「『エンダーマグノリア』は面白いけどゲームの面白さ言語化が難しい」ので、開発者に説明してもらった。秘訣は“とにかくグラフィックに寄り添ったシステム”にあり

本作の評価される部分のひとつであるゲームデザインと、メトロイドヴァニアというジャンルについて、話を伺っていく。

Binary Haze Interactiveは1月23日、『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist』(以下、エンダーマグノリア)を正式リリースした。対応プラットフォームは、PC(Steam)およびNintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S。なお現在セール中である。

本作は、暴走する人工生命体「ホムンクルス」によって滅びゆく終末世界を舞台にした探索型アクションRPGだ。開発はアドグローブとLive Wireが共同で手がけている。本作は、全世界の累計販売本数(パッケージ版の出荷数/ダウンロード版の販売数)が150万本を記録している人気作『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』の続編にあたり、前作の数十年後の物語が描かれる。

本作は、昨年3月より早期アクセス配信を開始。早々にSteamのストアページにて「圧倒的に好評」のステータスを得る好調なスタートを切っている。その後、約10か月の早期アクセス配信期間を終えて、1月23日に正式リリースを果たした。正式リリース後も高評価を重ね、SteamのストアページではアートやUI、ゲームのプレイフィールなど、さまざまな部分を評価されて、1万以上のすべてのレビューのうち、95%の好評を獲得した「圧倒的に好評」のステータスを維持している。


弊誌では、開発を担当したLive Wireのディレクターである岡部佳祐氏とリードゲームデザイナーである横山泰裕氏にインタビューを敢行した。本作の評価される部分のひとつであるゲームデザインと、メトロイドヴァニアというジャンルについて、話を伺っていく。

メトロイドヴァニアにあるのはJRPG的な面白さ

――自己紹介をお願いします。

岡部佳祐(以下、岡部)氏:
『エンダーリリーズ』と『エンダーマグノリア』でディレクターを担当している岡部佳祐です。現在はLive Wireに所属していますが、元々はその前身とも言えるネバーランドカンパニーに所属していました。

『エストポリス伝記』シリーズや『ルーンファクトリー』シリーズなどが代表作の会社で、自分自身も『ルーンファクトリー』が好きだったことと、コンソール向けゲームが作りたいということがあって、ネバーランドカンパニーに入社したつもりだったんですが、実際に配属されたのはモバイルゲームで、プランナー兼デザイナーとして任されることになりました。

会社初のモバイルゲーム事業への進出だったこともあり早いうちにディレクターを任されることになり、それ以来ディレクターとしてゲーム制作に携わっています。で、紆余曲折あってLive Wireという会社が設立されることになって、そこで親会社であるアドグローブの小林社長と立ち上げたのが『エンダーリリーズ』ですね。

横山泰裕(以下、横山)氏:
『エンダー』シリーズでリードゲームデザイナーを担当している横山泰裕です。岡部と同様に、自分もネバーランドカンパニーに入社し、いろいろありここに至ります。

――(笑)

横山氏:
基本的に岡部と組むことが多く、おもにプランナーをやっていたところ、『エンダー』シリーズ2作品でリード的な立場を任せていただくことになりました。

――おふたりはメトロイドヴァニアというジャンルにどういった面白さがあるとお考えですか。

横山氏:
これは自分の考えですが、プレイヤーの皆さんが面白いと思うバトル・成長・探索・アクションというゲームの要素が入っていて、なおかつテンポ良く、手触り良く遊べるジャンルだと考えています。あとはアクションが段階的に開放されていく流れが、モチベーション的にもチュートリアル的にも優れていて、みんな実は好きだよねっていうジャンルなのかなと。

あと、JRPGとかに似ているのかなと個人的には思っていますね。船を入手して海を進めるようになったり、飛行船を入手して空を飛べるようになったりして行けるところが増えるとか、ちょっと昔にあった探索が楽しいRPGみたいな、その辺と近いと感じています。

――たしかにメトロイドヴァニアにはシステム的に成長のグラデーションがあると思います。

横山氏:
そうですね。これは結構ゲームとしては王道なのかなと。みんなそれが好きだよね、という要素がありますね。

――岡部さまは(メトロイドヴァニアというジャンルにどういった面白さがあるかについて)いかがでしょう。

岡部氏:
特に探索の要素が、自分の考えているメトロイドヴァニアの一番面白いところだと思います。マップを見ながら探索するというメトロイドヴァニアの特徴も、2Dゲームなので横スクロールでマップの把握がしやすくて、ここに何があるんだろうと探して、何かを見つけるという楽しみが直感的にわかりやすいことが魅力じゃないでしょうか。あとは、バトルで得たスキルやアイテムと閃きを駆使して新しいエリアに行けるとか、そういったところもメトロイドヴァニアの魅力かなと思います。

――そう聞くと、キングオブゲームみたいなジャンルですね。

岡部氏:
そうですね。最近のオープンワールドのゲームもですが、メトロイドヴァニアも面白い要素が最初から詰まっているゲームだと感じていますね。

横山氏:
巷では『エンダー』シリーズはソウルライクなのかとか、メトロイドヴァニアなのかといろいろ言われていますが、本質は結構似ているかなと思いますね。3Dで探索するのか、2Dで探索するのか、どちらも同じ要素が入っていて、バトルも成長もあって、RPG的な要素もあって、あまり境目がない感じになっているジャンルなのかなと。『エンダー』シリーズは2Dだからメトロイドヴァニアと呼ばれているのかなと思っています。

――開発者であるおふたりから見て、『エンダー』シリーズはどういったところが評価されて、ユーザーに面白いと思ってもらえているとお考えでしょうか。

横山氏:
元々、『エンダー』シリーズというプロジェクトの発端になっている社長の小林は、アートや世界観の方に興味が強い人間なんです。その部分がありつつ、ゲーム部分も面白い作品にしようという、エモさと面白さを両取りしようというプロジェクトだったんです。

画像は『エンダーリリーズ』のもの


そこでどの部分が評価されているかというと、その両方のバランスが良いというところが多くの人に受け入れられているのかなと。エモいけどゲームとしてはクセがあるとか、反対に面白いんだけどシステムに寄り過ぎているゲームとかもある中で、『エンダー』シリーズはそのバランスが絶妙にうまくできたのかも知れません。

――バランスの良さですか。たしかに、世界観ストーリーとゲームデザインの両方のバランス塩梅がいいゲーム、ありそうでないですよね。

岡部氏:
自分が思う『エンダー』シリーズが受け入れられている理由の一つに2Dのアート表現があると思います。ヴァニラウェアの『オーディンスフィア』も近い例として日本でも海外でも評価されていると思いますがあれくらいハイクオリティのものは、あまり世に出てこなくて……。

大学時代、ヴァニラウェアに入りたいと思って、就活していたくらい本当に大ファンなんです。本当にヴァニラウェアにそういうゲームをどんどん作ってほしいと思っている人間なんですね。

――(笑)

岡部氏:
とはいえ、ゲームを作るのは大変で、そんなに量産できるものでもなく、出てこないのなら自分たちで作ろうと。ちなみに、ヴァニラウェアの神谷さんとも一度話す機会があって、この話は伝えています(笑)

そういったところで、アート的な部分では、日本的な2D表現を限界まで突き詰めたゲームということ自体が、そのゲームの尖った魅力になるのかなと。で、そのアート表現がゲームデザインと融合して面白いものになることで強みになるのかなと思いました。

――『エンダー』シリーズのゲームデザイン、レベルデザイン上のコンセプト、あるいはチームとして目指しているものはありますか。

横山氏:
ひとつあるとすれば、基本的にアクションをキャラクター化しているということが特徴かなと思います。なぜこういったシステムを採用しているのかというと、アクションゲームは大体プレイヤーキャラひとりの進行になりがちで、そうなるとストーリーや敵と味方の様相とかがワンパターン化しがちなんです。

ただ、『エンダー』シリーズは攻撃やアクションに仲間キャラクターの能力が割り当てられていて、アクションゲームなのに仲間がすごく多いという感覚になれるというところがあって、ここはちょっと新しいところだと思っています。この仕組みのおかげでストーリーやキャラの掛け合いが描きやすくなって、幅が広がるんです。これは結構大切にしているというか、むしろマストの部分ですね。

――納得できる分析だと思います。(コンセプトについて)岡部さまはいかがですか。

岡部氏:
自分はストーリーを考えたときに、その物語に納得性があるかとか感情移入できるかっていうことを当然一番に考えています。あとはストーリーもですし、必要なゲーム的な装置や要素というものがちゃんと十分に入っているということが重要ですね。たとえば、壮大なストーリーなのに、ゲームの中で描かれているのが一部となると、ほかのストーリーが気になったり、感情移入しづらかったりすると思うんです。フレーバーテキストを全部読むとストーリーが明らかになっていくという手法もありますが、『エンダー』シリーズはアクションをするゲームなので、何となく歩いているとお話の全容がわかるようなゲームであってほしいと思っていました。

あと、本作はメトロイドヴァニアなので、「一方その頃……」みたいに、時間を省略しづらいんですよね。マップ上で起こったことすべてがその世界なので、その中で成立する世界観やストーリーを考えることを意識していましたね。

――メトロイドヴァニアというジャンルで楽しめるストーリーを生み出して、そのストーリーをゲームに噛み合わせる作業を横山さまがおこなっていたわけですね。

横山氏:
そうですね。ストーリーなどの要素があって、それらを活かすようなアクションを考えますね。極端なことを言うと、面白いアクションなんだけどキャラクターに合わないならいれないということもあります。

――やっぱりレベルデザイナーの方も世界観を大事にするということを考えるんですね。

横山氏:
このプロジェクトは自分だけに限らず、みんなそういったところを考慮できる人間が集まっていて、だからこそこのバランスの良さが出ているのかなと思っています。

ソウルライクへのアンチテーゼ的な“優しい死にゲー”

――『エンダーリリーズ』の頃からメトロイドヴァニアは人気のあるジャンルで、ライバルとなるタイトルも多かったですが、他社作品のリサーチなどはされましたか。

岡部氏:
メトロイドヴァニアは、『エンダーリリーズ』を作っていた頃からインディーゲームの中でメインのジャンルのひとつだったと思うんです。特に『ホロウナイト』は最初から意識していましたね。ほかのタイトルとかも調べて遊んで、横山くんとふたりで飯を食べながら「あのゲーム出ましたよ」みたいな話をしたのは思い出深いですね。

――やっぱり他社の作品を意識されていたんですね。そういったタイトルがある中、『エンダーリリーズ』はどういう部分で戦っていこうと考えていらっしゃいましたか。

岡部氏:
自分としては、アートチームに2D的なアニメ表現がちゃんとできるスタッフが揃っているのが強みだと思っていたので、それを活かしたいなというのがありました。実際、『エンダーリリーズ』のような2D表現を採用したゲームはあまりなかったので、2Dアニメ表現のビジュアルが魅力的なゲームで、ちゃんと面白いメトロイドヴァニアを出してみたいなというのが自分の願望でしたね。

――『エンダーリリーズ』が成功したという自信があって、『エンダーマグノリア』でも最初の信念を変えずに進めたのでしょうか。

岡部氏:
『エンダーマグノリア』は、『エンダーリリーズ』をプレイして好きになってくれたファンの方がいらっしゃったので、まずはファンの方々を一番大事にしようという目標がありました。ただ、『エンダーマグノリア』は『エンダーリリーズ』の精神的続編として、『エンダーマグノリア』からプレイするのも、『エンダーリリーズ』からプレイするのも、どちらでも大丈夫なように作っています。

横山氏:
信念はそのままに、ただ『エンダーマグノリア』からでも楽しめるように作っているんですが、今はどこを見てもクオリティの高いメトロイドヴァニアだらけじゃないですか。アクションにしてもシステムの利便性にしても、かなり煮詰まってきているんじゃないかと思っていて、どう差別化するのか難しいと感じましたね。あと『エンダー』シリーズは、先程のアクションをキャラ化するところに独自性を持っている他、ソウルライクのちょっとアンチテーゼっぽいところもあるんですね。

――ああ、ありますね。

横山氏:
デスペナルティがないとか、死にゲーだけど“優しい死にゲー”みたいなところは狙っていて、そういった部分はほかのタイトルと戦っていけた部分だったのかも知れません。先行している他社タイトルがこうなので、『エンダーリリーズ』はこうします、みたいな感じで、システムとか仕様のルールを決めていったところはありますね。ゲームを作ったり遊んだりしていく中で、結局自分たちがやりたいとか、作りたいと思うところはこの辺だよねと考えて。で、ないからやってみようという感じで作っていったわけですね。

岡部氏:
良いところも不満なところも、両方を糧にして作るというのが基本のスタンスですね。

アート的な理由から与えられたキャラの重量感

――『エンダー』シリーズはキャラクターのアクションに重量感があるゲームだと思うのですが、メトロイドヴァニアで重量感のあるゲームは多くない印象です。『エンダー』シリーズでは、なぜキャラクターのアクションに重量感を与えたのでしょうか。

横山氏:
まず、社長の小林やデザイナーの好みとして、重量感があるとモーションの細かい所作を見せられるという部分は、理由として大きいですね。まずは格好良く見せたいと。あと、ゲーム的に言うと主人公が非力な存在という設定があって、あまりプレイヤーキャラの運動性能を上げ過ぎると解釈不一致になってしまうということもあります。たとえば、超人的なジャンプ力とか俊敏に回避行動ができるとかだと、非力な主人公には不自然ですよね。

あと、『エンダー』シリーズは複数のスキルのクールタイムを同時に管理するので、ゲームスピードが速くなり過ぎると管理が追いつかないというのもあると思っていて。敵の予備動作の場合は、速いと見てから避けられなくなりますし。

こういったかたちで、基本的にゲームスピードが上がると、結構多くの人たちが楽しめないゲームになっていくのかなと思っています。それがキャラクターたちの重量感に繋がっているのかなと。ちょっとだけゆったりしていて、かつプレイヤーにストレスがかからない感じのバランスにしていますね。いわゆるスタミナゲージもありませんし、重量感がある分、あんまり制約がなくて、操作にストレスがないようになっているのかなと。重みがあって遅いんだけど、なんかサクサクプレイできるみたいな。

岡部氏:
たとえば、剣を振るときに溜めの時間を作って、リアルかつ格好良く表現するというのが、モーションを見せたいというデザイナーからの要望なんですね。一方で、実は横山くんはもっとゲームスピードを速くしたかったんですよ。でも、横山くんがデザイナーの意図を汲んで、アートやモーションの格好良さとゲームの面白さや快適さ、ふたつのバランスを取り続けていった結果、ちょうど良い塩梅になったわけですね。

横山氏:
ただ、よく考えると、たとえば『モンスターハンター』にしても『ソウル』シリーズにしても、「多くのユーザーに」受け入れられているアクションゲームって結構ゆったりとしたスピードのゲームが多いのかなとも思うんですね。速いアクションゲームってちょっとマニアック寄りなゲームになりがちだとも考えていたので、だから、アート側から重みのあるものにしたいということなら、実はちょうど良かったのかなと。

――プレイヤーからすると、入力のレスポンスが速かったらサクサクで遊びやすい=遊びやすいゲーム、という見方をしがちですが……。

横山氏:
そうですね、ですが入力のレスポンスが良い=ゲームスピードが速い、ではないかなと思います。レスポンスの良さ、サクサクだから遊びやすいというのは、例えば回避アクションを途中で攻撃へ移れるキャンセルの仕様や先行入力の仕様など、いわゆる操作の融通の効きやすさなどに起因すると思います。

先ほど挙げたゲームスピードが比較的ゆったりめのゲームも、そういったところが良くできていてレスポンスはとても良く感じると思います。『エンダー』シリーズもこのあたりは結構配慮できていると思っています。

岡部氏:
インディーゲームを遊んでいて、『ホロウナイト』も速いと思ったぐらいですけど、もっと速いゲームってたくさんありますからね。そこは好みもあるので、そういうゲームもあっても良いですし、実際遊ぶと面白いですけど、『エンダー』シリーズは別の方向から攻めてみたというところですね。

JRPG的な要素で味付けされて『エンダーマグノリア』へ

――『エンダーリリーズ』から『エンダーマグノリア』へと続いていく中で、いろいろ変わった部分があると思うのですが、システム的な部分で「これは変えよう」というあらかじめ思っていた箇所はありますか。

横山氏:
基本的には不満点として意見を寄せられていた点を改善したいというのがあって、特にマップ機能ですね。マップ機能は『エンダーリリーズ』だと四角い図形に線が繋がっているような形だったんですけど、あれはスケジュールの都合もあってあの形になってしまったんです。『エンダーマグノリア』のマップが本来やりたかった形なので、そこは結構満足できる感じにできたかなっていうのがあります。あとは接触ダメージですね。

――接触ダメージがなくなったのはびっくりしました。これもありそうでないですよね。

横山氏:
意外とないですよね。特にメトロイドヴァニアだと、接触ダメージがあるゲームの方が多いと思います。

――(笑)

横山氏:
「接触ダメージがあることで、回避をどの位置、タイミングで出すか?」というゲーム性が生まれます。さらに言えば、接触ダメージというリスクがあるから、プレイヤーの移動速度や、回避性能や回避のレスポンスを大胆に高めることができるとも言えます。

なので接触ダメージがあること自体はゲームとして良いと思って導入していたのですが、そもそもぶつかっただけでダメージを食らうという見た目自体に納得感がないという意見が多くて……。最も不満点として挙がっていた点でもあったので、今作はなくしつつゲームバランス的にもうまくまとめようと『エンダーマグノリア』開発初期の頃にプログラマーと話しましたね。

あと、意図的に変えた部分で言うと、クイックトラベルもそのひとつですね。あれはむしろ、『エンダーリリーズ』ではなぜレストポイントだけしか行けなかったんだろうと、凡ミスだったみたいなところもあるので、今作で普通に改善したところになりますね。

もっともらしいことを言うのであれば、前作のような馬車キャラではどこからでもトラベルは少し違和感があるため、今作はトラベル役をハティという常に一緒にいてくれる犬キャラにして、キャラ性とシステムも調和させたというのがポイントでしょうか。

――小さい積み重ねだけど、いろいろストレスになるであろう部分に配慮されているわけですね。その一方で、ダメージを受けたあとの無敵時間がないのはメトロイドヴァニアとしては珍しい印象ですが、これはどういった意図なのでしょうか。

横山氏:
厳密に言うと、敵の攻撃には食らうと無敵時間があるものとないものがありますね。プレイヤーキャラがノックバックして無敵時間が付与されるもの、反対に小さい弾やガスのような攻撃は無敵時間が付与されずに吹っ飛ばないというふたつです。後者は、食らったらダメージ範囲からすぐに抜け出して対処してほしいという、食らった後の対応で差をつけると面白いと思っているんですが、『エンダーマグノリア』ではそちらに頼り過ぎたかなと……。ちょっと改善の余地があるかなと考えています。

――なるほど。バトル面でのアクセントのひとつとして、無敵時間の有無があるわけですね。

横山氏:
あともうひとつ、『エンダーリリーズ』がソウルライクっぽいゲームでしたが、『エンダーマグノリア』はJRPGっぽい味付けになりましたね。魅力やコンセプトは『エンダーリリーズ』を引き継いで、ちょっと味変という感じで買い物だったりNPCだったり、あとはレストポイントでの会話とか、そういったところを増やしています。

この方向性の違いは、前作と同じことをやってもなぁ、というのと、『エンダーリリーズ』も『エンダーマグノリア』もちょっと違うけどどちらも良いよねと、対になるような感じで、あえて変化させたところです。レストポイントでの仲間との会話とか、キャラ付けが前作よりも温かみのある、面白おかしいところもあるようになっているので、そういった部分も楽しんでいただけているのではないでしょうか。

――『エンダーマグノリア』では嫌な雰囲気のエリアや敵も多いのですが意外と疲れなくて。JRPG的な部分が効いていたのかもしれないと思いました。

横山氏:
(笑)本当に険しい死にゲーではない、優しい死にゲーという風に言われているのは、そういうところのおかげというのもあるかもしれないですね。

やりたいことを詰め込んだ結果、広大なマップが完成

――プレイヤーから具体的に指摘されていないけれど、実はこういうところを細かくこだわっているという点はありますか。

横山氏:
アイテムにハズレを作らないというのはかなり意識していますね。取ったアイテムは絶対強化に繋がるか、戦略の幅が広がるかで、とにかく全部取ることが得になるようになっています。あとアイテム繋がりで言うと、アイテムを捨てたり売ったりという、インベントリの整理という概念をなくしているのも、指摘されていないけどこだわっている部分です。プログラマーとUIでガチャガチャやる要素は作らないと決めていて、それがすっきりとしたメニュー画面に繋がっていますね。

――アイテムがいっぱいあって、クラフト要素を楽しみにするというアプローチもあると思うんですが、それはしなかったと。

横山氏:
元々、素材を集めて何かを作るという要素は考えていたんです。ただ、メトロイドヴァニアの一番のモチベーションって何だろうと考えたとき、やっぱり先に進んでいくことなんですね。だからアイテムドロップを狙って一箇所に留まるような要素も好きで面白いと思っているのですが、『エンダーマグノリア』に関してはテンポ重視で、先に進んでアイテムを手に入れたりボスを倒して、また先に進んでいくという作りになっていますね。

――それぞれの取捨選択にロジックがあって納得できます。ただテンポが良い分、『エンダーマグノリア』が示しているようにマップを広く作らないといけないのは大変ではないですか。

横山氏:
おっしゃるとおり、今作のボリュームは大変でした……しかも、基本的にレベルデザインの9割は自分がやっているので、開発後半は死にかけながらやっていました。こういう人手やスケジュール的に無茶なことをすると、往々にしてゲームバランスやクオリティに悪い影響が出てしまうので、反省点の一つです。

基本的に1ステージにボスが1体いて、ボスを倒すとスキルや新しい探索アクションが手に入ってとか、あとストーリーや世界観を考えた結果、このマップの広さになってしまいました。

――やりたいことをやった結果、マップがボリューミーになってしまったと。

横山氏:
そうですね。先ほどお話したとおりキャラクターを描くことを大事にしているので、このキャラクターもあのキャラクターも、となって、そうなるとこのキャラクター用にこのステージも必要となって、結果的に多くなっちゃったかな……という感じです(笑)

――岡部さんも大変だったのではないでしょうか。

岡部氏:
大変ではありましたね。ただ、大変ではありましたけど、『エンダーリリーズ』のベースがあって、そこで『エンダーマグノリア』は、となると、さまざまな要素も増えていることもあって、この規模にならざるを得ない部分もありました。特に『エンダーマグノリア』の場合、下層・中層・上層がある時点で、少なくとも3つあるので、それぞれを満たすためにボリュームが増えていったところがありますね。

ユーザーライクなリードプログラマーの存在

――ここまでお話を伺って、メトロイドヴァニアのお決まりの部分を疑いながら作っているのが非常に興味深いのですが、この方針は横山さまの個人的な傾向なんでしょうか。

横山氏:
自分もですが、リードプログラマーが結構そういう主義なんです。「これゲームにいらなくない?」とか「この要素は面倒くさいからいらなくない?」みたいな、プレイヤー視点で必要不必要じゃないかということを結構提案してくれる人で、割と彼に感化されているところもあると思います。

――ファミ通さんのインタビューで小林さまが「社内のプログラマーが難しすぎるようにするのはやめようと言った」という話が話題になりました。難易度について提言されたのもリードプログラマーの方ですか。

横山氏:
彼が言ったらしいんですけど、あの話を自分はまったく聞いていなくて……。インタビューを見て初めて知った感じです(笑)

――ほかの作品がこうだから、うちの作品もそのルールに倣って何となくそうしよう、ではなく、そこをしっかりと疑うチームの方針は、リードプログラマーの方のおかげなんですね。

横山氏:
そうですね。あと、単純に規模と人手の関係で、AAAタイトルのように何でもありますよというゲームは作れないので、本当に面白い部分だけ残そうよと。そういう方針もありました。

メトロイドヴァニアには早期アクセスは不向き

――ところで『エンダーリリーズ』も『エンダーマグノリア』も、早期アクセス配信でメトロイドヴァニアをリリースするというのは結構チャレンジブルな印象があるのですが、これは何か考えがあって早期アクセス配信からのリリースを決定されたのでしょうか。

岡部氏:
『エンダーリリーズ』のときは、我々がメトロイドヴァニアのようなジャンルを作ることが初めてだったということもあって、プレイヤーからの反応が見たかったという理由が大きいですね。実際、どんな評判が寄せられるのか、楽しみでもあり恐ろしくもあり、という感じでしたが。あとは、ちょうど早期アクセス配信が流行っていた時期でもありますね。

ただ、『エンダーリリーズ』当時はやっぱり、早期アクセス配信が主流のリリース形態ではなくて、何なら周りから少し止められました。なぜかというと、早期アクセス配信だと通常のフルパッケージよりも安い価格で遊べてしまうし、Steamにも新作として出るわけではないので、最初から認知度が高い話題作じゃないとそもそも広まりづらいと言われていたんです。

画像は『エンダーリリーズ』のもの

――『エンダーマグノリア』は、早期アクセス配信で成功したと言っても良い『エンダーリリーズ』の後の作品ですが、こちらはなぜ早期アクセス配信だったのでしょうか。

岡部氏:
『エンダーマグノリア』は元々早期アクセス配信をする予定はなかったんです。ただ、開発的な事情があって……。これまでにお話ししたように、いろいろな要素を盛り盛りしていったことが大きな理由ですね。あと、改善や変更したい部分があって、そのリアクションも欲しかったということも理由ですね。

横山氏:
特に接触ダメージがなくなったことやマップなど、これらの変更点がどう反応されるのかが気になっていたところで、反応が良かったのでそのまま採用したかたちです。

岡部氏:
とはいえ、メトロイドヴァニアでの早期アクセス配信は、珍しいと言えば珍しいかもしれませんね。ローグライクとか、繰り返し遊べてゲームが半分以上完成しているようなものが早期アクセス配信には多い中で、メトロイドヴァニアの場合ゲーム序盤がプレイできるちょっとした体験版みたいな感じじゃないですか。

横山氏:
ジャンルとしては相性が悪いと思いますね。

岡部氏:
まったく相性が悪いと思います(笑)

――(笑)

岡部氏:
それでも良いところもあるかなと。早期アクセス配信でプレイできるゲームの序盤部分が受け入れられなかったら、その後も全然ダメということになると思うので、序盤だけで面白いと思ってもらえているのかどうかがわかるので、良し悪しというところですかね。

――これまでの早期アクセス配信で寄せられたプレイヤーの意見で変えられた仕様はありますか。

横山氏:
『エンダーリリーズ』のとき、その場回避が欲しいという意見が寄せられたことがありました。弾が飛んできて前方に回避すると、回避先で接触ダメージを食らうというシチュエーションがあったんです。そこでパリィになるようなアイテムを急遽追加したということが、意見を受けて手を加えたものの中でも大きな変更点ですね。『エンダーマグノリア』では、あまり変更・調整した部分がない気がします。

岡部氏:
細かいところですね。状態異常の効果による影響とか……。

横山氏:
そういった細かいルールのところくらいでしょうかね。あと回避がちょっと遅いという意見があったので若干早くするとか、そういった細かい基本アクションの調整くらいしかおこなっていないですね。

――そういった変更が加えられる意見というのは、納得度の高いものと声が大きいもの、どちらの優先度が高いですか。

岡部氏:
難しい質問ですね……。声が大き過ぎると絶対対応しないと、と思ってしまうところはもちろんあります。あと先ほど話したリードプログラマーは、本当にユーザーライクで、こういった部分が指摘されているから直さないと、と真摯に応えられるプログラマーなんですね。なので、寄せられた意見を元にいろいろ話し合って決めているので、本当にケースバイケースです。

――『エンダーマグノリア』の難易度は、人によって感じ方が違っている印象があります。『エンダーリリーズ』よりも簡単だという主流な意見がありつつ、とはいえ僕は中盤のギルロイでかなり何度もリトライしましたし、なんだかんだ言っても難しいゲームだと感じています。難し過ぎないようにという方針があるとお話しされていましたが、今の難易度に落ち着けた基準はあるのでしょうか。

横山氏:
『エンダーマグノリア』のノーマル難易度の場合、基本的に序盤は『エンダーリリーズ』よりも簡単になっているんじゃないかなと思います。そこから段階的に難しくなっていくようにしているので、最終的には『エンダーリリーズ』と同じか、それよりもやや難しいくらいにはなっているんじゃないかなと思いますね。

で、ギルロイが難しいと仰るように、中盤をやや壁にしているというのは、ちょっと刺激を生み出すためにおこなっている調整ですね。あとは、『エンダーマグノリア』には難易度選択もあるので、そこでフォローしているところもあります。なので、難しいと思ったらイージーにしてもらって、簡単過ぎるようでしたらハードか、カスタムでハード以上の敵の攻撃力もHPも2倍に設定するという遊び方もできるようにしてあります。

岡部氏:
たしかに序盤が簡単で、中盤が一番難しくて、終盤はちょっと簡単になりますね。ただ、それは後半でスキルが強くなったり、レリックが揃ったりで楽に感じるんだと思います。

横山氏:
後半のキャラクターは影が薄くなりがちなので、『エンダーマグノリア』では目立ってくれるように調整しています。終盤に壊れスキルが手に入って敵を蹂躙していくみたいな体験の方が、遊んでいてカタルシスがあるのかなと感じているので、今作はそういった味付けにしてみました。

岡部氏:
僕もそっちの方が好きですね。強くなったのを実感したいタイプなので。

横山氏:
そうなんです。段階的に難易度が上昇するという風にしてしまうと、ずっとやや苦戦という感じになってしまうので、これはこれで成長が感じられなくて。とはいえ、ここも塩梅が難しいところだと思います。『エンダーマグノリア』に関しては、後半も好き嫌いをせず、いろいろなスキルなどを試してみた方が得になるような作りになっていますね。

――『エンダーマグノリア』中盤は、ギルロイ、リュサイなど、たしかに難しかったですね。闘技塔も4連戦で、リトライすると最初からでしたし……。

横山氏:
闘技塔の4連戦はユーザビリティ的には良くないんですが、中盤の刺激として入れたかったところでした。中層に上がった直後で、「あっ、中層やばいな」という感覚をもってほしいと思っていました。あと、もし行き詰まったら前のマップに戻って、取れるものを全部入手するとかなり変わるようになっていて、そういう意味でも再探索することの重要性に気づいてもらいたいということで、ちょっと難しいところを中盤にもってきています。

ありそうだけどないアイデアのメトロイドヴァニアが作りたい

――『エンダーマグノリア』は今後アップデートも予定されているというお話ですが、どういったアップデートがおこなわれるのでしょうか。

岡部氏:
『エンダーリリーズ』の1.10アップデートに近しいものになりますが、ゲームを周回して遊べる要素であるNew Game+と、ボスたちと再戦できるボスラッシュの実装を予定しています。あとは細々とした不具合修正や機能の調整なども、1.10の大きなアップデートでおこなう予定です。

※ 記事掲載時点でPC向けに配信中

――楽しみです。最後に、おふたりの今後作ってみたいゲームを教えてください。

岡部氏:
『エンダーマグノリア』でJRPGを入れたかったとお話ししましたが、これは自分の好みのとしての希望があったんですね。なので、今度は自分が一番好きな日本で作られたRPGの面白いところを活かしたゲーム、当時自分が好きだったゲームの良さが感じられるゲームをもう一度作りたいと思っています。これは次というか、将来の夢、プランとしてJRPGを作りたいです。

横山氏:
自分も岡部同様にJRPGが昔から好きなジャンルだったので、メトロイドヴァニア以外だったらJRPGが作ってみたいですね。もしまたメトロイドヴァニアを作るのであれば、なにかユニークなアイデアをひとつ入れてみたいです。ただ、さっきもお話ししたとおり、メトロイドヴァニアはなかなか煮詰まってきているジャンルなので難しい話ではありますが……。

――このチームなら、ありそうだけどなかったものをぜひ生み出してくれると期待しています。ありがとうございました。

ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist』は、PC(Steam)およびNintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S向けに販売中だ。

[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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