「北朝鮮唯一のSteamユーザーが消えた」と早とちりされ、“消えた理由”推理されまくる大騒ぎに。消えてない

何年も存在していた世界で唯一の北朝鮮Steamユーザーが消えた。そんな書き込みが海外掲示板Reddit上で話題となった。海外メディアPC Gamerが報じている。

Valveが運営をおこなっているPCゲームプラットフォームSteamには、全世界での利用状況を視覚化した「Steamグローバル通信量マップ」が存在する。このうち「サテライトビュー」というモードでは、1人以上のユーザーからのSteamダウンロード状況が薄い緑色の点で示される。日本やアメリカ、ヨーロッパ、インドなど、Steamの利用が盛んな地域では点が密集して存在する一方で、人口の少ない地域では点はまばらになっている。

地図上に数多く存在する点の中で、以前から注目されているものが一つ存在する。北朝鮮、平壌にただ一つだけ灯っている点だ。この点は、Steam統計が現在の地図形式での表示をスタートさせた2013年から存在している。しかし6月18日、この点が消失した。19日にこのことをRedditユーザーのKirby_coltellino氏が「After years and years, the only user on steam in north Korea disconnected（長い年月の末に、北朝鮮で唯一のSteamユーザーが切断された）」と報告すると、5万9000回ものUpvote（高評価）と1000件以上のコメントがつく大騒動が巻き起こった。

通常、北朝鮮国内からインターネットに接続することはできない。北朝鮮国内では「光明」と呼ばれる国全体をカバーする巨大なイントラネットが敷かれており、外部とは完全に切り離された独自の国内専用ネットワークとなっている。また、都市部ではこの「光明」に接続できるWi-Fi環境も整備されているほか、PC自体もLinuxをベースとした独自OS「Red Star OS」を用いている。そうした環境で「ネナラ（我が国の意）」と呼ばれるブラウザを使い、北朝鮮版Googleとも言えるネナラウェブポータルを利用するというのが、北朝鮮のPC利用事情である。

こうした背景があるため、Steamグローバル通信量マップでは38度線以北はほとんど真っ暗である。にも関わらず平壌にただ一つだけ灯っている点は、かねてより注目を集めてきた。北朝鮮ではごく一部の特権的な人々のみがインターネットにアクセスできるというが、事前と申請と承認プロセス、利用中の監視、さらに5分ごと閲覧状況の確認といった厳しい制限下に限られているとされる（WIRED）。とてもSteamを利用できるものではないだろう。

そんな北朝鮮で唯一の点が消えたことで、Redditユーザーたちの間に「唯一のSteamユーザーの身に何かあったのでは？」と騒ぎが生じる事態となった。大量についたコメントの中には「当局が彼を捕らえたんだ」「RIP（冥福を祈る）」などと真に受けたものも見られるが、「金正恩氏が自分のPCをアップグレードしてるんだろう」といったものや「ロシア大使館で子どもがカウンターストライクをプレイしてる」といったものなど、冗談めかしたコメントも多い。さまざまなユーザーからの、憶測や“分析”が多数寄せられている状況だ。

ただし、今回の件を報じたPC Gamerによれば、北朝鮮で唯一の点が消えたのは今回が初めてのことではない。弊誌でもWayback Machineを通じて確認したところ、2025年の5月22日、6月3日などにも消えていることが確認できた。なお本稿執筆時点でサテライトビューを確認すると、平壌付近にある緑の点が復活している。Redditユーザーが心配するような事態は特にないようで、利用状況に応じて明滅しているだけに過ぎないのが実態のようだ。

北朝鮮に唯一存在する点の正体については定かではない。厳しい統制をかい潜って利用している誰かなのか、それとも冗談めかして語られているように最高指導者である金正恩氏本人なのか。いずれにせよ、この謎のSteamユーザーを示す点が、今後も注目を集めることは間違いないだろう。