『かまいたちの夜』コラボのなぞともカフェに脚本の我孫子武丸が来店、遊びを通した出会いのエンタメ
今年4月、東京・渋谷に、なぞともカフェ428(シブヤ)店がグランドオープンした。その際、渋谷店で先行スタートした目玉コンテンツが、サウンドノベル『かまいたちの夜』のアナザーストーリーだ。謎解きイベントとコラボすることで、みんなで楽しめるミステリーを提供している。今回、なぞともカフェの運営元である株式会社ナムコと、『かまいたちの夜』を世に送り出したスパイク・チュンソフトの協力で、同作の脚本を手がけた推理作家、我孫子武丸氏ご本人の来店が実現。遊びを通して出会いの場を提供するエンターテイメントを同行取材した。
なぞともカフェは、体感型の謎解きイベントと飲食物を提供するエンターテイメント施設。CUBEと呼ばれる個室に、それぞれテーマや難易度が異なるリアルゲーム(プレイヤーが物理的に参加する体感型ゲームの総称)が用意されており、4名までの複数人で一緒に謎解きが楽しめる。4月28日、午後4時28分、渋谷に428(シブヤ)店がオープンしたばかりだ。コンテンツは3か月ごとに更新しており、新しい企画やゲームが随時追加されていく。5月27日には、TVアニメ「おそ松さん」とコラボしたストーリー体験アトラクションや、店内周遊型の謎解きイベントが登場した。また、各店舗ごとにコンテンツの差別化を図っているため、場所によって異なる体験が楽しめるのも特徴だ。
こんや、ふたたび、だれかがしぬ
『かまいたちの夜』は、1994年にチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)からスーパーファミコン向けに発売されたサウンドノベルゲーム。チュンソフトのブランドデビュー作『弟切草』に続くサウンドノベルシリーズ第二弾で、アドベンチャーゲームと小説を融合したジャンルの草分け的存在といえる。脚本を担当したのは、「8の殺人」や「殺戮にいたる病」など、数々のミステリー小説を世に送り出してきた推理作家、我孫子武丸氏。開発の経緯として、よりミステリー色の強い作品を目指したチュンソフトが、複数の推理作家に手紙でアプローチした際に、『ドアドア』(1983年に発売されたアクションゲーム)から同社のことを知っており、相当のゲーム好きだった我孫子氏が自ら歩み寄ってくれたといわれている。なお、タイトルの“かまいたちの夜”は、我孫子氏がデビュー前に執筆した小説から取られたもの。内容は異なるが、雪山の建物で殺人事件が起きるというコンセプトも、結果的にゲームへと継承されている。
ナムコとスパイク・チュンソフトのコラボで実現した「かまいたちの夜 ~アナザーストーリー~」は、4人までのプレイヤーが同時に参加できる謎解きゲームだ。内容は原作の1年後という設定で、主人公の「透」とガールフレンドの「真理」が再びペンション「シュプール」に訪れるところから物語は始まる。コンテンツ制作はナムコが担当しているが、ゲーム音楽や背景画像にはスパイク・チュンソフトから提供された原作のアセットを用いており、ゲームデザインは当時のままだ。そんな22年ぶりに蘇った初代『かまいたちの夜』の舞台に、参加者自身が事前に入力した名前を使ってゲーム内に登場する。サウンドノベルの形式をそのままに、特定の行動を取る人物を決める際には、室内に用意された4枚のカードを使ってアナログ形式で決定するなど、パーティーゲームの要素を取り入れている点が特徴だ。
原作の『かまいたちの夜』は、プレイヤーの選択肢によって物語が全く異なる方向へ展開していく。なぞともカフェのアナザーストーリーも同様のゲームデザインなのか。プレイ後にナムコの担当者に話を聞いた。選択肢によって事件の真相に近づくための情報量に違いは出るが、原作のように犯人や犠牲者が変わったり、物語自体が別ジャンルに変貌したりといった分岐はないとのこと。どれを選んでも事件はたった一つの真実に向かって収束していくようだ。定期更新を前提としたコンテンツであるため、至極シンプルな仕上がりに落ち着いているのは当然といえる。一方で、体感型エンターテイメントとしての可能性を秘めていることも否定できない。「(アナログのカードを使って)何かできそうな気がするんですよね。ここ(カードが置かれた卓上のこと)でも何かしらのゲームが行われてもいい気がします。今のところ、(カードは)直接関わってきませんよね。犯人(となるプレイヤー)も自分が犯人であると最後まで分からないし」と、我孫子氏は語る。
「システムに惹かれるものはあります。最近、アナログなゲームが流行っているじゃないですか。リアル脱出ゲームもそうなんですけど、何か組み合わせたらさらに面白いことができそう。4人くらいで来て、ある種の戦いというか戦略があって、今日は誰かが勝って、また来たくなる。何かそういうことができれば」。ナムコによると、当初は我孫子氏が語るような案もあったのだとか。特定のプレイヤーが自分を犯人だと分かっていて、真実を隠すような行動や嘘の証言で他を翻弄するようなゲーム性。たとえば、犯人役のプレイヤー以外が全員犠牲になるか、それまでに犯人が特定されるかを競い合う3対1の推理対戦ゲームが考えられる。もし次回作を展開するとしたら、新たな可能性にも挑戦していきたいと、ナムコ側もコメントしている。
なお、「かまいたちの夜 ~アナザーストーリー~」の脚本に、我孫子氏は直接携わっていない。一方で、なぞともカフェの従業員の印象では、利用者には原作ファンが比較的に多いとのこと。もしかしたら、中には推理作家、我孫子武丸が手がけたシナリオを期待して来店するミステリー愛好家もいるかもしれない。この件に関しても真意を聞いた。ナムコとしては、可能なら本人に依頼したかったが、サウンドノベル形式の体感型ゲームという初の試みということもあり、今回は様子を見る形で内部の制作チームだけで完結させたとのこと。活字を読むというゲームの特性上、シナリオの作風はファンが最も注目する点だろう。そういう意味でも、将来的にはぜひ協力を依頼したいと説明している。
なぞともカフェは、ゲームそのものを楽しむエンターテイメント施設というよりは、大人が自宅以外で一緒に遊べる場所、むしろカラオケ店のような存在に近い。利用者の多くは仕事帰りの女性客とのことで、中には企業のミーティングに利用したり、婚活パーティーの一部として活用したりする例もあるという。特に、「かまいたちの夜 ~アナザーストーリー~」のように4人でのプレイが推奨されているゲームでは、お互いの距離が縮まるという特性を生かして、アイスブレーク目的の利用が多いようだ。また、月に1回、あらかじめ告知をした上で初対面の利用者同士をマッチングさせる“友達作ろうデー”なるイベントも開催しているとのこと。まさにカラオケに代わるアーバンレジャーの一つとして、遊びを通して出会いの場を提供するエンターテイメントを目指している。
コンテンツは、1ヶ月に1つから2つのペースで新しいものが追加される。常に入れ替わっていくので、中には短いもので3ヶ月程度で終了してしまうタイトルもあるとか。難易度に関しては、「かまいたちの夜 ~アナザーストーリー~」のようにプレイ後に真相が分かるゲームもあるが、そうでないものは初見でクリアできる割合がおよそ1割から2割だという。特筆すべきは、攻略率が低いからといって決して1つのゲームを追求させることが目的ではなく、むしろバラエティ豊かなコンテンツの中から毎回異なる体験を提供することに主眼を置いていることだ。それは、なぞともカフェの主役がゲームそのものではなく、あくまでもカジュアルな社交場の提供であることを意味しているのかもしれない。ソーシャルネットワークが日常化した現代で、希薄になりつつあるアナログ世界の意思疎通を、あえてデジタルの文化で復権させようとする試みに、まさに“遊び心”が現れているのではないだろうか。
[聞き手 Ritsuko Kawai]