『ゼルダの伝説 時のオカリナ』RTAの新ルート、“Wii U版”にて開拓される。難しさから「スティック輪ゴム固定」裏技考案されるも、現状はルール違反
『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(以下、時のオカリナ)のRTAについて、Wii Uのバーチャルコンソールを用いる新ルートが開拓されたとのこと。この手法によって世界記録の更新の可能性もあるが、現状ではレギュレーションとの兼ね合いもあり、実際に記録更新に用いられるかは不透明なようだ。GamesRadar+が伝えている。
『時のオカリナ』は1998年にNINTENDO64で発売されたタイトルだ。シリーズを3Dアクションゲームとして方向づけた作品であり、また長年にわたり、クリアまでの最速記録を競うRTA(スピードラン)がおこなわれ続けてきたゲームでもある。現在でもAny%、オールダンジョン、100%クリアなど、さまざまなカテゴリでの最速タイムが競われている。
エンディングを“呼び出す”Any%
今回Wii Uのバーチャルコンソール版にてルート更新がおこなわれたのはAny%カテゴリ。とにかく最速でゲームをクリアすることを目指すため、バグなどを多用してありとあらゆるイベントをスキップするのだ。『時のオカリナ』のAny%カテゴリでは、SRM(Stale Reference Manipulation)と呼ばれるテクニックを用い、任意のコードを実行。そしてエンディングを呼び出してクリアしたことにする。
SRMとはゲーム内動作を利用し、メモリ上の数値を操作する手法だ。ゲームの状況はゲーム機のメモリ上に保存される。これは『時のオカリナ』における、リンクや敵、さらにはマップにおける位置情報や、掲げたアイテムの向きなど、すべてに適用されている。ここで、ゲームが想定外の挙動をすると「リンクが目に見えない爆弾を持ち上げている」というような状況などが生まれうる。この異常状態を利用し、メモリの値を書き換える。これによって書き換えたメモリを任意コード実行で呼び出すことにより、エンディングに到達する、というわけだ。
ハードウェアによる差
Any%のスピードランは、Wiiのバーチャルコンソールを使用するのが主流となっており、現在の世界記録もWiiを用いた3分47秒900となっている。これはWiiに存在するハードウェアのバグを利用しているためだ。簡単に述べると、Wiiでは特定の条件を満たすアドレスに値を書き込むと、その場所の周辺にも書き込んでしまう現象が発生する。本作スピードラン走者のMrCheeze氏によれば、このバグによって、Wiiでのエンディング呼び出しが比較的簡単に実行できていたようだ。
一方で、Wii版の『時のオカリナ』はプレイにおいて“最速”ではないとのこと。というのも、本作はWii以外でもプレイ可能。Nintendo SwitchやWii Uといった、スペックの向上したハードウェアでは、より遅延が少ない。つまり理論上はSwitch、Wii U、Wii……という順番で早くクリアできる、とされている。しかしSwitchでは仕様の違いにより、SRMを実行するのに余計な時間がかかってしまう。そのため、Wii UでなんとかWii版と同じことができないか、と模索されていた。実際に遅延の都合上、数秒の短縮となることはすでにわかっていたようだ。
MrCheeze氏は今年7月半ばに、先述の事情から、なんとかしてWii U版『時のオカリナ』でSRMからの任意コード実行ができないかを試行錯誤していたようだ。なお任意コード実行には、ゲーム内の動きのほかに、「ファイル名(リンクの名前)」も特定の文字列にする必要があり、Wii版ではこれは「ラんぐUVくBヲ」であった。しかしWii UはWiiと状況が異なるため、このリンクの名前もWii版から変えなくてはならなかったわけだ。同氏は度重なる検証を経て、ついに「ラくBリラ3ざc」という名前に到達。本作スピードラン走者のbradyONE氏に依頼して、実機での検証がおこなわれた。結果としては、Wii UでもSRMおよび任意コード実行は成功したようだ。
また本作スピードラン走者のMalicia氏が、今回提示されたWii U版での新ルートでのランを実施。4分4秒900という記録を残し、個人記録を更新したとのこと。実戦投入にも問題なく、現実的な新ルートとなったようだ。
“輪ゴムテク”も発見されるが、記録更新への投入は不透明
またWii U版では“裏技”も発案されている。『時のオカリナ』のスピードランでは、最後の任意コード実行において特定の角度に正確に向き、リンクの持ちあげた“無”をおろす必要がある。この時の角度を、Wii U GamePadで設定するというのだ。
Wii U GamePadには「TVリモコン機能」が存在している。TVコントロールボタンを押してこの機能を呼び出すことで、Wii U GamePadからテレビの音量操作やチャンネル、入力の切り替えが行えるという機能だ。これはゲーム中にも起動しておくことができるものの、リモコン機能が動作している間は、ゲームパッドのスティックの入力は反映されない。つまりスティックの入力とその角度を「仕込んでおける」裏技となっている。
通常時はWii U GamePadに接続されたクラシックコントローラーなどで操作し、仕込みを使うときには、リモコン機能を解除するのだ。なおこの角度を仕込む際には、輪ゴムによる固定を用いるのだという。bradyONE氏が実際に仕込みを実行した際のWii U GamePadの写真も、MrCheeze氏によって投稿されている。
MrCheeze氏は今回の新ルート発見にあたり、理論上はWii U版が最速であることに触れつつも、実際にスピードランをおこなう際には、Wii U版でミスなく走るのは、Wii版よりも難しいと述べている。また裏技的に提示された“輪ゴム固定テクニック”についても、議論中ではあるものの、現状のレギュレーションでは使用が認められてはいない、とのこと。とはいえ、今回は熱量あるコミュニティのユーザーによる検証と実践により、ゲームを実行するハードウェアごと換えてルートを構築するという、新たな更新余地が示されたかたちだ。