死にゲーローグライクTPS 『スカーレッドサルベーション』はコンパイルハート史上もっとも難しい、『Returnal』研究から生まれた異色の産物
本作は、初報時点から高難度TPSであることが告知されている。どのように難しいのか?

コンパイルハートは5月29日、『スカーレッドサルベーション』を発売予定だ。対応プラットフォームはPC(Steam)/PS5/PSで、5月29日に発売予定(Steam版はIDEA FACTORY INTERNATIONALより5月30日発売予定)。
本作は、機械兵器との死闘を繰り広げる三人称視点のアクションシューターだ。主人公のウィロ・マーティンは、見知らぬ部屋で目を覚ます。しかし、彼女は記憶がなく、なぜここにいるのかもわからない。そんな彼女に助言をくれるAIに従って、真相を探っていくことになる。
本作は、初報時点から高難度TPSであることが告知されている。どのように難しいのか?『スカーレッドサルベーション』のプロデューサーを務めるアオキヒロシ氏に話を伺った。別インタビュー記事もあわせて読んでみてほしい。
コンパイルハート史上“最ムズ”ゲームの誕生
――本作はHousemarqueのローグライクTPS『Returnal』に似ているというお話について。アオキさんは『Returnal』をプレイはされたんでしょうか。
アオキ氏:
『Returnal』は追加コンテンツは一旦置いておきつつ、トロフィーコンプまでプレイしております。
――すごい、ちゃんと研究されているんですね!
アオキ氏:
『Returnal』はゲームの組み立てがシンプルですけど、プレイスキルが上がっていく楽しさに目覚めると、あのゲームはすごく楽しくなっていくんですよ。でも、私も『Returnal』は何度も挫折しかけまして……。コツをつかんでどうやってプレイすると楽しくなるかというところがわかると、途端にギアが一段上がったような楽しさがありました。それが『Returnal』の魅力だと感じています。あと、あのゲームでは、ダメージを受けないことが最大の攻略なんですけど、その部分は『スカーレッドサルベーション』に取り入れています。
『スカーレッドサルベーション』にはエクソスキルという要素がありまして、これは『Returnal』からヒントを得たシステムなんですが、シンプルなシステムにする予定が、色々詰め込んで複雑化しちゃいました。ただ、その甲斐あってキャラクターを自分色に染めることができて、キャラクターメイクの楽しさを味わえることは、本作の良いところではないでしょうか。初めはわかりにくいかもしれませんが、次第に「あ、このスキルの方が合うかも」と気づく楽しさがあるはずです。
――先人をみっちりと研究して、その中で『スカーレッドサルベーション』なりの落とし込みをしているわけですね。
アオキ氏:
『Returnal』と差別化しようとしたのは武器ですね。オーソドックスな武器は当然用意していますが、ロックオンレーザーだったりビームだったり、『スカーレッドサルベーション』独自の楽しさが味わってもらえるかなと思います。
――エクソスキルによってゲームがちょっと複雑化したという話でした。プレイしてみて、ゲーム全体としてシステムが多く割と複雑な印象があります。
アオキ氏:
結果的にちょっと複雑化しちゃったな、と。もう少し整理しようと思えばできたんだろうとは思いますが、開発会社のネイロさんと一緒に作っていく中で、お互いのやりたい事、入れたい要素をドンドン拾い上げた結果、仕上がったのが『スカーレッドサルベーション』なので。今回がパーフェクトな出来になったのかはプレイヤーの皆さんにジャッジをお任せしますが、キャラクターメイクやゲームシステムの複雑なところも含め、『スカーレッドサルベーション』らしさっていうのは作れたんじゃないかなと思います。
――今作、死にゲーと仰るだけあって難しいゲームですが、ずばり言葉にするとどれくらい難しいですか。
アオキ氏:
『Returnal』よりは簡単です。
――あれより難しいと困ります(笑)
アオキ氏:
とはいえ、結構歯応えがあると思っています。私がガチでプレイして、それでもやり直しとかもあって、20時間以上はかかるという感じで、結構難しいと思っています。社内の人間が言うには、最終ステージとかは相当だと言っていますね。「自分でどう攻略していくかをしっかり考えないとクリアできません!」くらいの勢いで言っているので……、かなり難しいものをイメージしてもらえればと。
――コンパイルハートはRPGが多めなので比べにくいかもしれないですけど、もしかしてコンパイルハート史上で最ムズですか。
アオキ氏:
最ムズだと思ってます。あと、私が言うのも何ですが、運ゲーなところもありますので。
――運ゲーなんですか?
アオキ氏:
実は私は運ゲーという言葉が嫌いじゃないんですよ。引きの強さも時には味方してくれるというところが、ゲームの攻略のひとつだと思っています。逆に言うと、引きが弱いときってゲームのせいにできるじゃないですか。「あれ出ないじゃん!」みたいな感じで。一方で、引きが強いときは「やった!」ってテンションが上がるっていう。元々アーケード畑出身のせいか、そういうスパイスが好きで、あえてそれをやっている感じですね。

――ちょっとピーキーにしているんですね。たしかにローグライト要素って性能を均質化してしまうと面白くない印象ではあります。
アオキ氏:
そうなんですよ。最適解が出ちゃうとそれが攻略になっちゃうのはちょっと面白くないので。そのときの引きの強さすら、その人のプレイスキルだという風に思って遊んでほしいなと思っています。
――ちなみに、テストプレイで難し過ぎるというようなフィードバックはありましたか。
アオキ氏:
当然デバッグなどのフィードバックで難易度についても意見はありましたが……、実はちょっと難しくしたんです。
――逆に?
アオキ氏:
序盤がぬるいという意見があって……。なので序盤は少し難易度を上げました。
――なるほど。序盤を難しくして、2周目、3周目以降はちょっと優しくしたとか、そういうバランスの取り方を……。
アオキ氏:
いや、まったくしてないです!
――えっ。
アオキ氏:
我々が日和ってしまうと、本当に簡単になってしまう可能性があるわけなんです。当然慣れもありますが、私の個人的な感覚では『スカーレッドサルベーション』はそこまで無茶なゲームだとは思っていないんですよ。結構プレイスキルでカバーできるんだろうなと思っていて、下手に難易度を下げちゃうと、死にゲーって言っていたのに思っていたよりも簡単、今ひとつ噛み応えがないなという風に思われてしまうのが嫌だなと。
――ゲームデザイン面にはこだわっていると。
アオキ氏:
強い武器を序盤に出しちゃうと深みがなくなってしまうので、序盤ではなく次のステージにしてみるとか、そういったアイデンティティの守り方をしています。あと、武器の好みが社内の人間でそれぞれ違っていて、みんながいろいろな武器を使うような調整ができていることも良かったなと思っています。
使いにくい武器もあるんですけど、あえて「強くするな」という指示を出して、バランスは取ってくれるなとお願いしました。いろいろな武器にチャレンジしようっていうやり込みたい人たちの楽しみを取ってしまうなと思ったんですよね。
――そもそも、マルチプレイのゲームではなくてシングルプレイのゲームですからね。
アオキ氏:
そうなんです。相手と対戦するわけではなく、あくまでもスタンドアロンでひたすら自分の技を磨くゲームであれば、多少くせのある武器があるのも面白いのではないかなという気がします。
コンパイルハート“らしさ”と“らしくなさ”
――いろいろお聞かせいただくと、ますますコンパイルハートらしくない気がする作品だなと感じます。
アオキ氏:
らしくないという話で言うと、たとえば会話シーンでキャラクターのバストアップのイラストを使っていないことは、弊社の作品の中でも珍しい方じゃないかなと思っています。こういった部分に関しては、いろいろな球を投げてみようという試みの中で変えてみた部分です。
ただ、それで従来のコンパイルハートファンを蔑ろにしているわけではないんです。従来のコンパイルハートファンの方々にも触れていただきたいタイトルでもあるので、エイムが苦手な方に向けて、先ほども挙げたロックオン式の武器であるシーカーグローを用意してみるなど、いろいろなアプローチを仕込んでいます。
あとコンパイルハートのゲームは、キャラクターの特徴を出したいというところもあって、そういうこだわりは盛り込んでいます。

――キャラクターの特徴ですか。具体的にはどんな部分ですか。
アオキ氏:
本作の主人公のウィロの近接攻撃をどういうものにしようか悩んだことがありまして。ブレードで斬るという案もあったんですが、今回はパンチを近接攻撃にしたんですよ。これは「このキャラクターならやっぱりパンチじゃないと!」というキャラクター像にこだわった結果の決定です。
――お話を聞いていると、要所でアオキさんのヘキが出ている気が……。
アオキ氏:
あの……、すみません。駄々漏れしていますね……。

――作り手のヘキが出るのもコンパイルハートらしさということですね(笑)作りたいものを楽しんで作るという信念が感じられる部分だと思います。
アオキ氏:
ありがとうございます。本作のベースがTPSになったのも言ってしまえば自分のヘキなので、ちゃんと作らないといけないなと、キャラクター像以外の調整なども相当いろいろ取り組みましたね。純粋なゲーム性も、撃って避けるができればTPSが成立するというわけではないので、敵が出現するペースだったりマップの作りだったり、そういったところにも気を使っています。
――これまでのタイトルと違うところで言うと、『スカーレッドサルベーション』は珍しくSteam版がコンソール版と同時発売ですが、これはなぜなのでしょうか。
アオキ氏:
RPGと翻訳の物量が違ったので、世界同発を検討した結果、じゃあ全世界同日で5月29日発売にしましょう、ならばSteam版も、となったわけです。
――社内的にも期待がかかっているわけですね。コンパイルハート作品として実験的ですし、アオキさんから見てもセールス的に期待されている感じはしていますか。
アオキ氏:
どうなんでしょうねー……。ただ、全世界同日発売というのは、個人的にすごく嬉しいです。
――そうですよね。まさにビッグタイトルの証じゃないですか。
アオキ氏:
ビッグタイトルを装うこともできます、という(笑)あと、実は欧米市場をすごく意識して作っているんです。なので、キャラクターの会話パートなどを極力少なくして、とにかくアクション部分を遊んでもらおうと。欧米ユーザーに他社のタイトルと比較されたとき、「ゲーム部分がちゃんと作られている」と感じてもらえるとすごく嬉しいですね。
――このジャンルはライバルが多くて比較されがちですが、そこに挑むこと自体が意義深いですよね。
アオキ氏:
とはいえ、作ろうと思ってもなかなか作れないジャンルでもあると思うんです。
――(笑)
アオキ氏:
そもそも、私のキャリアの中でもTPSは手掛けたことがないジャンルでしたので。だけど『Returnal』に限らず、TPSは普段から好きで遊んでいるジャンルで、自分の中で理想形とか、こう作りたいというイメージがずっとあったんですね。そういったネタを少しずつ注入して作り上げたのが『スカーレッドサルベーション』なので、初めてのジャンルだけどそこまで試行錯誤はしていないんですよ。
――アオキさんの個人的な研究と、その成果をアウトプットする力によって形になっている部分もあるんですね。
アオキ氏:
そういうことです。開発側から「ここはどうしましょう」と迷って相談されることがありましたが、自分の中では自分なりのセオリーがあったので、そこに関しては開発会社が迷わないようにいろいろ提案をしておりました。
「なんぼのもんじゃい!」と思っている人にプレイしてほしい

――本作に注目しているユーザーにメッセージをいただけますでしょうか。
アオキ氏:
今まで「コンパイルハートのゲームはこういうもの」と思って、応援してくれていた方もいれば、逆に遠ざけていた人もいると思います。応援してくださっている方は、新しい挑戦としてぜひ触れていただきたいです。まだコンパイルハート作品に触れたことがないという人でも、特に難しいアクションやシューターが好きだという人にプレイしていただきたいと思っています。正直な厳しい意見をいただきたいということもありますが、『スカーレッドサルベーション』はちゃんと歯応えのあるゲームを作ったつもりです。「死にゲーがなんぼのもんじゃい!」と思っている人ほどプレイしていただきたいですね。
――『スカーレッドサルベーション』は、コンパイルハートの既存のイメージを崩すゲームだと思っています。
アオキ氏:
たぶん、そもそもよくわからないと思っている人も多いんじゃないかなと思っていて。だから、ちょっとでも引っかかったら、文句を言うために買ってほしいです(笑)
――では、最後に欧米ユーザー向けにもメッセージをお願いします。
アオキ氏:
TPSというジャンル自体は、日本というよりはヨーロッパや北米のデベロッパーが作ることが多いジャンルだと思います。特にUnreal Engineで開発している会社がこういった作品を得意としているのではないでしょうか。ただ今回は、あえて日本のデベロッパーがUnityでTPSを作りました。私や本作のディレクターを含め、日本の昔のゲームの作り方を知っている人間が、あえてこのジャンルに挑んでいます。
今のゲームビジネスは、全体の圧倒的なボリュームやライブサービスで攻めているタイトルが多いと思います。一方でユーザーの中には、繰り返し遊ぶゲームの楽しさを忘れていない人も多いんじゃないでしょうか。私はそういったストイックにアクションを楽しんでプレイスキルを高めていくゲームが、結構貴重になっているんじゃないかなと思います。
『スカーレッドサルベーション』は、難しいアーケードゲームを連コインしていっぱい練習して、「クリアしたんだぞ」という独特の達成感を味わわせてくれるゲームになっていると思っています。なので、欧米のアクションに自身のあるゲーマーはぜひトライしてください。
――いろんなパッションの伝わりました、ありがとうございました。
『スカーレッドサルベーション』は5月29日(Steam版はIDEA FACTORY INTERNATIONALより5月30日)、PC(Steam)/PS5/PS4向けに発売予定。
[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]