売上500万本RPG『Clair Obscur: Expedition 33』生みの親いわく、小規模チームだったから「水増しなしの濃い味」に。そこになぜ『Only Up!』要素を入れたのかも訊いた

『Clair Obscur: Expedition 33』の生みの親Guillaume Broche氏にメールインタビューを実施。豊富なやり込み要素が実装された裏側などを訊いた。

パブリッシャーのKepler Interactiveは10月8日、『Clair Obscur: Expedition 33』にて大型アップデート「Thank You Update」を実施すると発表した。本アップデートの告知に先がけて弊誌は開発元であるSandfall Interactiveにメールインタビューを実施。大型アップデート実現に至った背景などを訊いた。

Clair Obscur: Expedition 33』は、今年4月24日に発売されたターン制RPGだ。パリィなどのアクション制が取り入れられた戦闘システムのほか、フランス風の要素を取り入れた世界観・アートワークやUnreal Engine 5による美麗なグラフィックなどから高い評価を獲得。売上は500万本に到達する大ヒットを記録しており、約30名の小規模スタジオSandfall Interactiveをコアチームとして開発されていることでも話題となった。

このたびそんな本作に向けて、大型アップデートが実施されることが明かされた。発表に先がけてCEO兼クリエイティブディレクターのGuillaume Broche氏に向けてメールインタビューを実施する機会に恵まれたので、その内容をお届けしよう。

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――今月10月24日には、本作も発売から半年を迎えますね。発売からこれまでの、プレイヤーのクリア率をぜひお聞きしたいです。

Guillaume Broche氏(以下、Broche氏):
プレイヤーデータは収集していないので、実績やトロフィーの取得率がいちばんの指標になります。たとえばSteamで「終幕(The End)」の実績を解除しているプレイヤーは全体の40%ほどです。正確な数字ではありませんが、それがストーリーをクリアした人のおおよその割合になると思います。

――本作はボリュームのある作品ですが、高いクリア率ですね。ただ本作は本編だけじゃなくやり込み要素もしっかりあって、それぞれギミックも用意されて充実していますよね。なぜこんなにいろいろな要素を盛り込もうと考えたのでしょうか?

Broche氏:
理由としては、過去のRPGへのノスタルジーがあります。私は子どものころからRPGを遊んできましたが、その多くに隠し要素がたくさんあって、世界は驚きと発見に満ちていました。寄り道エリアや裏ボス、強力な装備といったやり込み要素たちです。その原体験が、本作にもいろんな要素を盛り込もうという熱意につながったと思います。特にAct 3ではエスキエとともに世界を自由に旅できるようにして、遊びの幅が一気に広がるようにしました。

――やり込み要素の中には『Only Up!』風のアスレチックゲームがあり話題になっていました(関連記事)。あえて作風とは大きく異なる『Only Up!』風のゲームを盛り込んだ理由はありますか?

Broche氏:
プレイヤーに驚いてもらいたかったからですね(笑)チームからこのアイデアが出てきたときは本当に面白かったですし、こうした突拍子のない要素があるのも探検の楽しさにつながると思いました。ターン制のRPGに、高難度のアスレチックができるミニゲームがあるとはなかなか予想しませんよね。こういうちょっとしたユーモアは、作品に取り入れたかった大事な要素のひとつでした。

――ちなみに『Only Up!』風のゲームはどのタイミングで開発されたんでしょうか。開発の最後の段階で付け足したのか、それともじっくり作り込まれたのでしょうか?

Broche氏:
あのミニゲームは開発の最終年に制作しました。本編がいよいよ本格的に形になりつつあるなかで、チームの一部がサイドコンテンツに力を注ぎだした時期ですね。メインストーリーと並行して遊べる、プレイヤーの体験をより豊かにする寄り道要素のひとつとして追加しました。

――ほかのやり込み要素も、本編の開発完了の目途が立ってから制作されたのでしょうか?開発時間が足りずにボツにした要素などもあったりしましたか?

Broche氏:
いえ、そういうわけではないですね。やり込み要素はそれぞれ、開発のいろんな時期に制作しました。ほとんどのアイデアは実際に実装したので、特定のアイデアをボツにした例はあまりありません。もちろん不採用にした要素もありますが、もしかすると実装できなかったアイデアのいくつかは、今後のアップデートで登場させるかもしれません。

――やり込み要素のアイデアもすべてコアチームで検討されたのでしょうか?

Broche氏:
もちろんです。私たちはかなり小規模なチームで距離が近いですし、開発の過程ではみんなが自由にアイデアや意見を出せる機会を意識的に設けていました。Sandfallではメンバー全員が自分の仕事と作品に対して、非常に大きな情熱をもっています。これをスタジオ全体の価値観として維持することはとても重要だと思っています。

――コアチームは約 30 名しかいなかったそうですが、そうとは思えないほど大規模な作品だと思います。開発の秘訣を教えてください。

Broche氏:
Unreal Engine 5など、近年利用可能になった技術が大きな助けになりました。小規模な開発チームでも、大規模スタジオの作品のようなグラフィックを実現できるようになったんです。新たな開発手法に素早く適応する柔軟さが、私たちの開発における鍵でした。こうした流れは今後さらに多くのスタジオが経験していくと思います。技術の進歩により少人数のチームでも、かつては不可能だったような規模の作品が作れる時代になっていますから。

――外部スタジオとの連携もおこなわれていたとのことですが、具体的にどのような協力があったのでしょうか?もし外部スタジオとの連携がなかった場合、作品にどのような変化があったと思いますか?

Broche氏:
外部スタジオやパートナーとの連携は、ゲームの既存の要素をより良くするためにおこなっていました。たとえばローカライズパートナーとの協力により、自分たちだけでは到底対応できなかったような数の言語に翻訳できました。またオーケストラと協力したことで、より壮大なサウンドを実現できました。これらはもちろん作品のクオリティアップの助けになりましたが、仮に外部スタジオの協力がなかったとしても、本作の物語やシステムなどゲームの核となる部分は変わらなかったと思います。

――もし開発リソースが無制限にあったら、本作はどんな作品になっていたと思いますか?さらに大ボリュームの超大作にしたい、というような野望はありましたか。

Broche氏:
面白い質問ですね!しかしそれでも、むやみにコンテンツを追加したり、ゲーム全体のボリュームを増やしたりはしなかったでしょう。というのも、私たちが大切にしていたのは「プレイヤーの時間を尊重すること」でした。プレイ時間を不自然に引き延ばすような作りにはしたくありませんでしたし、それが本作が広く受け入れられた理由の一つだと思っています。

ある意味で、予算やリソースに制限があったからこそ作品の狙いを絞り込み、魅力を核心部分に凝縮できたともいえます。もし予算が無制限だったら、かえってプレイヤーにとって魅力の薄いゲームになっていたかもしれません。難しいところですね。

――そんな本作にこのたび大型アップデートが実施されるということですが、発売前から想定されていましたか。どこから持ち上がったアイデアなのでしょうか?

Broche氏:
本作をリリースするとプレイヤーの皆さんから、こちらが圧倒されるほどのサポートをいただきました。発売後の早い段階から、なにか感謝の気持ちを示したいと思っていました。そうしてファンに向けて私たちになにができるか考えた結果、無料アップデートに取り組むことが決まりました。新たなエリアや新衣装、手ごたえのあるボス戦など、プレイヤーの皆さんに楽しんでもらえる新コンテンツを導入するものです。

――先ほどお聞きした実現できなかった要素のうち、今回のアップデートで実装されているものはありますか?

Broche氏:
サプライズをとっておきたいので、今の段階では秘密ということにしておきましょう。ただ、ファンから特に要望の多かった要素をいくつか実現できてとても嬉しく思っている、ということは言っておきます!

――この 1 年を振り返って、もっとも予想外だったことをお伺いしてもよいでしょうか。

Broche氏:
もっとも予想外だったのはプレイヤーの反応ですね。本作がこれほど受け入れてもらえるのは想像もしなかったことで、本当に素晴らしい出来事でした。予想しなかった反響の一例として、いろんなイベントで本作のコスプレをしている人をたくさん見かけるんですよ。特に、ストライプのシャツに赤いベレー帽とバゲットという衣装は、コミュニティのあいだで人気のコスプレになっています。

もともとあの衣装はフランス語版の声優陣の発表の際に、いかにも“フランスっぽい”衣装というジョークで出したものでした。それがコミュニティのなかで定着したのは予想外でしたが、私たちのユーモアのセンスを完璧に体現していると思います。ストライプのシャツが本作のコミュニティの集まりを埋めつくしている光景は素晴らしいものです。

――では最後に、今後の展望をお聞かせください。

Broche氏:
「Thank You Update」と並行して、ファンの皆さんに楽しんでいただけるような取り組みをいくつも進めています。たとえば10月にはフランス国内で本作のコンサートを開催予定で、将来的には海外でも展開できたらと考えています。また、開発の裏側を追ったドキュメンタリーの制作も進めています。開発当時の映像やチームのインタビューを交え、メンバーのことやスタジオのこと、本作の制作過程などをより深く知ってもらえる内容になる予定です。

こうしたさまざまな展開ができているのは非常に恵まれていて、とても幸運なことだと感じています。これも私たちが伝えたいと思っていた物語を受け入れてくれた、プレイヤーの皆さんのおかげです。今年の残りと2026年が、これまでと同じくらいワクワクする年になることを願っています!

――ありがとうございました。

『Clair Obscur: Expedition 33(クレール・オブスキュール:エクスペディション サーティースリー)』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中だ。PC/Xbox Game Pass向けにも提供されている。

[執筆・編集:Akihiro Sakurai]
[編集:Hideaki Fujiwara]

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