サイバーパンクな街で屋台を切り盛りする『Nivalis』開発者インタビュー。8時に起きて食材を仕入れ夜は殺人鬼に恐怖する……謎めいたゲーの詳細を訊いた
デベロッパーION LANDSは2021年5月25日、サイバーパンク・ライフシム『Nivalis』を発表した。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)。同作は、同デベロッパーが手がけた前作『Cloudpunk』の舞台となる都市「Nivalis」の名を冠したタイトルだ。
前作は、Steamストアレビューにおいても1万1478件中88%の好評を得て「非常に好評」のステータスを獲得するなど、多くの反響が寄せられたタイトル。『Nivalis』は、そんな前作と世界観を共有する、同デベロッパーにとっての新作タイトルだ。アドベンチャーゲームであった前作から、本作では新たにライフ・シミュレーターというジャンルへの変化を遂げている。
そんな『Nivalis』は、9月20日にパブリッシャー505 Gamesが開催したメディア向け新作試遊イベント「FUTURE PLAY 2023」に出展。同イベント、および東京ゲームショウ2023(TGS 2023)TGSにて、日本国内向けの試遊プレイを初公開した。これにともない、開発を手がけたゲームスタジオION LANDSから、スタジオ創設者Marko Dieckmanns氏と開発メンバーRoman Agapov氏がドイツより来日。弊誌では、FUTURE PLAY 2023の会場にてお二人へのインタビューの場をいただき、本作の魅力とその開発エピソードを詳しくうかがった。
――はじめに、お二人の自己紹介をお願いします。
Marko Dieckmann(以下、Marko):
ION LANDSの創設者兼クリエイティブディレクター、Markoです。
Roman Agapov(以下、Roman):
Romanです。ION LANDSではレベルデザイナー兼テクニカルアーティストを務めています。
――ION LANDSについて教えてください。
Marko:
ION LANDSは、2015年に創設されたゲームスタジオです。私個人は2001年からゲーム開発に携わってきました。本スタジオは、美しくストーリー性に富んだゲームを開発することを目標に掲げています。また、私たちはボクセルアートのファンでもあり、開発するタイトルにおいても、そうした表現を採用しています。
――『Nivalis』の開発経緯を教えてください。
Marko:
前作『Cloudpunk』は、サイバーパンクの都市を舞台に、プレイヤーが配達ドライバーとして仕事をこなしながら進行していくゲームでした。そのため、プレイヤーは基本的にストーリー進行というレールに沿うかたちで、世界を移動して回ることとなりました。一度ストーリーを終えた後は街中を自由に飛び回ることも出来ましたが、それはあまり魅力的なものではありませんでした。私たちは、プレイヤーにもっと多彩な楽しみ方を提供したかったのです。そこで、同じ都市(Nivalis)を舞台にした、ライフシミュレーターならどうだろうと考えました。具体的には、レストラン経営を軸に生活を営んでいくゲームで、そこに興味深いストーリーも加えています。
――公開されたトレイラーを拝見して、本作でも広大なオープンワールドが楽しめそうだと感じました。本作のゲームプレイにおいて、プレイヤーはどういったゲームの流れを辿っていくのか詳しく教えてください。
Roman:
『Nivalis』は、レストラン、クラブ、バーといった飲食店経営を通して、サイバーパンク・シティでの日常生活が体験できるゲームです。具体的には、プレイヤーが店主となって、そこで働く従業員を雇ったり、クビにしたりといった人材管理をはじめとして、さまざまな業務をこなしていきます。また、店舗でどんな料理を提供するのか、テーブルや座席などをどのように配置するかもプレイヤーの裁量次第です。経営する店舗を効率的に稼働するようマネジメントすることで、より多くの来客と収益が得られます。徐々に経営規模を拡大していくことも可能で、そうした店舗経営を進めていくうちに、プレイヤーは次第にNivalisの生活に溶け込んでいくことになります。
Marko:
生活リズムで言うと、プレイヤーは毎朝8時に目覚めるところから一日が始まります。それから朝刊を読んで、ニュースをチェックしたりします。舞台となるNivalisには、シリアルキラーが紛れ込んでいるとの話もありますからね。このため、街は一部隔離されたような状態にあります。
ゲームの始まりは、プレイヤーがタデウスという謎の多い人物と出会い、ラーメン屋を引き継ぐところから始まります。Nivalisには、彼以外にもさまざまなキャラクターが生活しており、一人一人と会話を繰り返す内に、その関係性も変化していきます。ロマンチックな関係を築いたり、敵対したり、ビジネスパートナーや商売敵を見つけることもあるでしょう。
店舗経営においては、客に提供する料理と食材の確保が欠かせません。はじめは食材を仕入れていても、「出費がかさんで採算が取れない」と思うときがやってくるでしょう。そうなった時には、プレイヤー自ら野菜を栽培できる、グリーンハウスがあります。そこには食用肉を“刷る”ことができる3Dプリンターもあるので、そこで肉を調達することもできます。
そうした仕事をこなす内に夜が来て、深夜1時を迎える頃には帰宅するよう警告が流れます。前述した隔離状況のため、Nivalisの住人は深夜2時から朝8時までの外出が禁じられているのです。朝を迎えるまでの間、街では一体何が起こっているのか。それは誰にも分かりません……(笑)
――サイバーパンクの世界で「生活する」という本作のコンセプトにはとても興味をそそられます。こうしたアイデアはどのようにして着想を得たのでしょうか。
Marko:
日本人の皆さんは、既にサイバーパンクな世界で暮らしているのではないでしょうか。……というのは冗談です(笑)日本の方々は、みな親切で好意的に感じています。しかし、もしサイバーパンクの世界が存在するとしたら日本という国、そのなかでも東京は、非常に近い位置にあるんじゃないかと思います(笑)
――(笑)そうかもしれません。
Marko:
本作の着想は、これまでにサイバーパンクの世界で生活を楽しむような作品がなく、私たち自身がそういった作品を求めていたことが出発点になっています。サイバーパンクを題材とするゲームの多くは、ダークな雰囲気であったり、暴力描写を含むものだと思います。しかし私たちは、銃撃戦を起こしたり人を殺めたりすることなく、サイバーパンクの街並みを見て回り、住人との会話を楽しむような、純粋に世界観に浸ることができるゲームを作りたいと考えたのです。
――本作では自由度の高い「生活感」が楽しめそうですね。そのなかでは、何か特別なイベントが発生したりするのでしょうか。
Marko:
はい。Nivalisにはガラの悪い人物や一風変わった人物など、さまざまなキャラクターが暮らしています。プレイヤーは、そんな彼らとの交流を通して、親交を深めていくことになります。なかには、ビジネス上の付き合いとして、コンタクトを取りたくなる人物もいるでしょう。
こうしたイベントは、日中の活動時間のなかでおこなうことになります。まだ厳密に決定してはいませんが、ゲーム内の一日は現実の時間より早く進み、およそ20分ほどのサイクルで進みます。したがって、プレイヤーは「今日は〇〇をしよう」「明日は△△をしよう」と考えを巡らせながら毎日を過ごすことになるでしょう。このように先の予定を考えているうちに「あともう一日プレイしよう、あともう一日……」といった感覚で、気づけば数日経っている。そんな感覚をプレイヤーに抱いてもらうことが、私たちの狙いのひとつでもあります。
――やはりサイバーパンクの都市というと、危険は付き物といった印象があります。本作中では、プレイヤーが危ない目にあうこともあるのでしょうか。
Marko:
いえ、プレイヤーの身の回りで発砲事件が起きたり、何者かが命を奪いにくるような危険はありません。ただ、先にお話ししたシリアルキラーの存在がありますね。これは、プレイヤーが時折その詳細に探りを入れていくと、少しずつ身の危険を覚えるような脅威ですが……今お伝えするのはここまでとしましょう。
また、Nivalisにはディストピアという側面もあり、そこには街を監視するCORPSECもいます(前作『Cloudpunk』にも登場した警備組織)。彼らの行動原則は金儲けが第一、市民の生活など二の次です。時にはそんな彼らに不満を覚えることもあるかもしれません。登場する厄介事はおよそこのくらいでしょう。本作は、基本的にのんびりとくつろぎながら楽しめるゲームです。この点は一般的なサイバーパンク作品と比べて、かなり対照的であると思います。
――本作において、なにかプレイヤースキルを求められる場面はありますか。
Marko:
いえ、特別なスキルは必要としません。強いて挙げるとすれば、レストラン経営におけるマネジメントスキル、判断力といったところでしょうか。ボートを操縦するような場面もあるものの、それもシンプルな操作で楽しめます。本作は、アクションゲームのように何かを競い合うゲームではありません。店舗経営においてはしのぎを削りあう競合店も存在しますが、基本的にはプレイヤースキルが求られる場面はないでしょう。
――Romanさんがレベルデザイナーとして、本作の開発においてもっとも苦労した点を教えてください。
Roman:
やはり、ひとつひとつ特色のある区画を制作する工程に苦戦しましたね。前提として、それぞれの区画や街並みは「すべて同じ世界の中にある」と感じられるものでなければなりません。その一方で、区画ごとにそれぞれ異なった印象を与える景観を作り上げたかったのです。これらを両立していくこと自体が、本作の開発における挑戦のひとつでもありました。
また、ゲームプレイを想定してフィールドをどのように最適化していくか、といった点でも頭を捻りました。具体的には、街を歩くプレイヤーの動線を想定して、極力フィールドの行き止まりを排したり、プレイヤーが目的地とした場所へ、自然と向かうことのできる構造を念頭にデザインしました。
Marko:
これらに加えて、動作上のパフォーマンス最適化といった課題もありましたね。本作では高解像度のアセットを使用して、それぞれの建築物もより詳細に描写しています。すべてではありませんが、街のなかには内部を歩いて回れる店舗や建物もあります。これらは区切られたシーンではなく、すべて同じ空間内に描写されています。したがって、屋内から窓の外を見れば、通りの様子をうかがうこともできます。こうした動作のパフォーマンス最適化には、かなりの時間を要しました。店舗経営シミュレーションパートもふくめて、今後も引き続き最適化を進めていく予定です。
――本作では、サイバーパンクの都市をボクセルで表現するというユニークなアートスタイルを取り入れていますね。アーティストを務める開発メンバーには、どのような依頼を出して制作を進められたのでしょうか。
Roman:
アーティストには、はじめにアセットを配置する区画の大まかなアイデアや、関連情報をいくつか伝えておいて、基本的に自由な発想で制作を進めてもらいました。そうしてあがってくる原案を私がチェックして、軽い修正案を提示していくながれです。最終的には街灯やネオンといった小物を加えながら全体像を調整していきました。アセットごとの制作期間は、およそ2~3週間ほど。出来上がったアセットは、専用の開発ツールでインポートしてゲーム内へ組み込んでいきました。
――人気を博した前作『Cloudpunk』や、本作の開発を通して学んだことがあれば教えてください。
Marko:
『Cloudpunk』の開発を通して、私たちはたくさんのことを学びました。ゲーム市場やゲーマーたちの動向であったり、私たちの手がけたゲームに対するプレイヤーの反応であったり、その内容は多岐に渡ります。今回のようなイベントやTGSへの出展も、私たちにとって大きな学びの機会になっています。本作の開発経験についても同様ですね。
なかでも、プレイヤーたちの反応を観察することで、非常に多くの知見が得られました。プレイヤーたちがどんな風にゲームをプレイしているのか、どんなことがプレイのモチベーションに繋がるのか、どういった要素を気にいるかなど、そこには常に新しい発見がありましたね。
また、主にゲームのパフォーマンスの面において、開発を進めるうえで上手く「折り合い」をつけていくことの重要性も学びました。開発当初、私たちは非常に広大なオープンワールドを実装したいと考えていました。しかし、開発を進めていくなかでゲームエンジンの限界や、技術的な制約といった問題に直面することとなりました。残念ながら、私たちが思い描いていたすべてと、安定したパフォーマンスを両立することは困難を極めました。したがって、私たちは作品をよりよいものとするため、開発の中で常に適切な妥協点を見定めていく必要があったのです。
――前作『Cloudpunk』から本作にかけての大きな変化、あるいは改善点などを教えてください。
Roman:
レベルデザインにおいて、Nivalisは前作と比較してかなり異なった開発プロセスを辿ることになりました。前作『Cloud Punk』は、言うなれば小さな島々によってオープンワールドを構成していました。一方、本作では街路樹をはじめとした多彩なアセットやライティング、環境エフェクトなど豊富な素材を詰め込んで、より緻密な描写をおこなっています。結果として、前作とは違ったアプローチで開発を進めていく必要がありましたね。
本作での改善点としては、ビジュアル面、特にライティングに大きな変化が加わりました。前作では、作中で統一されたライティングを採用していましたが、本作ではそれらを刷新してしています。本作の開発過程でシェーダーを用いたライティングスキルも向上したように思います。
また、私個人としては、規模の大きいチーム内でどのようにゲーム開発を進めていくか、を学ぶことができたように思います。私にとっては、本作がはじめての大規模チームによる開発経験でしたので。
Marko:
前作『Cloudpunk』は、一夜の内に起こる物語を描いた作品なので、そこには夜空しかありませんでした。しかし、本作においては昼と夜のサイクルがあり、気候の変化も加わりました。結果として、より多くのメンバーで開発を進めていく必要がありましたね。大規模チームでの開発は、時として進行にボトルネックを生じさせることもありました。Romanが述べたように、私たちはそうした問題への対処も学ぶことができたと思います。
また、私たちは両作品の開発を通して、ボクセルアートの分野で熟練したスキルを持つ開発チームへ成長を遂げたと自負しています。私たちは当初、キャラクターもボクセルで表現したいと考えていました。しかし、本作においてはそうした表現は適さないと判断しました。これは、ボクセルのキャラクターをアニメーションとして動作させた時に、私たちがプレイヤーに見せたいイメージとかけ離れてしまうと考えたためです。このため、本作では3Dのキャラクターモデルとボクセルを組み合わせた表現を採用しており、より多くのプレイヤーが親しみ易いビジュアルに仕上がっていることと思います。
――本作の開発ではチーム規模の拡大という変化もあったのですね。現在はどれくらいの人員で開発されているのでしょうか。
Marko:
現在の開発メンバーはだいたい20人以上です。『Cloudpunk』開発当時のメンバーは7人だったので、私たちにとっては大きな変化と言えると思います。
――そうした変化は、『Cloudpunk』がおさめた成功の影響によるものでしょうか。
Marko:
もちろん『Cloudpunk』の成功の影響もありましたが、505 Gamesとのパートナーシップ契約による影響が大きいですね。開発上、とても助かっています。505 Gamesとの出会いもCloud Punkがきっかけでした。同作のローンチを見た505 GamesのビジネスマネージャーAlberto Torgano氏から、私たちへのコンタクトがあったのです。『Cloudpunk』のローンチは、当初思ったように上手くいっていませんでした。しかし彼は、当時から私たちへ手を差し伸べてくれていました。彼はその後も、私たちがリリースした『Cloudpunk』のDLC「Ghost of City」の動向も見守ってくれており、そうして本作では505 Gamesとするパートナーシップ契約を結ぶはこびとなりました。
――最後に、日本のゲーマーに向けてメッセージをお願いします。
Marko:
日本の皆さんにお伝えしたいことはただひとつ。Nivalisの世界やそこで過ごす時間を、難しいことは考えず、純粋に楽しんで欲しいということです。Nivalisという都市独特の雰囲気は、他ではきっと味わえない、特別な体験を皆さんにお届けできると思います。
――本日はインタビューの機会をいただき、ありがとうございました。
『Nivalis』は、PC(Steam/Epic Gamesストア)向けに2024年発売予定だ。