モバイルゲームで1万円以上課金する人は約10%。「ライト層・ミドル層・コア層」はどれくらい課金して、1日何時間プレイするのかなど示す国内市場調査レポート
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株式会社HIKEは1月22日、無料オンラインセミナー「サルガクチョウサ発表会」を開催した。本セミナーでは、猿楽庁によって2024年に実施された「モバイルゲーム市場における課金にまつわるユーザー調査」および「コンシューマゲーム市場におけるプレイ状況及びプレイ環境にまつわるユーザー調査」の結果に関する解説が行われた。このうち本稿では「モバイルゲーム市場における課金にまつわるユーザー調査」について紹介していく。
株式会社HIKEは、アニメやゲーム、音楽などの事業を手がける企業だ。HIKEに属する猿楽庁は、エンターテインメントコンテンツのチューニングや検証事業を担う職人集団である。長官・小島尚也氏と匠・多田功一氏のもと、ゲームのモニタリングやバランス調整、プレイテストなどを行なうことでユーザーの満足度向上を図っている。近年では、『エルデンリング』や『呪術廻戦 ファントムパレード』などといった作品の制作のサポートに携わってきた。
そんな猿楽庁が独自に調査・分析をしているゲーム市場レポートが、「サルガクチョウサ」である。この調査は、ゲーム市場について消費者視点、開発者視点、そして長きにわたってゲームの動向を追っている猿楽庁ならではの視点をもって行われている点が特徴だ。2024年には「サルガクチョウサvol.7『モバイルゲーム市場における課金にまつわるユーザー調査』」ならびに「サルガクチョウサvol.8『コンシューマゲーム市場におけるプレイ状況及びプレイ環境にまつわるユーザー調査』」が実施された。今回は、その調査背景や深掘りした内容について、初めてオンラインセミナーというかたちで解説がなされたわけだ 。発表者を務めたのは、小島氏と多田氏だ。本稿では前編として、モバイルゲームに関する調査のアンケート結果を取り扱う。
基本プレイ無料ゲームユーザーは9割がライト層
基本プレイ無料のモバイルゲームには、さまざまな課金コンテンツが用意されているものだ。そこで猿楽庁は、モバイルゲームへの課金にまつわる動向のインターネット調査を行った。2023年にAndroidもしくはiOSにおいてモバイルゲームに課金したことがある全国の10代から60代の男女1000人を対象に、その属性や課金の目的に関するアンケートを実施。さらに月間課金額が1万円以下をライト層、1万円以上5万円以下をミドル層、5万円以上をコア層として分け、それぞれの層でアンケート結果を分析した。回答者のうち各層の割合は、ライト層が89.5%、ミドル層が7.5%、コア層が3%であった。
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まず、層ごとに1日の平均ゲームプレイ時間について見ると、ライト層では平均2時間以下が70%を占める。ミドル層では平均2〜3時間が過半を占めるが、4時間以上との回答が前年までと比べて減少 傾向にあるようだ。コア層では平均5 時間程度を中心として、全体的にプレイ時間が減って いる。しかし 平均7〜10時間の回答がごく少数にとどまる一方で、平均11時間以上であるとの回答が増加しているように、前年と比べて回答にばらつきが出ているようだ。これは、同時進行でプレイしているタイトルの数や、どのような要素に課金しているかといった点の違いに起因していると考えられる。
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恒常的にプレイしているタイトル数に関しては、ライト層とミドル層において例年通り1〜2タイトルという回答が半数以上を占めている。つまりプレイに打ち込むタイトルの数を限定し、固定化する傾向にあるのだろう。一方コア層では、3タイトル以上を同時にプレイするユーザーが前年より増加しているようだ。なお、若干ではあるものの、同時に10タイトル以上をプレイするユーザーが1年前と比較すると各層で増加していることも注目に値する。特にライト層やミドル層では、コア層と比べて1日あたりのプレイ時間が少ない中で、並行してプレイするタイトル数が増えていることになる。この背景には、いわゆる放置系ゲームのようなプレイ時間をあまり多く要しないゲームの存在がありそうだ。他タイトルと同時進行しやすいゲームは全ての層において需要があるのだろう。
月収に占める課金額の割合は、前述 の同時プレイタイトル数の増加と対応するように、それぞれの層で、前年比で増加傾向にあった。ライト層とミドル層では前年までと同様に10%未満との回答が大半であるが、ミドル層では30%以上50%未満の回答がわずかに増加しているようだ。他方、コア層は10%未満が大きく減り、10%以上であるとの回答が増加を見せている。コア層のみならずライト層やミドル層でも割合が増えている要因としては、少額商品の増加が考えられる。普段は積極的にゲームに課金しないユーザーにとっても手を出しやすいコンテンツが、以前と比べて多く用意されるようになってきているのだろう。
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各ユーザーは、どのような目的によって課金をしているのだろうか。調査の結果、すべての層において欲しいキャラクターや装備品があることを理由とする回答が例年通り大半を占めた。特にコア層では、7割ものプレイヤーがキャラ・装備品を課金の目的にしていると回答。ゲームの開発側にとっては、いかにキャラクターに魅力を持たせていくかというところが極めて重要なポイントであるといえよう。なお、昨今ではビジュアルや性格においてキャラクターの個性が際立つ作品が注目される傾向にあるようだ。
しかし、コア層では対戦ゲームでの勝率を上げる目的や好きな作品とのコラボなど、課金の目的が複数並列している傾向にある。キャラクター以外での課金要素にも安定した需要があることにも留意したい 。
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反対に、ほかの遊んでいるゲームに課金をしない理由としては、様子見をしているという回答がどの層でもおよそ30% を占めた。つまり課金せずにプレイしているゲームであっても、課金によるメリットを十分に感じることができれば、多くのプレイヤーが課金に踏み出す可能性があるといえるだろう。だが、明確に課金するゲームとしないゲームを区別しているという回答も多い。開発側にとっては、いかに課金するゲームとして選ばれるようにするかというところが大事になってくる。
2023年にユーザーが一番課金をしたゲームタイトルのランキングでは、1位が4年連続の『ポケモンGO』、2位が『ウマ娘 プリティダービー』、3位が『LINE:ディズニーツムツム』であった。近年では上位にランクインするゲームがあまり変化を見せない中で、2023年9月にリリースされた『モンスターハンターNow』がその年のトップ10入りを果たしていることは注目に値する。本作は位置情報ゲームアプリでありながら『モンスターハンター』シリーズの醍醐味である「狩り」や「装備作成」といった特徴 を活かした作品であると同時に、必要なときに必要な分だけ課金できるシステムが備わっていることが、この結果につながったのかもしれない 。
ライト層のユーザーがもっとも長くプレイしているゲームのプレイ年数は、3〜5年が中心的であるようだ。しかし前年よりも10年以上との回答が若干増加しており 、同じゲームを楽しんで続けている状況を推し量ることができよう。ライト層のゲームプレイ時間は比較的短い傾向にあるため、負担の少ない特定のゲームが長く続けられていると考えられそうだ。他方、ミドル層とコア層では、前年と比べて全体的に継続年数が 低下しているという結果になった。ところがコア層では10年以上プレイしているとの回答が3割を超えており、プレイに打ち込むゲームを明確に決めているユーザーの存在が目立っている。
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プレイが最も長続きしているゲームタイトルとしては、4年連続で1位が『ポケモンGO』、2位が『LINE:ディズニーツムツム』という結果になった。そのほか上位には『モンスターストライク』、『パズル&ドラゴンズ』、『ウマ娘 プリティダービー』などといった作品が長らくランクインを続けており、安定した面白さと飽きさせないコンテンツをプレイヤーに提供していると考えられる。しかし、2024年は『学園アイドルマスター』や『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』など、爆発的な人気を集めるタイトルが新たに登場した年となった。近年ラインナップが大きく変わることのなかったこのランキングにも今後少しずつ影響がありそうだ。
新しくゲームを始めるきっかけとしては、各層で「友人・知人の紹介」との回答が多い。しかし、ミドル層では「友人・知人の紹介」の回答が前年と比べて大きく減少し、各種SNSやWeb媒体を見て始めたという回答の割合が増えている。世間での評判や話題性がプレイの誘因となっているようだ。そのため、さまざまな媒体におけるプロモーションは微〜中課金ユーザー獲得へのアプローチとして有効な手段であるといえるだろう。一方、コア層では反対に「友人・知人の紹介」の割合が6割以上にまで増加しており、身近なコミュニティでの話題性が実際プレイしてみることにつながっていると考えられる。
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ユーザーが新しく始めたゲームを継続するかどうか判断するタイミングは、全体的に早くなっているようだ。前年の調査と同じように、どの層でも1〜2時間プレイしてみた所感で判断する割合が最も多い。継続の決め手としては、どの層でも「手軽さ」が重視される傾向にある。しかしミドル層とコア層では、好きな作品の要素やグラフィック、キャラの魅力といった点も同様にプレイを続ける理由となっているようだ。
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このように、ユーザーが魅力を感じるゲームの要素はさまざまである一方で、お気に入りのゲームをやめたくなった理由も多様である。もっとも多い回答は、前年と同様に「ゲームに飽きた時」。次に「忙しくなったため」や「イベントのマンネリ化」を理由として挙げる人が多かった。なお、「他に面白いアプリを見つけて」という回答が減少しているのは、先述の通り同時プレイタイトル数がやや増加していることから、新しいゲームもプレイ中のゲームと並行して進めやすくなっているためであると考えられる。
以上をまとめると、各層のユーザーが前年よりも多くのタイトルを同時にプレイしている一方で、全体的なプレイ時間はあまり大きく増えていないため、1タイトルあたりのプレイ時間は減少傾向にあるといえそうだ。プレイを継続する決め手として手軽さが重要視されることや、多くのユーザーが課金するタイトルを明確に決めているという調査結果から、少ないプレイ時間でも課金によって十分満足を得られるようなコンテンツの用意が求められていると考えられる。また、キャラクターの個性やビジュアル面での魅力をゲーム序盤でアピールすることは、ユーザーのプレイ継続に寄与すると同時に、課金の大きな誘因にもなるといえよう。魅力的なキャラクターやビジュアルを備えながら、目的に応じて課金することができ、課金に明らかなメリットがあると感じられるようなゲームの設計が重要になっているとみられる。
なお明日3月2日にはコンシューマー編を公開予定である。