『真・三國無双 ORIGINS』レビュー。「原点回帰への成功」が意味するのは、間違いなくシリーズ復活の狼煙

『真・三國無双 ORIGINS』レビュー。『真・三國無双 ORIGINS』は間違いなく、シリーズ復活の狼煙となるだろう。

初作が発売されてから今年で25周年を迎える『真・三國無双シリーズ』。筆者としては七転び八起きをしているタイトルという印象が強いが、ここに来て原点回帰を行うという。それは昨今の「リメイク」ムーブメントへの安易な迎合ではなく、自省と再出発を意味している。「士、三日会わざれば刮目して相待すべし」。『真・三國無双 ORIGINS』は間違いなく、シリーズ復活の狼煙となるだろう。

『真・三國無双 ORIGINS』はコーエーテクモゲームスが贈る『真・三國無双シリーズ』最新作。1月17日の発売を予定している。対応プラットフォームはPC(Steam)、PlayStation 5、Xbox Series X|Sとなっている。本作は原点回帰をコンセプトとしつつ、オリジナル主人公の存在を通じ、「赤壁の戦い」までを描く内容となっている。

※本稿はコーエーテクモゲームス提供レビュー用コード(PS5版)でのプレイにもとづき執筆。ストーリーに関するネタバレはなし

原点回帰の理由

本作の論評に入るまえに、『真・三國無双シリーズ』がなぜタクティカルアクションを重視した形に立ち返る「原点回帰」を選んだのか、という点に触れておきたい。筆者が先日行ったプロデューサーインタビュー(当該記事)によると、本シリーズは長い年月を経る中でユーザーのニーズが非常に多様化しており、その全てに対応することは開発規模の観点からして難しいため、新作を開発するにあたり作品のコンセプトを今一度見直す必要性に迫られた、とのことである。また、若年層を中心に「三国志演義」という原作の知名度が低下していることに伴い、これまで以上に新規ファン獲得を狙うという思惑も込められているようだ。プロデューサーいわく、(赤壁の戦いまでを描いた)「三国志演義」のバイブルになるような作品に仕上げた、とのことである。

『真・三國無双シリーズ』はかねてより大きな課題を抱えているタイトルである。ゲームボリュームを重視するあまりシステムの1つ1つが荒削りになりがちであり、集大成を迎えて以後、シリーズの新機軸を打ち出せていないのだ。本シリーズは初期作こそ、立ち回りや戦術面を活かして戦うことを特徴としていた。しかし、ナンバリングを重ねるたびに集団を蹴散らす爽快感を重視した結果、戦術を司るシステムは次第に衰えていく。プレイアブルキャラの追加をはじめ、ゲームボリュームが増える一方で、荒削りな内容が目立つようになる。

この方向性は集大成的な作品となる『真・三國無双7』にて一区切りとなった。そして新たな方向性を打ち出すはずだった『真・三國無双8』は任務に失敗している。完全な新要素のオープンワールドは洗練されておらず、不評を買った。こうした経緯を経て登場したのが、かつて著しかった戦術性の復活と、現行ゲームハードの性能を活かした爽快感の両立、そして新規ファン獲得を掲げた『真・三國無双 ORIGINS』となる。

果たしてこのコンセプトは達成できているのだろうか。結論から言うと、「三国志演義」のバイブル……とはいかずとも、十分達成できている。「原点回帰」というお題目のもと、かつて評価を受けた古典をただリバイバルするのではなく、作品の隅々まで現代的なゲームデザインが施されており、シリーズ初心者への配慮と復活した戦術性を見事に融合。複雑で軽快なプレイを最後までスムーズに楽しむことができる。

そもそも、『真・三國無双』のみならず『無双シリーズ』によって表現される戦術性の魅力とは、マクロからミクロへ(大から小へ)、ミクロからマクロへ(小から大へ)を往復する、「思考の転換」に込められていると、筆者は考えている。ステージの攻略に際して、まずマップ全体を見渡しながら、地形と敵の配置を確認し、攻略プランを練って決断する。次に画面いっぱいに広がる雑兵を効率よく蹴散らしていく。そして、立ちはだかる武将との戦いに集中する。やがて討ち取ったら、変化した戦況を確認し、再びプランを練る。思考の規模が大、中、小とリズムよく縮小と拡大を繰り返す。使っている脳みその領域がまるで音楽に身体を揺らすが如く切り替わる。この忙しなさが心地よいのだ。

しかしこれは裏を返すと、大・中・小規模に「やることが山積み」であり、初心者にとっては、何から手を付ければ良いのか分からないことを意味する。大将の首を取る前に護衛対象がやられた……。いつの間にか自分以外の戦力が壊滅していた……。何をやっても良いゆえに失敗の原因も分かりづらい。

さらに本シリーズはタイトルを重ねるたび、この「思考の転換」の上に新要素を重ねていった。プレイアブル武将の追加をはじめ、連舞システムや武器の相性と切り替え、そしてオープンワールド。これまでにさまざまな新要素が現れては良くも悪くも影響を残していった。ただほとんどの要素に共通していたのは、荒削りな中身になっていたということだ。肥大化するボリュームに対し、細かな調整が間に合っていなかった。

そこで、『真・三國無双 ORIGINS』は実装要素をタクティカルアクションに絞り「分かりやすい」デザインを施すことで、初心者の参入障壁を大きく下げると共に、システム1つ1つの品質を上げている。これは歴代作品と比較して、単なる内容の簡易化を示すものではない。シリーズの核となる「大・中・小規模」の体験をそれぞれパワーアップさせることにより、肉体を絞りに絞り上げた、まさに原点回帰を体現する作品に仕上がっている。


パワーアップした「タクティカルアクション」

では、本作の具体的な構成要素について触れていこう。『真・三國無双 ORIGINS』はいわゆるステージ制を採用しており、「タクティカルアクション」という形式で表現された「三国志演義」作中の合戦を次々と攻略していくというゲームになっている。ステージにはそれぞれ攻略目標が設定され、これを達成できればクリアとなる。特定の武将を討ち取るものから、時間稼ぎを行うもの、敵をすべて捌き切るものなど、設定される目標は至ってシンプルである。しかし、プレイヤーが辿るその道行きは、まったくもって平坦ではない。障壁として雑兵や武将が立ちはだかるのはもちろんのこと、原作になぞらえたアクシデントが発生することもあり、これに対応しながら攻略を進める必要がある。この形式は歴代タイトルにてほぼ共通する仕様となっているが、そのうえで本作の特筆すべき点は、「攻略の自由度」と先述した「大、中、小規模の体験」のパワーアップ。そして、「初心者向けのフォロー」となっている。

まず「攻略の自由度」については、プレイヤーがゲーム中に採用できる選択肢の多さとして表現されている。レベルデザインをはじめ、オリジナル主人公のカスタマイズやストーリーの分岐など、数々の要素が担っている。本作のフィールドは戦場らしい広々とした空間を細道がつなぐ構成が目立つ。それでいて、空間どうしの距離が離れておらず、行き来がしやすい。これによって味方武将の救援計画が練りやすくなっている。

一方で高低差のある地形も多く、高台にたどり着くには時間がかかるようになっている。高台に配置されていることが多い弓兵や投石機の対処を味方武将に任せるか、支援するかという選択がプレイ中にたくさん生まれる。高台にはたどり着くことが難しくなっているため、そのぶん持ち場を離れなければならない。一方、味方に任せると処理に時間がかかってしまう。

また、「士気」ゲージが本作にも調整されて登場している。敵もしくは味方のうち高い方が強化/弱体化される。拠点の奪取や武将の撃破によって士気は上昇/下降する。簡単に言うと、目標達成に際して寄り道すれば得をするシステムになっているが、必ずしも寄り道が攻略の最適解になっていない。敵の激しい攻勢に対応するため、寄り道する余裕がないという状況もあるが、たとえば、あらかじめ敵の策を潰しておきたい、原作で戦死してしまう武将を救援するという場合には 味方の強化を無視してとにかく侵攻スピードを上ければならないだろう。

主人公のカスタマイズ要素は、主に9種の武器それぞれに設定されたレベルと、主人公のレベル。そしてスキルツリーになっている。武器のレベルが上がると、主人公レベルが上昇。ステータスも向上し、主人公のレベルに応じて、スキルツリーがアンロックされるという仕組みだ。当然ながらレベルが低い武器ほど、レベルが上がりやすくなっているため、結果として万遍なく武器を選択して使っていくことが求められる。武器はステージ攻略中に付け替え可能であり、1対1や、対大人数など、状況に応じて武器を使い分けていくことも可能だ。武器ごとにアクションの付け替えもできる。武器自体は、アイテムレベルとランダムステータス形式……いわゆるハック・アンド・スラッシュの形式を採用している。このほかにも、自分の兵団を指揮することで、範囲攻撃やバフを生み出す「戦法」、ステータス向上アクセサリーなどがある。

物語はプレイヤーが選択した三国の陣営ごとに分岐するほか、『真・三國無双7』よろしくプレイ中に特定の行動をとることでさらに分岐することもある。このように本作はプレイヤーに選択を迫る機会が非常に多い。この選択を通じ、能動的にゲームに関わることで、深い没入感を成立させている。『真・三國無双 ORIGINS』は過去作と比較すると、コンセプトの都合上キャッチーで斬新なシステムに乏しい。しかしながら、数多くの選択から生まれる没入感によって、意気揚々と自ら三国志演義を語り上げるような、シミュレーションゲームらしい充実した体験を得ることができる。

次は「大・中・小規模の体験」のパワーアップについてだ。大規模な体験に関しては、先述したレベルデザインによって生まれる選択の多さが、過去作からパワーアップした要素として感じられる。自らの手で戦場をコントロールする、もしくは1個人として戦況に振り回される感覚は、歴代の人気作と比較してもまったく引けを取らない。

中規模の体験のパワーアップに関しては、「草刈り」とも表現される、雑兵を蹴散らす体験がより面白くなっていることを指す。これは単純に、ハードウェアの性能向上に伴い、描画可能な雑兵の数が増え爽快感が増した、ということだけを意味するのではない。時に雑兵は、武将の指示のもと、突撃や防御陣形などの連携を見せてくる。「大軍団」と呼ばれる規模の状態時には、すべてを押しつぶす人の波や、鉄壁の壁を作り出す。これに対処するには専用の攻撃をぶつけ、カウンター気味に対処する必要があり、この攻撃に武将を巻き込みダメージを与えることも可能だ。つまり、雑兵をただ処理するにも、効率やテクニックがより求められるようになった。武将戦の前座ではなくなり、プレイヤーのスキルアップを実感できる機会の1つになっている。

小規模の体験についても言及したい。今作の武将戦は専用ゲージを削って大ダメージを与える、強力な攻撃をジャストタイミングでの防御や回避を行う、という今どきらしいシステムを取り入れたことで、マップを俯瞰してのプランニングや雑兵の処理にまで影響を及ぼす、興味深い体験を生んでいる。これらシステムの導入による武将の強化は、すなわち戦闘時間の延長を意味しており、時間の延長は戦況の変化をもたらす。

つまり、武将が早く倒せるようになるというアクションゲームらしいプレイスキルの向上が、シミュレーションゲームらしいプランニングにまで影響を及ぼしているのだ。アクションが上手くなるほど、プランニングも時間の余裕から出来ることが増えて楽しくなる、という流れが、武将の強化を通じてより分かりやすく表現されているわけである。戦いそのものに関しても、雑兵戦がもたらす爽快感を損なうことなく、ジャストタイミングの防御による、やるかやられるかのせめぎ合いを通じ、また形が異なる気持ちよさを与えてくれる。本作に導入されている一騎討ちは実情として普段の戦闘と変わらないが(勝利すると敵を討ち取った扱いになるためメリットは大きい)、絵面の変化が大きく、それだけで戦闘体験のマンネリを防いでいる。

最後に触れるのは「初心者向けのフォロー」である。シミュレーションゲーム初心者にとって、プレイ最大の障壁となるのはクリアするためなら何をやっても良い」というジャンル特有の性質だ。この性質はプレイヤー個々人で異なる体験を生み出す一方、「正解」がないという側面も持ち合わせている。つまり、何をすればクリアにたどり着けるのか、何がプレイミスなのか分かりづらいのだ。

『真・三國無双 ORIGINS』はこの点に関してフォローが入っている。ステージ攻略中にチェックポイントの概念が存在し、ゲームオーバーになった際、好きなポイントを選んで何度もリトライ可能であるほか、プレイヤーが倒れるまでの戦況の推移を確認することができる。「このときあの場所に向かえばよかった」と、プレイミスを発見しやすくなっている。また、プレイ中に敵の増援などのイベントが発生した場合、ゲームを一時停止する機能もある。ハプニングが苦手な人向けの配慮だろう。心を落ち着けてじっくり考えることが可能だ。このほかにも、難易度設定の文言を工夫したり、主人公のカスタマイズ要素のアンロックが緩やかであったり、俗に言う経験値稼ぎ用のステージが無限に湧くなど、新規層を取り込むのだ、という気概が強く感じられる。

回帰に伴うトレードオフ

ここまで、『真・三國無双 ORIGINS』がどのように原点回帰を行っているのか説明してきたが、それに伴って失われている側面もある。「キャラゲー」としての側面である。ここでいう「キャラゲー」とは、キャラクターを作品外に持ち出した先にでも物語が成立するような、二次創作を誘引する人物造形が作為的に行われている作品のことを指す。本シリーズは近年、継続してこのキャラゲーの側面を押し出していた印象だ。しかし、今回は全体的に鳴りを潜めている。たとえば、本作では専用の攻撃モーションが用意されている武将は数少なく、多くは武器種ごとに共通する攻撃を仕掛けてくる。せっかく武将との戦いが豪華になったにも関わらず、敵としての存在感に欠けている。

本作の売りとして喧伝されている「武将とのコミュニケーション」に関しても、スキルツリー用のポイントがもらえる課題をクリアすると、会話劇やサブクエストが都度発生するのみで、「コミュニケーション」をしている感覚はほぼない。そもそも本作は戦場以外の場面を描写するカットシーン自体があっさり仕様である。

黄巾の乱から赤壁の戦いまでに発生した戦争に関して、なぜ戦うのかという要点こそ描かれてはいるが、複雑な政治劇の部分は直接的に描写されない。本作のストーリーは「三国志演義」を知らないままでも理解でき、登場人物もみな若々しく人間らしい点が目を引くものの、初心者に向けて、三国志演義への興味関心を促すような歴史的背景の深堀りなどといった工夫に乏しい。教科書の文面をなぞるようで、本作ならではの知識提供がほとんど無いのだ。オリジナル主人公の存在に関しても、三国志演義を第三者視点で描写するために用意されているという趣が強く、個性という面では印象が薄い。

だが、ほぼ「キャラゲー」ではなくなっていることで生まれる利点もある。武将に共通のモーションを実装したことは、「いつの間にかあの武将すらもサックリ倒せるようになった」とプレイヤーの練度上達を分かりやすく伝えるための手段として効果的である(体感として、終盤のステージはプレイヤーが武将をサクサク倒せるくらいに成長していることを前程するような難易度である)。

あっさりとしたストーリーはプレイヤーの「人間関係や政治情勢が分からないからゲームを辞める」リスクを軽減するだけでなく、周回プレイを推奨する本作において、進行のテンポを軽快なものにしている(膨大な物語が用意された『真・三國無双8』の反動もあるだろう)。キャラゲーという側面を控えたことは、主にゲーム初心者向けのフォローにつながっており、一概に失策であると言及することはできない。また、黄巾の乱から赤壁の戦いをリアル調でかつ、第三者視点から描くという試み自体はシリーズにおいて新鮮味のある体験ではある。これより以後は政治劇中心となり、キャラも増えるため表現は難しいと思われるが、過去作でも取り扱った経験はあるため、ぜひチャレンジしてほしいところだ。

総じて、『真・三國無双 ORIGINS』は「タクティカルアクション」というシリーズの基礎を、要素を絞ることで洗練させつつ、プレイヤー層が多様化した現代のニーズに対し、的確なアプローチを施すことに成功している。テンポを重視している都合上、ストーリーに関しては少々物足りないことは否めないが、単なるリバイバルになっていないことは素晴らしい。長きにわたり継続してきたシリーズの原点回帰というコンセプトを達成できている。

そして気になるのは、この形態がシリーズの新たな方向性になり得るのか、という点だ。個人的にはこのタクティカルアクションを強調する路線を採用し続けてほしいが、「オリジナル主人公」による物語を描いた手前、次もまた同じ物語体験をとは行かないだろう。しかし本シリーズは三国志演義を繰り返し咀嚼し続けてきたこともまた事実である。回帰のあとに続く新たな一歩に期待したい。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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