは開発中。対応プラットフォームおよび発売時期は現時点で未定だ。

[聞き手・執筆:Hiroshi Hirose]
[編集:Kosuke Takenaka・Hideaki Fujiwara]

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