とあるインディーゲーム開発者、「自作品の売上データ」など盛大に公開し徹底分析する。価格とレビュー評価の関係、効果があった宣伝などなど
デベロッパーのArpentor Studioは8月1日、『Dawnmaker』を配信開始した。対応プラットフォームはPC(Steam/itch.io)で、ゲーム内は日本語表示に対応している。今回、本作を手がけた開発者のひとりがブログにて、本作の収益やウィッシュリスト登録数の推移について公開。小規模スタジオが自力で宣伝活動をおこなう難しさなどについて語っている。
『Dawnmaker』はデッキ構築型の街づくりシミュレーションゲームだ。舞台となる大陸Heksigaはかつて繁栄していたが、現在は黒い有毒のスモッグで覆われている。プレイヤーは飛行船で同大陸を訪れ、魔法の光でスモッグを打ち払いながら、死の大陸をふたたび発展させていく。
本作のゲームプレイはターン制で進行。カードを使ってリソースを集めつつ、飛行船の基地を中心とするマップに施設を建てていく。資源がなくなる前に飛行船の基地を一定の段階までアップグレードし、マップに存在する壊れた灯台をすべて修理すればステージクリアとなる。
ステージをクリアすると資金が手に入り、新たなカードや施設を購入したり、ステージ開始時のリソースを増やしたりと強化することが可能。カードや施設はさまざまな種類が存在しており、それぞれ互いにシナジーをもつ。全体のバランスを考えつつデッキを構築し、新たなマップに挑んでいく。
本作は8月1日に配信された。Steamユーザーレビューでは、本稿執筆時点で53件中94%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得。デッキ構築要素と街づくりシムが合わさったゲームコンセプトなどが好評を得ている。ゲームボリュームがそれほど多いわけではないがシステムはよくできており、楽しめる作品であるとするレビューが複数見受けられる。
開発者が語る紆余曲折
本作を手がけたArpentor Studioはフランス・リヨンに拠点を置くゲームスタジオだ。Adrian Gaudebert氏とAlexis Caroff氏の2名でゲーム開発をおこなっているという。今回、本作の開発者のひとり、Gaudebert氏が自身のブログで記事を投稿。同作の販売本数などの数字を公開しつつ、小規模インディーデベロッパーとして自力でやってきたという本作のマーケティングについて語っている。
Gaudebert氏によると、『Dawnmaker』の開発期間はおよそ2年半だったという。当初はもっと大作にするつもりだったが予算が足らず、多くのアイデアをカットして作品の規模を縮小し、なんとか完成までこぎつけたそうだ。パブリッシャーも探したものの契約には至らず、マーケティングもすべて自分たちでおこなったという。同氏は記事でウィッシュリスト登録数のグラフを示しつつ、宣伝活動の効果について考察。全体として、あまり効率的な宣伝をおこなうことができなかったと感じているそうだ。
効果があった宣伝、なかった宣伝
Gaudebert氏らはXやInstagram、TikTokなどいろいろなSNSで宣伝をおこなったが、ほとんどの活動は目に見えるような効果がなかったという。一方効果があったSNSとしてRedditとYouTubeを挙げている。これらサイトでの宣伝後はウィッシュリスト登録が増えるなど、反響が数字で確認できたそうだ。特にYouTubeに投稿したトレイラー動画はオススメ機能により広がりを見せ、効果が大きかったとのこと。一方で同氏は、YouTubeのアルゴリズムは予測困難で、意図して宣伝を広げるのは難しいため、あてにはできないとしている。
意図的におこなった施策でもっとも効果を実感できたのは、Steamのフェスに参加したことだという。グラフではフェスに合わせ、ウィッシュリスト登録数が伸びているのが確認できる。Steamデッキ構築フェスやSteam Nextフェスに合わせ、デモ版を公開したことで大きな効果を得られたそうだ。またフェスで『Dawnmaker』に興味をもち、デモ版を遊んだYouTuberが自発的に動画を投稿したことで、さらにウィッシュリスト登録が伸びた副次効果もあったという。一方Gaudebert氏は、インフルエンサーによる宣伝は効果的だったが、自分から動画投稿者らにキーを送っても、ほとんど反応を得られなかったとしている。資金面で限られた小規模スタジオが広告案件を依頼するのは、難しさもあるようだ。
またGaudebert氏は、弊誌AUTOMATONにて『Dawnmaker』の紹介記事が掲載されたことで、大きな反響があったとしている(関連記事)。ただ、記事公開時点では日本語翻訳が準備できておらず、いくらかチャンスを逃してしまったかもしれないと感じているそうだ。また、発売前にはSteamの「人気の近日登場」に取り上げられたことでさらにウィッシュリスト登録数が大きく増えたそうだ。こうした出来事の積み重ねの結果、本作をリリースした瞬間のウィッシュリスト登録数は7029件であったという。
売上詳細まで公開し考察
Gaudebert氏は続けて、リリースから18日が経ったブログ記事投稿時点での『Dawnmaker』の売り上げを公開。それによると、Steamでの売上本数は952本で、65本が返品されたという。ウィッシュリスト登録者が実際に購入した割合は5.8%で、Steamの取り分や税金など諸経費を差し引いた収益は7734ドルとのこと。また国別の売り上げでは、1位からアメリカ・フランス・日本となっているそうだ。ちなみに本作はitch.ioでも販売しており、そちらでは2本売れているという。
Gaudebert氏はこうした数字について、「予想通りで、良くも悪くもない(No surprises here, neither bad nor good.)」としている。もっと売れない可能性もあったので最悪の事態ではないが、2年半開発してきた作品であり、コストの回収には程遠い状況であるという。もっと売るためにはどうすればよかったか、改めて反省するつもりだそうだ。
安いゲームの方が好評になりやすい
またGaudebert氏はゲームの価格設定について言及。同氏らは当初、定価を20ドルにしようと思っていたものの、ゲームのボリュームを考えるともう少し安くするべきだと感じたという。そこで予定価格を15ドルに値下げしたものの、後に価格設定についてフランスの複数のパブリッシャーに相談したところ、どこでも10ドルにするべきとの回答が得られたとのこと。価格が安い方が購入への心理的障壁が下がるほか、プレイヤーのハードルが下がり、レビューで好評が集まりやすい傾向にあるからというのが理由だったそうだ。そうして実際に10ドルで販売された本作は、本稿執筆時点で好評率94%と高い評価を獲得している。
Gaudebert氏は、本作が得ている評価については満足しているという。50人のプレイヤーが20時間以上プレイするなど、多くのプレイヤーが本作を楽しんでくれており、とても誇りに思っているそうだ。同氏は9月の終わりまでに、本作のリプレイ性を高めるアップデートを配信し、その後は新作の開発に移りたいと考えているとのこと。そんなGaudebert氏は、「願わくば、次回作ではもっと儲けたい!(we’ll likely move on to other projects. Hopefully more lucrative ones!)」とのコメントでブログ記事を締めくくっている。
今回、パブリッシャーをつけず少人数でゲームを開発・販売しているインディーデベロッパーが、試行錯誤を語った。Gaudebert氏によると、効果の大きかった宣伝の多くはアルゴリズムや誰かの気まぐれによるもので、自身の戦略というよりは幸運によるものだと感じているそうだ。地道に活動を続けながら、「世界が見つけてくれるのを待っている(waited for the Universe to notice)」ような気持ちだったという。資金面で限られた小規模スタジオが、効果的な宣伝活動を自らおこなう難しさがうかがい知れる事例といえそうである。
一方で、Steamフェスへの参加やYouTubeへの投稿など、それほど資金を要さず効果も実感できた活動もあった様子。Gaudebert氏らが本作で得た経験を活かし、次回作でもっと儲けてくれることを願う。
『Dawnmaker』はPC(Steam/itch.io)向けに配信中だ。Steamでの価格は税込1200円で、ゲーム内は日本語表示に対応している。