『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』の主人公として帰ってきたマックスは「時間を巻き戻すことはできない」、新たに並行世界を行き来し重ねる「選択と喪失」の葛藤
またマックスに会える。『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー(以下、ライフ イズ ストレンジ DE)』の初報を聞いたときはそう思った。アドベンチャーゲーム好きとして、惹かれるように『ライフ イズ ストレンジ』を2016年の発売日に購入。海外ティーンの学校生活という、日本に住む私から見たある種の「異世界」から垣間見えた、少女同士の美しくも切ない青春劇、そんな初代をプレイした経験は私のなかで大きな影響を及ぼしている。
だがうれしく思うと同時に、成長したマックスを見て『ライフ イズ ストレンジ』に存在する、刹那的な少年少女の繊細な感情をすくい取ったからこそ感じられた、ある種の神秘性・神聖さが失われていないかと懸念を抱いたのも事実である。元から兄弟の逃避行を描いた『ライフ イズ ストレンジ2』や、ミステリー仕立ての『ライフ イズ ストレンジ トゥルー カラーズ』と、作風の幅が広いシリーズではあるが、本作においては続編として初代との比較は避けられないだろう。そこで今回はTGS 2024に関連して実施された1時間ほどの先行プレイを通し、『ライフ イズ ストレンジ』の直接的な続編としてどうだったのかについて触れていきたい。
前作『ライフ イズ ストレンジ』とは
『ライフ イズ ストレンジ DE』はスクウェア・エニックスが2024年10月30日に発売をしているタイトルで、開発は『ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム』や『ライフ イズ ストレンジ トゥルー カラーズ』などを手がけたDeck Nine Gamesが担当している。初代『ライフ イズ ストレンジ』はアメリカ・オレゴン州の田舎街「アルカディア・ベイ」を舞台にした、時間を巻き戻せる能力が発現した主人公「マックス」の物語。趣味の写真撮影をしながら5年ぶりに再会した親友クロエと、自身の通うブラックウェル高校の生徒レイチェル・アンバー失踪事件の調査に乗り出していく。
『ライフ イズ ストレンジ』で特徴的だったのは、「より良い未来」を目指して自分の選択をやり直せることだ。「あの選択をやり直せたら……」という後悔に焦点を当て、授業で先生の質問に完璧に答えられたり、友人の手助けをしたりなど時間を巻き戻しながら日常のささいな出来事を成功に導き、失敗をなかったことにしながら日常を送ることができる。
プレイヤーも最初こそはマックスともに、“時間を巻き戻せるのならすべてが上手くいく”という成功体験が味わえるだろう。しかしストーリーを進めるごとに自らの小さな選択が周りにどう影響を及ぼすのかわからない恐怖や、どの選択でも誰かが傷ついてしまう選びようのない選択肢に直面するようになる。つまり時間の巻き戻しというシステムを利用して、プレイヤーに経験を積み重ねさせることにより、選択という行為自体の残酷さを描き、どんな結果になろうとも自分の選択に責任を持たなくてはならないという、人生の一回性を強調していた。
当時大学を卒業したばかりだった私は、マックスとクロエのガールミーツガールストーリーを通して描かれる「アメリカが舞台の青春学園ドラマ」という、ほかの媒体では王道でありつつゲームにおいてはあまり接点がなかったジャンルをはじめてプレイ。日本とは異なる習慣や共通点に驚きつつ、人付き合いの苦手なマックスの姿に自らを投影しながら、自身もこんなエモい学校生活を送ってみたかったと、同作のテーマに人生を照らし合わせながらほろ苦い想いをしたのは記憶に新しい。
並行世界を行き来して親友の死の謎を探る
それから8年が経過し、今回『ライフ イズ ストレンジ DE』の発売がアナウンスされた。私はなんとかゲームライターとして社会にしがみ付いているが、作中でも前作から時が経ちマックスもカレドン大学で写真の講師として働いている。彼女は過去の経験から大きなトラウマを抱えているが、大学院生の「サフィ」や「モーゼス」と交流を深め、親友として信頼を寄せている。
しかし物語が進んでいくとサフィが何者かに殺されてしまう場面を目撃してしまったことをきっかけに、マックスは並行世界の存在を感知する能力に目覚める。サフィが”死んでいる世界”と”生きている世界”を覗き見たり移動したりできるようになるというのが本作の導入部分である。ダブルエクスポージャーというタイトルも、1枚のフィルムに2枚の写真を重ねる「二重露光」という撮影技法のことで、カメラを生業とし2つの並行世界を行き来するマックスにふさわしいものだ。
先行プレイで体験できたのは、サフィが殺されてしまう直前の天体観測を3人でおこなっているワンシーンと、その後マックスが能力に目覚めたと同時に、動揺したモーゼスがサフィの事件現場に落ちていたカメラを自らの研究室に持ち帰ってしまい、警察から証拠隠滅として疑われてしまう場面の2つで、それぞれ30分ほど操作することができた。
前半部分ではマックスがサフィの隠し事を聞き出すために、「受け取ったら言うことを聞かなくてはならない」という王冠を、どうやって受け取らせるかを選択するシークエンスを体験。サフィが愛煙しているタバコの箱に忍ばせたり、雪玉のなかに入れて投げつけたりと複数のアプローチが用意されていた。
こちらはシリーズお馴染みの演出であり、1つの出来事に多数の解決手段が与えられ、思わず「これこれ~」と馴染みの味を思い出した感覚になった。また当然こうした日常のワンシーンだけでなく、モーゼスに疑いの眼差しを向けている警察に協力するかしないかという、後々のストーリー展開に関わりそうな選択肢も存在した。ただし同じマックスを操作していても初代とは異なり、時間を巻き戻してやり直すことは一切できない。その分どちらを選ぶべきかと本気で頭を悩ませることになった。
『ライフ イズ ストレンジ DE』の特徴である並行世界への干渉は、ストーリー表現としての可能性を感じた部分である。後半パートではモーゼスのカメラを警察よりも先に回収することが目標となるが、肝心の「サフィが死んでいる世界」ではモーゼスが研究室に鍵をかけ、カメラもモーゼスしか知らない隠し場所に保管されているが、警察の目の前で怪しいアクションを取るわけにいかない。そこで役に立つのが並行世界で手に入れられる情報だ。
2つの世界には大切な友人を失ったという違いはあるが、元々は同じ人間で思考回路も同一。研修室の前で頭を抱えているモーゼスとは異なり、「サフィが生きている世界」でのモーゼスは何も問題が発生していないため、のん気に天体望遠鏡を組み立てている。そこで「もし隠しものをするならどこにしまうか」と聞きだし、その情報をもとに推理することとなる。
マックスの能力には「並行世界を覗く力」パルスと、「並行世界に移動する力」シフトの2種類があり、パルスはどこでも使用する事が可能だが、シフトは次元のゆらぎのような特定のスポットでしか行えない。またシフトを利用することで一方の世界で手に入れたアイテムをもう一方の世界に持っていくことで、〇〇を持ってきてほしいなどの頼み事を解決することができる。また並行世界は単に移動できるだけでなく、たとえば片方の世界で警察に見つかりそうでピンチなときに退避場所として駆けこみ、その場をやりすごすなど一種の退避場所として使用することもできる。そうして2つの世界を行き来することでサフィが殺された事件と、そこから派生した出来事へ多面的に迫っていくこととなる。
そして、2つの世界の違いは「サフィがいるかどうか」だけではない。サフィが死んでいる世界ではモーゼスも落ち込み研修室を封鎖しているため、天体望遠鏡が組み立てられておらず荷物も辺り一面に散乱しているなど、キャラクターの感情や行動の変化による差異が生まれている。なぜ今このオブジェクトがここにあるのかなど、環境ストーリーテリングとして受け取れる要素だ。サフィが殺された直後でここまで異なっているということは、ストーリーを進めれば進めるほど、そのズレも大きくなっていくと予想できる。その徐々に離れていく世界と、それを観測するマックスの姿を思うと思わず胸が苦しくなってしまう。
『ライフ イズ ストレンジ』の続編として
最後に、シリーズファンである私が本作で一番うれしかったことは、序盤の会話においてマックスの過去をプレイヤーが決定できる要素だ。初代のラストでは、ある“究極の選択”を迫られるがその結果は当然人それぞれ、選びたくて選んだ訳ではなく悩みに悩みぬいてボタンを押下し、その分忘れられない選択をしたという記憶が残っているプレイヤーも多いだろう。そのためゲーム側が“正史”を設定せずにプレイヤーに任せたのは、直接的な続編である本作とプレイヤーの体験の齟齬を生み出さないことと、あの日の葛藤をくみ取ってくれたような感動がある。
当然今回体験できたのは序盤部分の触りだけのため、今後どういったストーリーが描かれるのかはわからない。しかしマックスの登場とお馴染みのシステムと演出、そして親友の死からはじまる衝撃的な幕開けからは、たしかに当時『ライフ イズ ストレンジ』に覚えた手触りの一端が感じられた。シリーズファンはもとより、特に初代が好きなプレイヤーは、マックスが今までどのような人生を歩んできて、これから歩むことになるのか、一緒に成長してきた1人の友人の行く末を見届けてもよいだろう。
『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』は、PC(Steam/Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに10月30日発売。開発中のNintendo Switch版の発売日は後日発表予定。弊誌AUTOMATONのYouTubeチャンネルでは先行プレイ映像の動画版も公開中。こちらも記事と合わせてチェックしてほしい。