『首都高バトル』久々の新作ゲーム開発を後押ししたのは「日本車人気」だった。開発者が語る、“現実の車産業”の大いなる影響

元気は1月23日、レースゲーム『首都高バトル』の早期アクセス配信を開始した。対応プラットフォームはPC(Steam)。早期アクセス版の価格は3960円。
『首都高バトル』は、同名レースゲームシリーズの最新作だ。舞台は封鎖された未来の東京。プレイヤーは夜の首都環状線でカスタムした愛車を走らせ、公道やパーキングエリアなどで出会うライバルと最速の座を争ってバトルを繰り広げる。本作では、実在する高速道路が忠実に再現されている。また、公道レースであるため、コースが複雑に入り組んでいたり高低差があったりと一筋縄ではいかない。さらに、一般車両(アザーカー)も走る中で、レースをおこなうことになる。
また、レースにおいてはシリーズの特徴である「SPバトル」システムを引き続き採用。ドライバーの精神を数値化したSP(スピリットポイント)を削り合う仕組みになっており、相手を大きく引き離すほどSPを早く減少させることができる。車両のカスタマイズの妙とドライビングテクニックで差をつけて、ライバルの心を打ちのめすことが勝利となるレースゲームだ。
『首都高バトル』シリーズは2006年、『首都高バトルX』がXbox 360向けに発売されて以来、スマートフォン向け作品を除けば約18年もの間新展開がなく、ファンたちの間で新作が待ち望まれていたタイトルだ。そんな同シリーズが、『首都高バトル』としてSteamストアに早期アクセス配信として登場した。ストアページでは、本稿執筆時点で7310件のすべてのレビューにおいて95%の好評を得て、「圧倒的に好評」のステータスを獲得しており、国内外のユーザーたちから支持を受けている。
弊誌は、『首都高バトル』のプロデューサーを務める野口健太郎氏にインタビューを実施した。本稿では、本シリーズがなぜ18年越しに復活したのかについて紐解いていく。
きっかけは「自動車文化の熱」
――自己紹介をお願いします。
野口健太郎(以下、野口)氏:
本タイトルのプロデューサーを務めている野口健太郎と申します。元気にデザイナーとして入社して以来さまざまな作品に関わっていて、『首都高バトル』シリーズはもちろんですが、おもに『街道バトル』シリーズの方に携わっておりました。ほかには、PSの『ベルトロガー9』とか、『キリーク・ザ・ブラッド』とか、そういったタイトルの開発にも参加していました。
――Steamにて早期アクセス配信が始まった『首都高バトル』は、シリーズとして18年ぶりの新作となりますが、そもそもなぜ『首都高バトル』をリブートされることになったのでしょうか。
野口氏:
自分自身がずっと『首都高バトル』を作りたいと思っていたんです。元々『首都高バトル』はドリームキャストの頃から携わっていまして、その後に『街道バトル』に携わって、どちらもとても大切な、面白いゲームだったんです。業務の中でデバッグ作業もやっていましたが、発売後にも会社からもらった試供品で『首都高バトル』を家でも遊んでいました。
自社の試供品で、家でもプレイしたゲームは『首都高バトル』くらいしかなかったですね。それぐらい自分自身で『首都高バトル』を楽しんで作って、遊んでいたので、いつかもう一度作りたいなと思っていました。ただ、それほど重要なので、作るならちゃんと作らないといけないというプレッシャーもあり、ほかの仕事の忙しさもあり、月日が流れていました。
とはいえ、Xで『首都高バトル』の復活を望むファンの声は常に追っていまして、そういったこともあってずっと何とかしたいと気にしていました。あとは、今って日本車が北米市場でとんでもない価格で取引されているんですよね。たとえば、GT-Rとかは数千万というレベルで取引されています。そして自動車業界もスポーツカーなどをトヨタが力を入れ始めて、後を追うようにマツダ、ホンダも頑張り始めて、日産はずっとGT-RやフェアレディZを展開し続けていて。自動車自体の文化も今ものすごく熱いと思っていたので、このタイミングかなと思ってリブートに至りました。

――今作のプラットフォームにSteamを選ばれたのはなぜでしょうか。
野口氏:
まずひとつは、日本でSteam市場が成長してきたことです。個人的に2011年くらいからSteamをチェックしていて、ユーザー数が伸びて、国内向けのゲームタイトルのリリースも増えてきて、日本でSteam市場の拡大が確信できたのがSteam向けに『首都高バトル』をリリースした理由ですね。
あと、レースゲームはどうしてもニッチなジャンルになってしまって、国内だけで開発費などをペイするのは難しいと考えています。世界中で売らなくちゃいけないと考えていたので、そういったところでもSteamが適しているかなと思いました。
――Steamをチェックされてきたとのことですが、何か印象的だったタイトルはありますか。
野口氏:
レースゲームだと海外発の『首都高バトル』フォロワータイトルが去年、一昨年くらいにいくつか発表があって、各社がそれぞれレースゲームを盛り上げてくれているんだなと思っています。そういった日本のフォロワー的な作品……恐らく思い浮かべている作品は同じかと思いますが、本当に日本発のいろいろな自動車文化を広く受け入れてくれているんだなと解釈していますね。
――『JDM: Japanese Drift Master』とかですよね。ポーランド人が作った日本の走り屋ゲーム。
野口氏:
……郡玉県ってずるいなと思いました。そうした作品の評価や反応を見ていると皆さん喜んでいらっしゃるようで、やっぱりこの日本の自動車文化を面白いとみんなが思ってくれているんだなと思いました。
新しい技術と過去の資料の融合が新たな『首都高バトル』の誕生に繋がった
――今作はまずは早期アクセス配信での発売となりましたが、元気としては挑戦的な試みなのではないかと思います。熟考した上で早期アクセス配信でのリリースを選ばれたのでしょうか。
野口氏:
最初からフルリリース版での配信も検討しつつ、開発初期の段階から早期アクセス配信の話は出ていて、選択肢としてはあったんですね。ただ、やっぱり前作から間が空き過ぎたということもあって、ユーザーの声をちゃんと聞きながら、方向性を間違わないようにと考えて、早期アクセス配信を選択しました。
――今のところの所感として、早期アクセス配信を選択して良かったですか?
野口氏:
早期アクセス配信で良かったなと思っています。おかげでユーザーからの反応もたくさんいただけていますので。
――開発自体はいつ頃から始まっていたのでしょうか。
野口氏:
2020年代の初頭くらいから水面下で始まった感じですね。いろいろ研究も必要でしたので。
――ゲームエンジンにUnreal Engineを採用されていますが、このエンジン選択も元気の最近の動向としては順当なものだったのでしょうか。
野口氏:
昔は老舗のゲームメーカーが自社エンジンでゲームを作るという流行りがありましたね。ただ、Unreal EngineとUnityが出てきたときに、どうやっても太刀打ちできない、あのクオリティは出せないというのがわかってしまっていたので、そういう意味ではSteamでリリースするゲームを作る際にUnreal Engineを採用したことは、自然な選択だったと思っています。
――Unreal Engineを用いての開発自体は、元気の受託業務の中でノウハウはある程度身についていたのでしょうか。
野口氏:
ノウハウはそれほど貯まっていない状態でしたが、まったくの素人というわけでもない、というレベルでした。
――モデルの質含めてまとまっている印象を受けていたので意外です。
野口氏:
ありがとうございます。その辺りはベテランがいっぱい頑張ってくれました(笑)ちなみにチームの4割がベテランというイメージですね。

――シリーズとしては久々の展開ということもあり、今作のアセットは、基本的にはすべて新たに作っているんでしょうか。だとしたら結構大変ですよね。
野口氏:
そうですね。ただ、過去に作ったデータと経験があることで、本作向けにアセットを作るときに迷うことは少なかったですね。今ではさすがに取材できない車もいっぱいあるので、過去作当時のモデルとか、あと取材していたときの資料がすごく役に立ってくれました。
――なるほど。データとしては過去のモデルは使えないけど、過去作のデータや過去作を作ったときに集めていた資料が、今作の開発でも機能したと。
野口氏:
ええ。なにせ昔の車のパンフレットって今じゃ手に入らないじゃないですか。
――(笑)
野口氏:
車のパンフレットって三面図はもちろん、パラメータも載っているので、そういったものは開発の役に立ちますね。今から同じように古い車が登場するゲームを作ろうとすると、当時の情報が集められなくてなかなか難しいんじゃないかなと思います。この点は老舗ならではの良いところなのかもしれませんね。
『首都高バトル』とは“怪しい世界観”
――『首都高バトル』のリブートにあたって、残そうとこだわった『首都高バトル』らしさはありますか。
野口氏:
ひとつはSPバトルですね。同じようなシステムを作っているフォロワーがあまりいないのですが、遊んでみると面白いシステムだと個人的に確信していて、これはもう絶対残さなくちゃいけないと思っていました。
で、変な話ですが、もうひとつの『首都高バトル』らしさが車のラインナップですね。ほかのレースゲームでは、チェイサーとかクラウンとかって出てこないじゃないですか。でも、そういった車種が出てくることも『首都高バトル』のこだわりだったんです。旧作からのファンはもちろん、逆に新規ユーザーにも楽しんでいただけるんじゃないかと思ってこだわっている部分ですね。
――『首都高バトル』ならではの車のラインナップも、こだわりのひとつということですね。
野口氏:
『首都高バトル』らしさということを考えると、どうしてもその答えに行き着きますね。トヨタの86も最初にスプリンタートレノじゃなくて、カローラレビンから発表しましたが、これこそやっぱり『首都高バトル』らしさだよな、と思いましたので(笑)
――野口さまにとって、『首都高バトル』らしさを言語化するとしたら何だと思いますか。
野口氏:
怪しい世界観ですね。本作の世界観はなかなかないと思っています。1990年代や2000年代は、車を楽しむ人たちの文化はもっとメジャーだったと思うんです。その当時から『首都高バトル』がもっていた雰囲気というのは、当時の車好きたちの要望をかなり汲み取れていた、体現できていたと思っています。それがやっぱり、今回皆さんに喜んでいただけている怪しい魅力になっているのかなと。個人的にはそう思っています。
――本作でも節目ごとに、ファンの間で語られるいわゆる“元気節”が光るところが健在というか、むしろ過去作よりパワーアップしている印象です。野口さまを含めて、過去作に携わったスタッフが参加されているのでしょうか。
野口氏:
元気節……素直に嬉しい言葉です。ありがとうございます(笑)過去作のスタッフも携わっていますね。ああいうポエム、ほかのゲームでもないわけでないですが、やっぱり少ないじゃないですか。でも、やっぱりあのポエムがあると『首都高バトル』らしいな、と思っちゃいますね。そこはベテランを中心に作っています。

Genki Racing Projectの活動が『首都高バトル』の自信へ
――逆に、本作のプロジェクトを立ち上げるのにあたって、『首都高バトル』の世界をアップデートして小綺麗にしないといけないんじゃないかとか、今風にしないといけないんじゃないかとか、そういったところでブレることはなかったんでしょうか。
野口氏:
ブレなかったですね。僕は普段ブレブレな人間なんですが、そこだけはブレなかったです。
――なぜそこはブレなかったんでしょうか。『首都高バトル』の怪しい世界を好むユーザーがいるんだと信じられる根拠や自信はあったのでしょうか。
野口氏:
昨今では、日本車が海外で人気で、それが信じられる根拠でした。海外でウケている日本車はドレスアップやチューンされているんですが、それって僕らが1990年代とか2000年代に楽しんでいたものだったんですよ。自動車産業における日本車の存在感そのものが、本作の開発を元気づけてくれたわけですね。
――面白い要因ですね。現実の日本車人気が、新作開発を勇気づけたと。
野口氏:
ゲームとリアルの関係性で言うと、元気が運営するGenki Racing Projectの活動が自信に繋がったところもあるかもしれません。Genki Racing Projectはレースゲーム開発以外に、リアルのレースシーンにも関わらせていただいていて、そういったところで車好きの人たちと話す機会があって、それも自信に繋がったのかと思います。
――コツコツとGenki Racing Projectでの活動を積み重ねて、レースシーンや自動車産業との関係性も維持して触れ合う機会の多さがちゃんと根拠になったわけですか。
野口氏:
そうだと思っています。『首都高バトル』は18年間新作がリリースしていませんでしたが、Genki Racing Projectの活動って、弊社の公式Xなどいろいろな場面でずっと続けているんですよ。たとえば、2月11日に富士スピードウェイで「エコカーカップ2025」というエコカー耐久レースが開催されるんですが、このレースは既定のタイムできっちり走って、燃費の良い人が偉いという『首都高バトル』とは真逆の、サンデードライバーでも楽しめるレースなんです。そういったものにコツコツと参加していました。
――Genki Racing Projectは、「ゲーム開発系ブランドだけどリアルレースの参加もする」という、面白いけどちょっとつかみどころのない不思議な活動だと思っていました。プロダクトやゲームのヒットに繋がっているとなると、かなり意義ある草の根活動だったんですね。
野口氏:
(笑)そうですね。自動車文化の中にいる人たちとずっと接していて、本作を立ち上げる際には勇気づけられましたね。
――ちゃんと種が蒔かれていたからこそ花が咲くというか、良い話を聞かせていただきました。
野口氏:
いやいや、そういう話をする場がなかなかなかったので。まさかGenki Racing Projectのことをインタビューで話すとは思わなかったです(笑)今後もこうした活動は続けていきたいです。
――応援しております。
『首都高バトル』は、PC(Steam)向けに早期アクセス配信中。
明日公開の後編では、マーケティング担当の佐藤孝年氏も交えて、本作の早期アクセス配信後の状況について伺っていく。
[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Hideaki Fujiwara]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]