『ヘルダイバー2』コミュニティ担当者、PSNアカウント連携必須化騒動でユーザー側に入れ込みすぎ「クビになりかけた」とこぼす。距離感の難しさ
『HELLDIVERS 2(ヘルダイバー2)』のPC(Steam)版にて5月3日、SteamとPlayStation Network(以下、PSN)アカウントの連携を必須化することが発表され、大きな批判が渦巻いた。これを受けて5月6日、アカウント連携必須化を導入するアップデートの配信が中止。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)により、ユーザーのフィードバックを受けたPSNアカウント連携必須化の再検討をおこなうことが伝えられた。
こうした騒動において本作の公式Discordサーバー内でユーザーへの対応をおこなっていたアソシエイトコミュニティマネージャーであるSpitzerFX氏が「クビになりかけた」と報告。同氏がユーザーに同調して“不評レビューや返金を促していた”ことが、スタジオから問題視されたようだ。
『HELLDIVERS 2』は、見下ろし視点型シューター『HELLDIVERS』の続編となるTPSだ。開発はArrowhead Game Studiosが手がけている。本作は最大4人でのオンライン協力プレイに対応し、PC(Steam)版とPS5版の間でのクロスプレイをサポート。プレイヤーはスーパーアース連邦のエリート部隊ヘルダイバーの一員となり、自由と管理民主主義を守るため、銀河を舞台とした戦いに身を投じる。
PSNアカウント連携必須化を巡る騒動
『HELLDIVERS 2』のSteam版では、ユーザーのSteamアカウントとPSNアカウントの連携が必要であると案内されていたが、ローンチ当時に発生した技術的な問題により、これまで連携は任意とされてきた。そして5月3日になって、ゲームにおける安全性とセキュリティの維持を目的として、アカウント連携が必須化されることが発表。当初新規プレイヤーは5月6日から、既存プレイヤーは6月4日から連携が義務付けられることが伝えられた。
ただPSNアカウントとの連携については必ずしも十分に周知されていなかった背景などもあり、発売から約3か月も経過して突然PSNアカウントの取得・連携が求められたことでSteamユーザーからは批判の声が噴出。一方そうしたフィードバックを受けてSIEは、5月6日に予定していた新規プレイヤーおよび既存プレイヤーに対するPSNアカウント連携必須化を導入するアップデートの配信を中止すると表明。ユーザーからのフィードバックは貴重であり、何がPCゲーマーにとってベストであるのかを引き続き学んでいるとも述べ、今後の計画については追って知らせるとした。本稿執筆時点ではコミュニティの混乱も収まりをみせつつある(関連記事)。
ほぼクビになりかける
一連の騒動のなかで本作の公式Discordサーバー上では、Arrowhead Game Studiosのコミュニティ担当者たちが、ユーザーから寄せられる批判への対応をおこなっていた。なかでもアソシエイトコミュニティマネージャーを務めるSpitzerFX氏は今回の騒動への対応を巡って“スタジオをクビになりかけた”という。
SpitzerFX氏は5月4日ごろ、ユーザーへの返答をおこなっていたものの、5月5日にはサーバー内にまったくコメントをしなかった。そして5月6日にはふたたびユーザーにコメントを返し始めたものの、あるユーザーは「クビになったのかと心配した」と反応している。これに対してSpitzerFX氏は冗談か本気かは不明ながら「ほぼクビになりかけたけど、ぎりぎり踏みとどまった(Almost. Not quite)」と返答した。そんなSpitzerFX氏がユーザーから“クビになったかも”と心配されていた理由は、ユーザーへの対応にあるようだ。
というのもSpitzerFX氏は、5月5日にユーザーに対してSIEとArrowhead Game Studiosは交渉中であると説明。この際に「プレイヤーがユーザーレビューや返金などをおこなって不満を示してくれれば、ソニー(SIE)との交渉でArrowhead Game Studios側がより有利に働きかけられる」としていた。つまり同氏いわくスタジオがSIEに対して、PSNアカウント連携の必須化について、撤回の交渉ができると示唆。交渉を有利に進めるためとして、ユーザーたちに不評レビューの投稿や返金リクエストを促していた格好だ。Steam上での混乱を加速させる、あるいはSteamの運営元Valveも巻き込みかねない対応といえるだろう。
“ほぼクビになりかけた”というSpitzerFX氏いわく、「ゲームのレビュー爆撃と返金を促すことはパブリッシャーにとって好ましい判断ではないことがわかった」とのこと。上述したような対応はスタジオ内で問題視されたようである。
なおSpitzerFX氏の過去の投稿を見ると、同氏は10年来の『HELLDIVERS』シリーズファンでもあり、コミュニティを代表することがコミュニティマネージャーの務めであると説明。この事態を見過ごしてPSNアカウント連携が必須化されれば何百万ものプレイヤーがゲームにアクセスできなくなる可能性があり、そうした事態を避けたいといった考えを伝えていた。
コミュニティとの距離感を測る難しさ
結果として今回、SIEからユーザーのフィードバックを受けたPSNアカウント連携必須化の再検討をおこなうことが伝えられ、コミュニティも和やかさを取り戻しつつある。SpitzerFX氏も引き続きアソシエイトコミュニティマネージャーを続けるようだが、クビになりかけたという同氏の報告は海外メディアPC Gamerなども報じており、注目を集めているようだ。
たとえば過去に『League of Legends』や『Apex Legends』などのコミュニティチームを主導し、現在はOdyssey Studioにてマーケティングディレクターを務めるRyan K. Rigney氏も本件に反応。今回は“大勝利”に行きついたとしつつも、今後ユーザーが押し付ける「民衆の声」のイメージにコミュニティ担当者たちが振り回されないことを願っていると綴っている。同氏はそうした対応が悪い方向に向かうところを何度も見てきたという。コミュニティ担当者としての経験上、“ユーザーの声”の距離感の測り方に難しさを感じるところがあるのだろう。
ゲーム会社において、ユーザーコミュニティとの窓口係となるコミュニティ担当者たち。特にライブサービス型ゲームにおいては運営方針や調整方針を巡って、ユーザーと対立が生じたり、一部ユーザーから攻撃を受けたりする場合も見られる。実際本作においても過去に、ユーザーの批判に対する開発者のDiscordサーバー内の発言に批判が殺到し、謝罪に発展した例が見られた(関連記事)。一方で今回のSpitzerFX氏のようにユーザーの不満に同調する対応もスタジオや業界人など目線では問題視されうるようで、コミュニティとの関わり方のバランスの難しさがうかがえる。
【UPDATE 2024/5/8 9:33】
SpitzerFX氏は5月8日、公式Discordサーバー上でアソシエイトコミュニティマネージャーを解任されたことを伝えた(GamesRadar+)。返金や不評レビューを促した点についてリスクは承知だったとのことで、そうした言動が解任の理由になったようだ。ずっとファンであったというArrowhead Game Studiosのために働くチャンスを貰ったことへの感謝も綴られている。