「マルチ対戦ゲームは、プロゲーマーの意見を聞いてから開発すべきか否か」議論勃発。元プロで現ゲーム販売側の人物が一石を投じる

『Apex Legends』の競技シーンでキャスターを務めてきた人物が「マルチプレイ向けゲームの開発者はプロ/ハードコアゲーマーの意見を聞いてから開発すべき」との主張を投じ、議論を巻き起こしている。

『Apex Legends』の競技シーンでキャスターを務めてきた人物が「マルチプレイ向けゲームの開発者はプロ/ハードコアゲーマーの意見を聞いてから開発すべき」との主張を投じ、議論を巻き起こしている。その人物はシューター作品の元プロ選手でもある、FallouttことJon Kefaloukos氏だ。

*昨年のALGS Championship時のツイート

Jon Kefaloukos氏は、かつてシューター作品の競技シーンにてプロ選手として活躍。現在はマイクロソフトにてゲームマーケティング関連の要職につく人物だ。2008年から2015年にかけて、Fallouttのハンドルネームで『Gears of War』シリーズの競技シーンを経験。現在はマイクロソフトにてゲームのマーケティング関連の戦略クライアントディレクターを務め、『Apex Legends』の競技シーンであるApex Legends Global Series (ALGS)でキャスターなども担当している人物だ。

Kefaloukos氏は“ゲーム開発現場においてきわめて不人気な意見”として、「プロゲーマーやハードコアゲーマーは開発者と比べて10倍から100倍もの時間をかけてゲームを遊んでいるため、ある面においては、開発者よりゲームをよくする方針への理解が深い」との見解を述べている。一方でマルチプレイ向け作品のゲームデザイナーはその点を認めることがほとんどないと、同氏は考えているそうだ。開発者は(プロゲーマーを含む)ユーザーのアイデアより自分の設計アイデアが正しいと思い込む傾向にある、との主張を開発現場の問題点として挙げている。

なおKefaloukos氏は、プロ/ハードコアゲーマーが開発者に対して一方的に意見を採用させたり、ゲームデザインに関する大きな決定を下したりすべきとは考えていないそうだ。代わりに、開発初期のゲームデザインのアイデア出しの議論に参加してもらい、フィードバックを取り入れるべきであるとの意見を述べている。同氏いわく、現在は大半のケースにおいて、プロゲーマーが開発に関わるのはゲームのリリース直前かリリース後であるという。

つづいてKefaloukos氏は、自身が競技シーンのキャスターを務める『Apex Legends』シーズン17におけるランクマッチの改変についても言及。同作では今シーズンより、ランクマッチにおける獲得ポイントなどに大幅に手が加わった。また内部的な指標であるMMR(マッチメイキングレーティング)などに基づき、公平性のあるマッチメイキングがおこなわれるようになったとされている(公式サイト)。

同作ではシーズン17が開幕して間もないため、Kefaloukos氏は時期尚早であると補足しつつも、同作のランクマッチの改変は自分の主張を“証明”するかもしれないと述べている。同作でのランクマッチの改変は、プロゲーマーの意見を取り入れなかった、あるいは取り入れるのが遅すぎたため失敗する可能性があると示唆しているのだろう。同氏はほかにも、自身の見解からマルチプレイモードの“失敗例”とするさまざまなゲームを上げている。

『Apex Legends』


一方でKefaloukos氏は、『VALORANT』は逆の例だと述べる。プロ/ハードコアゲーマーが開発初期段階で参加し、ゲームデザインの重要な要素を数多く率先して決定したと説明している。たしかに『VALORANT』には、VolcanoことSalvatore Garozzo氏をはじめ、開発陣に『Counter-Strike』シリーズの元プロ選手が複数参加している。

またKefaloukos氏の挙げた『VALORANT』以外にもいくつかプロ/ハードコアゲーマーが開発に関わった事例はある。たとえば『ガンダムエボリューション』では、『サドンアタック』のトッププレイヤーであるObliviousこと堀越亮氏、および同作や『オーバーウォッチ』『PUBG: BATTLEGROUNDS』でもプロ経験のあるVaderこと松島裕樹氏が開発に参加(ファミ通.com)。『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、スマブラSP)では、開発中にaMSa氏やらない氏など複数のプロゲーマー/トッププレイヤーが関わっていたことが報告されている。

『VALORANT』といえば、競技シーンがトップクラスに賑わいを見せているタイトルのひとつ。また『スマブラSP』は2021年12月の最後のバランス調整アップデート以降も非公式コミュニティ大会が活発に開催されるなど、競技シーンの活気が衰えない作品だ。こうした事例を見るに、プロ/ハードコアゲーマーが開発中に携わることで、特に競技シーン向けの作品としての完成度が高まっている可能性もあるだろう。

『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』


Kefaloukos氏はこれからのゲームデザインでは、プロ/ハードコアゲーマーの意見を受け入れられる“謙虚な”開発者が成功する時代が来ることを信じているとしてツイートを締めくくっている。また続くツイートで同氏は、ゲームに心血注いでいる開発者への礼節を忘れず、建設的な議論を続けてほしいともユーザーらに呼びかけている。

Kefaloukos氏の主張には賛同も寄せられる一方で、プロ/ハードコアゲーマーだけでなく、カジュアル層や中間層からも代表者を招いて意見を取り入れるべきとの指摘もある。これに対して同氏は「100%賛同する」との返答を見せているものの、実際のところすべての立場の意見を取り入れてゲームを開発するのは難しいだろう。そもそも同氏が問題点として指摘した、開発元がプロ/ハードコアゲーマーの意見を取り入れないケースでは、ゲームがカジュアル層に重きを置いている可能性も考えられる。

昨今では早期アクセスとしてリリースされるゲームも増え、ユーザーからのフィードバックを募って作られていくゲームも増加を見せている。一方でプロ/ハードコアゲーマーの意見やアイデアを開発初期から取り入れたゲームは比較的珍しく、今後新たにそうしたゲームが登場して競技シーンを盛り上げていくかも注目されるところだろう。ちなみにKefaloukos氏は、Xbox Game Studiosのある作品にて、自分の提唱したような方法でゲーム開発がおこなわれていると伝えている。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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