開発12年科学アドベンチャーゲーム『ノナプルナイン:アシンプトート』開発者インタビュー。「あと2~3年経って完成してないわけない」から12年、その背景

『ノナプルナイン:アシンプトート』開発者インタビュー。なぜ、開発期間が12年以上にもなっているのか。いつ完成するのか。12年以上の開発期間を支えるモノはなんなのか。

講談社ゲームクリエイターズラボは9月12日、『ノナプルナイン:アシンプトート』(以下、ノナプルナイン)のSteamストアページを公開した。あわせて、2026年にリリース予定であることも明らかとなっている。

本作はnonuple9氏が開発している、科学アドベンチャーゲームである。2024年9月現在、開発期間は12年以上。2014年頃には18禁の作品として制作されており、コミックマーケットなどで体験版が頒布されていた(現在は全年齢向けとして開発中)。ここ数年もインディーゲーム系のイベントへ積極的に参加し、東京ゲームショウ2024でも新しい試遊版を出展予定だ。そのため、少なくとも制作は進んでいる。一方で本作の完成を待っているプレイヤーにとっても、12年という歳月は長い。なぜ、開発期間が12年以上にもなっているのか。いつ完成するのか。12年以上の開発期間を支えるモノはなんなのか。気になっている方も多いのではないだろうか。

今回弊誌ではnonuple9氏と講談社ゲームクリエイターズラボの担当者に話を伺ってきた。結論からいうと『ノナプルナイン』には、nonuple9氏の執念が込められていた。


──自己紹介をお願いします。

nonuple9氏:
『ノナプルナイン』を作っているnonuple9です。

『ノナプルナイン』の開発が正確にいつ始まったかについては、何と言っても12年前なので、思い出せない部分もあるのが正直なところです。もはやバックアップから古いファイルを探って当時を推理するという、歴史家のような真似をするしかありません。「現存する最古の記録」は2012年の終わり頃のもので、そのあたりが開発スタートだろうと想像しています。

『ノナプルナイン』を作り始めた頃は、大阪でカプコンに勤めていました。キャリアとしては『モンスターハンター』シリーズに関わっていた期間が一番長く、『逆転裁判』チームに関わってシナリオを書いていた時期もありましたね。

──本作の開発体制について伺わせてください。

nonuple9氏:
基本的にずっと動いているのは僕1人です。僕がスクリプトを組んで、シナリオを書いています。背景やイベントCGは、開発初期にはすべて自分で描こうとしていましたが、とても追いつかず、今では得意な方にお願いしている部分が多いです。ただ、それらをFlashのアニメーションとして動かすことは昔からすべて僕1人でやっています。

基礎になるゲームエンジンは、昔知り合ったエンジニアさんのご厚意で作っていただきました。最初の頃、作ったFlashのアニメをフリーゲームサイトのふりーむ!の募集掲示版にアップロードしていたんですよ。そこで手伝ってくれる方を募集して、最初に知り合ったエンジニアさんが、Adobe AIR*1でどんなFlashアニメでも乗せられるゲームエンジンを作ってくださったんです。

あくまで僕の印象ですけど、当時Unityはスマホゲーム用のツールという位置づけで、Unreal Engineは個人向けではありませんでした。Steamもやっと「Steam Greenlight」が始まった頃で、個人が気軽にゲームを配信できる状況でもなく、今の個人向けゲーム開発とは違う環境でした。なので作るためのゲームエンジンが必要だった。横スクロールや画面表示など基本的なシステムも、スクリプト側で非常に高い自由度で制御できるよう、その時に作っていただきました。

また音楽は、当時飲み仲間だったこともあり、「秒速5センチメートル」の音楽を手がけた天門さんに依頼することができました。あとはできる限り自分で作りながら、手が足りないところの素材などを、上手な方にお願いしています。

*1:
Adobeから提供されていた実行環境。旧Adobe FlashやHTMLなどを使用して、PCやスマホ向けアプリケーションが開発できる。2020年末にAdobe Flash Playerのサポートが終了しているが、Adobe AIRについても2020年末にAdobeからのサポートが終了。以降はHARMANに引き継がれている。


2026年のリリースを目指して

──『ノナプルナイン』はどんなゲームなのでしょうか。改めて概要を聞かせてください

nonuple9氏:
基本的には横スクロールの探索アドベンチャーゲームです。主人公が横スクロールの画面で自由に移動して、気になる所をポイント&クリックで調べながら、ストーリーを進めていきます。主人公は「ノナプルナイン」という、人体実験の被験体です。物語の序盤、彼女は目が覚めると誰もいないビルの32階にいて、そこへドローンからガイドという人物が語りかけてきます。基本的にノナプルナインとガイドの会話で、ゲームが進んでいく形式です。

また『ノナプルナイン』では科学考証や演出に力を入れています。テレビを調べればテレビ番組が見られて、漫画を調べれば漫画の本が読めます。物語の序盤、ノナプルナインはビルの32階にいたのですが、階段を降りても、エレベーターに乗っても、ビル内ではずっと同じ32階が繰り返していて、32階から出られません。いろんな演出で手がかりを確認しながら、32階がループしてる謎を追い、最終的には人間とは何かという深淵な謎の話に繋がっていく。最後にはいろんな謎が全部綺麗に解けるように、シナリオを書いています。プレイ時間は進行が早い人で30時間を切るぐらい、長い人で30時間より少しかかるぐらいになると思います。

──ちなみに今の制作状況は、割合としてはどの程度なのでしょうか。

nonuple9氏:
ざっくりした完成までの目標や完成時期としては、一応2025年の中で一通りプレイできる状態を目指しています。なんとか最初から最後までプレイできるものを、2025年内にはどうにか仕上げたいです。そこから抜けているところや全体の調整をして、綺麗に通せるようにする。必要であれば専門家の方に監修をお願いするなど、いろんなことをやって2026年の早いうちに出したいです。

制作といっても、論文をひたすら読んでいる時間や下地となる土台を作る時間もあるので、割合を出すのは難しいのです、一応完成まではそんなスケジュールを想定しています。またそもそも本作のシナリオは、このラストがやりたくて書いています。ラストは2017年ごろに一度書いているのですが、そのままだと長いうえ、クオリティ的にもちょっと使えないので、今はラストよりは少し手前の部分を作ることで、改稿するための下地を整えています。

──講談社さんにもお話を伺いたいです。講談社ゲームクリエイターズラボに、『ノナプルナイン』が選ばれた理由はなんだったのでしょうか。

講談社ゲームクリエイターズラボ 河原井 勇樹氏:
選考の段階で開発期間は8年を超えていて強い執念のようなものを感じたこと。それから、まだ明かすことはできませんが、非常に挑戦的なストーリーであること、この2点が大きな理由です。

僕自身も含めて、インディーゲームに作家さんの個性や信念を求めてるユーザーも多いと思うんです。『ノナプルナイン』はとりわけ、そういうものを強く感じました。作品のあらゆる部分にnonuple9氏のこだわりや想いが詰まっていいます。1人の編集者として、この才能を、想いを、世に広め、問いたい。
一応、もう少しミクロなところでいうと、脚本のテンポ感やコメディとシリアスの使い分け、ヒキの作りの巧みさ、主人公「ノナプルナイン」の魅力、などでしょうか。具体的に挙げるとキリがないです(笑)



衝動に突き動かされて始まった同人ゲーム制作

──『ノナプルナイン』はどんなきっかけから開発が始まったんでしょうか。

nonuple9氏:
僕は作品を丁寧に作り込みたいタイプです。しかし、会社では必ずしもそれが叶わないこともあり、欲求不満が溜まっていました。そんな時、自分でゲームのラインを立ち上げるチャンスに恵まれたのですが、残酷な大人の事情によって立ち消えになってしまいました。全体でみれば、その企画は本作とはまるで別物なんですが、ストーリー要素だけに絞って膨らませれば、個人でも実現できてしまうのではないか、そう考えて『ノナプルナイン』の制作を始めました。

当時は、まず朝から夜まで会社でゲームを作る。その後家に帰ってきて30分ぐらい仮眠して、近所のロイヤルホストまで自転車でダッシュして、そこでシナリオをひたすら書く。当時のファミレスは24時間営業が当たり前だったので、2時ぐらいまで作業したら帰って寝て、また翌日会社へ行く。そういう生活をしていました。

──作りたい気持ちだけで動いている同人活動ですね。

ノナプルナイン氏:
本当にそうだったんですよね。体はボロボロなんですが、やりたいことをやっていると昼間の仕事でも気持ちが上がるという。

──ちなみに開発を始められた頃は、2024年もまだ開発が続いていると思っていました?

nonuple9氏:
本当に正直なところを言うと、当時は何も考えてなかったですね。会社勤めをしながら作っていた時は、仕事が忙しい上にストレスフルで、自分の作りたい欲求が全然満たされなかった。だからもう体がぶっ壊れてもいいから、働きながら時間のある限り『ノナプルナイン』を作る生活をしていたんです。作りたい衝動に、突き動かされていたんですよね。なので冷静にいつ完成するかを考える余裕は全然なかったんです。全力疾走し続けてる感じでした。

──開発当初は現在の全年齢ではなく、18禁の作品として制作されていました。なぜ18禁として始まり、全年齢へと変わったのでしょうか。

nonuple9氏:
シンプルなゲームであれば、UnityやUnreal EngineではなくAdobe AIRを使うという選択肢も、当時としてはまあ現実的だったんです。あの頃は販売サイトの事情も今とは違って、あんまり個人がSteamに出す時代ではなかったですよね。だからDLsiteで出すことを考えていました。当時DLsiteで個人で開発したゲームを出すとなると、全年齢という選択肢はなくて。ストーリーゲームで、しかも女性が主人公をやるなら、事実上もう18禁にするしかないので、18禁で作り始めたんです。

でも当時は、Steamへの道が緩やかに開かれていった頃でした。時が経つにつれて、だんだん個人でも出せるようになっていった。そうしてSteamという道が見えてくると、そこで初めて立場を考える余地が出る。そもそも、18禁要素に本気で取り組んでいるクリエイターのこだわりはすさまじい。オマケにつけましょう程度の、生半可なエロマインド・エロ戦略で勝ち抜けるような世界ではないよね、と。

じゃあどっちつかずになるぐらいだったら、もう全年齢に振り切った方がいいんじゃないかと思ったわけです。当時コミックマーケットなどでは、アウトオブオーダーという短編を500円で頒布していました。ところがそれを遊んでくれたユーザーも、みんなとにかくストーリーが気になると言ってくれるんです。となれば、ユーザーの求めるものと僕がやりたいこと、そして実際にかけられる労力も考えて、全年齢に行くのが妥当だと考えました。それ以降は、全年齢で開発を進めていきました。



延期の真相

──開発初期もう少し早い段階で完成予定だと仰っていたと思います。

nonuple9氏:
ずっとあと2~3年だと言っていましたね。もう本当にすいません。

──なぜ開発期間が伸びていったのでしょうか。

nonuple9氏:
今でこそしっかりと皆さんにお届けするために作っていますが、少なくとも開発の当初は、僕の開発のモチベーションはもっと邪なものでした。そもそも、細かく計算して完成時期を見積もっていたわけではなかったんです。初期の『ノナプルナイン』は、作りたいものを作るという行為自体に目的性があり、半ばストレスの反動だった。ちゃんとこだわって自分のものを作れること、それ自体に嬉しさがあったんです。だから、「必ず完成させる」という意識はあっても、「いつまでに完成させる」という意識が低かったのは間違いありません。

そのくせ『ノナプルナイン』は、とにかくラストをやりたくて作り始めた作品だったりします。もちろんオチも最初から決まっていました。でもイベントなどでは、「いつ完成するんですか」と聞かれる機会があります。「永遠に完成しません」とは言えないので、「多分2~3年ぐらいで完成するんじゃないですかね」と言ったりもしていました。でもそれは、ちゃんとした工数計算の上での発言じゃなく、「3年経って完成してないわけないだろう」と考えていただけで。このあたりは本当に申し訳ないと思っています。

それと、事前に工数を見積もることがとても難しい作り方をしているという点も大きな理由です。本作はテキストが書きあがってから、それにもっとも効果的な映像や演出が何かを考え、絵素材を用意し、Flashアニメーションにしています。商用利用可能な絵素材を利用していることもありますが、それでも何かしら手を加えていることがほとんどです。ただ、この作り方のおかげで、テキストの文字送りに完全に合わせた演出が作れています。

──開発期間が伸びていったわけではなく、完成していないわけがないだろう、という予想だったわけですね(笑)

nonuple9氏:
そうです。適当だったから、最初の頃の方が早く完成すると言っていたと思います。でもだんだん待ってくださってる方が増えていくと、あまり適当なことも言ってられなくなってきました。

ちゃんと完成を見据えないとまずい空気が漂ってきて、完成に対する責任を感じるようになりました。そうなると安易に2年で完成しますとか、3年で完成しますとか言えないので、次第にちゃんといつ完成するか分からないと言うようになったんです。きっぱり「分かりません」と言うのも、どうなんだという話なんですけど(笑)それでずっと分からないで通してきたんですが、さすがにずっと作ってきて、ぼちぼち完成までが見えてきたので、2026年に完成予定というようになりました。

──延期されるにあたって、クオリティも上がっている印象です。最新の試遊用バージョンを動画で拝見しましたが、昔の体験版と比べるとかなり変わっていましたね。

nonuple9氏:
一応全年齢で行くと決めた時には、Steamに並べた時に見劣りしないように、クオリティラインを少し上げました。主人公ノナプルナインの基本的な歩きモーションや、背景は一新しています。


やりたいことに向けて走り続けた12年

──「あと2~3年で完成するだろう」の状況が長かったことは把握できました。ではより根本的な話として、『ノナプルナイン』は、なぜ開発期間が12年以上かかっているのでしょうか。

nonuple9氏:
これまでお答えしてきたことも含めて色々な理由がありますが、特に初期は、会社勤めで1日あたりの開発時間がそもそも取れないことが大きかったです。プロジェクトが繁忙期に突入すると、丸1~2か月は『ノナプルナイン』が作れなくなってしまうこともありました。ました。

他に大きな理由としては、シンプルに物量でしょうか。たとえば3Dのゲーム開発では、主人公の3Dモデルを1個作ったら、それは最後まで演技を付け替えつつずっと使えます。もちろんうちでも、横スクロール画面での主人公の動きとかはそういう作りです。ですがイベントシーンでは、素材がほとんど使い回せない構造になっています。多くの場合、二度目の出番はありません。2~3週間かけて手の込んだアニメーションを作っても、ゲーム全体で1回だけ10秒間表示されたらもう使わない、みたいな。ものすごく物量を要求する非効率な作り方をしているんです。そんな作り方は個人開発でやるべきじゃないんですが、もうそうなっちゃったので、今回はもうこの方針で行くしかないと。あらためて言葉にすると、まったくひどい話ですね。

本作のエンジンでは、アニメ表現はFlashの形式で実装されます。でも、普通はFlashアニメなんて作れる環境がない。誰かに描いてもらった絵素材も、僕のところでFlashアニメとして動きをつけてから実装する形になります。僕がアニメーション類をすべて作らなければいけないところが、大きなボトルネックです。まあ、その分こだわれるのですが。

さらに作った上で、今度はスクリプトを書いてゲーム上に実装する部分も全部僕がやっています。何人か手伝ってもらってるとは言っても、結局Flashアニメーションやスクリプトは僕1人の作業なので、そこでもかなりの時間がかかっているんです。本作のFlashのファイル数は現時点で1700ぐらいあります。合理的じゃなさすぎるので、もし次になんか作る時はもっと考えないといけないとは思います(笑)でも今回は、もう走りきるしかないと思って作っています。

※ 本作には動画に登場するようなアニメーションが、多数用意されている


──こうして伺っていくとどの工程も大変で、そこに物量が加わるわけですから、12年の開発期間も説得力がありますね。

nonuple9氏:
あとイベントシーンって、ゲームごとにフォーマットが決まっているじゃないですか。たとえば『Dead Space』シリーズだと画面端に波形が出て、テキストの字幕と喋ってる人の顔が出る。そういった風に構成がある程度決まっています。でも『ノナプルナイン』には、決まった構成がないんです。だから新しいイベント作ろうと思ったら、どんな画面構成で見せるイベントにするのか、企画から始まるわけですよ。フォーマットが決まっていなくて、一つ一つゼロから企画するので、毎回構成を考える大変さもありますね。

──どこかで制作期間を覚悟した瞬間などはありましたか。

nonuple9氏:
一番やりたいことがラストにある、というのもけっこう曲者でして。やりたいことが序盤にあれば、それ以後は短く作ってリリース、なんて道もあるかもしれないのですが、最後だとそれもできない。とにかく想定の形で完成させるしかないんですよね。


Flash終了により訪れた危機

──12年以上開発してきた中で、苦労したエピソードがあれば伺わせてください。

nonuple9氏:
2020年末にAdobe Flash Playerのサポートが終了し、Adobe AIRもAdobeからのサポートが終了しました。長く開発しているうちに、そうしたAdobe FlashやAdobe AIRの状況が変わってしまって、『ノナプルナイン』がプレイ不可能になる可能性が出てきたことですね。『ノナプルナイン』は、最初はFlashアニメを作るところから始まって、Adobe AIRでゲームエンジンを作ってもらいました。でも何年経っても開発が終わらなかった。

ゲームエンジンを作ってくれたエンジニアさんも、「Adobeがサポートをいつ終わらせるか分からないので、早く完成させないとまずいかもしれません」などとアドバイスしてくださいました。完全にそのとおりなのですが、だからと言って開発を劇的に早める方法もないという、この絶望感。

それでいざFlashのサポート終了が発表されると、もうFlashの制作ソフト自体が動かなくなってしまったんです。起動時のFlというロゴは部分的に表示されるんですけど、Adobe Flashの画面は表示されなくなっていて、そのままだと制作もできなくなってしまった。以降はPCの時間をいじって無理やり動かしているんですが、Adobe AIRもいつサポートが終わるかわからないし、そうなると『ノナプルナイン』がプレイ不可能になってしまう。でもすでにサンクコストの塊みたいな状態で、これまで作ってきたものを今更捨てるにはいかないですし、作るしかない。Flashのサポートが終わってからは、リリースできない可能性を常に頭の上に入れながら、精神的な重荷を背負いながらの地獄のような日々が始まりました。

他に、容量の問題もあります。1GBを超えるAdobe AIRアプリケーションを実行ファイルにまとめようとすると、エラーが起きるんです。容量が軽い場合は問題ないのに。厳密な原因は不明なのですが、もしかするとAdobe AIRがそこまで大きなアプリケーションを作ることを想定していないのかもしれないという。そんな大きなAdobe AIRアプリケーションを作ろうとした人自体がほかにあまりいないと思うんですが、現に問題が起きる以上、ゲームをAdobe AIRのままリリースするなら全体を3分割する必要がある、なんて話もありました。

当時、熱心なパブリッシャーさんが、Unity移植のために奔走してくださったこともありました。でもプログラムの中を覗いてみたら、思ったよりずっと複雑で難しいことが多く、その時は断念するしかありませんでした。

──どうやって解決されたのでしょうか。

nonuple9氏:
2022年に講談社ゲームクリエイターズラボに選ばれたあと、講談社さんにもエンジニアさんを探してくださいとお願いしましたが、これまでと同様に難航しました。ただ、どんな形であれリリースのため尽力するから、まずは完成を目指しましょうということになり、Unity移植は一旦後回しにする方向で合意し、制作を続けていました。

そうしていたら、大のビール好きで知られる一條*2さんが、C4 LANというイベントに誘ってくださいました。みんなが72時間ぶっ続けでゲームを遊んでいる脇で、72時間インディーゲームを開発する謎の催しをやると。よくわからないけど面白そうだったので、参加することにしました。

そうして静岡にいったら、会場で一緒になった方が、たまたまFlashのコンテンツをUnityへ移植する業務の経験をお持ちのエンジニアさんだったんです。そこから講談社さんとも相談して、移植の話が動き始めました。本当に偶然に知り合った方が、たまたま技術を持っていてくださったのでできるようになったんですよ。今は、いよいよ移植版が動き、プレイできそうかなという段階にきています。

*2:
一條貴彰氏。『Back in 1995』や、書籍「インディーゲーム・サバイバルガイド」などを手がけている。


──無事にプレイできそうで安心しました。最後に読者へ向けてメッセージをお願いします。

nonuple9氏:
インディーゲームの愛好者の中には、こだわりとか個性とか、ある意味で平準化された商業作品とはまた違う尖ったものを求めている、という方も多いのではないかと思います。僕自身もその一人です。本作はまだ開発中ですが、すでにドロドロに個性が詰まった、「ならではの体験」を求める方には間違いなく刺さるゲームになってきていると思います。どうか、完成を楽しみにお待ちください。

──ありがとうございました。

『ノナプルナイン』はPC(Steam)向けに、2026年の完成を目指して開発中だ。東京ゲームショウ2024では講談社ゲームクリエイターズラボブースに出展予定。同ブースでは本作を含めた25作品の試遊や、64ページの雑誌の無料配布がおこなわれるそうだ。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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