『モンスターハンターワイルズ』のモンスターは「人」が演じ、鳴き声は「モンスター鳴き声専用楽器」が奏でる。想像も付かぬ制作風景を見た、カプコンスタジオ内部取材
カプコンは来年2月28日、『モンスターハンターワイルズ』を発売予定。『モンスターハンター』シリーズの約4年ぶりの新作として世界的な注目が集まるタイトルだ。10月末から11月初頭にかけてはベータテストも実施され、盛況を博していた。
このたび弊誌は、カプコンより『モンスターハンターワイルズ』のプレビューツアーに参加。このなかではベータテストになかった内容が含まれるプレビュー版を試遊する機会が設けられていたほか、開発陣へのメディア合同インタビューも実施(弊誌試遊プレイ記事、合同インタビュー記事)。さらにカプコンのモーションキャプチャースタジオ、サウンドスタジオ、フォーリースタジオのメディア見学もおこなわれた。本稿ではスタジオ見学の模様を、開発者の説明の内容を交えながらお届けする。
モンスターを人が演じるゆえの効率化
モーションキャプチャースタジオは地下にあり、体育館のように天井の高い大部屋となっていた。今回取材できたスタジオでは、部屋の上部を囲むように36台の赤く光るカメラが設置。これらを使用して人の動きをデジタルに変換するモーションキャプチャーがおこなわれるそうだ。なおカプコンには3つのキャプチャースタジオがあり、大阪府・京橋に最近設立されたクリエイティブスタジオは150台のカメラを備えた超大型スタジオとのこと。
『モンスターハンター』シリーズでは『モンスターハンター:ワールド』(以下、ワールド)を起点に、いわゆるAAA級の大規模開発タイトルとしての進化を追求してきたそうで、モーションにおいてもよりリアルで多彩な表現が取り入れられてきた。そして『ワールド』からはハンターだけではなく一部モンスターの動きにモーションキャプチャーが活用されているとのこと。『ワイルズ』でも引き続き採用されているという。
この背景としてモーションキャプチャーではよりリアルな動き・表現のデータを作成できるだけでなく、従来の手作業でのモーション開発よりも素早く開発・実装することができるためだという。方向性の確認や調整も迅速に可能とのこと。ちなみに従来の手作業の方法では、まずもとになる仕様書があり、仕様に基づいてモーションが手付で作成され、その動きからたとえば攻撃の当たり判定などが設定される流れだったという。一方で仕様からモーションキャプチャーをおこなった場合では、当たり判定を最適に加工する調整が可能に。クオリティ面でさらに進んだ開発ができるという。
メディア向けのデモンストレーションにおいては、キャプチャーされた演者の動きがリアルタイムでRE ENGINE上のハンターやモンスターの動きに変換され、モニターに映し出されていた。ちなみに演者によると、かけ声を発するとより気持ちが動きに乗ってくるそうで、基本的に声をつけながら動きを演じているそうだ。
モーションキャプチャーされた動きのデータは、ゲーム内での見栄えがよくなるようにアニメーターの手作業でポーズや尺などが調整されていくという。その後プランナーとプログラマーによってゲームに組み込まれ、手触りを良くする流れになる。一方で、ゲーム内でしっくりこないモーションについては、新たにモーションキャプチャーをし直し、同様の手順でブラッシュアップを進めるそうだ。社内にモーションキャプチャースタジオがあることで、迅速なトライアルアンドエラーが実現されているとのこと。
ちなみに『ワイルズ』ではラバラ・バリナのような蜘蛛型モンスターもおり、そうした人の動きからかけ離れた一部モンスターには引き続き手作業のモーション作成がおこなわれているという。スタッフには手作業とモーションキャプチャーの双方でアニメーションを制作できるスキルがあるため、うまく使い分けて開発が進められているそうだ。
「禁足地の音」を奏でるはシンセサイザー
サウンドスタジオ(ミキシングスタジオ)はモーションキャプチャースタジオとは打って変わって狭く、分厚い扉のある密室。大小さまざまなスピーカーが備えられた部屋となっていた。7.1.4chのスピーカーのほか、音楽の調整専用の巨大なスピーカーが用意されているとのこと。カプコン作品の音楽は基本的にこのスタジオで最終調整されて、製品に導入されるそうだ。
そして『ワイルズ』における楽曲では、ミキシングの新たな試みとしてシンセサイザーの電子音を「禁足地の音」として表現することで、音楽のコンセプトそのものに組み込んでいるという。禁足地では荒廃期→異常気象→豊穣期と気候が移ろいを見せるが、シンセサイザーの音を変調させることで、音楽的にも移り変わりを表現しているとのこと。なおシンセサイザーでは本作用にオリジナルで制作されたパッチが使用されているそうだ。
今回のメディア向けのデモンストレーションでは、隔ての砂原における音が紹介された。たとえば荒廃期では美しさの中にノイズが混じったようなイメージの音となり、異常気象ではノイズ感の大きい緊迫した音楽に変わる。豊穣期ではクリアで美しい音に変わるといった具合だ。またフィールドのイメージとなるシンセサイザーの音は頂点に君臨するモンスターとの戦闘曲においても採用。隔ての砂原のレ・ダウ戦の始まりは、荒々しいノイズで表現されている。なおシンセサイザーではフィールドごとにイメージされている音が異なるそうで、隔ての砂原では砂嵐や静電気、電気が表現されているという。
なおシリーズ過去作でもシンセサイザー自体は楽曲によっては利用されていたものの、本作ではフィールドに根付いた、禁足地では不可欠な音として取り入れられているとのこと。また今は詳しくは言えないとされつつも、シンセサイザーが禁足地の音として使われている理由もあるそうだ。
専用楽器が奏でる「ズィーンメーンギョウー」
スタジオ見学の最後に訪れたのは、フォーリースタジオだ。実物などを利用するフォーリーサウンドを収録するスタジオである。こちらもモーションキャプチャースタジオと同じく地下にあるものの、さまざまな物が置かれたこじんまりとした部屋になっており、秘密基地のような印象を受けた。
そして今回のフォーリースタジオの取材では「モンスターの鳴き声」に焦点を当てた紹介が行われた。まず、『ワールド』においてはモンスターをいかに自然な生き物として表現するかに注力されたそうだ。ライオンやシマウマといった「生の動物」の声が活用されていたという。
一方で『ワイルズ』のモンスターではさらに一歩進み、生の動物感に個性的な違和感をプラスしたいというコンセプトがあるという。これを実現すべく、モンスター一匹一匹に「専用の楽器」が用意されているという。
たとえばレ・ダウ用の楽器は塩ビ管・ビニールフィルムなどを組み合わせた、スライドホイッスル式のオリジナル楽器を使用。ほかには「ププロポル」用の楽器にゴム手袋が使われているなど、およそ楽器とは想像がつかない形状だ。“コーナン(ホームセンター)で揃う”ような材料も活用されているとのこと。一方で外注して専門的に金属を加工して作られたオリジナル楽器もあるそうだ。
そうした専用楽器作りの際には「どんな声を作りたいか」と共に、「楽器経験がないサウンドデザイナーでも演奏できる」という点も考慮されたという。ダブルリードといった経験者でなければ演奏できない仕組みは用いず、お手軽に面白い音を出せるようにする狙いもあったとのこと。ちなみにモンスターの鳴き声用に専用楽器を作るのは少なくともカプコンのタイトルのなかでは初の試みだそうで、『ワイルズ』向けに10~15種類の楽器が制作されたという。
ちなみにレ・ダウの専用楽器は「王様の独り言」と命名されているそうだ。隔ての砂原に頂点として君臨するゆえに、大きく鳴き叫ばずとも落ち着いて堂々と威嚇するイメージで鳴き声が制作されたという。そのため音の高さをゆっくりと変えられるスライドホイッスル式の構造が採用されているとのこと。
メディア向けデモンストレーションではそんな「王様の独り言」を用いつつ、レ・ダウの鳴き声作りが実演された。先述した塩ビ管のスライドホイッスルが2種類使用され、2つの野太い音を収録。そのまま組み合わせるだけでは“変な音”だが、これが加工され少しずつモンスターらしさをアップ。最後に猛獣の喉鳴らしのようなゴロゴロとした音などと組み合わせられ、当初の素っとん狂な音とはかけ離れた、不気味で神秘的なレ・ダウの鳴き声へと加工されていった。
なおモンスターの鳴き声制作において専用楽器作りは、かなり早い段階で考えられたアイデアだという。これまでのシリーズで多種多様なモンスターが存在することもあり、さらに強い個性を与えるべく専用楽器を採用。さらに『ワイルズ』内でもモンスター同士の個性が被らないように「相関図」を作って個性付けとなる専用楽器の割り当てがおこなわれたそうだ。
そこにたとえば鳥っぽいモンスターなら鳥らしい動物らしい鳴き声を組み合わせ、モンスターごとにしっくりくる音を模索。このなかではデザイナーのイメージと違う声になることもあったそうだ。ただ、それぞれの部門の開発者がしっかりとイメージをもっていることもあり、破綻することはなくブラッシュアップされながら制作が進められていったという。
そんな『ワイルズ』のモンスターたちの鳴き声はオノマトペで、つまりカタカタで言葉にして表現できるくらい特徴的にするという方針があるという。ちなみにレ・ダウの鳴き声は「ズィーンメーンギョウー」というオノマトペを想定して作られたという。“人面魚”とも少し違った、なんとも不思議な響きの言葉だ。とはいえあくまで開発者の想定であり、プレイヤー間でも「これだ」という呼び方を考えて盛り上がってもらえると嬉しいとのことだ。
今回、制作の裏側が3つの部門のスタジオ紹介を通して明かされたなかでは、想像もつかないような開発者のアイデアも満載であった。発売後本作をプレイする際には、モーションキャプチャーや専用楽器に想いを馳せたり、シンセサイザーの音に耳を傾けたりしてみるのもいいだろう。
『モンスターハンターワイルズ』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに来年2月28日に発売予定。