アメリカのゲームレーティング団体ESRBが、保護者の本人確認のためにAIによる顔認証年齢判別システムの導入を検討。ユーザーの不安な声に対して個人情報への配慮を強調
米国・カナダのレーティング団体ESRBは、「顔写真を撮影してAIによって年齢を判別し、保護者の本人確認をおこなう」新たなシステムの導入を検討しているという。これを受けたユーザーの不安に対して、ESRB側は海外メディアPC Gamerを通じて釈明をおこなっている。
ESRB(Entertainment Software Rating Board)はアメリカおよびカナダでゲームのレーティングをしている団体だ。1994年に設立され、ゲーム内容がどういった年齢区分に適しているか審査・分類をしているほか、ゲームのペアレントコントロールに関する啓発もおこなっている。日本におけるCEROに相当する団体といえる。
そのESRBが7月2日にFTC(連邦取引委員会)に提出したのが、新たな年齢認証システムだ。まず前提として、アメリカにはCOPPA(児童オンラインプライバシー保護法)という法律がある。13歳未満の子供が触れるコンテンツや、ユーザーデータの収集に厳しい規制をかけるものだ。過去にはEpic Gamesがこの法律に違反したとしてFTCに訴訟を起こされ、COPPA違反に対しての2億7500万ドルを含む、合計5億2000万ドルの和解金(当時のレートで約714億円)を支払う事態になったこともある(関連記事)。YouTubeなどの大企業がCOPPAに違反しないように規約を改訂するなど、アメリカでオンラインサービスを展開する企業は慎重に扱っている法律の一つだ。
ESRBが導入を検討しているシステムは、13歳未満の子供が保護者の同意を必要とする際、カメラでユーザーの顔を撮影。AIを用いて解析し、その年齢を判別できるといった仕組みだ。従来の社会保障番号、運転免許証、クレジットカードの登録といった手段とは別に、AI認証を可能にすることで利便性や正確性を向上させるのが狙いと見られる。なお通常の顔認証と違い、あくまで判別されるのは顔からAIによって推測される年齢だという。これで25歳以上と判定されれば、書類やIDがなくとも保護者である確認ができるそうだ。顔から18歳未満と判定されれば自動的にシステムに弾かれ、18~25歳と判定された場合も、正確性を担保するため別の認証方法を使用するように誘導される。FTCに提出された認可申請によると、年齢判別の正解率は99.97%とのこと。精度の高いシステムであると強調されている。
このシステムを巡り、FTCは7月19日に「パブリックコメント」の募集を始めた。広くこのシステムの存在を周知し、それに対する意見を問うかたちだ。それを受けてメディアやユーザー間にはさまざまな懸念が渦巻いた。認可申請においては、プライバシーへの配慮は明記されていたものの、自分の顔のデータを送ることには抵抗をもつ人が多かったのだろう。
こうした懸念を受けてか7月26日、ESRBの広報担当者はPC Gamerを通して、プライバシーの配慮について強調している。ESRB側は顔写真をデータで保存することはなく、AIの学習データとしての利用や第三者への提供は起こらないと説明。顔写真データはリモートサーバーにて処理され、情報はVPC(仮想プライベートクラウド)を通じて企業に送信。この際送信される情報は、顔が25歳以上かどうかの判断だけだと述べている。さらに、顔データはあくまでCOPPAの法令遵守の確認のために利用されるだけであり、ユーザーの情報と紐づけられることはないとした。
ESRBが新たに導入を検討している顔写真に基づく“保護者”の判別システム。パブリックコメント募集後にはユーザーから強い懸念が示されており、今回PC Gamerを通じてESRB側はプライバシーへの配慮を強調している格好だ。今後のFTCの判断やシステムの行方が注目される。