中国政府がオンラインゲームにおけるガチャ確率の公開を要求へ、呼びかけ続く国内動向と欧米の反応
中華人民共和国文化部は5日、同国内のオンラインゲーム運営元に向けた声明を発表し、ランダム型アイテム提供方式(通称、有料ガチャ)における取得確率の公開を要求する新たな法令の適用を通知した。有料ガチャのレアアイテム取得率については昨今、スマートフォン向けの基本プレイ無料アプリのみならず、PCや家庭用ゲーム機を対象にした一部トリプルA級タイトルでもたびたび話題に上げられている。今回、中国政府が確率の可視化へ動いたことで、同国に展開している他国サービスの内情が浮き彫りになる可能性もささやかれている。いまや世界中でゲーム業界に定着した射幸心を煽るビジネスモデルのあり方を紐解いていく。
有料ガチャの確率を中国政府が監視する狙い
有料ガチャとは、オンラインゲームやソーシャルゲームで広く導入されているアイテム課金形式のビジネスモデル。キャラクタースキンや消費アイテム、カードといったゲーム内コンテンツを商品として、電子くじを引く権利を有料で販売する仕組み全般を指す。おもに基本プレイ無料のゲームにおいてオプションとして採用されていることが多い。また、同じ有料ガチャでもプレイヤーが使用する武器やキャラクターの見た目を変更するためだけのものと、多くのコレクティブル・カードゲームのように一定金額を投資しないとそもそも対戦に勝つことすら難しいケースの2種類がある。後者はP2W(Pay to Winの略、勝つためにお金を支払うことを意味する)形式として批判されることも少なくない。
中国政府はこれまでにも、2013年12月に有料ガチャの賭博性について業界へ向けた勧告を発していた。今回、あらためて明文化されたのは主に有料ガチャで取得できるゲーム内コンテンツの名前や性質、中身、数量、取得確率の公開を求めている点だ。有料ガチャを採用しているオンラインゲームの運営元は、その内訳を公式サイトもしくは専用ページにておおやけにしなければならない。なお、アイテム取得率の表記については正確であることを徹底するため、パブリッシャーは消費者の利用結果に関するデータを90日以上保持することに加えて、政府が記録を調査できるようランダムに選ばれたサンプルを公式サイトもしくはゲーム内にて公開することを求められる。また、サンプルデータをおおやけにする場合は、ユーザーのプライバシー保護を優先すること。これらの規則は2017年5月1日から施行される。
この流れを受けて英語圏のフォーラムサイトNeoGAFのコミュニティの間では、中国へ展開している他国のゲームタイトルにおける有料ガチャの確率に関しても、間接的に浮き彫りになっていくのではないかとの期待が寄せられている。事実、有料ガチャで射幸心を煽るマイクロトランザクションは近年、日本国内でも特に顕著な基本プレイ無料のスマホゲームのみならず、欧米でもPCやコンシューマ向けの有料タイトルにも広く採用されており、レアアイテムのドロップ率はたびたびゲーマーの間で議論の的になる。Blizzard Entertainmentのチーム対戦型FPS『Overwatch』では以前、YouTubeに投稿されたルートボックス開封動画の内訳から、合計1028回分のサンプルに基づくアイテム取得率を算出したユーザーが現れたほど。なお、その際キャラクターのレジェンダリースキン取得率は9.38パーセントに留まっていた。
有料ガチャの問題点とトラブルの事例
有料ガチャの普及率や問題点については近年、日本国内でも顕著な例が増えてきている。そもそもアイテム課金というビジネスモデルの定着は、1990年代から2000年代にかけてインターネットの普及と共に隆盛を極めた月額課金型のオンラインゲームが、中国や韓国から日本へ上陸したのがきっかけだと言われている。当時は経済力の低い若年層を対象にした無料のカジュアルゲームにおいて、自分のキャラクターにおしゃれをさせるためのアバター課金が主流だった。そんな中、ランダム型アイテム提供方式が最初に登場したのは2004年。日本版『メイプルストーリー』にガチャ要素が実装されたのが初出とされている。ちなみに同作は日本初の基本プレイ無料タイトルだったとも言われている。
一部の例外を除いた通常のランダム型アイテム提供方式における問題点は、現実世界のくじ引きとは違い景品の母数という概念がないため、あらかじめ設定された確率が事象によって変動しない状態、いわば統計的独立な性質にある。一部のレアアイテムを「当たり」、それ以外を「ハズレ」と考えた時、一度引いた「当たり」が同じ確率で何度も当選し得る一方で、何度「ハズレ」を引いても決して「当たり」が出やすくなることはない。究極的には、期待値が収束する前にプレイヤーが破産してしまうような状況もあり得るということだ。たとえば、レアアイテムの出現率が1パーセントだった場合でも、100回引けば必ず1回は当たるというわけではない。この場合は(1-0.01)の100乗、すなわち約36.6パーセントの確率で1度も当たりを引かない可能性がある。
このため、過去には膨大な資金を投じたにも関わらず目当てのレアアイテムが入手できなかったとして、オンラインゲームの運営会社がユーザーから提訴された事例も報告されている。今年はじめには、Cygamesのスマートフォン向けソーシャルゲーム『グランブルーファンタジー』において、一部ユーザーによる希少キャラクター目当ての高額投資が消費者問題に発展。運営元が事前に有料ガチャの確率を引き上げると告知していたにも関わらず、膨大な金銭を投入しても目当てのキャラクターを引き当てられないことに苦情が殺到した。騒動を受けて同社は2月、ガチャの確率を表示すると共に、利用回数が300回(約9万円相当)を超えた際に目当ての景品を1つ獲得できる仕様に変更した。一連の騒動は、後に海外メディアでも大きく取り沙汰された。
有料ガチャの確率表記に関する国内事情
今年4月には、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(通称CESA=Computer Entertainment Supplier’s Association)が、「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」を制定したことも記憶に新しい。このガイドラインによって、国内でインターネットを介してサービスを提供するスマートフォン向けゲーム全般を対象に、有料ガチャで取得できるアイテム一覧の表示や、それらの提供割合が分かる情報提示が原則として定められた。なお、アイテム取得に要する投資額の期待値は、有料ガチャ1回に費やす料金の100倍を上限とし、それを超える場合は取得までの推定額、もしくは当選倍率を表示しなければならない。また、上記の期待値が5万円を上回る場合も、アイテム取得までの推定金額を明記することが原則である。
さらに内閣府消費者委員会も今年9月、ソーシャルゲームの有料ガチャにおけるレアアイテムの出現率や、取得までに要する推定金額について、消費者には十分な情報が提供されるべきとして、ゲーム業界に対して適正な表示の促進を求めた。同委員会は、サービス提供元が一部アイテムの取得確率を極めて低く設定、もしくは出現率を変更した場合に、ユーザーが事実を認識できない形でガチャを利用させる状況は問題になり得ると指摘している。特に、未成年者が両親のクレジットカードを使って多額の料金を請求されるケースも報告されているため、若年層のユーザーにも分かりやすい情報の提示が求められている。
有料ガチャの種類には、前述した通常のランダム型アイテム提供方式のほかに、あらかじめアイテムの総数と内容が提示されている「BOXガチャ」や、利用する度に特定のアイテムが確実に入手できる「確定ガチャ」、通常のガチャによって取得できる複数の特定アイテムを集めることで限定品がもらえる「コンプリートガチャ」(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限において、消費者庁が違法性ありと判断したため2012年以降の日本では禁止されている)などが存在する。ちなみに、カードゲームでは有料ガチャに該当するカードパックを購入した際、少なくとも1枚は希少価値のあるカードを含んでいたり、必要以上に重複したカードをゲーム内通貨へ換金して任意のカードを作成できたりと、無尽蔵な課金を必要としないシステムが採用されていることが多い。
このように国や地域、ゲームジャンルによって事情は大きく異なるが、いずれも人間の射幸心を煽るという点において、ギャンブル性を帯びたビジネスモデルであることは変わらない。法的規制を回避するためにどのような形態に変化していこうと、適切な管理の下で運用されなければゲームシステムが賭博ビジネスと化したケース同様に、大きな社会問題へ発展することは避けられないだろう。無料スマホゲームをめぐる国内の業界事情のみならず、欧米でも家庭用ゲーム機向けのタイトルにガチャ要素を含むマイクロトランザクションが導入され始めているからこそ、潜在的な賭博性の可視化はいまやグローバルな課題と言える。