龍が如くスタジオは「開発者がマーケットを考えながら開発する」。「開発か」「マーケティングか」ではなく、市場を考えながら作っていくモノづくり思想
龍が如くスタジオ代表・制作総指揮である横山昌義氏、『龍が如く』シリーズチーフプロデューサー阪本寛之氏、『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』プロデューサー兼ディレクター堀井亮佑氏にインタビューを敢行。

セガは2026年2月12日、『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』を発売予定だ。
『龍が如く 極3』は、2009年2月に発売された『龍が如く3』のリメイク版だ。『龍が如く2』における近江連合との抗争の後、桐生一馬と澤村遥は東京・神室町を去って沖縄で小さな児童養護施設「アサガオ」を営み、慎ましくも幸せな日々を過ごしていた。ところがそんな沖縄では「基地拡大計画」と「リゾート開発計画」が動き出し、桐生たちは土地買収の問題に直面することに。安息の地を守るために桐生は再び戦いの中に身を投じ、沖縄・琉球街、そして東京・神室町も舞台とする物語が描かれる。
『龍が如く3外伝 Dark Ties』は、『龍が如く3』に登場した峯義孝の物語を描いた外伝作品だ。本作は、『龍が如く 極3』に同時収録されるかたちで収録。ベンチャー企業のトップだった峯義孝がなぜ極道の世界に足を踏み入れたのか。その歩みがドラマチックに描かれていく。
弊誌は、「東京ゲームショウ2025」(以下、TGS2025)にて龍が如くスタジオ代表・制作総指揮である横山昌義氏、『龍が如く』シリーズチーフプロデューサー阪本寛之氏、『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』プロデューサー兼ディレクター堀井亮佑氏にインタビューを敢行した。製品編とあわせて読んでほしい。
開発からマーケティングまで、考えながら
――以前のインタビューで、『龍が如く0 誓いの場所』のSteam版がグローバルに売り上げが伸びているとお聞きしました。2年前でした。そのときは『龍が如く』は、物珍しいからと買ってくれる人がいるという話でしたが、今『龍が如く』は特に欧米圏ではどういったフェーズにあると感じていますか。
横山氏:
まだまだ日本のゲームが好きな人とか、理解のある人が手に取っているというのが主流だと思います。ただ、『龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii』はヨーロッパでかなり売れ行きが良かったですね。これまでと全然違うんですよ。
――アメリカではなく、ヨーロッパですか。
横山氏:
そうなんです。海賊文化ってヨーロッパで根付いていると感じましたね。アメリカはそもそも母数が大きかったんですけど、意外にヨーロッパで売り上げが伸びるっていうのは、興味深かったですね。そういったかたちで入口がいろいろある中でファンが増えているとは思いますが、まだメジャーと呼べるステージではないと思います。
――では、ある程度リーチしたというレベルではなく、まだまだ開拓している最中というわけですか。弊誌の英語版の読者はみんな知っているタイトルだという印象でした。
横山氏:
そういう人が読んでいる媒体だからじゃないですか(笑)そういった方もいらっしゃいますが、まだまだですね。
阪本氏:
コア化したファンがコミュニティを作って、それを見ることもあるので、ファンベースができているとは思いますけど、実はまだまだ小さいですね。
――では、スタンスとしてはまだまだ開拓の考え方で今後の展開を考えているということでしょうか。
横山氏:
そうですね。グッズ展開なども日本と欧米では全然違っているんですよ。日本だといろいろなフェーズを経て、いろいろな商品を、元ネタを知ってくれている前提で展開しているんですけど、欧米ではそれをやってしまうと、意味がわからないんです。まだ単純に『Like a Dragon』という名前と龍が如くスタジオのロゴをしっかり伝えていくことが前提になっています。

――龍が如くスタジオは、自分らしいものを作るというお話をずっとしていただいていますが、グローバル人気が今以上に高まった後でも、その考え方は変わらないんでしょうか。
横山氏:
変わらないですね。結局、僕らが海外に売るためのゲームを作ろうとするなら、単純に海外の方を主人公にして、海外を舞台にした方が良いに決まっているんですよ。でも、それをやると『龍が如く』ではない。僕らがいる意味がないんですよ。僕らがいる意味を存続させたうえで、それを世界に伝えること以外はやってはダメなんです。そうじゃなかったら、今すぐチームを解散して、別のゲームを作った方がいいですね。
これは何を仕事にして飯が食いたいのかっていう話に近いですね。僕たちゲームクリエイターの仕事が、ゲームを作って飯を食うということだとしたら、龍が如くスタジオの仕事は、このゲームを作って世界に広げることなんです。何をしてビジネスにするかというところを間違えると、人は変なものを作り出すようになると思いますね。
――では、マーケットは二の次ということですか。
横山氏:
二の次というわけではなく、常にセットではあります。ただ、僕たちが作るものを変えてしまうのであれば、それは違うということです。
――ゲームが人気になるということは、それだけユーザーからの感想や、こんな要素を入れてほしいといったフィードバックが増えてくると思いますが、いただいたフィードバックは参考にされないのでしょうか。
横山氏:
ゲームについては僕らが自分たちで学んでいきます。ただ、イベントなどのオペレーションをこうしてほしいとか、そういったものは参考にします。たとえば列が長いとか、チケットが買いにくいとか。つまりサービスや運営の部分ですね。
阪本氏:
ゲームは、変えないからこそファンが期待してくれているんですよ。
――なるほど。
横山氏:
良いものは評価されると信じるしか僕らにはなくて、ゲームは楽しければ売れるって、これが否定されるんだったら、やる価値なんてなくなってしまうんですよ。でも、現実は楽しくても売れないぐらい厳しいので、楽しさを正しく伝えるために、こういうイベント(TGS)を行うわけなんですよね。
今回のTGS2025も楽しいものを正しく伝えたいのでたくさんの試遊台を用意して面を取っています。それがマーケティングとプロモーションですね。それもセットで僕らは考えていますが、根本がつまらないものだと、ただ恥をかきにいくだけですから、ベースは良いものを作ることだというのは結局変わらないです。
――作品がいまいちだったら、宣伝しても意味がないですよね。
横山氏:
そうですよ。(この料理が)まずいことをわざわざ宣伝にいくようなものですから。
――良いものが売れる、信じるしかないというのは、セガの文化として根付いている考えなんでしょうか。
横山氏:
少なくとも、僕はそう考えています。
阪本氏:
妥協しないように作ろうというのは、チームとしてみんな思っていますよ。
堀井氏:
僕はディレクターとして開発に携わっていますが、結局何をすれば面白いかなんてわからないので、僕らが面白いと思うものを作るしかないんですよ。そこに関してはチームのみんなも純粋で、自分たちが面白いと思うもの、良いものを作ろうとしていると感じます。
横山氏:
その点に関する努力は惜しまないですね。最後の最後まで、あがいて作っています。
堀井氏:
言われたからこうしようとか、マーケティングチームがこう言ってくるからとかこうしましょうみたいな発想はなくて……。
横山氏:
発想はないというか……言われませんね。そもそも、僕らもマーケティングのことを考えているからだと思います。
堀井氏:
僕らがマーケティングも尊重するスタンスで開発しているので、あまり言われなくなりましたね。
横山氏:
「言うことを聞かない困ったちゃん」というわけではないんですよ。良いものを作って、自分たちで伝える努力をしているので、言う必要がないというわけなんです。たとえば今回のTGS2025も、ステージイベントの素材とかも外注ではなくて全部自分たちで作っていますし。
――えっ、全部自分たちで作られているんですか。
横山氏:
ええ。ゲームを作りながら、空いている時間に、「今回はこんなステージですよ、モニターがこういう仕様で、何インチですよ」という話をデザイナーがマーケティングチームから聞いてくるのです。だったら、こういう風にキャラクターを置いてみようと、デザイナーが僕に提案してきますからね。普通は、マーケティングチームが考えたプランを僕らに話して、僕らが作れるか作れないかの話になって、「作れないんだったら、外注しようか」という話になるんですが、違うんですよ。

阪本氏:
代理店任せではなく、本当に開発でその辺りのすべてを提供しています。
横山氏:
ブース内にある試遊台周りの装飾も、もちろん僕らが作っています。これが開発とマーケティングをセットで考えているということですね。
新たな挑戦が『龍が如く』に影響を与える可能性
――龍が如くスタジオが現在の体制になってしばらく経ちますが、今はどういうフェーズにあると思いますか。
横山氏:
これから2~3年の間に、次のステップに進むんじゃないかなと思っています。『STRANGER THAN HEAVEN』もそうですし、『New VIRTUA FIGHTER』Projectもそうですけど、今までやったことがないジャンルとか、世界観のものに対して、結果が出てくるのが数年後だと思うんです。その結果によって、たぶん『龍が如く』のナンバリングシリーズの方向性も変わってくるんじゃないかなと思います。
――ほかのプロジェクトに影響されて、『龍が如く』自体の方向性も変わるんですか。
横山氏:
そうだと思いますよ。自分たちが得るものが変わると思いますし。たとえば、『龍が如く8』で話の都合上、舞台がハワイになりましたが、そこで僕らでも日本人以外のキャラクターが作れる、海外の舞台を作ることができるんだっていう実績を得ているわけです。
――成功体験ですからね。
横山氏:
その成功体験を元に、ここまではできるっていうことがわかるじゃないですか。未知の領域ではない部分が広がっていくので、そうやってできることが広がっていくことによって、ネタが変わっていくんですよ。選択肢が増えますから。
――経験を積んでレベルアップしながら、新しい選択肢が増えていくわけですね。
横山氏:
そういうことです。ただ、どういう風に自分たちが進化していくっていうのはわからないですよ。でも、いろいろな選択肢は絶対増えるはずなんです。なので、数年後に何を作っているかわかりませんけど、そこは今もこの先も、変わっていく最中だろうと思います。
――ありがとうございました。
『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』はPS5/PS4/Xbox Series X|S/Nintendo Switch 2/PC(Steam)向けに、2026年2月12日発売予定。
[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]