現地に足を運ぶことでしか味わえない体験とは何か?『Fate/Grand Order』フェスに参戦してわかったゲームとリアルのクロスオーバー

本稿では筆者が8月3日に「FGOフェス」に参加した感想を追いながら、オンラインと現地での体験に違いはあるのかを中心に見ていきたい。

筆者は『Fate/Grand Order(以下、FGO)』をはじめとする、TYPE-MOON作品のファンである。しかし、以前は一介の地方住みオタクかつシフト制の連休・有休が取りにくい職種であり、休日の調整を考慮するとイベント遠征は雲の上の出来事で、参加など夢のまた夢だった。そのため今までは指をくわえながら配信を見たり、ニュースでイベントの盛り上がりを感じていたりしていた。しかし今回は仕事として「FGO Expo ~Fate/Grand Order Fes.2024 9th Anniversary~(以下、FGOフェス)」取材に行けることになり、「これ幸い」と『FGO』のいちプレイヤーとして遠路はるばる幕張メッセにやってきた。本稿では筆者が8月3日に「FGOフェス」に参加した感想を追いながら、オンラインと現地での体験に違いはあるのかを中心に見ていきたい。

『FGO』ファンたちの熱気

新幹線などを転々とし、最後にJR京葉線・海浜幕張行の電車に乗り込んだのだが、そこはもう足の踏み場もないくらいの満員であり、2023と書かれた昨年の「FGOフェス」デザインのTシャツを着た人の多さに、会場に着く前から『FGO』ファンの熱気を感じていた。筆者が海浜幕張駅に着いたのは朝7時30分頃であったが、すでに長蛇の列が形成されておりファンたちはひとつの生き物のように連なりながらイベントへの期待を話しつつ、幕張メッセに向かっていた。その混雑ぶりは、今回の目玉でもあるバイノーラル収録されたフルボイスのサーヴァントとともに冒険できるアトラクション「カルデア・トレジャーハンティング!」が、オープニングステージの時点で当日分の整理券配布が終了したというアナウンスがあったことからもわかるだろう。のちにSNSで確認したところ、中には始発で駆けつけたファンでも整理券がゲットできない方がいたらしく、その盛況ぶりがうかがえる(なお8月中に公式YouTubeにて全キャラ分の映像が公開予定とのこと)。

一般開場時の様子


今年のテーマは“エキスポ”

今年の「FGOフェス」は“FGO Expo”というイベント名が示すとおり、博覧会をモチーフとして「カルデアパビリオン」、「ぐだぐだパビリオン」、「ハワトリアパビリオン」、「わかる!わからない?パビリオン」、「セイバーウォーズパビリオン」の5つのパビリオンが登場している。たとえば「ぐだぐだパビリオン」であれば、漫画家・経験値氏が手がける織田信長と沖田総司を中心とした『FGO』の期間限定ストーリー群「ぐだぐだイベント」にまつわる展示がされているのだ。またイベントと同時公開された日本・中国・アメリカをモチーフとした記念ムービーが、会場のいたるところで上映されておりエキスポらしい良い意味での雑多感・多国籍感が強調されていた。

会場に流れていた映像によると、どうやら「FGOフェス」が作中の特異点として位置づけられ、各サーヴァントたちが自らと縁があるパビリオンを形成している様子。特異点の調査のためにレイシフトした主人公であるマスターが2024年の幕張メッセに訪れたという設定で、現地の探偵に扮した天草四郎と協力しながら、会場に隠された謎を解き明かすリアル脱出ゲーム「探偵天草の事件簿 ~File. Expo 2024~」が開催されていた。フェスを楽しみながら配布されている謎解きキットとLINEを活用するメタな遊びで、筆者も参加してみたが自然と会場を周遊できる作りになっている。この催しに参加するだけで各地にて実施されているアトラクションへスムーズに目が向く構成で、ゲームと現実のクロスオーバーを味わってもらいながら、フェスをより一層楽しませようという運営の心意気が伝わってくるようであった。

 

カノウヨシキ氏とバスター石倉氏による、ステッカーと缶バッジ配布の様子


ゲーム内のイベントが現実に現れる感慨

パビリオンが5箇所に分かれているのは、運営的な来場者の分散という意図があるのではないかと邪推するが、それでいてどのパブリオンにも見どころがあり、“弱い”パビリオンが存在していなかったのは、今まで『FGO』が積み上げてきたコンテンツの多さと重みを直接感じることができた。

筆者が個人的に印象深かったのは、ハワトリアパビリオンであった。こちらは主に昨年実施された夏イベント「サーヴァント・サマー・フェスティバル2023!」を中心としたエリアで、コミックマーケットをモチーフにした作中の同人誌即売会「サバフェス」を再現した展示もされている。実際にゲーム内でマスターとしてサーヴァントと力を合わせ、バトル周回を繰り返しながら描き上げた同人誌が、現実のコミケと同じようにテーブルにクロスが敷かれ、ポップや値札とともに平積みされているのを見ると「本当にサバフェスはあったんだ」と、こちらでもゲームと現実の境界線が交わり自分の立ち位置がふわふわとするような感覚が感動とともに押し寄せてきた。

「FGOフェス」で再現されたサバフェス会場

ゲーム内のサバフェス会場


退屈知らずのお祭り騒ぎ

フェスの目玉の1つであるステージイベントでは、メインである「グランドステージ」と、サブの「ギャラクシーステージ」をまたいだ声優同士の対決「FGOキャストバラエティステージDay1 ~バトル・イン・マクハリ 2024~」も開催。魔神柄のココナッツをカゴに投げ込む「魔神ココナッツなげバトル!」では、アーラシュ役の声優・鶴岡聡氏が宝具ボイスを叫びながら見事成功したときは、会場で拍手が巻き起こっていた。そのほか映像内で動き回る『マンガで分かる!Fate/Grand Order』の主人公の数を当てる「女主人公、発見バトル‼」など、バラエティ色が強く笑えて燃えるステージが多かった。

筆者が参加したのは1日目である8月3日だったが、そのなかでも特に会場で大きな歓声があがったのは、「水着イベント2024」で『月姫』のヒロイン「シエル」参戦が明かされたときだ。ファンたちの絶叫が幕張メッセを地鳴りのように揺らしたと錯覚するほど盛り上がり、今と昔で変わらぬTYPE-MOONタイトルの人気ぶりがうかがえる。以上のステージイベントはパビリオンと合わせ「FGOフェス」内のどこかしらに行けば楽しいものが待っていたのが印象深く、「とにかく今日1日退屈にさせないぞ」という声が聞こえてきそうだった。


なぜ現地に足を運ぶ人が多いのかを考える

筆者の周りに『FGO』をプレイしている人はあまりいない。だがこの日集まっているのは、ほとんど現役プレイヤーばかりだろう。こんなにも『FGO』の話だけが交わされている空間ははじめての経験で、勝手に仲間意識を感じていたのとともに『Fate』というIPの強さを改めて感じられた。ただ『FGO』の話をしたければやろうと思えば可能であるし、ステージイベントやサーヴァントの実装情報などを見るだけなら配信を確認するだけで十分だろう。それではなぜこんなにも多くの方が幕張メッセに集まっているのか。それは筆者のように、「FGOフェス」でしか味わえないデジタルとリアルの重なりに惹かれたからなのではないか。ゲームの中で見て聞いて感じた風景が現実として目の前に現れる感慨。ゲームだけではなく、現実だけではなく、その交差点にあたる本イベントの参加者にしか味わえない没入感があると感じた。

ただ同時に、オンライン配信の利点も実感することになった。はっきり言って「FGOフェス」の現地に足を運んでいると行列に並んでいたり、へとへとになってしまったりして情報やステージを見逃してしまうこともあるだろう。筆者は帰宅後に配信内容もチェックしたが、本年であれば各パビリオンに焦点を絞ったイベントも中継されており、自宅にいてもイベントの雰囲気の一端をしっかりと味わえる。配信でしか見られないからと言って体験を棄損しているのではなく、現地には現地のオンラインにはオンラインの楽しみ方があるのだ。本イベントのテーマは「エキスポ」、パビリオンがコンテンツや国を交差したように、「FGOフェス」はデジタルとリアルが交差するイベントだった。『FGO』はついに2025年で10周年を迎える。来年の「FGOフェス」はどんなイベントになるのか今から楽しみだ。

Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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