『恋姫†演武』PC版レビュー 格闘ゲーム感覚の開眼
全国の一部のゲームセンターで好評稼働中の対戦格闘ゲーム『恋姫†演武』の、Steam販売が決定した。5月20日発売で、予約特典は20%割引+サウンドトラック+PC用壁紙。なお、ローカライズおよび海外正式流通は初となる。PlayStation 3・4版の購入をのがした者や、海外格闘ゲーマーにとって、大きな機会となろう。
表面こそ萌え萌えコンテンツだが、本作の格闘ゲーム面は明快で奥深い。行動のメリット・デメリットが明確で、ルールと化すほど堅牢だ。楽な勝利はまったくなく、ゆえに、相手を出し抜く愉悦が大きい。「カコーン!」格闘ゲーム界隈では独特なプレイフィールで名が高く、そのハードコアで古風を意識したゲーム設計は、格闘ゲーマー養成ギプスという評判をもつ。
システム紹介はあるが、それを勝利につなげるチュートリアルはなく、シングルプレイのAI戦を通じて体で学ぶスパルタ式だ。ゲームの魅力にふれるまでの行程が苦行とならぬよう、美少女たちの笑顔にあふれた十分量のコンテンツがある。あとは同レベルの対戦相手をみつけるのみだ。PC版発売をきっかけとし、友人を誘ってほしい。
『恋姫†演武』
価格 3980円
開発元: UNKNOWN GAMES、M2
販売元: デジカ
発売日: 2016年5月20日
プラットフォーム: Windows
※上記情報はPC版のもの。
『恋姫†演武』(以下、恋姫)は成年向け美少女ゲーム『恋姫†夢想』のスピンオフ作品だ。三国志の武将・軍師を女性にした独特の背景で人気を博し、メディアミックスも展開している。
本作もシリーズ背景を踏襲しており、ストーリーモードでは、お色気あり、ガールズラブあり、性行為描写無しといった、ムフフなドラマを展開する。武将は熱血漢で腕っぷしが強く、義と侠に生きる熱き男を思わせるさわやかさ。軍師はその武将をいさめ、手綱を握りながらも、武将に引っ張り回されることもある秀才な忠臣。有り体に言えば、脳筋&ガリ勉コンビだ。番長マンガを想起するドタバタズッコケコメディで、キャラクターや背景に愛着がわく。
それらは本作で存分に堪能できるゆえ、上記の概要にとどめておく。以下に、本作の核となる格闘ゲーム面を記す。格闘ゲーマー向けにPC版の動作環境テストを報告。次に、格闘ゲームそのものに興味をもつゲーマー向けに、ハードコアなプレイフィールとその中毒性を紹介する。
動作環境チェック
PC版はPlayStation 3・4版の移植+海外ローカライズの位置づけだが、Xbox 360版のコントローラでも問題なく動作した。動作必要環境はSteamストアページにあるとおり、ハードウェアスペックをさほど要求していない。なお、PlayStation 3・4版はクロス対戦対応だが、PC版は未対応。対戦シーンの最先端を追い求めるときは留意されたし。
・コントローラ検証
XInput・DirectInput両形式に対応する。Xbox 360版アーケードスティック・ゲームパッド、PlayStation 3版アーケードスティックを認識し、それらの複合環境も問題ない。DirectInput用コンフィグソフトもあり、サードパーティ製互換パッドへのサポートもぬかりない。また、格闘ゲームには不向きだが、Steamコントローラも認識した。なお、PlayStation 3版コントローラDUALSHOCK3は、メーカー公式ドライバがないため検証外とする。
・要求スペック検証
現行のミドルクラスゲーミングPC: AMD FX-8350 + AMD Radeon R9 380X
2年前のゲーミングノートPC: Lenovo Y50(intel Core i7-4710HQ + NVIDIA GeForce GTX 860M)
両スペックともに問題なし。さらに、上記のゲーミングノートで、CPU内蔵GPUを用いた動作も検証した。これはメーカー公式の最低動作環境に近いスペックだが、問題なく動作する。
以上をもって動作環境チェックとする。PlayStation 3・4を所持していないゲーマーにとって福音となろう。ボタン設定はメーカー公式のシステム紹介ページを参照されたし。同時押しボタンはなくてもプレイできるが、入力判定がシビアゆえ使用を強く勧める。
HOUGEKIシステム
『恋姫』の表層レベルは『スーパーストリートファイターII X』から、強烈な技性能、回避不能連携、識別不可能な択一攻撃を徹底的に取り除いたものである。この「無し無しルール」は、今日の格闘ゲーム人気と真逆にあり、ノスタルジーすら感じる。しかし、『恋姫』の独自要素が強烈なプレイフィールをもたらした。カウンターヒット状況で始動する「崩撃コンボ」(以下、崩撃)が、試合の過程を劇的なものにする。
崩撃は属性技でのカウンターヒット成功時に発生し、受けた相手は失神したように直下へ崩れ無防備となる。このときのみ、空中コンボが可能となり。相手を跳ね上げ、壁にたたきつけて引き戻す、といったテクニックでコンボダメージがのびるのだ。
『恋姫』のダメージ単価は低く、通常攻撃が体力の1割弱、連続技でも2割と、逆転性が薄い。しかし崩撃中は別だ。10分ほど練習を要するが、通常時よりも高いダメージが出せる。崩撃中のみ使用可能な超必殺技(演出カットつき)が入れば、体力の半分以上を奪いラウンドの決定打とできよう。
全キャラ共通のレバー1方向+1ボタンで出る中段技・下段技・遠距離技・対空技が、先の崩撃属性技である。まずは相手の近くで振り回してほしい。竹を割ったようなすがすがしい効果音「カコーン!」とともに、相手がヒザから崩れるだろう。通常時の無し無しルールから開放されたカタルシスが試合の過程に印象を残し、プレイヤー両者を崩撃のとりこにする。
飛ぶな死ぬぞ!
シングルモードの序盤は、先に紹介した崩撃属性技を振り回しているだけで、面白いように体力を奪える。だが、中盤以降は崩撃できず、体力を失う機会が増えるはずだ。これはメーカーが意図した難度調整である。崩撃を含めた相手との駆け引き、化かし合いをおぼえなければ先に進めない。実のところ、崩撃は逆転要素ではなく、恋姫の遊びかたから逸脱した行動への「お手つき」である。
Steamストアページのゲーム紹介に「地上戦を主軸としたオーソドックスな格闘ゲーム」とあるが、これはジャンプ行動が死に直結することを意味する。前章で紹介した対空の崩撃属性技は、技の途中から空中攻撃に対して無敵状態を得る。そして当たると超必殺技込みで体力の半分を奪える。初日では難しいが、数日プレイすれば相手のジャンプ攻撃をとがめることができるだろう。
近距離の混戦時に、攻撃判定の発生が速い弱攻撃で、相手のミスにつけこもうとする行動も、本作ではお手つきだ。恋姫は弱攻撃・投げ<中攻撃<強攻撃とレベルがあり、攻撃判定が同時のときはレベルの高い技が勝つ。弱攻撃の後出しは、崩撃技のマトになる。ボタンを無責任にコスるのは厳禁だ。
飛べない。後出し弱攻撃できない。となると、次は技のリーチをおしつける戦いだが、恋姫はこれにも弱点をつけた。攻撃は、ごく一部の技を除きガード成功側が必ず先に動ける。中・強攻撃をガードすると大幅な優位を得るので、前進して距離をつめればリーチ差を潰し、近距離でなら反撃も可能となる。また、崩撃属性技をガードすると「中攻撃キャンセル必殺技」での反撃が確定する。
つまるところ、恋姫は地上でガードするのが十分に強い行動なのだ。ガードを意識すれば、シングルプレイの中盤もすぐに突破できるだろう。ガードは攻撃に勝ち、投げはガードを崩し、攻撃は投げよりリーチが長い。こうした格闘ゲームのコアメカニクスを、崩撃というお手つきで再構成し、その先にある格闘ゲームの奥義へいたる登竜門を完成させた。
当て技・置き技・刺し返しの三すくみによる地上戦。ガード時の有利フレーム。パワーゲージの運用。などなど、これまで格闘ゲーマーのあいだで口伝された奥義の数々が、恋姫では手軽に威力を堪能できる。シングルプレイの最終面で、そうした奥義の端緒にふれ、開眼にいたることを保証しよう。その開眼とは、相手との距離、残り時間、体力差、パワーゲージ、画面端といった感覚の発見である。あらたな感覚を手にした感動はゲーム脳に深く刻み込まれ、格闘ゲームを生涯ジャンルとする財産となる。
恋姫演武へようこそ!(実績名)
『恋姫†演武』の魅力は、格闘ゲームを楽しむための「感覚」を育むカリキュラムと、それを競いあう土俵を兼ね備えた、ハードコアなプレイフィールにある。シンプルで奥深いが、だからといって簡単なものではない。
お気に入りのカワイコチャンをみつけストーリーモードをクリアしたら、メモを用意してから友達を誘って対戦してほしい。そうすると、早速、壁にぶち当たるはずである。ここでメモの出番だ。対戦中、苦しいと感じた技をメモに残しておこう。その後、トレーニングモードでその技を連打させるよう設定し、ガード後の反撃行動を探せばよい。
そうした地道な練習法は、格闘ゲームの基本であり恋姫の華でもある「地上戦」を学ぶ唯一の方法だ。近道はない。強いてあげるなら、本作のプレイが最短ルートだ。これが、格闘ゲーマー養成ギプスたる由縁である。勝ち方を説明するチュートリアルがなく、シングルプレイのAI戦を通じて「発見」するスパルタ式学習法は、手っ取り早く回答を得たいゲーマーにとって不快となろう。それをおぎなうのが、本作の萌え萌えコンテンツである。各キャラクター約40分のストーリーモードは豪華なフルボイスだ。そこ詰め込まれたキャラクターのかわいさがアメとなり、スパルタAI教師というムチに耐えるモチベーションをかき立ててくれる。
お手つきが痛いゲーム設計、すぐれたシングルプレイAI、萌え萌えコンテンツ。これらをもって本作の芯にふれたあとは、早速試し切りしたくなるものだ。そこで、このたびのPC版発売を機会としてほしい。メーカー公式の新人戦大会でSteam版枠もあり腕試しのよい機会だ。また、Steamは友人にギフトを贈るのも容易ゆえ、友達と同時期に始めやすい。感覚の発見と、それを得たときの感動・興奮を交換しあえる同門の存在が、「学び」を「遊び」とするだろう。
格闘ゲームはそうしたコミュニケーションを楽しむゲームでもある。会話が通じないことも多々あるが、死力を尽くし、しのぎを削った者同士が抱く共感は、ゲームを万国共通の言語とする。今年7月ラスベガスで開催する格闘ゲーム大会「EVO」の、サイドトーナメント種目にもなった本作を通じ、格闘ゲームの楽しさを手にしてほしい。