『空の軌跡 the 1st(ザ・ファースト)』は、かなり新しいのになぜか懐かしい。先行プレイとトークステージから見えた「ルーツ」と「ビジョン」

今回は発売に先駆けてメディア限定イベントに参加し、体験版の先行プレイおよび日本ファルコム社長近藤季洋氏とエステル役・高柳知葉氏、ヨシュア役・藤原夏海氏のトークステージを体験することができた。

日本ファルコムは9月19日、『空の軌跡 the 1st(ザ・ファースト)』をNintendo Switch/PS5/PC(Steam)向けに全世界同時でのリリースを予定している。本作のリメイク元となる『軌跡』シリーズ第1作『英雄伝説 空の軌跡 FC』は、2004年PCでの販売を皮切りに高い評価と人気を呼んだ伝説的な作品で、以降20年以上に渡って同一世界でのシリーズが連綿と続いている。そのため『空の軌跡 the 1st』発表時には、「『軌跡』シリーズが気になっていた」という期待を抱く方や、「原作からどれくらい変わっているのだろう」と不安混じりの反応を多数見かけた。

今回は発売に先駆けてメディア限定イベントに参加し、体験版の先行プレイおよび日本ファルコム社長近藤季洋氏とエステル役・高柳知葉氏、ヨシュア役・藤原夏海氏のトークステージを体験することができた。そこで本記事では2つのトピックを通して「『空の軌跡 the 1st』はどんな作品なのか」、原作から変わらない部分と変化した要素を中心に触れていきたい。

体験版プレイで感じた『空の軌跡』の復活

イベントでプレイできた体験版は、8月21日より配信中のバージョンと同一のもの。ゲームは『空の軌跡 the 1st』冒頭、幼き日のヨシュアがエステルの父・カシウスに連れられて、「ブライト」家の養子となる場面から開始。本編は5年後にふたりが16歳となり、「地域の平和と民間人の保護」を理念に掲げた「遊撃士(ブレイサー)」を目指すシーンからスタートする。

エステルは正義感が強く困った人を放っておけない性格で、過去の経験から影があり冷静沈着なヨシュアをグイグイと引っ張りつつ、年頃の少女らしく打たれ弱い部分もある魅力的な関係性だ。デモの物語は遊撃士の最終研修を終え、カシウスが調査へ出かける序章終了までを体験できた。

原作の戦闘システムは、「アクションタイムバトル」と名付けられた攻撃範囲を考えながら行動するSRPG風のターン制コマンドバトルだったが、リメイク版は近年のシリーズ作『黎の軌跡』『界の軌跡』を踏襲したシステムに変更。フィールド上で攻撃や回避を駆使して立ち回る「クイックバトル」と、毎ターンごとに敵味方の行動順や位置取りを考える「コマンドバトル」2つの戦術をリアルタイムに切り替えられるように。つまりアクションとコマンドバトルをシームレスに変更しながら、プレイヤーの好きなスタイルで戦えるということだ。

クイックバトルでは、通常攻撃と「チャージゲージ」を消費するクラフトを使い分けていく。回避後にはクラフト種類が変化したり、ジャスト回避に成功するとゲージが全回復したりと、単なる「コマンドRPGにアクションを付けてみました」というオマケ程度ではなく、これまでの知見を活かした爽快でやりごたえのある仕上がりだ。またコマンドバトルでは敵にスタン・クリティカルを与えると、「ブレイブアタック」が発動し追撃や協力攻撃「チェイン」が行える。

またクイックバトルでスタンをしてからコマンドバトルに移行すると、即座に追撃が発生可能など、2つのシステム同士が別物として分かれているのではなく有機的に繋がっているのも特徴。さらに攻撃演出もスピーディーなことから、コマンドバトルでありながらテンポが良く、「待ち」の時間がほとんどなく、思考が途切れることなく戦闘に集中できる。『軌跡』シリーズの魅力の1つはバトルの完成度の高さだが、本作は洗練されたコマンドバトルとアクションの融合によって、現代JRPGのひとつの進化系と言えるだろう。

ここまで物語とバトルについて追ってきたが、『空の軌跡 the 1st』最大の変更点である3D化について触れたい。原作では緻密な2Dグラフィックで「リベール王国」を描いていたが、本作では広がりが感じられるフル3Dで表現されている。しかし『英雄伝説 空の軌跡 FC』とまったく体験が異なったかと言われるとそうではなく、体験版の主な舞台の「ロレント」の牧歌的で見覚えのある街並みが、現代的なディテールと説得力をもって再現されたという印象。自由に動かせるようになったカメラで街の臨場感を感じつつ、視点が俯瞰から三人称に変化したため「エステルたちはこういった目線で冒険していたのか」とフィールドの広がりを実感し、世界への没入感が深まったのも魅力だ。

さらに驚いたのがキャラクター演出だ。二頭身の2Dモデルから等身の高い3Dモデルに刷新されたことで、オリジナル版のドット絵では難しかったカットシーンのキャラクターの細かい仕草や、ドロップキックなどの大胆なアクションによって登場人物の個性が肉付けされる形で描写。コマンドバトルのクラフトやSクラフト発動時のカメラワークにもメリハリが生まれ、スタイリッシュかつダイナミックな構図で目にも楽しいバトルが楽しめる。

このように『空の軌跡 the 1st』は、外側はガラリと変化して現代JRPGとして説得力のあるルックになりつつ、コアの部分は原作を丁寧に膨らませた作品だった。長年のファンは新たな『空の軌跡』復活作として楽しめ、新たなプレイヤーは第1作のリメイクのため入門しやすい。ファンから見ても『軌跡』シリーズは作品数があまりに多く、新規参入のハードルが高いというある種の課題を抱えたように思えていたが、それを解消できる一作になりそうだ。

トークステージで語られた『空の軌跡 the 1st』制作の裏側

体験版プレイ後には、『軌跡』シリーズプロデューサーである日本ファルコム代表取締役社長近藤季洋氏と、主人公エステル役・高柳知葉氏、ヨシュア役・藤原夏海氏のトークステージが開催。作品の魅力や制作の裏側について語られた様子をお伝えしたい。

まず近藤氏からは「原作の『英雄伝説 空の軌跡 FC』は20年前、新人だったころに制作されたシリーズの原点」と話があり、改めて今回のリメイクではグラフィックやシステムが全面的に刷新されている点に触れられた。グラフィックは全シーンが3Dで描かれるようになり、当時の表現力では難しかったシーンが鮮やかで臨場感あふれる形で復活。バトルシステムやフィールドマップも現代向けに改良され遊びやすさが向上した一方で、当時の雰囲気を懐かしく感じられる要素も大切にしている旨を話されていた。

次に、キャラクターの魅力やキャスティング秘話について話が進行。近藤氏は主人公・エステルを「元気で前向き、活発で裏表のないまっすぐな性格」と紹介。高柳氏は、エステルの「まっすぐでピュアな心」を表現するため、感情を素直に表すことを意識したと語り、熱量のある演技が求められ、収録後はいつもヘトヘトになるほどだったという。キャスティングについては、近藤氏が以前一緒に仕事をした際の高柳氏(『イースX -NORDICS-』ヨルズ役)は敵役でクールな声だったため、ディレクターに推薦されたときは意外性を感じつつも、サンプルボイスを聞いて「いける!」と抜擢を決めたと明かされた。

ヨシュアは「クールで冷静、エステルのツッコミ役」を担う少年で、過去に辛い経験を抱えた影のあるキャラクター。藤原氏は一見大人びて見えるヨシュアの中に、16歳らしい少年らしさがあることを感じ、クールな面と等身大の少年の両方を表現することを意識。近藤氏はヨシュア役のキャスティングは最も難航したといい、少年期から青年期までの演技力が求められる中、藤原氏のオーディションボイスが、特に本作の物語のクライマックスにふさわしいと判断されたのだという。

さらにエステル役の高柳氏は、収録時のユニークなエピソードを披露。劇中エステルが商業都市ボースの市場で鼻歌を歌うシーンがあるのだが、本来はサウンドチームが作曲した曲が用意されるはずだった。しかし手違いで事前に曲が届いておらず、高柳氏は台本に書かれた「歌詞」と「鼻歌」の指示のみで、即興で歌を披露することに。だが驚くことにその場で歌われたメロディーは、予定していたものと奇跡的に似ていたという。高柳氏は「ボースマーケットの雰囲気はこうだろう」というイメージを反映した結果で、制作陣との感覚が一致していたのではないかと言及。近藤氏は「僕としては、高柳さんが作った歌を使いたかった」と冗談交じりに話し、会場の笑いを誘った。

驚いたのが高柳氏と藤原氏の初顔合わせが、本イベントだったこと。ゲームの収録は一人ずつ行われることが多く、本作も別々にボイスを収録していたため、実際に会って話す機会は一度もなかったそうだ。エステルがファルコムタイトルでもっともワード数が多くなり、先行で収録がはじまった高柳氏は、スタッフから「ヨシュア役は藤原さんです」と聞かされ、演技を想像しながらエステルを熱演。一方の藤原氏は先に録音された高柳氏のボイスを聞きながら、ヨシュアの演技を作り上げていき、本編のボケとツッコミのような掛け合いが仕上がったという。

最後に今回のリメイクがオリジナル版の制作に携わったスタッフと、後に同作のファンとなって入社した若手スタッフの共同作業で誕生したエピソードも披露。本プロジェクトへの参加希望者が相次ぎ、「メインプログラマーが自ら志願した」というエピソードからは、日本ファルコムにとっての『空の軌跡』への強い熱意がうかがえた。このように和気あいあいとしながらも、作品への深い愛情と情熱を語った登壇者たち。制作チームの熱意やキャストのプロフェッショナルな仕事、そしてファンへの想いが感じられたトークステージだった。

『空の軌跡 the 1st』は、Nintendo Switch/PS5/PC(Steam)向けに2025年9月19日発売予定。通常版の価格はパッケージ版・ダウンロード版ともに税込8800円、「英雄伝説 空の軌跡 the 1st ブレイサーBOX」は税込1万5400円だ。

Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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