“プレイ体験を促進させる”広告サービス「Unity Ads」とは何か?大手だけでなくインディでも成功事例が増加中、中国展開も可能

モバイルゲームのマネタイズで一般的な広告モデル。しかしゲームデベロッパーやゲーマーの間では、「プレイ体験を損ねる」と否定的な声が多いのも事実だ。その一方でUnity Technologiesが展開する「Unity Ads」は、「プレイ体験を促進させる」広告サービスなのだという。

モバイルゲームのマネタイズで一般的な広告モデル。しかしゲームデベロッパーやゲーマーの間では、「プレイ体験を損ねる」と否定的な声が多いのも事実だ。その一方でUnity Technologiesが展開する「Unity Ads」は、「プレイ体験を促進させる」広告サービスなのだという。本サービスの概要や導入メリットなどについて担当者に聞いた。

 

Unity Adsとは

動画リワード広告(ゲームプレイヤーは、ゲームオーバー時などに表示される動画広告を視聴することで、コンティニューやボーナスコインを対価として得られるタイプの広告)の一種で、特にUnityで開発されたモバイルゲームへの導入が非常にスムーズである点が最大の特徴。ゲームの動画広告を「お金を払って」表示させたい側と、ゲームの動画広告を表示させることで「収益をあげたい」側を結び、開発者が指定した特定のポイントで動画広告を表示させる仕組みだ。ゲームプレイヤーにとっては、動画広告を視聴するだけでゲームを進めるためのさまざまなアイテムを入手できるなど、ストレスのない広告システムとなっている。

典型的なユーザーストーリーは下記のとおり。

プレイヤーがモバイルゲームをプレイしてゲームオーバーになると、動画広告の視聴またはゲーム内のコインを利用することでコンティニューが可能という画面が表示される。
プレイヤーが動画広告の視聴を選択し、動画広告を見終わった後は、コンティニューとしてゲームの続きができる。

プレイヤーとしては、広告を見るかの選択ができるうえ、広告視聴でコンティニューの機会やゲームの進行に寄与するアイテムなどを入手でき、ゲームがより進めやすくなる。

広告出稿側にとってのメリットは、良質な新規ユーザーを獲得できることだ。プレイヤーは広告のアプリをインストールしても何も対価が得られるわけではないため、動画を視聴し、本当に興味を持ったプレイヤーだけがインストールをしているためだ。

広告表示側はインストール数や視聴完了数に応じて広告収益が得られるだけでなく、アイテム配布やコンティニュー機会を提供することで、プレイヤーの継続モチベーションを喚起させられる。このようにUnity Adsの導入で、プレイヤー・広告出稿側・広告表示側の三者に対して、それぞれ異なったメリットの提供が期待できる。

 

なぜUnityが広告サービスを行うのか

――Unity Adsのサービスが2015年1月に開始されてから、そろそろ2周年になりますね。

金田一氏
おかげさまで『アングリーバード』や『シムシティ』といった世界的なタイトルにも採用され、マネタイズ手法として活用頂くケースが増加し続けています。日本でも大手企業のゲームから個人開発のゲームまで幅広く採用が進んでおり、さまざまな成功事例が出始めています。

――Unity Adsも「ビットサミット2015」「東京インディフェス2015」といったイベントを通して告知が行われ、徐々に広まってきました。しかし、まだまだ一般的な認知度が低い印象を受けています。背景として「なぜUnityがなぜ広告サービスを行うのか」「日本のインディと広告マネタイズの親和性は高いのか」という、2つの側面があると感じています。

鎌田氏
確かに、一般的にUnityといえば、ゲームを作るツールというイメージがありますよね。ゲームを作るツールを提供しているUnity Technologiesが、なぜ広告サービスも行うのかというと、もともとUnity AdsはApplifier社のGameAdsという広告サービスでしたが、Unity Technologiesが買収し、サービスに組み込んだ経緯があります。ここで強調しておきたいのは、我々が掲げるミッションは少しもぶれていないということです。弊社は「ゲーム開発の民主化」というミッションのもと、ゲームデベロッパーのさまざまな支援を行っています。そこにはゲームを作りやすくするだけでなく、ゲームの運用やマネタイズに関する支援も含まれます。ゲームデベロッパーの成功を支援することが、Unityのミッションなんです。

――その一環としてUnity Adsがあるということですね。

金田一氏
そのとおりです。デベロッパーの皆さんがゲーム開発そのもの、ゲームをおもしろくする工夫に時間が取れるよう、Unity Adsは実装も導入後も非常にシンプルで使いやすい広告サービスなので、ぜひ小規模スタジオやインディゲーム開発者の皆さんにこそ使ってみていただければと思っています。

鎌田氏
「日本のインディは広告マネタイズを欲しているのか」という点についても、インディのマネタイズに対する潜在的なニーズは高いと思っています。これは、いわゆる同人ゲーム制作者についても同じです。コミケでゲームを手売りする行為も、マネタイズの一つですからね。その一方で広告という仕組みが、これまでインディにとって敷居が高かったのではないでしょうか。しかし、次第に成功例が出てきました。

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――成功事例について、ぜひ知りたいです。

金田一氏
シューティングゲームの『TIME LOCKER』は好例でしょう。個人制作の無料ゲームで、課金と広告によるマネタイズが行われ、広告表示の部分にUnity Adsが使用されています。App Storeの日本版でも「2016年のベストゲーム10選」に選ばれました。ちなみに10タイトル中で国産ゲームは2本だけで、もう1本は『聖剣伝説-ファイナルファンタジー外伝-』ですので、『TIME LOCKER』の選出がいかに快挙かがわかると思います。

――攻撃はオートで、スワイプして自機を動かしている間だけ、時間が進んで攻撃するんですね。この感覚は新しいですね。個人制作のゲームということでしたが、グラフィックもボクセル調で思い切ってシンプルにしていて、すがすがしいというか、潔いですね。

金田一氏
そうですね。操作性やグラフィックの良さがあるゲームなので、広告によるマネタイズといっても、ゲーム画面中にバナー広告などは一切表示されていません。広告が表示される機会は、プレイヤーがゲームオーバー時に動画広告を見てコンティニューするという選択をした場合です。ゲームプレイで獲得できるコインを利用してもコンティニューできますので、広告を見たくないプレイヤーは、一切広告を見ないでもゲームを進行できます。つまり、広告といっても、ゲームプレイの邪魔をしない広告としてうまく組み込まれています。

――なるほど。

金田一氏
ゲームプレイヤーにとって広告は「邪魔なモノ」という認識が強いと思っています。ゲームデベロッパーにとっても、UIデザインが崩れるといった声があります。しかし、Unity Adsでは広告を見るかどうかはあくまでもプレイヤーの選択でゲームプレイを妨げない実装が可能です。しかも広告視聴でゲームの進行をサポートするようなアイテムを付与するといった実装であれば、プレイヤーがさらに長くゲームを楽しめる機会へと繋がっていきます。こんな風にUnity Adsはプレイヤーのゲーム体験をより豊かにするための仕掛けだと捉えてもらえれば幸いです。

――動画を視聴することで、キャリアの月額通信容量が浪費されてしまいませんか?

鎌田氏
動画ファイルはUnityのサーバ上で自動的に再エンコードされ、動画品質を損なうことなく、かなり軽くなっています。キャリアとの契約にもよりますが、月額使用量7GB程度の契約であれば、それほど制限を気にせずに動画を再生してもらえると思います。

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アイテム課金と広告の併用が効果的

――マネタイズについて、あらためて整理させてください。一般的にモバイルゲームのマネタイズには、「売り切り」「アイテム課金」「広告」の3種類がありますね。このうち『TIME LOCKER』は「課金」と「広告」のハイブリッドモデルでした。

金田一氏
そうですね。

――その一方でインディゲーム開発者の多くは、「売り切り」モデルを嗜好する傾向にあると感じています。理由は簡単で、小規模開発では「アイテム課金」に伴う「運営」が負担に感じられるからです。大量にアイテムを作らなければいけない、定期的にイベントを開催しなければいけない……大手のゲームアプリが氾濫する中、そうしなければマネタイズできないという印象があります。その一方で「広告」は前にも言ったとおり「敷居が高そう」という印象があり……。

金田一氏
よくわかります。

――もっともモバイル市場は「売り切り」が厳しく、ほとんどが基本プレイ無料の「アイテム課金」モデルです。そのため「売り切り」ゲームを望む場合は、PCで開発してSteamで販売する例が一般的です。ただし日本のインディにとっては、Steamで配信する行為自体、敷居が高いのが現状です。結果として、にっちもさっちもいかない、ということになります。

金田一氏
そうですね、どういうマネタイズとするかでゲームの仕組みそのものが変わりますが、モバイルにおいてはこのところ「アイテム課金」と「広告」のハイブリッド型のケースが非常に増えています。課金といっても、コインやダイヤのパックのみを提供するシンプルなものも含め、従来は広告のみであったカジュアルゲームでも、課金実装が一般化しつつあるといえます。

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――たしかに、『TIME LOCKER』の課金アイテムはシンプルですね。

鎌田氏
テクニック論になりますが、動画広告の視聴対価として得られるアイテムと、課金でしか得られないアイテムを分けておくこともオススメです。両者の価値を混乱させないためです。

――おもしろいですね。そのあたり、さまざまなノウハウがありそうですね。

金田一氏
弊社ではUnity Adsの実装ワークショップや導入事例セミナーを開催しています。次回は「グローバル展開」をテーマに、2017年1月末に開催する予定です。一般に、日本のデベロッパーの場合、日本語のみでアプリをリリースするケースが多いのではないかというイメージがあります。一方で、Unity Adsからみた成功しているデベロッパーの共通点の一つが、日本発のデベロッパーであっても複数言語でリリースしグローバルで収益を上げているという点です。グローバルで収益化をはかるのが当たり前という国が多いなか、日本でもその意識を広め、日本からグローバルで成功するデベロッパーをさらに増やしたいというのは我々の一つのテーマです。

 

Unityで中国展開もサポート

――グローバル展開といえば、中国大手モバイル端末メーカー「Xiaomi(シャオミ)」との提携も発表されましたね。これはひらたくいえば「Unityでゲームを開発すれば、Xiaomiを通してアプリの中国展開ができる」と理解して良いのでしょうか?

金田一氏
そのとおりです。中国のアプリストア事情は特殊で、Googleの公式ストアであるGoogle Playが存在しないかわりに、非常に多くのAndroid向けアプリストアが乱立しています。iOSストアもありますが、日本と違ってAndroidのシェアが高いため、多くのゲーム会社がAndroid端末向けにゲームをリリースしているのが現状です。しかし、日本を含む外資系企業が中国で直接ゲームを配信できないなど、参入規制が非常に厳しい市場です。

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――Xiaomiはどういった企業なのでしょうか?

金田一氏
中国のAndroid端末におけるトップメーカーの一つで、累計ダウンロード数が500億回以上を数える大規模ストア「MIUIアプリストア」を運営しています。同ストアにおいては、Unity Adsを利用したマネタイズも可能になります。これまで中国のAndroidアプリストアでも広告サービスは存在しましたが、ストア運営企業ではない第三者が提供する広告サービスが利用できるというのは、Unity Adsが初めてのケースとなります。

――中国市場はユーザー数の母体が桁違いなので、大きな広告効果が期待できそうですね。

鎌田氏
アプリ内課金を実装する機能「Unity IAP」も「MIUIアプリストア」に対応予定です。そのため、他のプラットフォーム同様にアプリ内課金の実装が可能になります。これで前述したように、「アイテム課金」と「広告」のハイブリッドが可能になります。

――大前提として「中国展開は諸手を挙げて賛成できることなのか」という懸念もあります。コピーや海賊版問題をはじめ、グレーな部分が多々ありますし、インディにとっては対応する手段やリソースも限られています。問題のあるアプリの削除対応などを、行ってもらえるのでしょうか?

金田一氏
たしかに、そのような向き合わなければならない課題があることは認識していますので、それらの対応も含めて、今まさに詳細が詰められている最中です。最終的には、デベロッパーの成功支援というミッションに通じるようなかたちで、適切なサポートの拡充ができればといったところです。

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Unity Editorに統合され、導入はきわめて容易

――最後にUnity Adsの導入についてもお伺いしたいです。大ざっぱに言って、Unity Adsを使って「広告を出稿したい側」と、「広告を表示したい側」にわかれますよね。どちらも同じ手順で行えるのでしょうか?

金田一氏
それぞれ違っていて、「広告を出稿したい側」は広告出稿用の管理画面があり、そこから設定を行います。これに対して「広告を表示したい側」は、Unityのエディタ画面で実装を進めます。

鎌田氏
アプリ向けの広告サービスはたくさんありますが、一般的にプラグインをダウンロードしてゲーム内に組み込む必要があります。時にはプラグイン同士が干渉したり、動作が重くなってしまうこともあります。これに対してUnity AdsはUnityのエディタに統合されているため、プラグインの存在を気にすることなく、チェック一つで実装できるんです。動作も非常に軽く、ゲーム進行の妨げになることも、ほとんどありません。

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Unity Adsの設定画面

――導入後に管理や調整などはどの程度必要なのでしょうか?

金田一氏
そこもほとんど必要ありません。私たちはゲームデベロッパーの皆さんの、ゲームを作ること・おもしろくするための時間を奪ってはいけないと思っています。広告の管理など、ゲームそのもの以外のサポートをすることは私たちの役割と考えています。

鎌田:また、先ほど「アイテム課金」と「広告」を組み合わせると有効だと説明しましたが、来年「アイテム課金」側でも大きなアップデートがあります。これまで「Unity IAP」では実装のためにコードを書く必要がありましたが、これがGUIからの操作で実装できるようになります。そのためUnity Adsとの組み合わせが、さらに便利になるんです。すでにβ版が公開されているので、興味がある方はぜひ触ってみてください。

――これまでの説明で、Unity Adsは誰でも負担なく始められる印象を受けました。その一方で、広告サービスの導入については、インディを中心に、まだまだ抵抗感を感じるデベロッパーも多いのが事実です。これには「クレジットカードをはじめて使う」「通販サイトではじめて商品を買う」といった行為に、似たところがあるように思います。

金田一氏
わかります。そうした敷居をできるだけ下げて、不安要素を取り除くために、弊社ではさまざまな施策を行っています。Unity Editorとの統合であったり、Unity Adsの事例セミナーの実施であったり……。これらはすべて、ゲームデベロッパーの成功を支援するというテーマのもと行っております。Unity Adsがゲームプレイヤーのプレイ体験を向上させるような広告の仕組みになっているのも、その一つです。2017年は中国展開支援をはじめ、こうした取り組みがさらに拡がっていきますので、注目してください。

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[聞き手 Ono Kenji]

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