「買ったゲームに追加でお金払えるチップシステムはどうか」と、Blizzardの元社長が提案し議論白熱。いいゲームへのお礼を開発者に贈る提案の実現可否

Blizzard Entertainmentの元社長であるMike Ybarra氏が4月11日、X(旧Twitter)上に「ゲームに追加で課金できるチップシステム」を提案。この提案に対して、SNSやメディアよりさまざまな意見が投じられている。

Blizzard Entertainmentの元社長であるMike Ybarra氏が4月11日、X(旧Twitter)上に「ゲームに追加で課金できるチップシステム」を提案。この提案に対して、SNSやメディアよりさまざまな意見が投じられている。

Image Credit: Allef Vinicius on Unsplash


Mike Ybarra氏(以下、Ybarra氏)は、今年1月までBlizzard Entertainment(以下、Blizzard)の社長を務めていた人物だ。同氏はマイクロソフトにて長年Xbox関連部門のさまざまな要職を経験。Blizzardへの移籍後も重役を務め、2021年のActivision Blizzard性差別問題で当時のBlizzard社長が退任した際には、同社共同社長に就任していた。そして今年1月25日にはBlizzardを離れたことを発表。現在は“ひとりのゲーマー”として、X上などで発信をおこなっている。


素晴らしいゲームに追加でお金を払いたい

そんなYbarra氏が4月11日におこなったX上での投稿が、多くのユーザーやメディアに波紋を広げている。同氏が伝えたのはゲームにおける「チップシステム」の提案だ。Ybarra氏は最近、いちゲーマーとして多くのシングルプレイゲームを遊ぶようになったとのこと。そうして触れたゲーム作品の中には、クリアした後に畏敬の念を起こさせるような素晴らしい体験を届けるものがあるとした。

https://twitter.com/Qwik/status/1778269707575119977

そうした作品に触れた際、Ybarra氏は「ゲームを手がけた人々に10、20ドルのチップをあげたい」と思うことがあったという。70ドル(約1万700円)といったフルプライスを超える価値を提供している上に、“いちいち課金を求めてこない(they didn’t try to nickel and dime me every second)”ような良質なタイトルに追加でお金を払いたい、との思いのようだ。

同氏は『Horizon Zero Dawn』『ゴッド・オブ・ウォー』『バルダーズ・ゲート3』『エルデンリング』といった具体的な作品を挙げ、70ドルはすでに大きな額であることはわかっているとしつつ、追加のチップにふさわしい特別な作品も存在するとした。また、多くの人がこの考えを嫌うだろうとしつつ、「チップが実質義務化される」ようなアイデアとは違うとも述べている。

『Horizon Zero Dawn』


Ybarra氏のこの提案に対して、SNS上では喧々囂々の様相となっている。まず、提案自体に賛成したり、「同じように思ったことがある」といった声も見られる。作品への賞賛の一形態として、より多くのお金を支払うという発想には同調するユーザーもいるようだ。また「ゲームを購入して誰かにギフトしたり、限定版にアップグレードしたりする」といった提案も寄せられており、Ybarra氏自身も「素晴らしいアイデアだ」と反応している。


「チップシステムは上手くいかない」との反論

一方で、ユーザー・メディアからの反論もある。VG247が公開した記事では、接客業(ケータリング)を経験したとする筆者が「チップシステム」に疑問を投げかけた。まず前提としてチップとは、欧米などの地域において顧客が従業員に規定料金外のお金を渡す習慣のことだ。業種によってはチップが収入源となることを見越して低い賃金が設定されている場合もあるほか、米国などではチップは正式な収入として課税対象となる。「チップは労働者の直接収入になる」という前提があるわけだ。

そして同記事では、英国における「Service charge(サービス料)」システムを例に出し、従業員に直接チップを支払わない場合に経営側の利益に転換される可能性を指摘した。ただ“チップ”を支払っても企業や重役だけが利益を得て、開発者などのスタッフの収入には反映されないとの意見のようだ。記事は「開発者に必要なのはチップシステムではなく、適正な賃金である」と締めくくられている。同様の声は、SNS上などでも散見される。

『ゴッド・オブ・ウォー』


SNS上などではほかに、Ybarra氏自身を揶揄・批判するような反応が多く見られる。Blizzardという大企業の重役を務めていたYbarra氏が、消費者側として発言することに、反感を覚えるユーザーも多いのだろう。また、今年1月にはActivision Blizzard親会社であるマイクロソフトがゲーム事業におけるレイオフを実施。Blizzardの人員も多く影響を受けたと見られることが、さらなる反感を招く要因となったかもしれない。

一方で、前述の通り「もっとゲームにお金を払うことで、開発元などを支えたい」という声も見られる。特に小規模のデベロッパーや個人開発者に向けてのチップであれば、ゲームを作る人々に直接還元されやすいだろう。ゲーム配信プラットフォームitch.ioの「Name your own price(好きな額で支払い)」システムなどは、ユーザーの気持ちをお金として支払うことができる点で、チップに近い支払い方法といえる。いずれにせよ、Ybarra氏の提案した「チップシステム」が健全に機能するためには、チップを送る先の規模やスタッフへの分配ルールの存在なども重要かもしれない。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

Articles: 1847