『ツーポイントミュージアム』開発者インタビュー。経営シムだけど「いっぱい失敗していい、失敗を許容する」その設計の意図とは

今回、開発スタジオであるTwo Point Studiosで『ツーポイントミュージアム』を手がけた、リードデザイナーのLuke Finlay-Maxwell氏とアートディレクターのMark Smart氏に話を訊いた。

SEGAからXbox Series X|S/Steam版が3月5日にリリースされ、PS5版が4月17日に発売予定の博物館経営シミュレーションゲーム『ツーポイントミュージアム』。プレイヤーはとある博物館の学芸員となり、スタッフが世界中から持ち帰った展示物を思い思いに展示し、飾りつけ、博物館を盛り上げることとなる。

本作の魅力はなんといっても、そのヘンテコでユーモアあふれる展示物やイベントの数々だ。今回、開発スタジオであるTwo Point Studiosで『ツーポイントミュージアム』を手がけた、リードデザイナーのLuke Finlay-Maxwell氏とアートディレクターのMark Smart氏にメディア合同インタビューの機会をいただき、本作を彩るアイデアの数々や日本のファンに向けたコメントなどを訊くことができた。プレイヤーを楽しませようという気持ちに溢れた本作の開発秘話を、ぜひお読みいただきたい。

―― 自己紹介をお願いいたします。

Mark Smart(以下、Mark)氏:
Two Point Studiosでアートディレクターをしている、Mark Smartです。

Luke Finlay-Maxwell(以下、Luke)氏:
Luke Finlay-Maxwellです。『ツーポイントミュージアム』ではリードデザイナーを務めました。本日はよろしくお願いいたします。

―― 『ツーポイント』シリーズの舞台はこれまで、病院、大学と続いてきました。最新作『ツーポイントミュージアム』で博物館が舞台となった理由を教えてください。

Mark氏:
博物館は、アイデアとして出てきたものをなんでも展示できる点が面白いと感じました。展示という形式にすれば、広いアイデアをゲームに入れ込むことができますから。

Luke氏:
たとえば舞台が消防署だったら、消防関係の設備しか作れませんよね。でも、博物館ならなんでも展示できるから、その幅広さを魅力にできると考えました。

―― 舞台となる博物館の中には水族館も含まれていますよね。水族館を実装した理由をあらためて教えてください。

Luke氏:
水族館を博物館にくっつけるアイデアを思いついたとき、私たち自身も非常にわくわくしました。水族館はテーマごとに独自のメカニクスを持たせることができるので、さまざまなことができるようになるんです。博物館のお客は魚について知りたがるし、魚を見たら寄付をしてくれる。お客の満足度を上げるため、プレイヤーは水槽の温度をコントロールしたり、餌の種類や魚同士の関係を考慮しなければいけません。知的好奇心をプレイヤーの楽しみに混ぜ込むことができるのがいいと思ったんです。

―― 経営シミュレーションはある程度の難しさがあるジャンルですが、『ツーポイントミュージアム』はどの程度の難易度を目指しているのでしょうか。

Luke氏:
Two Point Studiosのゲームの強みは、誰でも遊べることとゲームの奥深さを両立していることだと考えています。私たちは深くて複雑なシミュレーションも作りたいのですが、『ツーポイントミュージアム』に関してはチュートリアルに多くの時間を割いて、プレイヤーの理解を促進するように心がけました。

恐竜の化石と寄付箱を置くところからスタートして、段々と水族館もあわせて経営したり、ゴーストを博物館に呼び込んだりと、ちょっと変わったことにも挑戦してもらう。基礎知識をマスターしてから少しずつ違うことを試せるようにしているんです。プレイヤーの成長に合わせてゲームも応えていけるような調整を目指しました。普段から経営シミュレーションはカジュアルにプレイしている人でも、もしかしたら『ツーポイントミュージアム』ではショップの価格を微調整したり、スタッフの賃金を上下させたりといった細かいことに目を向けたりことがあるかもしれないですね。

Mark氏:
プレイヤーの失敗を許容できるようなデザインも目指しました。さまざまな要素に焦点を当てて、プレイヤーが多くのことを実験することができる。私たちはプレイヤーがどんなプレイをするのか、とても興味があります。だから、みなさんには好きなようにプレイしてみてほしいです。

―― 「ヘンテコ博物館」の「ヘンテコ」部分について、『ツーポイント』シリーズを通してのこだわり、または特に本作でこだわった部分はありますか?

Mark氏:
アニメーターによってキャラクターの動きをオーバーにアレンジしてもらうなど、ビジュアル的な工夫を多く取り入れています。『ツーポイントミュージアム』では、子供のお客を導入したことでより無秩序さを際立てることができました。展示物が壊されたり秩序が乱されたりといったトラブルはありますが、そのほうが楽しく遊べるし、視覚的にゲームを楽しめる要素になります。ゲームデザイン面でも「ヘンテコ」さをたくさん盛り込んでいます。例えば氷漬けの原始人が溶けたらどうなるか、脱走したら何が起こるのか……。面白いイベントが起こるように楽しんで制作しました。

―― 本作はマネジメントを楽しむことのみならず、見た目の賑やかさやユーモアといった部分を非常に大切していると感じました。そうした見た目やユーモアを生み出すにあたって意識している点や影響を受けたものはありますか?

Mark氏:
コメディや本、SNSなどから多くのものを吸収しています。私たちはパスティーシュという手法を好んでいるので、それらをパロディのような感じでゲームに反映させることが多いですね。我々はイギリスの文化の影響を色濃く受けていますが、それを他の文化圏の人々にも理解できるように反映させています。とはいえ、誰かを落ち込ませるようなことはあってほしくないので、極端に暴力的な表現は避けるようにしています。

―― 展示品のカテゴリーに超常現象が用意されているところに、ツーポイントシリーズらしいユーモアを感じました。数々のおもしろおかしい展示品のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

Mark氏:
超常現象については、ビジュアルチームとデザインチームと協力することで完成しました。ゴーストを展示するというアイデアがあったとき、ゴーストをどうやって展示したらいいのか、チームで協力して考えて作品に落とし込むことにしたんです。水族館のシステムはすでに完成していたので、超常現象も追加したらきっと楽しいゲームになると思ったんです。

―― お気に入りの展示物、または特に力を入れた展示物があれば教えてください。

Luke氏:
超常現象博物館の展示物たちは、ホラー映画のオマージュを多く取り入れることができたので気に入っています。

Mark氏:
「だるまさんがころんだ」のようにカメラの外に出るとポーズが変わる「取り憑かれたマネキン」とか、常にプレイヤーのカメラの方を向いてこちらを見据えている「取り憑かれた人形」とかね(笑)

Luke氏:
あとは清掃員を食べてしまう大型の植物や、整備せず放置すると悪臭を放つ「クサソウ」っていう植物とかね。クサソウは枝に靴下などが引っ掛かっているのがコミカルで面白いよね。

Mark氏:
一番のお気に入りは氷漬けになったハチの巣ですね。ビジュアル的にもちょっとギャグっぽいところがいいし、ゲームシステム的にも、溶けてしまうとハチが飛び交って大変なことになる。これがこのゲームのあり方を象徴的に表現している展示物だと思うんだ。

Luke氏:
スキューバダイバーのキャラクターは、歩き方がおどけた感じでお気に入りです。あとはペッパースプレー(催涙スプレー)の代わりにペッパーミル(胡椒ミル)を持っている警備員も、とんちが効いていて気に入ってるよ。

Mark氏:
本を作る機械を眺めているのも好きですね。こうして考えてみると、ほとんどの展示物を気に入っているのかも。

―― バレンタインデーチャレンジなど、季節に合わせたさまざまなイベントが行われるのが前作までの通例だったように思います。『ツーポイントミュージアム』でもこの取り組みは継続されるのでしょうか?

Luke氏:
コミュニティのフィードバック次第ですね。プレイヤーがどのようなチャレンジを望んでいるかをヒアリングしたうえで、実装するかを決めていきたいです。

Mark氏:
ゲーム内の特定の期間に装飾をイベント仕様にすることはできます。リアルタイムな季節イベントに関しては、プレイヤーのフィードバックを受けて実装するかを判断していきたいですね。

―― 遠征の仕組みや展示品について、どのようなことを意識してゲームバランスをデザインしたかを教えてください。

Luke氏:
遠征の仕組みはこのゲームにおいて大きなウェイトを締めていますが、じっくり時間をかけて進行する都合上、重要ではあれど遠征にばかり焦点を当てなくて済むようにしています。また、遠征に行くたびになんらかの成果は得られるようにしています。プレイヤーを退屈させないように、遠征するたびに経験値がたまったり、新しい展示品を発見したりと言ったメリットをもたらすようにしています。誰を遠征に行かせるかを考えることを楽しみつつ、博物館のために冒険に送り出すことを楽しんでもらえると嬉しいです。

―― これまでもひと味違うシミュレーション作品を生み出してきたTwo Point Studiosですが、昔からずっと変わらずに作風を貫くにあたっての秘訣はありますか?

Mark氏:
我々は、最初はそれほどスタッフも多くなく知名度もないスタジオでした。ですが、基礎を積み上げて、ユーモアのある要素を取り入れて、自分たちらしいゲームを作り続けてきました。「ゲームを作るたびにひねりや楽しさを入れ、我々なりのゲームの面白さを世に送り出そう」という情熱が、Two Point Studiosにとっていちばん大事な要素です。

―― 本作のUIは非常に練られていて、さまざまな要素に簡単にアクセスできることがうれしかったです。『ツーポイント』シリーズのUIで心がけていることを教えてください。プレイヤーを迷子にさせないコツなどはありますか。

Luke氏:
UIというのはシミュレーションゲームにとって非常に重要な要素です。情報をどのような順番で与えるか、プレイヤーにとって最良のボタン配置はどのようなものか、UIアーティストやアート担当と長い時間をかけて検討しました。読みやすい見た目で、情報が増やしすぎないことを大切に制作しています。

Mark氏:
グラフィック的な観点から言うと、読みやすさは非常に大切です。管理がしやすく、ユーザーを混乱させないようなUIのスイートスポットが必ずあるんです。どれだけ見た目がきれいでも、遊んでみるまでそれが最適に機能するかはわかりません。グラフィックのレイアウトが最適化できるように何度も検討を繰り返しました。

―― 『ツーポイントミュージアム』は日本語音声にも対応しており、日本での展開に本腰を入れている印象を受けます。日本市場やユーザーに、本作はどのように届いてほしいですか。

Luke氏:
日本のファンからはいつも大きな応援をしてもらっています。期待に応えたいと思っているので、遊んだ感想や他の『ツーポイント』シリーズとの比較、改善案などをどんどんシェアしてほしいです。そうすればもっと面白く、みなさんにとっても遊びやすいゲームになっていくと思っています。

Mark氏:
というか、我々の親会社は日本の会社ですので……(笑)ぜひとも日本のファンの方々にアピールしていきたいな、と思っています。

―― 「ツーポイントミュージアム」ではリリース開始時からModに公式対応していることに驚きました。前作で行われていたModコンペディションのようなイベントも計画されているのでしょうか?また、コミュニティとの関係をいかに盛り上げていくのか、その方針をお聞かせください。

Luke氏:
Two Point Studiosでは、リリースしたゲームをどんどん改善していきたいと思っています。そのために、コミュニティからのフィードバックが特に重要です。SteamのModに対応し、初日からModを導入していくことでコミュニティもゲームといっしょに成長させていきたいんです。

Mark氏:
プレイヤーが何に興味を持っていて、どんな光景を見たいのか、何を面白いと感じているのかをどんどん共有してもらいたいと思っています。コンペティションの開催についても、コミュニティの動向を見て検討していきたいと感じています。

―― 最後に、日本の読者に向けて一言ずつコメントをお願いします。

Mark氏:
たくさんの愛と努力を注いだゲームなので、興味を持っていただけると嬉しいです。

Luke氏:
プレイヤーのみなさんがどんな博物館を作り、ゲームを発展させていくのかを楽しみにしています!

―― ありがとうございました。

『ツーポイントミュージアム』は現在、PC(Steam)/Xbox Series X|Sにて発売中。PS5版は4月17日に発売予定だ。

Aki Nogishi
Aki Nogishi

ポストアポカリプスとドット絵に心惹かれます。AUTOMATONではFF14をメインに担当します。

記事本文: 333