本格レーシングシミュ『Project Motor Racing』のリアリズムのコアはどこにあるのか?ドライビングコンサルタントのベン・コリンズ氏に本作のこだわりポイントを聞いてきた

Project Motor Racing』におけるコリンズ氏のコンサルタントとしての役割や、ゲーム本編にまつわる話、好きな車種など、さまざまな質問をさせていただいた。

『Project Motor Racing』は11月25日に発売したレーシングシミュレーターだ。対応プラットフォームはPC(Steam、Epic Games Store)/PS5/Xbox Series X|Sで、価格は7590円(税込)。

本作は『Project CARS』などで知られるイアン・ベルが率いるStraight4 Studiosによって開発されており、本格派レーシングシミュレーターを標榜する作品だ。自社開発のゲームエンジンを用いた正確なマシン挙動や、天候や時間の変化がリアルタイムでコースに反映されるダイナミックな状態変化などを特徴としている。

弊誌はこのたび、本作のドライビングコンサルタントであるベン・コリンズ氏に話を伺うことができた。ベン・コリンズ氏はプロのレースドライバーとしてキャリアをスタート。その後はBBCの『トップ・ギア』への出演や、車に関するYouTube動画の制作、『007』シリーズでのカースタント、時にはプロシーンに戻ってレースに出場したりと、50歳を迎えた今でも多岐に亘り活動している人物だ。

そこで今回は『Project Motor Racing』におけるコリンズ氏のコンサルタントとしての役割や、ゲーム本編にまつわる話、好きな車種など、さまざまな質問をさせていただいた。

──『Project Motor Racing』ではどのくらいゲーム制作に関わっていますか?

ベン・コリンズ氏(以下「コリンズ氏」):

『Project Motor Racing』は開発の初期段階から関わっており、ハンドリングコンサルタントとして参加しています。
私の役割は、各車両の個性を決めるハンドリング特性の微調整。たとえば、GTで走るマシンとハイパーカー、それぞれのドライビング感覚の差異を指摘したりしています。

しかし、私の意見が加わる以前でも、マシンの核の部分はよく再現されていました。
ハンドリング部分は膨大なデータを元に作られています。車両の総重量、前輪と後輪の重量配分、そしてシャーシの剛性、カーボンモノコックなのか鋼管フレームなのか、そうしたデータですね。

タイヤのモデルも考慮に入っています。
使用しているのはスリックタイヤか、ストリートタイヤか。タイヤの幅は?グリップ力は?現実世界でのグリップ力、つまりG値はいくらか?そうしたデータをタイヤメーカーから膨大に提供してもらって、再現されているんです。
それ以外にもマシンの馬力やダウンフォース量といった数値や、サスペンションタイプ、そうした細かい調整機能もデータとして入力されています。

とはいえ、そこからゲーム全体のリアリズムを、一段階引き上げるのが私の役目です。
私はあらゆるレースを経験してきたので、直近で962(ポルシェ962)を運転した経験を活かして「962はこう走る」と言えるし、ゲーム内でのハンドリングの正確性や、音がおかしいとかパワーカーブがずれているとか、そういう点に気付けます。

他にもたとえば、フェラーリF40のグループC、ル・マン仕様車を考えてみましょう。あれは非常に強力なターボを搭載していますね。エンジンのRPM(回転数)が一定に達すると突然、非常に鋭く、強烈な加速が出る。パワーの数値だけを眺めても、そうした違いがすぐには分かりません。
ターボパワーがいきなり爆発する80年代のグループCマシンと、パワーカーブが極めて緩やかなル・マン仕様のハイパーカー。そうした細かな違いこそ、プレイヤーに強く意識させたい部分ですね。

──本作に参加しようと思ったきっかけは何ですか?

コリンズ氏:
イアン・ベルに誘われたんです。『Project CARS』や『GT Legends』などを作った、レーシングシミュ界では伝説的な人ですね。
彼に初めて出会ったのは、12年ほど前です。最初イアンが私に連絡をくれて、一緒に夕食をとりながら、レーシングシミュのビジョンについて教えてくれたんです。

彼はまるで、レーシングカーのねじ一本に至るまであらゆる仕組みを再現し、一台一台のマシンの感触をプレイヤーに感じさせたいと言っているようでした。
当時の私はアーケードの体感ゲームか、MS-DOSの『Grand Prix 2』みたいなシンプルなレースゲームしか遊んだことなかったです。なので、最初は実現不可能ではないかと疑っていました。
でも、彼の言葉に心を動かされ、「とりあえずプロジェクトに参加したら楽しいだろう」という軽い気持ちで参加しました。

イアンの並外れた情熱は、世界でも屈指の開発者たちを惹きつけていきました。
そうして集まったチームは非常に優秀で、そのうえ物事を容赦なく追求する姿勢を持っていました。不可能だと思っていたことが、私の目の前で次々と成し遂げられていったのです。

あとはプログラマーとハンドリング特性について話すのが好き、という点も私が採用された理由でしょうね。このゲームには、ダウンフォース量の少ないロードカーからル・マン仕様のハイパーカーまで、多種多様な車両が登場します。あらゆる車を運転してきた私の経験がその再現に役立っていると自負しています。

──『Project Motor Racing』が同ジャンルのゲームと比べて秀でている部分はなんでしょうか。

コリンズ氏:
ハンドリングの再現度と、プレイヤーへのフィードバック全般です。

まず、ハンドル型コントローラーやペダルを使用した場合は、ブレーキの効き具合や、ハンドルが捻れる感覚といったリアルな感触を得られます。
視覚面でもブレーキ時の重量移動とグリップを感じ取れるようになっていますし、聴覚面ではエンジン音やタイヤ音、ホイールスピンを聞き分けることが可能です。
まさに直感的な運転感覚と言えるかもしれません。

ですが、今作が初めて実現できている要素は、低速コーナーの再現だと思っています。
2ヶ月ほど前、シミュレーション内でドニントンパークを走り込んでいました。F1でも使われたことのある、コーナーの種類も起伏も豊富でライン取りが困難なコースですね。

そこで低速コーナーをアタックしていたら、「スロットル(アクセル操作)で車を操る」ことができたんです。つまり、スロットル時にトラクションを崩すことで、ステアリングなしで車体を旋回、ヨーイングすることに成功したのです。
偶然か必然か分かりませんが、私は現実でも経験しなかったことを、生まれて初めてシミュレーション内で体験したんですよ。

しかし、歴史的に見ても、シミュレーターでこの現象を再現するのは難しいんです。
高速コーナーと違い、低速コーナーではマシンが複雑な挙動をしています。リアが動き出す瞬間やフロントがスライドする瞬間に加え、スロットルで車体が沈むのか、摩擦で車体が不安定になるのか、正しく反映する必要がありますから。

私にとって最大の魅力は車のブレーキングなんです。それがラップタイムを縮める秘訣なんですよ。
現実世界での運転のアプローチが、シミュレーターでも機能しているんです。

開発サイクルも終盤でしたので、そこからは色々と大変でした。
ですが、その時の「これだ!」という感覚は、今でも思い出すと興奮していまいますね。

──『Project Motor Racing』ではどれほどリアルなレース体験が可能ですか?

コリンズ氏:
マルチプレイではレースに集中しすぎるあまり、本物のレースのようにアドレナリンが湧いてきます。
自分たちが機械の前に座っていることすら忘れてしまうと思います。

また、本作では天気の要素があり、コースのいたる部分で天候が作用します。
なので、コースの一区間では雨で水たまりが出来て、別の区間は乾燥しているといった状態もありえます。見た目だけではなく、もちろん物理的な性質もきちんと備わっています。

その再現力は驚くべきもので、雨中のレースの練習にもなると思います。
雨でのレースは、最高のドライバーを目指す人にとっては避けられない要素です。視界が悪く、車両のグリップが低下しますから。
本作で練習を続ければ、アイルトン・セナ、マックス・フェルスタッペン、ルイス・ハミルトンといった雨の達人たちにも肩を並べられるかもしれません。

──本作はプロレベルの手ごたえがあると。

コリンズ氏:
レーシングシミュはますます現実に近づいてます。
マックス・フェルスタッペンといった選手たちからも分かるように、真剣に取り組みさえすれば、シミュレーションを経て実際のレースへと出場するキャリアパスも出来つつあります。
今やF1チームがeSportsを専門とするチームを擁している理由ですね。栄養士、トレーナー、強制休憩など、あらゆるものがeSportsにも揃ってきています。

『Project Motor Racing』は世界中のプレイヤーと競い合うために設計されています。オンライン対戦したり、フォーラムで交流したり、思い思いの形で競うことができます。
また、マシンのセットアップ内容は膨大で、プロレベルで可能です。本気でやるなら、自分仕様のセットアップブックだって作れます。

トラックのマッピングもクオリティが高いですね。4K画質で隅々まで見ることができるし、トラックのテクスチャは正確で、路面のデコボコまで再現されています。
自分の走行を見て、学ぶこともできますし、自分で運転技術を身につけたり、レーシングラインを学んだりできます。これまでのどんなシミュレーターよりも優れていると言えます。

初期のシミュレーターを初めて運転した時、私は何度もクラッシュしました。車を制御できず、すぐにスピンしてコースアウトしてしまうのです。
そしてフォーラムで議論が起きるわけです。「これがレースの本来の姿だ、安易に簡単にしてはいけない」と言うもいるんですね。そこで私は「もし実車の運転がこれほど難しかったら、とっくに死んでるよ」と答えます。現実でこんな何度もクラッシュしていたら、長くは生き延びられなかっただろうと。

ですが、シミュレーターを昔よりただ簡単にしたというわけではないです。
『Project Motor Racing』はUnreal Engineではなく、独自のゲームエンジンを使用しています。
細かいライン取りを活用し、精神力を駆使する。そうした純粋なドライビング技術の反映に焦点を絞り、実現に注力しました。

重要なのは最終的には誰が一番速いのか。誰が1秒差、0.5秒差、そして最後の0.1秒差まで迫るのか――そうした駆け引きに真髄があるわけですから。

──なるほど。初心者には敷居はとても高そうに感じられますが。

コリンズ氏:
ゲームは現実ほど厳しいものではないです。
人生で一度も運転したことがない人は、ゲームから基本を学ぶところから始めてもいいと思います。
飛行機に乗らなくても、日本やアメリカのサーキットでレースをする感覚を味わえるのは楽しいことですよ。自宅でぜひ色んなマシンを走らせてみてください。

本作はコントローラでもステアリングでも、誰もがすぐに運転できますし、何かを得られると思います。開発チームが頑張ってくれたので、多くのリグやシステムで正確に動作をします。そこは安心してください。

今でも私はこのゲームで運転するのが大好きだし、開発チームの全員も同じ気持ちです。
だから初めてプレイする人も、きっと笑顔で帰れるはず。間違いなく万人に響く作品だと思います。

現実世界のドライビングも非常に楽しいですから、本質はエンターテイメントであるべきです。
ゲームは楽しんだり笑顔になるためにやるものですから。

──開発中に苦労した点はどこですか?

コリンズ氏:
情報のフィードバック量と手段です。
開発中、バンプやボディロールにくわえ、路面のデコボコが感じられるようになっていました。しかし、それがステアリングに伝わりすぎていたのです。

ですが、プレイヤーが情報過多になってしまい、必要な細かい情報が捉えられなくなってしまったのです。
オーケストラの指揮者を考えてみてください。みんなが同時にトランペットを吹いていたら、バイオリンを弾いている人は音が聞こえず、かわいそうなことになりますよね。それと同じです。

ハンドリングでもっとも重要なサインは、タイヤが限界に達した瞬間です。それを即座に、そして不要なノイズを直感的に取捨選択して察する必要があります。
そこで、ステアリングに伝わっていた触覚をリグの方に移すなど、情報が伝わる場所へ移動させたりしました。

──逆にレーシングシミュレーターが再現しづらいものは何だと思いますか?

コリンズ氏:
ゲームで再現できない唯一の要素は重力だと思います。
重力を感じられるハードウェアは開発されていますが、ソフトウェアのみで身体に重力を感じさせることは不可能です。

もちろん、身体的な痛みもありません。しかし、運転中にもっと痛みを感じたい人はいないですよね。表現をリアルにするにしても、その表現は捨ておいてよいのではないかと思います。
危険が伴うと自分の行動に対する責任感が芽生えますが、競争心でそこは補えます。プロレーサーが一番恐れるのは敗北ですから。

直感的な操作という点では、コントローラーはフィードバックが少なくなってしまうという弱点もあります。ですが、私がレーシングシムを初めて遊んだ時なんてキーボードを使ってましたよ。みんな私を笑ってたけど、それでも勝てました。
でもやっぱり、プレイ体験はハンドル操作が段違いで良いです。これは仕方ないですね。

──『Project Motor Racing』に登場するマシンでお気に入りのものはありますか?また、ゲーム初心者にはどのマシンがおすすめですか?

コリンズ氏:
初心者なら、ハンドリングが比較的簡単なストリートカー……マスタングあたりがいいでしょうね。
私の好みで言えば、ゲーム内で最速のル・マンのハイパーカーがお気に入りです。スピードが出る車が好きなので。

とはいえ、グループCのマシンたちも捨てがたいですね。グループCのマシンはターボラグがあるのがいいですよね。現代のマシンにはあまりない特徴です。
962みたいなレトロマシンはとにかく扱いが難しい。ですが、予測不能な動きをするマシンは時に楽しく、逆にリアルだっていえますよ。

うーん、ただ、性能全般で評価をするとしたら、やっぱり一番好きなマシンは GT3 アストンマーティンですかね。
実生活でも、シミュレーションでも、ハンドリング性能が非常に良い。走行音は素晴らしく、見た目も美しく、操作性も最高です。レースでも最高で、グリッドに多くの車を詰め込められます。全てが揃っていますね。乗ってる時の高揚感やフィードバック、全部が素晴らしい。

まあ、アストンマーティンのマシンはジェームズ・ボンドの映画でたくさん乗りましたから、どうしても贔屓目に見ちゃう(笑)。

──お気に入りのレーシングゲームをいくつか教えていただけますか?

コリンズ氏:
私が初めて遊んだレースゲームはセガの『アウトラン』でした。
ミスをするとステアリングが振動したんです。その触覚的フィードバックが、ミスを避けるための集中力を生んでましたね。

1990年代にはMicroProseの『Grand Prix 2』をよく遊びました。私がF3でレースをしていた頃、F1を目指すために『Grand Prix 2』でコースを覚え、集中力を高めて安定したラップタイムを出す訓練をしていたんですよ。
寝室で、周囲に気が散るものがある中で、AI相手にレースしている自分を想像し、ミスなく1時間のレースを走る。目標に向けて絶えず集中し続けるトレーニングをするのに非常に良いツールでした。

──レーシングシムのファンやProject Motor Racingに期待している人たちに何か一言お願いします。

コリンズ氏:
開発していた私たちと同じくらい、皆さんがこのゲームを心から楽しんでくれることを願っています。

この数年、『Project Motor Racing』の開発は本当に素晴らしい時間でした。
ぜひゲーム内で皆さんとお会いできることを楽しみにしています。皆さんのフィードバックもぜひお聞かせください。

ご意見やアイデア、追加してほしいコース、新車種など、何でも教えてください。実現に向けてチームに働きかけます。ビルドを重ねるごとに常に改善する点はありますし、現実を充実に再現する追求は続きます。
可能であれば要望に応じてダウンロードコンテンツも制作したいですね。

そして、何よりも楽しんでいただければ何よりです。それが一番大切ですから。

──ありがとうございました。

『Project Motor Racing』はPC(Steam、Epic)/PS5/Xbox SeriesX|S向けに発売中。

[聞き手:Đorđe P]
[執筆・翻訳・編集:Rikuya Melichar]

Rikuya Melichar
Rikuya Melichar

ゲームだいすき。独特の世界観や没入感があるゲームが好きで、気付いたら流行りのゲームを尻目にずっと遊んでたりします。

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