ベテランプロゲーマーが「ゲームを昔より楽しめなくなった」とこぼし波紋広げる。プロだからというより、上級者バトルに疲れた
競技シーンで約15年活動を続けるあるプロゲーマーが「ゲームを昔より楽しめなくなった」と発言し、波紋を広げている。近年の対戦ゲームにおける「上級者が気楽に楽しめない仕組み」も背景としてありそうだ。
「ゲームを楽しめなくなった」との発言が波紋を広げているのが、Snip3downことEric Wrona氏だ。同氏は現在米国のeスポーツチームFaZe Clanに所属する『Apex Legends』のプロ選手だ。元々は『Halo』シリーズの競技シーン出身で、『Halo 3』にて2008年ごろから競技プレイヤーとして活動。『Apex Legends』リリース後は同作のプロ選手として活躍するも、2021年に『Halo Infinite』のプロ選手に転向。昨年2022年よりふたたび『Apex Legends』のプロ選手として活躍している。
Snip3down氏は11月21日、「ゲームを楽しむことはもはや過去の出来事のように感じられる」と投稿。注目を集め、『Apex Legends』のプロ選手やeスポーツの業界人を含めさまざまな反応が集まっている。なおSnip3down氏は続けて、上記の発言は「ゲームをプレイすることに対する個人的な葛藤から」であると強調。昨今のすべてのゲームに対して「楽しめない」と否定したわけではないようだ。つまり、同氏がプロ選手として取り組んできたゲームを最近は楽しめていなかったとの発言だろう。ちなみに同氏がかつて所属していたeスポーツチームTSMの元チームメイトImperialHal氏も反応。「歳をとったからだよ」と皮肉な返答をしている。
なおSnip3down氏はこの投稿に先だって、『Apex Legends』に先日実装された新期間限定モードであるスリーストライクを「ここ数か月で一番楽しいコンテンツだ」と称賛していた。同モードは本作のほかのモードと比べて仲間の蘇生が容易であり、部隊が全滅しても2度まで復活できるなどカジュアルなバランスだ。同氏は同モードを期間限定ではなく常設してほしいとの要望を述べており、本作をこれまでよりもカジュアルに遊びたいといった想いも垣間見える。
『Apex Legends』では競技性の高いランクマッチのほか、いわゆるカジュアルマッチやさまざまなモードを遊べるミックステープなども存在。一方でいずれのモードでもマッチングの公平性を保つためとして、プレイヤーのスキルに基づいたマッチメイキングシステムが採用されている。従来はSBMM(スキルベースマッチメイキング)と呼ばれる仕組みが用いられていたものの、今年に入ってからアルゴリズムを用いた新たなシステムが導入。いずれにせよ、本作ではカジュアルなモードでも「腕前の近いプレイヤー」とマッチングしやすい仕組みが用意されてきた。
SBMMなどのプレイヤースキルに基づくマッチングシステムは、『Apex Legends』に限らず近年オンライン対戦ゲームでは採用されることの多い仕組みだ。腕前の近いプレイヤー同士をマッチングさせるため、特に新規プレイヤーがゲームを楽しみやすいといった効果が見込まれているのだろう。一方で上級者同士がマッチングしやすくなることで「ランクマッチと変わらない苦戦を強いられる」点にはしばしばユーザーやプロ選手、ストリーマーなどによる不満も見られる。SBMMのせいで気軽に遊べるモードがなくなるといった意見もあるわけだ。そうした中では、SBMMを採用しないことをアピールするゲームも現れている(関連記事)。
先日には開発者のMax Hoberman氏が、最近の対戦ゲームでのSBMMの用いられ方を批判し、注目を集めていた。同氏は『Halo 2』『Halo 3』でマルチプレイ/オンラインのリード開発者を務めた人物だ。同氏が過去に携わった作品ではカジュアルマッチだけでなくランクマッチでもマッチメイキングシステムを分け、意図的に「互角に戦えない試合」が発生するようにしていたとのこと。同氏は持論として、互角に戦える試合だけでなく、劣勢に陥りやすい試合やあっさりと勝てる試合もバランスよく存在することが理想であると述べている。これは互角に戦うことになる試合はプレイヤーに過度の緊張やストレスをもたらすといった考えに基づいているそうだ。
一方でMax氏は、最近の作品のSBMMの用いられ方ではプレイヤーが常にストレスのかかる試合を強いられ、また上級者が隔離されるような状況を生んでいるといった見解を明かしている。同氏はプレイヤーを分け隔てることなく、腕前に関わらず楽しめる調整が理想であると考えているとのこと。今回のSnip3down氏の呟きなども見るに、昨今の作品のマッチメイキングシステムでは、一部上級者に長く遊び続けるゲーム内で“息抜き”できなくなる悩みを生じさせているのかもしれない。
eスポーツが国内外で人気を高めている昨今、オンライン対戦ゲームにおいては競技シーンの盛り上げや競技性のアピールも重要な戦略だろう。運営においては新規プレイヤーの獲得も重要であり、ゲームの運営元・開発元によってSBMMなどさまざまな施策が講じられる。一方で、こうした仕組みは長く遊び続けるプロや上級者の不満を生む側面もみられ、マッチメイキングシステムのバランスは長期サービスの続く対戦ゲームの課題であるだろう。