ゲームの3Dモデルにある“テクスチャの変な継ぎ目”の原因を、CG講師が解説し注目集める。仕組み上ほぼ仕方がない
CGアーティスト/講師のThomas Smith氏は5月17日、「3Dモデルに目立つ“テクスチャの継ぎ目”が生じる理由」を解説。3Dモデルの制作手法に触れつつ、継ぎ目の発生原因を丁寧に解説した内容が注目を集めている。
Thomas氏はアーティスト向けのオンライン講座サイトStylized Stationの設立者であり、同名のYouTubeチャンネルにてゲームのグラフィック解説を中心にさまざまな動画を投稿している。アートやCG制作に造詣の深い人物だ。
Thomas氏はまず、Twitter上で「大規模作品含め、ゲームのなかでテクスチャ上に“変な線”が出ているのが気になったことはある?」と投稿。続けて『Apex Legends』や『原神』などのスクリーンショットを投稿し、3Dモデルに発生する“目立つ継ぎ目”の例を紹介した。同氏は、こうした継ぎ目が発生するのは「開発者の怠慢ではない」として、その発生原因を解説した。ツイートには2.4万いいね・4000RTが寄せられ、注目を集めている。
Thomas氏は前提知識として、3Dモデル制作におけるUVマッピングについて説明している。3Dモデルにおいて表面の質感や模様を表現したい場合には、テクスチャが用いられる。そしてUVマッピングとは、UV座標系を用いて3DCGモデルにテクスチャをマッピングする(貼り付ける)ことを指す。
手順としては、XYZ軸で表現された3Dモデルのポリゴンメッシュを、UV軸での2D平面に展開。そこにテクスチャを貼り付けて、ふたたび3Dの立体に組み立て直すようなイメージだ。サイコロの3Dモデルを例に取ろう。サイコロは立方体であり、切り開けば6つのマス目が並ぶかたちになる。これが3Dモデルのポリゴンメッシュを平面に展開したかたちだ。そこに、テクスチャであるサイコロの目を貼り付けていく。すると、元の立方体に組み立てればサイコロの3Dモデルが出来上がるわけだ。これがUVマッピングの考え方だ(なお、四角い平面で構成された立方体の3Dモデルであっても、実際は三角ポリゴンの組み合わせで構築したりもする)。
Thomas氏によれば、シンプルな幾何学的形状の立体であれば、UVマッピングで生じる継ぎ目を上手く配置して見えなくするようなテクスチャマッピングは難しくないようだ。一方で、岩などの不規則な形状の立体では話は変わってくる。不規則な形状の立体では、継ぎ目を配置する際に最適な場所が存在しないとのこと。そのためテクスチャマッピングの際に継ぎ目が目立つ部分が生じてしまうことは避けられないという。
そこで3Dアーティストたちは、工夫を凝らして3Dモデルの継ぎ目を隠しているそうだ。たとえばThomas氏が例に挙げた『Apex Legends』の別の岩には大きなヒビが入っており、この部分に継ぎ目が隠されているという。3Dモデルにこうした切り立った角を用意することで、テクスチャを割り当てた際の継ぎ目が目立たないようにできるとのこと。そのほか、3Dモデルの下の面に継ぎ目を隠すことも可能。また同氏はそれができない丸い岩などのモデルでは、岩や草や茂みといったほかのオブジェクトで継ぎ目を隠す手法もあると説明している。
継ぎ目を隠すためにさまざまなアイデアが用いられている一方で、Thomas氏いわく、近年ではアルゴリズムや関数を用いてテクスチャを自動生成する技術(Procedural texturing)も開発者間で人気が高まっているそうだ。自動生成技術においては、テクスチャが3D空間内のそれぞれの座標に基づいて直接生成されるという。つまり従来のUVマッピングのように、2D画像を3Dモデルの形にあわせて加工しつつ包み込む必要がないそうだ。テクスチャの自動生成技術では、3Dモデルの形状ピッタリの画像をそのまま生成できるのだろう。同氏によれば、自動生成技術ではモデルの形状がどれほど複雑かつ不規則であってもテクスチャがモデルの表面全体を自然に流れるように生成されるとのこと。
ただし、テクスチャの自動生成にも独自の課題はあるそうだ。そもそもとして複雑なアルゴリズムが必要となるほか、目当てとする特定のテクスチャを作成したり細部の描写を調節したりする際にも困難を伴うという。そうした課題はあるものの、テクスチャの自動生成は3Dアーティストが利用できる手法のひとつとなっているそうだ。
UVマッピング手法において、3Dモデルにどうしようもなく生じてしまいがちなテクスチャの継ぎ目。ポリゴン数やテクスチャ解像度の増した現代のゲームでは、不自然な継ぎ目はさらに目立ちやすくなっている側面もありそうだ。そうしたなかでは、ゲームにおいて重要とならないオブジェクトであっても継ぎ目隠しに気を配りながら制作される場合もあるだろう。ゲーム内で滑らかなオブジェクトを見かけた際には、開発元の並々ならぬ努力に思いを馳せてみるのもいいかもしれない。