人気ゲーム配信プラットフォーム、ゲーム無断配布を巡ってSoftonicに名指しでキレる。かつて“邪魔なツールバー配布”で悪名馳せたサイト
PC向けゲーム配信プラットフォームitch.ioは1月18日、公式Twitterアカウントを通じて、PC向けソフトの紹介・再配布サイトSoftonicに対する批判のコメントを公開した。itch.ioによれば、Softonicは権利者の意向に沿わず、無断でゲームファイルを配信するなどの行動が見られるという。
itch.ioは、PC向けゲーム配信プラットフォームだ。同サイトの特徴としては、ほかのPCゲーム配信プラットフォームと比較して高い自由度があるだろう。同サイトでは開発者らが、登録料などを支払うことなく作品を投稿可能。作品リリースまでに比較的厳密な審査が必要なSteamなどに比して、より尖った作品や小粒な作品も数多く登場する場となっている。また、無料もしくはName your own price(好きな値段を入力)形式での配信ゲームが多いのも特徴だ。玉石混交ともいえるものの、itch.ioは幅広い開発者による多彩な作品が手軽に楽しめる、よりインディー開発者に寄り添ったPCゲーム配信プラットフォームとなっているわけだ。
そんなitch.ioで配信されていたゲームが、無断で別のサイトに転載され、配布されているのだという。itch.ioが公式Twitterアカウントで“犯人”として名指ししたのが、Softonicだ。Softonicは、スペインを本拠とするPC向けソフトのポータルサイト。PC向けフリーソフトを紹介・配布するサイトとして、古くから存在している。同サイトではユーティリティソフトのほかにも、PC向けゲームなども広く紹介されている。itch.ioの主張によれば、そんなSoftonicはゲーム開発者からコンテンツを“盗み”、自サイトに人を呼び広告収入を得るために無断で公開し続けているという。
itch.ioは今回、一連のツイートのなかで具体的なタイトルをあげて問題点を指摘している。現在itch.io上では公開停止となっている作品『Gacha Nox』だ。『Gacha Nox』は、アバター作成ゲーム『Gacha Club』のスタンドアローンModとして開発された作品。元となった『Gacha Club』は、プレイヤーがキャラを作ったり集めたりして、RPGやリズムゲーム風の遊びを楽しめる作品となっている。『Gacha Nox』はオリジナル版とは別の開発者であるnoxula氏によって二次創作作品として制作・公開されていた。ただ、同作についてはアセットの無断盗用などの疑惑が浮上。noxula氏も盗用を認め、itch.io上での『Gacha Nox』の公開を取り下げるに至った。
しかし、itch.ioが確認した時点において、Softonicは『Gacha Nox』を引き続き無断で配信していたという。『Gacha Nox』とGoogle検索された際に上位に表示されるよう広告出稿もしていたとのこと。本稿執筆現在のSoftonicにおける『Gacha Nox』ページを確認してみると、itch.ioからの指摘に反応してかダウンロードは不可の状態となっている。また、itch.ioのツイートでは「リンクの貼り方が不適切である」との指摘もなされており、その部分はリンク削除の対応が取られているようだ。
実をいえばSoftonicは本件の以前から“悪名”の高いサイトである。というのも、同サイトは過去にPC向けソフトに“無関係なソフト”を抱き合わせて配布するなどの仕組みで知られていた。具体的には、ユーザー向けに「Softonic Toolbar」といったソフトの導入を促しており、これはかつてのWeb環境ではよく見られた「ブラウザの上部に突如として出現する邪魔なツールバー」のひとつだ。そうしたSoftonic関連のソフトウェアの一部は、PUA(必ずしも悪質ではないものの、潜在的に迷惑なソフトウェア)としてセキュリティソフトから区分されている状態。Softonicはもともと「ソフトを転載し、リテラシーの高くないユーザーに不要なソフトを導入させる」といった悪いイメージも根強いわけだ。
また、Softonicでは現在でも、目的のソフトの「無料ダウンロード」ボタンを押したはずにもかかわらず、無関係のソフトウェアのダウンロードに誘導されるという“騙し討ち”めいた挙動も見られる。そして多数ゲーム作品も無造作に掲載されている同サイトには、なぜか『アーマード・コア6』や『Starfield』といった未発売作品のページに「ダウンロード」ボタンが存在。もちろん、そうしたボタンを押してもダウンロードなどできるはずもなく、ストアページなどに誘導される。一方で、現在無料配信中の作品の場合には、実際にSoftonicサイトからファイルをダウンロードできる場合もある。
筆者が確認した限りでは、現在のSoftonicサイトでは「ソフトに無関係なソフトを抱き合わせる」といった行為自体は廃止されているようである。一方で、ソフトウェア配布ページを装った誘導ページなどは、ユーザーの誤解を招く可能性もあるだろう。Web検索した際に、ユーザーが到達すべき正規の作品ストアページより上に、Softonicのページが出ることがあれば一種の検索汚染ともいえる。さらに、そのページにて、権利者にとって配布したくないソフトが無断で再配布されていれば当然問題となる。実際、本稿執筆時点で『Gacha Nox』とGoogle検索してみると、itch.ioより上位にSoftonicのページが表示される状況である。
また、RPG『Heartbound』などを手がけるゲームスタジオPirate Softwareもitch.ioのツイートに反応。「Softonicにゲームのデモ版が掲載されており、何年にもわたって取り下げを要請している」と証言している。また、DMCAに基づく取り下げ要請も送っているものの反応がなく、このままではさらなる法的手段に出るしかないだろうとしている。
Softonicがおこなっていることは、大枠としてはソフトの紹介およびホスティングの範疇といえる。一方で、その誤解を招く紹介ページはユーザーの不利益になりうる。また、権利者の意向に沿わないソフトの再配布といった行為が事実だとすれば、各国の知財権関連法に抵触しうる明確な問題となるだろう。今回は、そうした現状に対してitch.ioが名指しで問題提起したかたちとなる。一方のSoftonic側からは、少なくとも公の場では返答はなされていないようだ。
なお、Softonicと似たような経緯を辿り、類似した活動をおこなっているソフトウェア再配布サイトは過去にも多数存在しており、一部は現存する。過去のWeb環境を経験した方には、そうしたサイトからソフトを無防備にダウンロードして、「ブラウザ画面の上半分が広告で埋まる」といった苦い思い出もあるのではないだろうか。現在ではブラウジング環境やOSの機能向上により、そうした危険も減ったことだろう。一方で、itch.ioが指摘した問題はより根深いものだ。今後、ソフト再配布サイト群は、そうした問題提起に向き合っていくだろうか。