成人向けゲーム規制問題について、クレジットカードMastercard社が「ゲームプラットフォームに制限を求めたことはない」と声明

Mastercard社は現地時間8月1日、同社がいかなるゲームも審査しておらず、ゲームクリエイターサイト・プラットフォーム上での活動に対しても制限を求めたことはないとの声明を明かしている。

Mastercard社は現地時間8月1日、昨今の報道に関して声明を発表。報道・主張されている内容とは異なり、同社はいかなるゲームも審査しておらず、ゲームクリエイターサイト・プラットフォーム上での活動に対しても制限を求めたことはないとしている。

こうした声明が公開された背景には、最近になってPCゲームプラットフォームSteamおよびitch.ioにおいて、成人向けゲームなどの規制が強まったことがあるとみられる。Steamでは7月16日、開発者向けガイドラインであるSteamworksドキュメンテーションにおける「Steamで公開すべきではないもの」の内容が更新。Steamの決済サービス業者、関連カードネットワークや銀行、インターネットネットワークプロバイダーなどによって定められた規則や基準に違反する可能性のあるコンテンツ、特に特定の種類の成人指定(アダルトオンリー)コンテンツが新たに規制対象となることが示された。その後すぐさま多数の作品がストアから削除されている(関連記事)。

またitch.ioでは一時すべての成人向けNSFWコンテンツが、同サイト内でのブラウズおよび検索結果ページから除外。クレジットカードの決済代行業者から調査を受け、そうしたコンテンツの審査を実施することとなり、それが完了するまでの措置として閲覧制限をかけていると明かされた(関連記事)。その後無料のNSFWコンテンツに限って一部表示再開がおこなわれることが発表されたものの、有料コンテンツについては表示再開のめどが立っていない。

なおitch.ioは今回の事態の発端として、オーストラリアの団体Collective Shoutの公開書簡に関して言及していた。というのもCollective Shoutは7月11日、VISAやMastercard、JCB、PayPalなどの決済事業者に対しitch.ioとSteamに存在する特定のテーマの成人向けゲームについての懸念を表明し、この直後にSteamおよびitch.ioでの成人向けゲームを中心に規制が強化されるかたちとなった。同団体の公開書簡が今回の規制強化のきっかけになった可能性がうかがえる。

そして公開書簡の宛先にVISAおよびMastercardが含まれていたことからか、両社に対してフィクション作品の“検閲”をやめることなどを求める署名運動なども発生。オンライン署名サイトChange.orgに寄せられた署名数は、本稿執筆時点で21万人以上に及ぶ(関連記事)。

こうした状況を受けてか、Mastercardは声明の公開に至ったようだ。声明では報道・主張されている内容とは異なり、同社がいかなるゲームも審査しておらず、ゲームクリエイターサイト・プラットフォーム上での活動に対しても制限を求めたことはないと説明。同社の決済ネットワークは法が定める基準に従っており、合法的なすべての購入を許可しているとのこと。ただし違法な成人向けコンテンツを含む、違法な購入に利用されないように、加盟店に適切な管理を求めているとした。

なおSteamもitch.ioも規制強化の背景にクレジットカード会社などの決済代行業者の基準があるとしているものの、具体的にどの業者の基準が原因となっているかは示されていない。幅広い業者の基準に抵触しないように、プラットフォーム側で判断・対応している可能性もあるだろう。ちなみにitch.ioは先日、「決済代行業者が定める禁止表現」として複数の例を挙げていた(関連記事)。

このほかitch.ioは先日の声明で、同社が利用している決済処理プラットフォームStripe側のコメントを伝えていた。Stripeでは現在、提携している金融機関から課された制約により、性的に露骨なコンテンツの購入をサポートできないという。Stripeは、そうした制約が、カードネットワーク自体は(適切に登録されていれば)成人向けコンテンツを一般的にサポートしているにもかかわらず課されていることを説明。将来的にStripeでふたたび成人向けコンテンツをサポートできることを望んでいるとしていた。

つまり少なくともStripeの事例では、提携銀行の基準がネックとなって成人向けコンテンツの購入処理ができない状況にあるようだ。今回のMastercardの声明も見るに、クレジットカード会社に限らず、決済に関わる複数の機関の基準が、規制強化の要因となっている可能性があるだろう。いずれにせよSteamとitch.ioにおける規制強化は引き続きコミュニティに混乱を招いており、今後の動向は注視される。

【UPDATE 2025/8/2 18:11】
本件に関して、Steamの運営元Valveは海外メディアPC Gamerなどを通して声明を明かしている。Valveによると、Mastercardは決済代行業者およびアクワイアラーとなる銀行とのやりとりをおこない、決済代行業者がその内容をValveに伝えてきたという。

これに対して、Valve側は(決済代行業者に対して)合法的なゲームについては配信するという従来のSteamのポリシーを説明。しかし決済代行業者は、Mastercard社が定める取り決めである「Mastercard Rules」の5.12.7に基づいて、ブランドを損なうリスクがあるとしてこれを拒否したとのこと。同ルールの5.12.7では違法な取引のほか、たとえば同意のない性行為や獣姦など題材とするサービスを、ブランドに悪影響を与える可能性のある取引として記載。加盟店に対し、アクワイアラーに向けてそうした取引を提出しないように規定されている。

なおこれを受けてValve側はMastercard社と直接のやりとりを要請したものの、受け入れられなかったという。Valve側の説明を見る限りは、あくまで決済代行業者の判断とはいえ、間接的にはMastercard社からの圧力が存在したこともうかがえる。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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