『Wizardry Variants Daphne』開発者、ローンチで想定の何倍も成功するも開発は「ずっと奈落状態」。すべてはユーザー体験を良くしてくため
『Wizardry Variants Daphne』1年続けられるということは、事業として成功していることを意味する。実際のところ、そのへんはどうなのか?開発の状況はどうか?

ドリコムは『Wizardry Variants Daphne』を開発・運営中だ。『Wizardry Variants Daphne』は、「Wizardry」シリーズとして展開される運営型ダンジョンRPGだ。同作はiOS/Android/PC(Steam)向けに展開中。この10月でリリース1周年を迎える。同時期には大型アップデートやキャンペーンも予告されており、新たな奈落や賞金首システムなども実装予定である。
1年続けられるということは、事業として成功していることを意味する。実際のところ、そのへんはどうなのか?開発の状況はどうか?本作のディレクターである、ドリコムの金山圭輔氏に話を聞いた。
――改めて自己紹介をお願いします。これまでのキャリアを含めて、タイトルとともに教えていただけますか。
金山氏:
『Wizardry Variants Daphne』(以下、Daphne)のディレクターを務めている金山です。もともとコンシューマーゲームでアクワイアという会社に10年ほど在籍していました。その後、ドリコムに転職して10年以上経ちます。経歴の前半はコンシューマーで忍者や侍を題材にしたゲームや、秋葉原が舞台のゲームなどを制作していました。ドリコムに移ってからは、ソーシャルゲームやスマートフォンゲームで某有名IPタイトルや『ダービースタリオン マスターズ』、『みんゴル』などを手がけてきました。
――本作についてですが、ちょうど一年ほど前にローンチされまして、いろんな波乱はありつつ、反響は大きかった認識です。人気面・商業面でこれらの反響は想定されていたのでしょうか。
金山氏:
目標としていたレベルはありましたが、最初の反響はその倍近くありました。本作はマニアックなジャンルのゲームなのでもう少し小規模にイメージしていましたが、それよりは一回り大きかったですね。
――開発は紆余曲折あったと他誌のインタビューで答えられていましたが、ローンチ前は手応えと不安、どちらが強かったでしょうか。
金山氏:
まず、ターゲットとする人たちは絶対に喜ぶという確信がクローズドベータテスト前からありました。ただし、対象はニッチな狭いジャンルなので、ビジネスとして成立するかどうかは正直、確度6割程度にしか考えていませんでした。実際にリリースしてみると思った以上の反響があり、「いけるんだ」とようやく思えたという感じです。
――すごく反響があった、つまり今、運営し続けられるほどには成功しているということなんですね。ニッチなファンの濃度が高かったと感じているのか、それとも新しい層のファンの開拓できたのか、どちらでしょうか。
金山氏:
やはり思ったよりファンが濃かったのだと思います。本当はソーシャルゲームやモバイルゲームのように、ソーシャル要素や対戦で競い合う要素も入れないとビジネス的には回らないだろうと思っていました。が、思ったよりも一人プレイでちゃんと売上が立っている、と。一方で、『ウィザードリィ』シリーズをプレイしたことがない層も、思ったより入ってきてくれています。もちろん中心は40代・50代ですが、30代・20代の方も思ったより多く、それで支えられています。

――ユーザーとしてはやはり年齢が上の方が多いんですね。
金山氏:
そうですね。年齢的にはやはり40代後半から50代くらいのユーザーが多いです。あとは50代も多いんですが、意外に50代と30代が競り合っていますね。
――30代や20代、つまり『ウィザードリィ』シリーズを直撃していない世代は、どういうところから入ってくるのでしょうか。クチコミですか?
金山氏:
配信者さんや他ユーザーからの評判で始めたというユーザーが多いのではないかと思います。また、本シリーズは、大元の4・50代向けのものよりも後にいろいろな外伝作品が出ており、それらに触れた方や「名前だけは知っている」という方が結構多かったのだと思います。
――弊誌でも3DダンジョンRPGの記事を書くと意外とたくさん読まれたりするので、潜在層は意外と水面下にたくさんいて、それを明確に発掘したのが本作なのかもしれませんね。
金山氏:
そうかもしれません。もともと、私は逆張りの企画をする方なんです。(かつて携わった)スマホの『ダービースタリオン マスターズ』もそうです。「今市場にはないけれど、みんなが遊びたい」と思うようなジャンルをなるべく開発したいと考えています。そういう意味では、時期が良かったのかもしれません。
――とはいえ、縦画面だったり基本プレイ無料だったりと、本作はかなり異質な『ウィザードリィ』だと思います。どのあたりを押さえたからある程度手応えがあったと感じられたのでしょうか。
金山氏:
具体的な要素は、『ウィザードリィ』の代表作とは全然違いますよね。仲間のNPCが登場して、しかも喋るし。なのである程度批判されるのは承知していましたが、本作ではやはり『ウィザードリィ』本来の抽象的な楽しさ、つまり、「探索して仲間と一緒にピンチを切り抜ける」とか、「ダンジョンから命からがら宿に帰って安心する」などといった、キーとなる体験は抽出しています。そこの抽象体験さえ実現できていれば、具体的な要素表現が違っても、「こっちもいいよね」と必ず言ってもらえると考えていました。それがユーザーにも受け入れられたかたちかなと。リリースするまではドキドキでしたけどね。

―― 本作は要所要所にこだわりが多かったり、ディテールを緻密に詰めている印象ですが、「これに気づいてもらって嬉しかった」とか、「こだわりを感じてもらえて嬉しかった」というエピソードがあれば教えてください。
金山氏:
仲間が戦闘終了後に、肩を叩いて構ってくれるとか、タイトル画面で仲間が並んでいてカメラが近づくと少しこちらを向いてくれるとか、エンドロールの画像がプレイヤーによって異なるとか、そういう細かいところに気づいてもらえたのは嬉しいです。あとはキャラクターのディテールですね。冒険者の行動による汚れ方の違いや、プレイヤーとの関係性による分岐の細かさとか、実はホクロが左太もも内側についているとか、そういうところは気づいてもらえましたね。
開発中にスタッフが「必要ですか?」と首をかしげるような要素を、頑張って採算度外視で入れていることは多いです。だいたいそういう部分が後で気づいてもらえて、「してやったり」とかは思ったりしますね。ユーザーさんの目ざとさもあり、成立しています。
――こだわりを入れる要素としては、どういうところを軸にしているのでしょうか。
金山氏:
やはり冒険の没入感です。あと、往年のRPGらしさも念頭に置いています。昔のゲームは、脇役には強いNPCがいなくて、プレイヤーが独力で魔王を倒すだけでした。周りが頼りにならない。昔の少年マンガとかも、主人公だけが強くて、周りのキャラがどんどんやられていくんです。
最近のゲームや漫画作品では意外に仲間も活躍することが多いですが、昔の作品特有の“自分が主役感”を出したくて。たとえばシナリオでも、他のNPCが勝手に話を進めないんです。必ずプレイヤーに期待をしてくるような構造になっていたり、プレイヤーが活躍しないと絶対に世界が救われないようになっていたり。例えば、ディランハルトやエルモンといったNPCはプレイヤーがなんとかしてあげないと、すぐ死んでしまったりします。そうした、「『Daphne』世界だったらこうなる」という基本的な体験の思想を軸にこだわって、昔のゲームや漫画っぽくしています。
――本作を遊んでいると没入感があるのですが、なかなか「この要素のおかげで没入感がある」とは言いにくいゲームでもありますよね。
金山氏:
グラフィックの精細さでは勝負せず、総合的な体験への配慮を重んじています。例えば言葉選びも、もしもスタッフがメタ的な、要はゲーム的な用語に仕上げてきた場合は、全部『Daphne』の世界観に沿った言葉遣いに置き換えています。『Daphne』世界内で興ざめすることがないように、すごく気を遣っています。
――確かに旅情感と仲間感というのは、本作ならではの体験だなと思います。
金山氏:
冒険者ステータスを確認する画面でも、横から仲間が歩いてくるじゃないですか。本当はフェードインした方が早いんですが、でも「歩いてくる」という身体性みたいな部分が本作では重要なんです。UI性能としては、プレイヤーを待たせないよう素早く、ちゃんと快適性を出しつつ、でも歩いてきてくれるというのをこだわっています。あれも開発中に要否を議論した要素でした。

――プレイヤーと仲間とのインタラクションが非常に多いですよね。
金山氏:
仲間に構われるっていうのは楽しいですよね。実は本作は、恋愛シミュレーションゲーム並にインタラクションがあるゲームで。プレイヤーは最初、NPCや冒険者のみんなからめちゃくちゃ嫌われてるんです。現実の4・50代のおじさんも最初みんなからたいてい嫌われているか、少なくとも好かれてはいないですよね。でも、活躍したらだんだん認めてもらえる。そういう現実を投影できる要素は没入感やリアリティラインを維持する上で大事ですよね。
――本作はSteam版もリリースされましたが、そちらはどんな感じでしょうか。
金山氏:
本当はSteam版で、海外も含めシェアを一定増やせるかなと思っていたのですが、思ったより国内に売上を支えられている面が多いのと、Steam版が思ったよりも国内ではまだ広まっていないのが現状です。
――本作自体がだいぶスマートフォンに最適化しているのも大きそうです。
金山氏:
4~50代の人に遊びやすく作ったので、縦画面なんです。なのでSteamで展開する際に、安直に横画面にはできない部分があります。3D画面など対応できている部分は多いですが、UIも含めると最適化は完全とはいえません。
――40代のユーザーに支えられているスマホハードコアゲーム……かなり特殊ですよね。
金山氏:
ブランドや開発力としてはドリコムや2プロダクションの力はまだまだ大きくはありません。多くの人に正攻法で押し切れないとなると、やはりどうしてもゲームにお金や時間をある程度使える年齢層・好みを持った方々に、よりターゲットを絞って、特殊なものを提供した方が生き残りの勝算はつけやすい面があります。スマホ『ダービースタリオン マスターズ』なんかもそういう性質です。
ユーザーを増やせればどんどん改良もしていけるんですけどね。やれることなら積んである課題を全部対応したいんですが、限られたリソースをどこに向けたらユーザー満足かつビジネスを継続できる確率が高くなるか、毎日判断しているんです。
ユーザーの皆さんが求めてるアップデートや修正というのは、ディレクターはじめチームとしては全部やりたいんです。ただ会社からの、本作や『ウィザードリィ』IPへの(特に短期的な……)期待も大きいので、バランスのよい判断をする難易度はなかなか高く……といったところです。
Wizardry大国日本
――日本のユーザーに人気という話ですけど、日本以外でよくプレイされている国とかはありますか。やはりアメリカが多いとか。
金山氏:
そうですね。アメリカはやはり数としては多いです。日本が一番ですけど、それ以外だとアメリカが一番で、結構台湾のユーザーさんも多いです。そちらはアメリカほどの規模ではないですが。全体としては、半分はいかないかもしれないですけど、ユーザー数的には結構海外の人も多いです。
――モバイル版も含めてですか。
金山氏:
そうですね。モバイル版も含めてです。
――『ウィザードリィ』は西洋から始まったIPですが、本作も含めて現在は日本での人気が一番ありますよね。
金山氏:
開発時には、オリジナルを開発したロバート・ウッドヘッドさんの影響から、海外にリーチするのかなと思っていましたが……。やはり日本でアスキーさんなどが盛り上げてくれたことが大きかったと感じています。メディア展開でもベニー松山さんの攻略本やノベライズなどが盛り上げてくれて、日本独自の盛り上がりがあったんです。それら強固な地盤の上でリリースできたのは幸運です。日本での盛り上がりを生んだ方々の素晴らしさを今、身にしみて感じてます。
――欧米でも広まるといいですね。
金山氏:
そうですね。欧米でもちょっとジャンル的にはニッチなものですが、好きな人に届いてくれるかもしれないですね。
――どのように欧米ユーザーにアピールしたいですか。
金山氏:
オープンワールドと違って狭いフィールドのゲームなので、それが日本の様式美というか、日本の「狭いスペースでも無駄がない」、「凝縮されていて退屈しない」という体験が、オープンワールドとは違う面白さなのかなと。やはりそのコンパクトゆえの間延びしない楽しさというのはひとつ見てほしいポイントです。あとは、本作は構成的にも意外と異色なゲームなので、最初だけをプレイするのではなく、もうしばらく遊んでほしいということは言いたいです。絶対に他のゲームと違うので。
――それは間違いないです。
金山氏:
普通のオープンワールドゲームに飽きている方や、走り回るのがしんどくなってきた方にはぜひプレイして欲しいですね。
――その考えで言うと、『ウィザードリィ』シリーズってパーティーやグラフィックはすごく西洋的ですけど、体験としては結構JRPG的でもありますよね。
金山氏:
そうですね。昔のJRPGに回帰したくて、『Daphne』もそういうふうに作りました。
――確かに。それを理解してくれると逆に増えるかもしれないですね。
金山氏:
古典的なJRPGを遊びたい層のニーズにマッチしていますよね。
『Daphne』は少しずつ、どんどんよくなっていく
――『Daphne』について、現状の課題と、それについての取り組みを教えてください。
金山氏:
リリースから1周年を迎えまして、少しずつ改善しているんですが、やはり開発側としては厳しい状況が続いていますね。
――と、いいますと。
金山氏:
めちゃくちゃ忙しいです。まず十大異形を倒すストーリーを完成させたいのですが、次の新たな奈落でようやく4つ目なんです。コンスタントにリリースしていきたいんですけど、残念ながら3つ目の「グアルダ城塞」も次の奈落も、想定していたアップデート日よりちょっと後ろにずれてしまったんです。
なぜかというと、やはり運営型の施策を実施したり、不具合への対応や、ユーザーの皆さんのご意見に対応したり、といったタスクもあり、開発力は分散してしまっています。ゲームを開発運用含めた全体から見てバランスよく対応しつつ、アップデートで奈落も追加していこうとしているんですけど、なかなか難しいですね。

――直してばかりだとお客さんが飽きちゃうし、新規コンテンツ追加アップデートばかりで問題を放置してはいけないし。
金山氏:
ビジネスとしても成立させつつ、ユーザーさんの満足度も高めたいんですが…。
――大変ですよね。でも、お忙しさ的にはローンチ時より落ち着いたんじゃないですか。
金山氏:
忙しさは8割くらいですけど、ローンチ前よりもある意味では辛いですね。ローンチ前はタイトルを開発して出すという、開発をやればやるほどゲームが良くなるシンプルな状態だったんですが、リリースして運営していくとなると、やはり色々な施策や、既存要素の調整、不具合、新しい奈落、そして開発時よりも大規模なチーム運用など、バランスよく管理対応しなければならないタスクが山積みで。倍以上に拡充したチームが多岐にわたっていて、自分自身もフィードバック作業の数や種類も多くなってきているので、集中やバランスという意味だとちょっとローンチ前よりも難度は高く、いばらの道は続いています。やりがいはありますよ。
――問題を解決しても、新しい問題がずっと増え続けます。
金山氏:
だからこれからやりたいことは、この規模でより強いチームにどんどんしていって、安定して奈落を追加しつつ、機能改善したり、不具合を減らしていったりすること。それを引き続き、取り組めたらと思っています。
――それは今後できそうな見込みはある程度ありますか。
金山氏:
一歩一歩進んでいるかなと。もちろんリリース直後とか半年前よりは改善されているので、体制的には、少しずつ整えて何とか成熟させたいと思っています。
――今頑張っていることがユーザーに届くのが半年後だったり。
金山氏:
そうなんですよ。でも体制さえ整いきれば、奈落もコンスタントに出るし、不具合も減らせて、機能面でもユーザーフレンドリーなタイトルにできると思います。
――最後に、10月以降にアップデートがあるとのことで。大きめのアップデートになるのかなと思っているのですが、どのような仕上がりになりそうでしょうか。
金山氏:
まずは、「賞金首システム」が追加される予定です。強い敵を討伐して賞金を得るというものですね。あとは、オート戦闘を改修します。ただ攻撃コマンドをオートにするだけではなく、いろんな選択肢、もちろん繰り返しなどのコマンドも追加します。簡単な作戦の選択をして、多少冒険者によって切り替えることもできるようにしようとしていますね。そして、新しい奈落の追加もひかえています。
――コンテンツ追加だけじゃなくて、便利になるというところもアプローチしているんですかね。
金山氏:
そうですね。あとは「図鑑システム」に記録される項目も追加します。元々は「始まりの奈落」のコンテンツだけだったのですが、その後の「交易水路」や「グアルダ城塞」のコンテンツもちゃんと追加されるようにアップデートする予定です。あと「いにしえの霊廟」も今、期待ほどは利用されていないので、そこもちゃんと遊べるようにアップデートしたりします。
――なるほど。新しい追加だけでなく、改修も結構力を入れられているんですね。
金山氏:
そうですね。既存の改修をしつつ、新要素も追加しつつ、過去の問題も解決して、新しいコンテンツが出ても破綻しないようにしたいなと。直近は周年施策対応や奈落の追加でチームに大きく負荷がかかっているところですが、それが終われば年末年始の施策対応も待っています。やることは尽きません。
――回し続けている状態ですね。
金山氏:
奈落です。開発中は、リリースしてユーザーの皆さんのおかげでこうやって売上が立ったら少し幸せになれるかな……と思っていたんですが、まだまだ奈落の底なんですよ。嬉しい悲鳴、奈落巡りは続いています。
――大変ですね、それでも奈落でやることがないより良いのでは。
金山氏:
本当は早く地上に戻りたいんですけどね……。今はまだまだやるべきことが山積みで。でも、やればやるほど良くなる。そういった意味で戻れなくなってます。むしろ、どんどん下層に降りていってる……。まるでハクスラみたいなものです。……まあ、体力的なリスクで帰路につけないだけかもしれませんが。
――HP・MP・SPも尽きかけてるけども地上に戻れなくて深層にいると。お体は大事にしてください。
金山氏:
ありがとうございます。しかし、開発運用チームは引き続き『Daphne』だけでしか味わえない期待を超えた冒険を提供するため、いばらの道を進んでいきます。ユーザーさんにも引き続き、過酷ながらも魅力的な『Daphne』の世界で、それぞれのかたちで「自分だけの冒険」を楽しんでいただきたいなと思います。

――本日はありがとうございました。
『Wizardry Variants Daphne』はiOS/Android/PC(Steam)向けに、基本プレイ無料で配信中だ。
[執筆・編集:Haru Takitoh]
[撮影・聞き手・編集:Ayuo Kawase]