自民党議員、eスポーツ支援で「キリング(殺し合い)ゲームは支援できない」とシューターへの立場示す。しかし本人は「自分の発言ではない」と否定【UPDATE】
産経新聞は10月30日、自民党所属の衆議院議員である山下貴司氏におこなった取材内容を公開した(産経新聞)。山下氏は政府や自民党がeスポーツの支援について前向きであることを強調した一方で、FPSなどの“キリング(殺し合い)ゲーム”の支援は難しいとの見解も示した。
山下氏は元法務大臣であり、現在は自民党スポーツ立国調査会に設置されたバーチャルスポーツ推進プロジェクトチームの座長を務めている。山下氏は産経新聞の取材に対し、自民党スポーツ立国調査会や超党派の議連で議論をしていきたいと、eスポーツ支援に引き続き取り組んでいく考えを示した。
政府は近年、eスポーツ選手強化の方針を打ち出し、支援の動きを強めていると共同通信が報じている。自民党もバーチャルスポーツ推進プロジェクトチームを2022年11月に設置するなど、eスポーツを意識した取り組みが継続されている。
また山下氏は、eスポーツの支援によって地方創生やIT人材の強化といった波及効果があると答えた。地方でおこなわれるイベントは多く、たとえば11月25日、26日には鹿児島県で「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2023 KAGOSHIMA」が、栃木県では12月17日に「とちぎeスポーツフェスタ」が開催される。eスポーツのイベントが地方で開催されれば、集客などによる経済効果が見込めるだろう。
そうした行政などの支援やeスポーツ業界の盛りあがりがありつつも、“キリング(殺し合い)ゲーム”であるFPSなどには支援はできないだろう、と山下氏は語る。このゲームジャンルによる扱いの違いは、国際オリンピック委員会(IOC)のスタンスとも共通している。
今年10月、IOCの会長トーマス・バッハ氏は、インド・ムンバイで開催された「第141回IOC総会」にて、新たにオリンピックのeスポーツ大会の創設を検討しているとした。加えてバッハ氏は、世界で30億人がeスポーツおよびゲームを遊んでおり、その多くが34歳以下の若年層だと指摘した。
そして30億人のうち、5億人以上がバーチャルスポーツやスポーツシミュレーションを含むeスポーツに興味があると推定される、とバッハ氏は語った。IOCとして積極的にeスポーツを取り上げる姿勢を示しつつ、その主眼はあくまで「若年層にスポーツやオリンピックへの関心を高めること」にあるといえる。その興味を持ってもらう過程に、仮想空間などでスポーツをおこなうバーチャルスポーツや、スポーツシミュレーションゲームがあるのだろう。
また過去には2023年3月から6月にかけて「オリンピックeスポーツシリーズ」が開催された。当大会ではバーチャルスポーツとして、仮想空間でテコンドーをおこなう『Virtual Taekwondo』や、仮想世界でサイクリングができる『Zwift』などが選ばれた。身体的な活動を伴わないスポーツシミュレーションとしては、『グランツーリスモ7』や『WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球』が採用されている。
そして射撃の種目には『フォートナイト』が選ばれている。しかし「オリンピックeスポーツシリーズ」では本来のゲームプレイ通りに、実際に対人で撃ちあうことはない。専用ステージで的を撃ち建築をおこなうというルールが設定されており、いわゆる“キリングゲーム”の面は取り除かれ、スポーツ射撃競技が反映されたデザインとなっている。ゲーム内の表現といえども、暴力に繋がるとされる表現はオリンピックの場にそぐわない、という思想なのだろう。
このようにオリンピックにeスポーツを積極的に取り入れようとする動きこそあるものの、扱われる種目は、あくまで現実の競技の再現や延長線上にあるものが多い。山下氏も、こうしたIOCのeスポーツに対する方針に足並みを揃えるかたちで、“キリングゲーム”の支援に否定的な発言をおこなったと見られる。
とはいえ基本的にゲーム内で起きる出来事はフィクションだ。現実に誰かを傷つけるわけでもなければ殺してしまうわけでもない。政府及びIOCには柔軟な対応が期待される。
【UPDATE 2023/11/7 13:27】
山下貴司氏は11月7日、自身のXアカウントにて「“キリング(殺し合い)ゲームは支援できない”との発言はIOCのスタンスについて説明したのみであり、自身の発言ではない」とコメント。産経新聞の報道内容を一部否定した。あわせて本稿の見出しを一部変更している。