『バーチャファイター』新作『New VIRTUA FIGHTER』Projectの肝は「リアル」ではなく「リアリティ」。ひたすら模索する、ゲームらしさとリアリティの境界線

『New VIRTUA FIGHTER』Projectのプロデューサーである山田理一郎氏にインタビューを実施した。本稿では「ゲームらしさ」と「リアリティ」のバランスをどうとっていくのか、といった点を伺った。

セガ/龍が如くスタジオは対戦格闘ゲーム『New VIRTUA FIGHTER』Projectを『バーチャファイター』シリーズの完全新作として開発中だ。『バーチャファイター』シリーズは1993年から続く3D型対戦格闘ゲームで、直近の作品としては『Virtua Fighter 5 R.E.V.O.』がある。本作は『5 R.E.V.O.』に引き続き龍が如くスタジオが開発を担当している。

今回弊誌はそんな『New VIRTUA FIGHTER』Projectのプロデューサーを務める、山田理一郎氏にインタビューを実施。本稿では、『New VIRTUA FIGHTER』Projectの要となる「リアリティ」の追求についてや、実際のゲーム体験とリアリティの折り合いのつけかたなどについて訊いた。

――自己紹介をお願いします。

山田理一郎氏(以下、山田氏):
プロデューサーの山田理一郎です。僕は1999年にゲームデザイナー/プランナーとしてセガに入り、家庭用ゲームからスマホゲームまでさまざまなゲームにかかわってきました。途中一度セガを退社し、Warner Bros. Entertainmentでゲーム制作に携わっていたのですが、2023年にセガに戻ってきました。いわゆる出戻り組です(笑)

そして今回セガに戻ってきて、「新しい『バーチャファイター』を作るぞ」という流れになりまして、プロジェクトの立ち上げから携わっております。

――『New VIRTUA FIGHTER』Projectを手がけるにあたって、過去作から「これは絶対に守る」と決めた『バーチャファイター』の核とは何ですか?

山田氏:
言葉にすると「リアリティ」になると思います。「『バーチャファイター』ってどんなゲームで、どこが良いところなのか」という問いかけをしたとき、みんな答えを出すのは難しいと思います。2D格闘ゲーム、たとえばカプコンさんの『ストリートファイター』シリーズとかは持ち味が分かりやすいなと考えていて、シリーズを通してコアの部分はあまり変わらず、それを大事にしながら発展している印象です。

ただ『バーチャファイター』となると、一言でどういうゲームなのかというのは伝えづらい。そうすると、「どんなゲーム」かを明確にするために守らなきゃいけない部分がたくさんある。そうした要素を一言でまとめてしまうのであれば「リアリティ」。「リアル」じゃなくて「リアリティ」です。

格闘技のリアルな動きをそのまま取り込んでも、「その格闘技のゲームを作ればいい」となってしまいますから。まず「面白いもの」「気持ちいいもの」があって、そのうえでリアリティが感じられるようにしたいですね。

――ゲームとして落とし込むときに、ゲームらしさと現実らしさのバランスを取るということですね。

山田氏:
その通りです。普段は起こらないことと、いかにも人間だから起きることのバランスがリアリティだと考えています。リアリティラインの引き方、ゲームへの落とし込みかたの調整は難しいですが、『バーチャファイター』の重要な、核となる要素だと思います。

また『バーチャファイター』は革新者として、先頭に立っていろいろやってきたタイトルでもあります。そのため何かに似ているというのがあまりなく、唯一無二なポジションをとれるようなゲームである、というのも核となる要素かと思います。

――反対に、「これを刷新しなければ前進にならない」と考えた部分はどこですか?

山田氏:
『バーチャファイター』に抱かれている、「難しくて複雑なゲーム」だという印象ですね。特に格闘ゲームに触れている人ほどそうした印象を抱いているのかなと思います。操作はパンチ、キック、ガードの3ボタンでわかりやすい操作体系のはずですが、シリーズが進むにつれ複雑になった要素はあるかなと考えています。この印象は払拭したいところですね。

もうひとつは『バーチャファイター』にストーリーがほとんどなく、キャラクター性が薄いことです。一応キャラクターには設定もあるんですが、ゲーム内で一切語られないので、何とかしないといけないなと感じています。

――『New VIRTUA FIGHTER』Projectについては、今年1月、「カンフー映画オマージュ」ともいえる「『New VIRTUA FIGHTER Project』開発前コンセプトムービー」が公開されました。強烈な印象を残すモーション映像でしたが、動画の企画意図を改めて教えてください。

山田氏:
社内で格闘ゲームとして新しく軸になるものをやろうとなった時に、やっぱり「リアリティ」ってキーワードと一番結びついていたことが、あの映像の意図につながると思います。流れるようなアクションやカンフー映画らしいやりとりといった、単純に見ててかっこいいやりとりを、実際にできたら嬉しい。そういう狙いから、コンセプトムービーという形で作成しました。

――コンセプトムービーと、実際のゲーム体験との結びつけをどう行っていく予定ですか?

山田氏:
コンセプトムービーからゲームにしていくにつれ、どうしてもそのまま実装するわけにはいかない部分は勿論あります。コンセプトムービーのようなやりとりを見せるためだけにゲームスピードを下げるのも『バーチャファイター』としては違うと考えています。

正直なところ、「他のゲームとなんか違うな」となんとなく感じてくれるくらいでもいいと思っています。とはいえ開発陣としては、コンセプトムービーにどれだけ近づけるかっていうところにトライしようという意味で、あの映像は分かりやすい目標になっています。

ゲームとして構築しながら、記号的に分かりやすい要素をどう実装するか、これだったら無理がないんじゃないかっていうのを、アイデアを出しつつ進めています。本当は方向性が決まったときのまま進められれば楽なんですけど、泥臭くトライアンドエラーを重ねています。

――『New VIRTUA FIGHTER』Projectには開発チームとして「龍が如くスタジオ」を迎えています。このことで、格闘ゲームとしての開発に「化学反応」のような変化は起きましたか?

山田氏:
格闘ゲーム開発において、龍が如くスタジオは「見せ方」にすごくこだわっている印象です。他の開発チームでは同じようなことができないとすら思っています。

中でも龍が如くスタジオの作るステージはすごいですね。背景の作り込みが一味違って、説得力があるんですよ。背景の街を作りますとなったときのスピード感も素早くて、たとえばコンセプトムービーにあったスラム街のような場所もひと月ほどで作られていて、雰囲気も実際にあるような街になっている。その速さとクオリティにただ感心しています。

龍が如くスタジオが開発を担当することで、『New VIRTUA FIGHTER』では今までの『バーチャファイター』の範疇から外れた「見せ方」のレベルをお届けできるのではないかと思います。

――格闘ゲームにおいて、「リアリティある演出」と「フレーム単位での駆け引きの攻防」は、ときに相反すると思います。その衝突を『New VIRTUA FIGHTER』ではどう解決していきますか?

山田氏:
基本は「ゲームの中では余計なことしないほうが一番」という哲学でやっています。ゲームプレイ中に、見栄えのために一瞬でもプレイが止まることは格闘ゲームでは論外だと考えています。ただ見ておしまいにする要素なんて格闘ゲームにおいてメリットにならないので優先するのは当然ゲームプレイになります。

ゲームプレイとは関係ないところで演出を派手にしたい部分、たとえばKO演出の「シグネチャーカット」とかは、すでに相手をKOしているからいいでしょうと言うことで実装しています。基本的には、ゲームプレイを邪魔しないことを優先しつつ演出にも力をいれていってます。

――キャラクターデザインやモデリングで、「現代的なリアリティ」と「シリーズらしさ」を両立させるために特に苦労した点はありますか?

山田氏:
難しいなと感じたのは、リアリティのある見た目と、格闘ゲームとしての見栄えの良さですかね。『バーチャファイター』シリーズのキャラクターはそもそもあまり派手な見た目ではないですが、格闘ゲームのキャラクターは「ヒーローっぽい属性」などが誇張されていますよね。その誇張度合いをリアリティラインとの兼ね合いを図りつつどれくらいにして格好良くするかという点は、デザイナーさんも苦労している箇所です。今回のアキラは見ていただけるとわかるかと思いますが、渋くて格好良い、「いい答え」が出たのではないかと思います。

――ウルフもすごく格好いいビジュアルだと感じます。

山田氏:
ありがとうございます。これは先ほどの「ゲームで一切語られない設定」にも通じる内容ですが、ウルフは今回バリバリのアメリカンプロレスラーといった見た目になっています。ただウルフがそもそもどういうプロレスラーなのか、プレイヤーはよく知らないわけです。

前のウルフはスタイルがUWF(かつて存在した国内プロレス団体)などによったところがあり、スパッツをはいていたりしました。今回はちゃんと、なぜアメリカンプロレスラースタイルなのか、どうしてこのスタイルに戻ってきたのかという設定があります。キャラクターの設定は造形に関係してきますから、そこの部分は今までよりも説得力が出たと思います。なぜそのキャラクターがそうなっているのか、デザイナーと共有しながら制作出来ていて、リアリティが出ているかと思います。

――最後に『New VIRTUA FIGHTER』Projectを期待して待つファン、また弊誌読者に向けて一言お願いします。

山田氏:
本作は「格闘ゲーム」という枠に留まらず、今までに本シリーズをやったことがない人たちに向けても面白いゲームだと思ってもらえるように頑張っています。まだゲームの全貌を明らかにしたわけではないのですが、次の公開タイミングあたりでお見せできるかなと思うので、続報を楽しみにしていただければと思います。

――ありがとうございました。

New VIRTUA FIGHTER』Projectは開発中。対応プラットフォームおよび発売時期は現時点で未定だ。

[聞き手・執筆:Hiroshi Hirose]
[編集:Kosuke Takenaka・Hideaki Fujiwara]

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