“戦争ドラマRPG”『Long Gone Days』の「戦争表現の描写リアルさ」の根源は実生活にあり。日本語対応+Switch対応をかけた8年までの困難な道のり

“戦争ドラマRPG”『Long Gone Days』開発元チリ・サンディアゴに拠点を置くインディーゲームデベロッパーのThis I Dreamtにメールインタビューを実施した。

Beep Japanは1月16日、『Long Gone Days』の日本語版をリリースした。対応プラットフォームは、PC(Steam)/Nintendo Switch/PS5。なお、海外向けには2023年よりNintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに配信中。日本語対応が追加され、国内向けに販売されたかたちだ。

本作は現代世界を舞台にしたJRPGだ。主人公となるのは、「コア」という民間軍事会社で生まれ育った青年ローク。ロークは初となる任務で生まれて初めて地上に出ることになるが、そこでは自分の思い描いていた世界とは異なる現実を目にする。ストーリーは戦争をテーマにしており、民間人の生活や言語の壁、国境といった問題に焦点が当てられた物語となっている。また、遠距離から敵を狙撃するスナイパーモードと、ターン制で攻撃を行う近接戦闘の2種類の戦闘システムが採用されている点も本作の特徴だ。

この度弊誌では、チリ・サンディアゴに拠点を置くインディーゲームデベロッパーのThis I Dreamtにメールインタビューを実施した。本作の開発について興味深いお話を伺うことができたので、以下に紹介する。

──自己紹介をお願いします。

Camila Gormaz(以下、Gormaz)氏:
Camila Gormazです。『Long Gone Days』の原作者であり、This I Dreamtの創設者の一人でもあります。スタジオでは主にアートやシナリオの制作を担当しています。

──本作はついに日本語対応を果たしました。今の気持ちを教えてください。

Gormaz氏:
とてもワクワクしています!『Long Gone Days』は日本のゲームやアニメに大きな影響を受けているので、日本語対応はずっと私たちの夢でした。また、プレイヤーの皆さんから長い間日本語ローカライズを求める声をいただいていたので、ようやくお届けできることが本当に嬉しいです。

──実は8年前に、Switchについてどう思うかをお聞きしました(関連記事)。この未来を予想していましたか。いつからSwitch移植の作業が始まっていたのでしょうか。

Gormaz氏:
私たちは当初からコンソール向けに移植することを視野に入れてゲームを開発していました。それが、以前使っていたエンジンからUnityに切り替えた理由の一つでもあります。しかし当時は、チリにある3人だけのスタジオで、Switchへの移植を実現できるのかどうかまったく確信が持てませんでした。正直、任天堂が私たちに開発機を送ってくれるかどうかさえ分からなかったです。でも、パブリッシャーのSerenity Forgeと協働するようになってからは、そういった移植作業や多言語対応が一気に手の届くものになりました。

移植作業は全体的に順調に進み、品質保証やバグ修正を含めると約5か月かかりました。Switch版で本作をプレイしてみたところ、今ではSwitchが一番お気に入りのプラットフォームになっています!

──本作は当初の予定から4年以上の時を経て正式にリリースされました。その間、開発において苦労した部分やこだわっていた箇所はありますか?

Gormaz氏:
『Long Gone Days』の最初のリリース予定は2018年でした。その時点では、本作は4時間くらいでクリアできるゲームになるとお伝えしていました。しかしシナリオを書いていくうちに、私たちが伝えたいメッセージを表現するにはもっと長いストーリーが必要であることに気がついたのです。2018年にはすでに完成度の高い、4時間ほどで遊べるゲームが出来上がっていたので、それを早期アクセスという形で配信することにしました。この決断は本当に良かったと思っています。プレイヤーからのフィードバックはすばらしく、彼らのコメントにより多くの箇所を追加し、改善することができました。

その後の開発は、私たちが本業の仕事を抱えながら進めていたため、非常にゆっくりとしたペースになりました。それに加えて、私たちがフィクションの社会的不安をゲーム内で描き出そうとしていた頃、実際にチリ暴動(2019~2021年)が国内で始まったのです。そのため、私たち自身のメンタルを守るために制作を一旦止める必要がありました。

──本作はアニメ調のRPGであり、戦争をモチーフにしたシューターゲームという特殊な作品ですが、ユーザーはどの部分を好んでいると感じていますか。

Gormaz氏:
プレイヤーにとって、このゲームのストーリーは間違いなくもっとも魅力的な部分でしょう。本作に登場するキャラクターたちは世界のさまざまな地域出身の成年であり、その大人びた雰囲気が高い評価を受けています。また、戦争や兵器を美化することなく、民間人の視点から戦争を見ることができる点も特に評価されています。

──本作は2003年頃より既に開発の構想があったそうですが、当初はどんなきっかけで開発を志したのでしょうか。

Gormaz氏:
2003年にRPGツクールの開発者コミュニティに出会い、それが自分のゲームを作るきっかけとなりました。当時気づいたのは、ほとんどのRPGがファンタジーや中世の世界を舞台にしているということです。しかし私は常に、現代が舞台の物語を好んでいました。そこで、そのようなRPGのコンセプトを現実の世界に当てはめようと考え、騎士の代わりに兵士を使うというアイデアが浮かびました。さらに年月が経って、『ファイナルファンタジー』シリーズや『真・女神転生』シリーズといったゲーム作品、ならびに多くの映画や本からインスピレーションを得ました。

──デモ版の公開から正式リリース日までの間、残念ながら現実においても各地で紛争が発生してきました。ゲーム開発に影響が及んだことはありましたか。

Gormaz氏:
残念なことに、世界ではほとんど恒常的に戦争や紛争が発生しています。私たちは、ゲーム制作のためにそうした戦争の現状について詳しく調べました。2015年にはクリミア併合をめぐる一連の出来事や、中東でのいくつかの紛争の行方を注視していました。また、私たちの国自体の歴史、特にピノチェト独裁政権による影響も受けています。 初期に書いたシナリオのうち、後に現実世界で似たような出来事が起きたため、削除することを決めた部分もあります。

──戦争を題材とするにあたって、大切にしたことはありますか。

Gormaz氏:
私たちがもっとも重視したのは、民間人と戦争が彼らに与える影響です。戦争の渦中に置かれることによる人々の精神的負担や、その戦争が5日で終わるのか5年続くのかも分からない不安感。そしてさらに重要なのは、危機の中であったとしても人々が力を合わせて前に進もうとする、そんな様子を描くことでした。

──民間人の被害や避難時における言語の壁というような、銃後の問題に焦点を当てた理由についてお聞きしたいです。

Gormaz氏:
私たちは反戦メッセージを伝えたかったのです。通常、多くの戦争作品で焦点となるのは銃後から遠く離れた兵士たちであり、彼らの勇敢な精神や愛国心が描かれます。しかし、その後ろで戦争によって地域が破壊され、すべてを失うことになってしまった一般の人々についてはどうでしょうか?そういったところに焦点を当てたかったのです。

──本作の物語はポーランドを中心としてヨーロッパ諸国を舞台に展開されますが、歴史的背景を考慮してのことなのでしょうか。舞台設定がどのように決まったのかについて教えてください。

Gormaz氏:
私は10代の頃、ドストエフスキーの小説を読むのが大好きでした。それから東ヨーロッパに興味を持ち始め、ロシア語を学んだり、ウクライナの音楽を聴いたりするようになりました。ロシア語を少し勉強していたので、ロシア人キャラクターの基本的な会話文や生活は自分で描き出すことができました。なので、東ヨーロッパはゲームの舞台としてぴったりの場所だったのです。主人公たちが旅する場所としてラテンアメリカなどの国々を登場させることも考えましたが、ストーリーの流れを考慮してヨーロッパに限定することにしました。

──本作を遊ぶとどのような体験を得られるのか、教えてください。

Gormaz氏:
プレイヤーは、現代の戦争がもたらす混乱を描いたエモーショナルな物語を体験することができます。内向的な主人公が、出会ったばかりの人々と共通の善のために協力することで、少しずつ自分の殻を破っていく姿を目撃することになるでしょう。私たちの作品を楽しんでいただけたら幸いです!

──ありがとうございました。

『Long Gone Days』日本語版は、PC(Steam)/Nintendo Switch/PS5向けに配信中。

Niki Jinnouchi
Niki Jinnouchi

RPGやシミュレーションゲームをよく遊びます。一人でまったりプレイするのが好きです。

記事本文: 23