集英社ゲームズのジェムマッチローグライト『ANTHEM#9』は「色合わせ」「倍率増幅」「選択の重要視」などで個性付けられている。開発者インタビュー
京都で7月18日から開催された「BitSummit the 13th」にて、開発者のkoeda氏と集英社ゲームズに話を伺ってきた。本稿では、その内容をお届けしよう。

集英社ゲームズより、『ANTHEM#9』が2025年に発売予定となっている。同作はkoeda氏が開発する、ジェムマッチローグライトである。スタイリッシュなビジュアルが印象的な作品であるため、X(旧Twitter)上などで見かけたことのある方も多いかもしれない。
Steamのストアページによると、同作では3色のジェムを組み合わせて、スキルを発動。コンボがつながるほど気持ちいいバトルが待ち受けているそうだ。ビジュアルが印象的な一方、ゲームプレイについてはまだ謎の多い本作には、どんなこだわりが詰められているのだろうか。弊誌では、京都で7月18日から開催された「BitSummit the 13th」にて、開発者のkoeda氏と集英社ゲームズに話を伺ってきた。本稿では、その内容をお届けしよう。
───まずは自己紹介をお願いします。
koeda氏:
ゲームクリエイターのkoedaです。『ANTHEM#9』を、基本的には個人で開発しています。普段は会社員をやっていて、いつも仕事が終わってからゲーム開発を進めています。
森田氏:
集英社ゲームズのアシスタントプロデューサー・森田と申します。『ANTHEM#9』には、プロデューサーとして携わっています。うちはアシスタントプロデューサーでもタイトルを持たせてくれるケースが多々あるんです。集英社ゲームクリエイターズキャンプというプラットフォームのコンペで『ANTHEM#9』は大賞を受賞したのですが、当時本作は企画書が並ぶ中で、どのゲームよりも目を惹きました。その後、面談でkoedaさんの考えを知って、ぜひやらせてくださいと自分から手を挙げて、プロデューサーとして携わっています。
───集英社ゲームズとしては、どういった形で本作をサポートされているのでしょうか。
森田氏:
大きなところとしては、壁打ちの代わりですね。koedaさんは、兼業で開発されています。働きながらの開発なので、ご自分で作られたものを遊ぶ時間がkoedaさんにはあまり取れないので、自分がkoedaさんの作ったものをプレイしてレビューしています。出版社における作家さんと編集者のような形で、自分が壁打ちの役割となって、ミーティングを進行していくという、そういうサポートが大きいかなと思っています。
レビューとしては、新しく追加されたスキルや敵に対する感想を言ったり、2パターン作ってある時にはそれぞれ意見を言ったりしています。それと開発費用はもちろん、ローカライズQAやデバッグも全面的にサポートさせていただいています。

───koedaさんは、そうしてフィードバックをもらう中で、言われて記憶に残っていることはありますか?
koeda氏:
すべての仕様に対して意見をもらっているので、いっぱいあります。開発していく中で、一番ゲームを大きく変えたなというか、方向性が決まったのも森田さんのフィードバックからでした。本作のウリは爽快なコンボと、そのコンボの演出なんですが、そこをウリに出来るんじゃないかと見出してくれたのも集英社ゲームズさんのフィードバックからでした。「ここがあなたが思ってるより、気持ちいいです」と指摘いただいて、そうなのかと初めて自分は気づいた感じです。
───改めて『ANTHEM#9』について伺わせてください。
koeda氏:
『ANTHEM#9』は赤、緑、青の3色のジェムを、色合わせパズルみたいに並べていくゲームです。3色のジェムを並べて、スキルごとに決められたジェムの並びを繋げて、たくさんスキルを出して相手にダメージを与える。そういったバトルシステムを採用したローグライクになっています。また本作にはジェムの共有というシステムがあって、上手く使うと少ないジェムでたくさんのコンボが出せます。
たとえば赤緑の2色で出せるスキルと、緑青の2色で発動するスキルがあるとします。赤緑のスキルと緑青のスキルは緑が共通しているので、間の緑を共有して3個のジェムで2つのスキルが出せるんです。限りのあるスキルの編成やジェムの配置を上手く工夫すると、コンボが繋がって気持ちよく遊べる。またスキルの発動に必要なジェムは入手する度にランダムなので、報酬として手に入れたスキルでどんどん理想のデッキを組み上げていけます。
森田氏:
気持ちよさにつながる部分では、いわゆるレリックなどに相当するチャームというシステムもあります。たとえば、スキルに使用するジェムの先頭と末尾の色が同じなら2回発動するようになるとか、そういった装備品によってデッキのコンボ数がどんどん増えていく。本作ではコンボが増えれば増えるほど攻撃の倍率が上がるので、ダメージ的にも気持ち良くなれるみたいなのが、一つウリになる売りかなとは思っています。


バトルは気持ちよく、選択は大事に
───本作の開発は、どういったところから始まったんでしょうか。開発の経緯を伺わせてください。
koeda氏:
開発を始めたきっかけは、デッキ構築型ローグライクのゲームを遊んだことでした、インディーゲームでいくつか遊んでいく中で、デッキ構築型ローグライクのジャンルのゲームがすごく面白いなと思って、自分もそういうゲームを作ってみたいと思いました。同時に、自分はあまりデッキ構築型ローグライクのゲームプレイが得意ではなく、流行のタイトルがすごく難しく感じていました。そこで、どうすれば自分でも気持ちよく遊べるローグライクになるかと考えて、パズルなら自分でも分かるし、並べるだけならみんな分かりやすいんじゃないかと思ったんです。そのシステムを採用して作ってみたら、面白いんじゃないかと思ったことが開発のきっかけですね。
───デッキ構築型ローグライクを遊んで、どこが面白いと感じましたか。また、それをどういった形でこのゲームに落とし込んでいったのでしょうか。
koeda氏:
『Slay the Spire』で一番面白いと思ったところは、自分の選択がすごく重要なところです。それまで自分は、RPGやシミュレーションといったジャンルを好んで遊んできました。自分が遊んできたRPGやシミュレーションゲームでは、セーブとロードもありますし、敵が強かったらレベルを上げて再挑戦するなど、間違った選択をしても取り戻せるのが当たり前でした。そこからローグライクを初めて遊んだ時に、失敗が許されない体験がすごく衝撃的だったんです。自分の選択一つ一つが重要で、だからこそ自分の成長や、上手く行った時の喜びも大きいことに気づいたんですね。選択が重要だからこそ、上手くなると楽しいと感じて、このジャンルのゲームがすごい魅力的だなと感じました。
そこからどう『ANTHEM #9』に取り込んでいるのかというと、ローグライクの選択が重要なところを大事にしています。たとえばHPが減っているのに、回復でなく強化を選んで進んでしまったら負けたりとか、選択による失敗の体験は、しっかり本作にもあります。ジャンル内ではマイルドな難易度になっていると思うのですが、そうした自分の感じたローグライクの醍醐味を残しつつ、独自の気持ちよく遊べるバトルを作り込んでいる形です。
森田氏:
本作は、パズルライクで遊べるというカジュアルさも含めて、難しめのデッキ構築というよりは、間口の広いものを目指してマイルドに作られています。それでいて選択の重要さはしっかりあって、ノーマルモードでも結構考えて遊ばないと負けてしまうので、ローグライクとして遊んだ時の手応えはしっかり担保できているのかなとは思っています。


───スタイリッシュな目を惹くビジュアルも特徴だと思います。X(旧Twittter)のタイムラインで流れてきても目立っている印象ですが、見せ方などで意識している部分はありますか。
koeda氏:
集英社ゲームズさんと組む前の戦略だったんですが、無名の開発者なので、当時はなんとか認知されないといけないと考えていました。そこでSNS時代の早く流れていくタイムラインの中で、とにかく数秒でも目に止めてもらうために、あえてどぎつい色を使ったり、なんだこれって思わせるような絵作りを心がけていました。あとは演出ですね。個人開発だとリッチなことはなかなかできないので、その分アイディアで勝負しようと考えています。たとえば「そこがそんな風に動くんだ」とか、「この演出がまさかそんなところから飛び出してくるなんて」とか、アニメーション演出でもワクワク感をプレイヤーに感じてもらえるように、意識して演出を考えています。
───最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
koeda氏:
本作は、自分にとって最初のゲーム開発で作っているゲームです。最初は本当にただゲームが好きなだけだったんですが、30を過ぎてからやっぱりゲームが作りたいと思うようになって、一生懸命勉強して作ってるようになりました。それが今、ありがたいことに集英社ゲームズさんと開発サポートを結ばせていただいて、ここまで大きな舞台へ出展させていただいています。開発当初からはだいぶ時間がかかっており、最初から応援いただいている方には結構お待たせしてしまっていますが、今完成が見えてきてる状況です。あともう少しで良いお知らせができると思うので、引き続きよろしくお願いします。
森田氏:
開発の状況としては、ゲームの要素はもうほぼほぼ入り切っています。あとはこれからユーザーテストをしっかりやっていく段階です。いただいたユーザーからのフィードバックもしっかり活かして最終的なバランス調整を進めていけば、間違いなく見たことないビジュアルでおしゃれな音楽が鳴って、驚くような気持ちいいコンボができる、いいゲームが誕生すると思っています。応援よろしくお願いします。
『ANTHEM#9』は、PC(Steam)向けに2025年発売予定だ。
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