買収されるElectronic Artsに「買収完了後に約3兆円の負債が生じる」として業界関係者の懸念も。一方EAは従業員に「“即レイオフ”には繋がらない」とアピール
EAの買収・非公開化完了時には同社に約180億ドルの負債が生じる見通しとなっており、業界関係者からは今後のEAの運営への影響について懸念も寄せられている。

Electronic Arts(EA)は9月29日、PIF・Silver Lake・Affinity Partnersのコンソーシアムによる買収に合意したと発表した。コンソーシアムは総額約550億ドル(約8兆2000億円)にてEAの株式100%を取得し、買収完了時にEAの株式は非公開化される。
この取引はレバレッジド・バイアウトとして実行される。これは買収対象、つまり今回であればEAの資産や将来キャッシュフローなどを担保に買収資金を調達する手法だ。買収完了時にはEAに約180億ドル(約2兆7000億円)の負債が生じる見通しとなっており、業界関係者からは今後のEAの運営への影響について懸念も寄せられている。GamesRadar+が報じている。

今回の買収に際しては、サウジアラビアの政府系ファンドPIF(Public Investment Fund)、および米国のプライベートエクイティ企業Silver LakeとAffinity Partnersが出資し、約360億ドルの株式投資がおこなわれる予定だ(関連記事)。なお今回の買収はレバレッジド・バイアウトとなり、JPモルガン・チェース銀行が単独で最大200億ドルまでの融資をおこなうことが明かされている。
これに伴って、レバレッジド・バイアウトの慣行上、EAは買収完了時にJPモルガン・チェース銀行から約180億ドルを借り入れる見込み。このことが同社の運営に影響を及ぼすのではないかとして、早くも懸念が寄せられている。たとえばジャーナリストのStephen Totilo氏による海外メディアGame Fileは、今後の不安を語る従業員の匿名証言を報道。またBloombergのJason Schreier氏は、人員削減を含む大規模なコスト削減や、積極的な収益化方針に繋がる可能性があるとの見解を述べている。
そうした中でTotilo氏はBlueskyアカウントにて、EAが株式非公開化にあたって米国証券取引委員会に向けて提出した資料を紹介。このなかでは同社が現地時間9月29日に従業員向けにFAQとして案内したという内容が記載されており、非公開化にあたって想定される従業員の懸念に答える内容となっていたようだ。
というのもこのFAQでは、「非公開化によって人員削減は発生するのか」といった想定質問が用意。回答としては今回の取引に起因して、「従業員の職務・チーム・日々の業務にすぐさま変更はない(There will be no immediate changes to your job, team, or daily work)」と伝えられている。また同社はイノベーションの推進とグローバルな事業拡大を重視しており、世界水準のチームが必要になるとも説明。つまり今後もむしろ人員規模を拡大する方針があるという示唆だろう。
このほかFAQ内でEAは従業員の給与や福利厚生が変更されることはないとのこと。非公開化によって会社の方針が変化しないことも伝えられており、従来の四半期制ではなくより長期的な目線で大胆な戦略を追求する余地が高まるといったメリットもアピールされている。また同社は今回の取引について、今後6か月~9か月間での完了を見込んでいるそうだ。
ほか、現CEOであるAndrew Wilson氏が非公開化後も引き続きCEOを務めることも改めて伝えられ、経営幹部陣にも変化がないことが示されている。あくまで現時点では、運営方針に大きな変化が訪れることはないようだ。
とはいえ、先述したとおり今回の取引完了後にEAには実質的に負債が生じるとみられる。買収総額に対する負債の比率は約33%ながら、企業規模の大きさもあって多額の負債となっており、コスト削減などの重圧を生む可能性もある。FAQで人員等について“すぐさま”変更はないと記載されていた点も見るに、中長期的には戦略が変化する可能性もゼロではないだろう。EAといえば多数のIPを抱えており、傘下スタジオでは大型開発作品も多い。非公開化後にどのように舵を切っていくのかには注目が集まる。