リアル鉄道・物流管理シム『Transport Fever 3』の予算は約37億円、その9割を開発費につぎ込む。なぜこんな予算があり気合が入っているのか?開発者に訊いた
『Transport Fever』シリーズを開発しているUrban Gamesは、スイスに拠点を置くゲームスタジオだ。約20名という少人数精鋭ながら、前作『Transport Fever 2』は累計売上100万本を超える大ヒット作となった。

『Transport Fever 3』はUrban Gamesによって開発・販売され、2026年内に発売予定のシミュレーションゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)。本作は、鉄道や船舶、航空機などを使った輸送網を構築・管理する『Transport Fever』シリーズの最新作だ。
本作では、温帯・砂漠・熱帯・亜寒帯の4つの環境のエリアを舞台に、鉄道・道路・航路にまたがる物流ネットワークの設計・建設・管理をおこなう。プレイヤーは250種類以上の電車やバス、路面電車、トラック、船、飛行機などが用意され、都市をつなぎ産業を活性化させなければならない。さらに、産業は30以上存在し、各都市のニーズに対応し、かかる経費や先行投資などとのバランスも取りつつ、収益性の高いルートを構築することが求められる。
『Transport Fever』シリーズを開発しているUrban Gamesは、スイスに拠点を置くゲームスタジオだ。約20名という少人数精鋭ながら、前作『Transport Fever 2』は累計売上100万本を超える大ヒット作となった。
このたび弊誌では東京ゲームショウ2025において、本作の開発者、そしてUrban GamesのCEOであるBasil Weber氏から話を伺う機会に恵まれた。そこで、本作の特徴やジャンルの魅力、シリーズ成功の秘訣など、さまざまな話を聞いた。

──『Transport Fever 3』について教えてください。
Basil Weber氏(以下、Weber氏):
『Transport Fever 3』は、人と貨物の輸送がテーマです。基本は公共交通機関を整備し、住民の需要を満たすこと。それと同時に、町々へ貨物を届けます。
序盤は簡単に住民の要求を満たせます。しかし、街が発展するにつれ住民の要求は増え、街の発展に伴う問題に対処する必要が出てくるのです。
シリーズの大きな特徴として、マップのスケール感が挙げられます。遠くから町々や海といったマップ全体を見渡すことも、逆に至近距離から道一つ一つを見ることもできる。つまり、マップのあらゆる面をプレイヤーがコントロールできるわけです。このスケール感こそが『Transport Fever 』シリーズのDNAだと言えますね。また、『Transport Fever』シリーズはすべて自社製の専用ゲームエンジンで動いています。これにより、ゲームの拡張性やスケールが下支えされています。

──『Transport Fever 3』は前作と比べどういった点が変わりましたか?
Weber氏:
要望の多かった機能を多数追加しました。たとえば、時間の概念を実装してマップに昼夜が訪れるようになったり、あとはヘリコプターの追加をしました。また、経営シミュレーション部分が大幅に改善されています。それに伴って難易度も上がったので、熟練したプレイヤーにとっても手ごたえのある内容になっていますね。
『Transport Fever 2』はどちらかと言えばサンドボックス系のゲームでした。もちろんサンドボックス要素も改善し、ツールや選択肢が増えています。しかしそれ以上に、経営シミュレーションとしてもかなり良いゲームになったと胸を張って言えます。なお、『Transport Fever 3』の開発には5年前から取り組んでいます。開発当初は『Transport Fever 2』のサポート対応やアップデートも残っていたので、それと並行して開発を行っていました。
──『Transport Fever』シリーズが影響を受けた作品はありますか。
Weber氏:
一番重要な作品は『Transport Tycoon』です。
そもそも私が会社を設立したのも、90年代に『Transport Tycoon』を遊び、同じジャンルのより面白いゲームを創らねばらならないと決心したのがきっかけでした。
なので、『Transport Fever』シリーズは主に同じジャンルのゲームの影響を受けています。日本の皆さまに馴染みがあるのは『A列車で行こう』シリーズでしょうか。他にも『Cities in Motion』や『Railway Empire』、『Workers & Resources: Soviet Republic』、あと『Industry Giant』シリーズなどからもインスピレーションを受けました。

──交通シミュレーションというジャンルは、ニッチながらもコアなファンがいるように感じられます。主にどこの国のプレイヤーに人気ですか?
Weber氏:
プレイヤーが一番多いのはドイツ、イギリス、アメリカ、中国の4カ国です。もっとも成長著しい市場はアジアで、アジアのプレイヤーは毎月増えていってます。日本のプレイヤーもだいぶ増えてきましたね。
このジャンルのゲームはニッチですが、ニッチの頂点(peak niche)に位置しているといえます。
都市建設系の『City Skylines』や『Sim City』といったゲームともファン層が少し被っていますし、まだまだコミュニティが成長する余地は残っています。
──シリーズの売り上げやSteamのウィッシュリスト数はいかがですか?
Weber氏:
『Transport Fever 2』は150万本売れました。ウィッシュリストの数は非常に好調です。『Transport Fever 2』の数倍にもなっていて、Steamだけで20万を超えています。この数字には満足しています。
──すごいですね。シリーズがこれほど成功した理由は何だと考えていますか?
Weber氏:
シンプルに、地道な努力をしたからだと思います。
Urban Games一作目、『Train Fever』の制作を始めたのは学生時代です。当時は会社を設立する資金がなく、がむしゃらに努力する以外に選択肢がありませんでした。だいたい1万5000時間もの期間、給料もなくひたすらに作り続けました。私は『Transport Tycoon』をプレイした時のあの原動力、そして並々ならぬ情熱と献身しか持ち合わせていなかったのです。
ただ、努力以外に運の要素もありました。『Transport Tycoon』が人気だった頃、交通シミュレーションのゲームそのものが珍しかった。つまり、次回作や後継作を待ちわびた何百万人ものコアファンがいるところに、競合タイトルが少ない中で『Transport Fever』をリリースできたわけです。それもシリーズが成功した理由の一つだと言えますね。

──少人数で大規模なゲームを作るのは大変だと思いますが、どうやってプロジェクトを成功に導くのでしょうか。
Weber氏:
現在は本拠地スイスに25名の社員が在籍しています。『Transport Fever 3』の予算は2400万米ドル(約37億円)ですから、本当に大規模なプロジェクトです。
まず何よりも大事なのは、その予算の大半である90%をゲーム開発に充てている点です。マーケティングやローカライズといったポストプロダクションは、複雑で難解なゲーム開発のコストに比べれば高くありません。もちろんマーケティングにも予算は割いていますが、一番のマーケティングは優れた製品を送り出すことです。
何か一つの事に打ち込み、粘り強く続けていれば、必然的に良い結果は生まれるのです。また、人材採用には非常に力を入れています。私たちは小さなチームですが、小さなチームであるからこそ、大企業よりも従業員一人あたりの能率を高く必要しなければならないのです。
まず、採用前に20名ほどの候補者をチェックします。そしてその中で最も優秀な学生、最も意欲的、そして最もゲームに対して献身的な人材を選びます。そこからさらに、数多くの面接を取り入れて最終的な採用を決めます。
さらに、私たちは外部からの融資は受けていません。過去のゲームの売り上げによる自己資金のみで運営しています。会社を無理に拡大をしないことで、チームとしてはゆっくりと、持続可能な方法で成長できています。それも会社がうまく機能している理由の一つかもしれません。
──最後の質問です。日本のゲーマーの皆さまに何かメッセージはありますか?
Weber氏:
日本の電車はとても気に入っています。私たちはスイスの開発者なんですが、スイスも日本と同じように電車がちゃんと時間通りに動くんですよ(笑)両国とも本当に電車が素晴らしい。
本作では日本の交通機関や日本に関連したコンテンツも取り入れようと試みています。たとえば、今作で実装されたランドマークでは、日本のお城が建設できます。それに、『A列車で行こう』シリーズは日本発のゲームです。そうした点でも日本は私たちにとって重要な国ですね。
ゲームを作るうえでは、世界中のすべてのプレイヤーが楽しめるようにすることが重要です。そして、もちろん日本のプレイヤーの皆様も大事にしています。日本の皆様が『Transport Fever 3』を遊ぶ日を心待ちにしています。
『Transport Fever 3』はPC(Steam)向けに2026年内に発売予定。
[執筆・翻訳・編集:Rikuya Melichar]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]


