「米国ゲーム業界ではなぜレイオフが多発しているのか」を海外メディアが分析。どうすれば防げるのか
昨年から今年にかけて、特に欧米のゲーム業界では大規模な人員削減やスタジオの閉鎖などが相次いでいる。説明される人員削減の理由はさまざまながら、経営方針の見直しや持続可能な運営を目指すためとして、コスト削減が理由のひとつにあげられるケースも多い。
ではなぜ、欧米ではゲーム開発のコストがかさんでいるのか。海外メディアGame DeveloperのBryant Francis氏が、特に米国でのゲーム開発費がかさんでいる理由を、業界人の証言を交えながら考察している。
“巣ごもり需要”が裏目に
まずFrancis氏は、ゲームスタジオや業界の投資家の多くは、新型コロナウイルスの流行をきっかけに売上やプレイヤーの増加を過剰に予測し、経営規模を拡大しすぎたとの見解を述べている。ゲームや動画配信サービスといった家の中で楽しめるエンターテインメント業界が、いわゆる“巣ごもり需要”から成長を見せた時期だ。当時の業界では、事業の成長率がかなり高めに見積もられる傾向もあったのだろう。しかしこの時期にはインフレの進行にともなう金利引き上げがおこなわれたこともあり、資金の借り入れが割高な時期でもあったという。
一方コロナ禍の収束もあり、2022年ごろにはゲーム業界の成長傾向は落ち着きを見せたことも伝えられている(Newzoo)。また、コンサルタントなどとして業界に携わってきたScott Hartsman氏は「ゲーム業界はヒット商品主導のビジネスながら、ヒットを予測することが難しい」との見解をGame Developerに伝えている。同氏はウォーゲーミングやソニー・インタラクティブエンタテインメントなどでコンサルタントやアドバイザーを務めてきた人物だ。同氏の考えに基づけばスタジオが収益を上げ続けるためには予測困難な「sales spikes(売上急増)」が必要になるものの、そうした売上をもたらす作品をリリースする合間にはパブリッシャーや投資家からの資金サポートを求める必要があるわけだ。
しかし、収益が不安定ななかで、スタジオの運営コストの大部分を占める人件費は変わらぬまま、あるいは増加しつつ発生し続ける。そしてFrancis氏いわく、米国でのゲーム開発費がかさむ理由はこの人件費にあるという。同氏は2023年後半の米国での平均月給はひとり約4941ドル(約73万円)であったとして、年間で5万9300ドル(約880万円)になると言及。一方、たとえばゲーム産業が盛んなポーランドでは平均月給は約2000ドル(約30万円)相当の約8000ズウォティとのこと。もちろん平均月給はあくまで目安にしかならないものの、ゲーム産業の盛んな両国の給与には大きな差がある傾向もうかがえる。
またそこに福利厚生や税金をふまえると、雇用のコストはさらにかさむという。特に米国では民間医療費が他国と比べて高額とされる。優秀な人材を確保するために医療費補助を支給するなど、福利厚生を含めてさまざまなコストがかけられることも、米国の開発元での人件費増大に繋がっているようだ。そのため先述したような過剰な事業拡大や売上の不安定さなどが原因となって持続可能な経営が難しいと判断された場合に、人員削減は選択肢としてのぼる状況があるのだろう。昨今のレイオフの多発にも繋がっているのかもしれない。
どうすればレイオフを防げるのか
なおFrancis氏は、大規模な人員削減やスタジオ閉鎖を生じさせないためにも、業界の運営方法を改めていく必要性を説いている。先述のようにゲーム業界は、ヒット作主導のビジネスといった考え方もある。ヒット作から次のヒット作を生むためには試行錯誤も必要になり、プロトタイプ段階でプロジェクトがお蔵入りになるといった“失敗”も想定される。一方で同氏は、現状の米国の多くのゲーム企業は、試行錯誤と失敗のなかでも発生し続ける人件費を賄い続ける金融的手段をほとんど備えていないと問題視している。
この問題への対策として、Francis氏はたとえばマイクロソフトへのコンサルティング業務を担当したというDaryl Ogden氏の考えを紹介。同社傘下のObsidian Entertainment(以下、Obsidian)では『Avowed』、『The Outer Worlds 2』といった大型タイトルの開発を進める傍らで、2020年に早期アクセス配信され2022年に正式リリースされた『Grounded』のアップデートを進行。さらに2022年発売の『Pentiment』も手がけており、計4作品の開発が進められてきた。
Ogden氏は、Obsidianでは『Grounded』の定期的なアップデートを優先しつつ、短い開発期間で『Pentiment』をリリースしたことで、『Avowed』と『The Outer Worlds 2』という大型タイトルが煮詰まっている間にも収益を生むことができたとしている。そのため同氏はObsidianと同様に、大規模な1作品にスタジオの存亡をかけるのではなく、より小規模で挑戦的なゲームも作ることがリスク軽減につながるとの見解を説明。AAAスタジオにせよインディースタジオにせよ、より小規模で品質の高いゲームを、より安価に作り出し、作品リリースのペースを上げる必要があると説いている。“ヒット作とヒット作の間”を埋めるための方法のひとつといえるだろう。
なお、Game Developerの記事においてはこのほかにも、業界にまつわる談話がさまざま伝えられている。たとえば『Outer Wilds』の開発元として知られるMobius DigitalのJackie Kreitzberg氏は、1年半にわたって次回作のプロトタイプが“失敗続き”だったというエピソードを紹介。一方でこの間にも、スタジオに資金サポートをおこなうパブリッシャーやスポンサー企業は、プロトタイプに関心がなくとも協力的であり続けたそうだ。失敗を許してスタジオの方針を尊重しつつ、資金サポートが続けられたとみられる。珍しいケースと思われるものの、パブリッシャーやスポンサー側が辛抱強くヒット作を待ってくれる場合は、人員削減やスタジオ閉鎖をおこなわずに苦境を乗り切れる場合はあるようだ。
昨年から引き続き、レイオフの相次いでいるゲーム業界。少なくとも米国では、コロナ禍での人員拡張や、高額な人件費などが背景としてあるようだ。国内メーカーでは現状、欧米ほど大規模な人員削減はおこなわれていないものの、同じく人材コストが高い傾向などもあり対岸の火事とはいえないだろう。今後欧米のレイオフの波が収束に向かうかどうかは注目されるところで、たとえばFrancis氏の考えるように各スタジオには試行錯誤や失敗が発生してもサポートできる体制が求められる状況はあるのかもしれない。