よくわかるアーケードアーカイブスの歴史教科書(1):ダライアス
松井ムネタツ(以下、ムネタツ):
このコーナーは、いまは亡きアーケードゲーム専門誌「ゲーメスト」(新声社刊)の石井ぜんじと松井ムネタツが、ハムスターからPlayStation 4でリリースされているアーケードアーカイブスシリーズについてあーだこーだ語るコーナー、ってことでいいですよね、ぜんじさん?
石井ぜんじ(以下、ぜんじ):
僕もムネタツさんも無駄にキャリアは長いから、マニア視点やメディア視点、歴史的な存在意義など、いろんな角度から語りたいですな。
ムネタツ:
お互いの経歴から説明しましょうか。1986年にパソコンゲーム雑誌「テクノポリス」で働き始めて、CGコーナーやゲーム紹介・攻略を担当しました。1994年に「ゲーメスト」発行元の新声社へ、1999年にはアスキー(のちのエンターブレイン、現KADOKAWA)へ転職して「ファミ通ドリームキャスト」、「ファミ通Xbox 360」などの編集に携わりました。いくつかの雑誌では編集長とかもやりましたね。いまはフリーでいろんなメディアに寄稿してます。
ゲームは家庭用ゲーム機もスマホもパソコンもアーケードも遊びます。なんならボードゲームも。
ぜんじ:
『パックマン』が稼働していた高校生の頃からビデオゲームを本格的に遊び始めて、某有名大学を中退してアーケードゲーム専門誌「ゲーメスト」でライターを始めました。後にライター兼編集長となりました。2000年以降はフリーライターになって、ゲーム制作の仕事にも関わったりしています。「石井ぜんじを右に! 元ゲーメスト編集長コラム集」という本も書きました。「セガ・アーケードヒストリー」「シュタインズ・ゲート公式資料集」とかはムネタツさんと一緒に作りましたね。
現在でもゲームセンターには毎日通ってます。最近はライトノベルのレビューも雑誌に寄稿したりしてます。
ムネタツ:
アーケードアーカイブスについて、あらためて説明しておきましょう。PlayStation 4配信専用として展開されてて、80~90年代の名作アーケードゲームを忠実に再現しつつ、PlayStation 4のSHARE機能にも対応した作りになってますね。2014年5月から開始して、すでに40タイトル以上リリース。この連載コラムでは、これらをなるはやでひとつずつ紹介していければなーと思っております。
ということで1回目に選んだのは、タイトーの『ダライアス』。オリジナルのアーケード版は1986年にゲームセンターで稼働開始かあ。たしかゲーメストでも表紙にしてますよね。えっと……、1987年3月号と6月号ですな。このころ僕はまだ月刊テクノポリス(徳間書店刊)だったから、『ダライアス』はいちユーザーとして楽しんでたクチですよ。
記念すべき第1回ゲーメスト大賞受賞作!『ダライアス』の魅力に迫る
ムネタツ:
『ダライアス』が発売された1986年というと、世間ではハレー彗星接近やチェルノブイリ原発事故、ドラマ『男女7人夏物語』放送や『天空の城ラピュタ』公開もこの年か。ゲームセンター的には時代背景的にどうだったんです?
ぜんじ:
当時はセガの体感ゲームがヒットしていた時期でしたね。1985年に『ハングオン』『スペースハリアー』とヒットを飛ばして、セガはノリにノッてました。そこにタイトーが大型ゲームを投入!ってことで登場したのが『ダライアス』だった。
他の大型ものと比べて操作系がレバー+ボタン、内容もシューティングとテーブル筐体ゲームに近いのが特徴だったかな。大型=体感、というイメージがあったこの時代のアーケードゲームだけど、むしろこの親しみやすさが人気の秘密だったんじゃないかと。
ムネタツ:
ボスを倒した後、通路が上下に別れていて、次のZONEをセレクトするっていうのも斬新でした。これも横3画面の長い画面だからこそできた仕組みなんでしょう。というか、やっぱ3画面はインパクトありましたね。
ぜんじ:
中央がブラウン管で左右がハーフミラーになってて、下に設置されているブラウン管の映像を映して合成する仕組みだった。こうした投影技術はエレメカからきているんだと思う。
ムネタツ:
なるほど、老舗のタイトーならではな技術ですな。あと初めてプレイしたとき、ボディソニックで重低音がビリビリとお尻に響くのにビックリしましたよ。
ぜんじ:
あの筐体ならではのギミックだね。音楽も注目されて、後のZUNTATA、タイトー独自のゲーム音楽はここから始まったと言ってもいい。
ムネタツ:
これ、今遊ぶと……けっこう難しいですよね? 昔のシューティングゲームなので、自機がやられると少し戻されたところからスタートしてやり直しですし、装備も貧弱になりますし。
ぜんじ:
当時は簡単なほうだと思っていたけど、今思えばそんなに簡単ではないね。
ムネタツ:
ゲーメスト誌上でもすっごく盛り上げてましたなぁ。
ぜんじ:
読者投票によるゲーメスト大賞の第1回大賞作受賞ですよ。シューターだけでなく、とにかく一般ゲーマーの支持が高かった。
全国1位のスコアを叩き出すまでの道のり byぜんじ
ムネタツ:
初めて筐体を見たときは、その横に長い画面にビビりましたね。3画面ぶんはやっぱインパクトあった。
ぜんじ:
ゲームとしては典型的な横スクロールシューティング。画面が横長なので、弾切れが怖いゲーム性だった。
編隊をすべて撃つとボーナス点が入るけど、敵を逃さないように撃つのが簡単ではないんだよね。このあたりが昔のシューティングらしいところかと。最近のシューティングは自機の攻撃力が高すぎる。
ムネタツ:
イマドキの若いシューティングは!とか言い出しそう(笑)。
ぜんじ:
最終面のボスキャラでもあるクジラ(グレートシング)のドリル弾で点数稼ぎをする仕組みは、のちのシリーズに受け継がれて伝統になったりしたね。
ムネタツ:
ああ、ぜんじさんはクジラルートで全一(全国1位のスコア)だったんですよね。
ぜんじ:
最初は本当にへたくそで、2面を超えるのに数千円かかってたりね。少しずつ上達して、何とかクリア。次なる目標は全ボスクリア、全ステージクリアでこれも達成。そうなると今度はスコアが稼ぎたくなって……。
ぜんじ:
クジラから発射されるドリル弾を撃つとスコアが伸びるんだけど、そのための攻撃はウェーブが良いのではないかと思って、道中をレーザーでプレイして最後にウェーブにする攻略法を考えた。
クジラに弾を当てすぎると倒してしまうので、ウェーブがクジラに当たった回数を友人に数えてもらってたよ。ハイスコアを狙うときは必ず2人以上でプレイしてた。謎の協力プレイですな。
ムネタツ:
ああ、ゲーメスト編集部でもたまにそういう光景見かけましたよ。誰かがプレイしていると、その背後で「今入った点数は○○」とかサポートする人がいたり。
初移植でありながら満足度は非常に高い!
ムネタツ:
というわけで、このアーケードアーカイブス版はどうですか? じつは『ダライアス』が家庭用移植されるのはこれが初めてなんですよね。PCエンジンで『スーパーダライアス』とかありましたけど、あれはオリジナル『ダライアス』を画面比率4:3に変更したりと別のゲームになってますし。今回は3画面も再現した初の完全移植。いやあ、約30年の月日を経て、ついにって感じですよ。
ぜんじ:
ハーフミラーを使って合成している雰囲気が出ているのもいいね。現在はゲーセンで昔の筐体を動かすのは法律上とかいろんな問題もあって難しく、ごく一部のロケーションを除いて実機をプレイできる機会はほとんどないんだよ。その点でこのアーカイブス版の価値はとても高いんじゃないかな。思い出もしっかり甦るし。
ムネタツ:
ボディソニックのビリビリがコントローラーの振動で再現されているのもいいですね。当時を思い出しますよ。
あ、そうそう、アーケードアーカイブス版には諸々修正されて1987年にリリースされたエキストラバージョンも収録されてますよね。この調整にはぜんじさんも関わった、と都市伝説のように噂されてますが……。
ぜんじ:
いやホントだよ、そんな噂扱いにしないで(笑)。敵配置やボス攻撃パターンの変更とか、いろいろ意見を出させてもらった。wikiとかネット情報だと「石井ぜんじが助言した」とか書いてあるけど、実際には開発に出向いてミーティングしてプレイして調整して……を繰り返したので、エキストラバージョン開発の主力メンバーと思ってもらっていいかな。変更点の9割近くは僕の意見だし。
ムネタツ:
まあ、そういうことにしておきましょうかね、ここはぜんじさんの顔を無駄に立てるということで。
ぜんじ:
無駄とか言わない(笑)。ここはぜひ両バージョンをやり込んで、その違いに気がついてほしいね。
ムネタツ:
じゃあ、ぜんじさんが調整したというエクストラバージョンを、久しぶりにクリアーまでじっくり遊んでみますか。もちろん、ぜんじさんにはクジラの稼ぎもやってもらいますよ? 僕がクジラに当たった弾の数をカウントする係をやりますから。
ぜんじ:
本当に? でもムネタツさんはこういうとき無駄に役立つことあるからなあ。
- 第1回: ダライアス
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