Steam終末テキスト探索ADV『ナツノカナタ』正式リリース。高評価作品がついに正式版に、ついでになぜ完全無料なのか開発者に訊いた

個人開発者KazuhideOka氏は8月18日、『ナツノカナタ』を正式リリースした。正式リリース記念に、『ナツノカナタ』がなぜ完全無料なのか開発者に訊いた。

国内の個人開発者KazuhideOka氏は8月18日、『ナツノカナタ』を正式リリースした。対応プラットフォームはPC(Steam)で、価格は無料。正式リリースにあわせて、シナリオの後半を含むコンテンツが追加されている。

『ナツノカナタ』は、終わってしまった世界の夏を旅する、テキストアドベンチャーゲームである。本作の舞台は、未知のウイルスによるパンデミックで、半年前に終末を迎えた世界だ。人がウイルスに感染すると理性を失い、怪物となって人を襲う。そんなウイルスによる未曾有のパンデミックが発生し、わずか数時間で社会が崩壊。原因のウイルスや細菌すらわからないまま、世界は終わりを迎えていた。メインキャラクターのナツノは、元高校2年生の少女である。数か月前、ナツノは故郷の東京からの脱出に成功する。しかし、高校の友達とは東京からの脱出の際に離れ離れとなり、両親とはどこかの駅ではぐれてしまう。1人になってしまったナツノは、北へ向かって旅を続けていた。

一方本作の主人公は、平和な世界で暮らす人物だ。主人公は、ある日祖母の遺品整理中に、古いコンピューターを発見。コンピューターに残されていたファイルを開いてみると、知らない少女の声が響いてきた。彼女の名前はナツノ。主人公は、ナツノから話相手になってほしいと頼まれ、通話越しに終末世界の探索へ同行する。終わってしまった世界と平和な世界。コンピューター越しにつながる謎の通話。世界を崩壊させた謎のウイルス。主人公とナツノは、終末世界の夏を旅しながら、世界の謎にも迫っていく。


ナツノは、廃墟から食料や物資を集めることで終末世界を生き延びてきた。本作でプレイヤーは、彼女の探索へ画面越しに同行する。探索中、ナツノは部屋の中にあるものや、先へつながる通路など、部屋の状況を口頭で説明してくれる。プレイヤーは、ナツノの口にした場所やモノを画面内に入力することで、会話が可能。対応したキーワードを入力するか、画面内の赤い文字をクリックするなどで、装備品の変更や探索箇所の提案などができる。テキストによる会話で、探索の手助けをするわけだ。ただし本作では、ナツノは自発的に行動するため、プレイヤーがただ成り行きを見守っていても探索が進んでいく。プレイヤーが細かく行動を提案してもいいが、探索の主体はナツノにあるのだろう。

要素としては、クラフトシステムも用意されている。布切れ2つで包帯を作ったり、塩蔵肉の缶詰と玉ねぎでハンバーグを作ったりなど、探索中に集めた素材を使って食料や装備の作成が可能だ。また本作では、ナツノが旅の中でほかの人物と出会い、行動を共にすることがある。複数人で行動すると探索が有利になるほか、出会ったキャラクターたちのエピソードも展開されていく。


本作は、企画とシナリオをKazuhideOka氏キャラクターデザインをChiji氏、サウンドをruchiro氏が担当し、制作が進められてきた。Steamにて、2021年8月5日に早期アクセス配信が開始。約1年後となる本日8月18日に正式リリースを迎えた。正式リリースにあわせて、結末までのシナリオが追加されており、終わってしまった世界の夏の物語が最後まで読めるようになっている。ほかに新規キャラクターエピソード2編や、探索地およびアイテムも追加。正式リリースされたものの、今後もバグ修正やエンディング後のエピソード追加など、アップデートが予定されているそうだ。なおSteamユーザーレビューでは、記事執筆時点で297件の内、97%の好評を得てステータス「非常に好評」となっている。

また本作は正式リリース後も引き続き無料となっている。有償版や有料のDLCなどもリリースされておらず、完全な無料作品だ。高いクオリティに反して無料であるために、TwitterやSteamのユーザーレビューでは一部戸惑いの声も上がっているが、彼らはなぜ無料でのリリースを選んだのだろう。正式リリースを迎えるにあたって、弊誌では開発者のKazuhideOka氏に質問してきたので、下記ではその内容をお届けしよう。


──なぜ本作は無料なのでしょうか。無料でありがたい反面、申し訳なさも感じます。

KazuhideOka氏:
ナツノカナタは、完全に個人の趣味で制作しているものです。無料でリリースすることで手に取っていただける方が増えるのであればその方がうれしい、というのが大きなところかと思います。本業を別にもっていますし、今のところ個人でのゲーム制作で収益を上げる必要があると思っていない、というのもございます。また、大変ありがたいことに無料のクオリティではないと評価いただくこともございます。しかし正直なところ、本作がユーザーの皆さまに有償で買っていただくべきものなのかどうか、私自身は疑問に思っています。無料であることに申し訳なさを感じてくださるのはありがたいと同時に、私も申し訳ない気持ちですが、ご容赦いただければと思います。

──ユーザーとして何か利益を還元したい場合は、どうするのがよいでしょうか。

KazuhideOka氏:
ユーザーの皆さまには、Steamのレビューを書いていただいたり、Twitterやブログなどでご意見ご感想書いていただけるのが一番ありがたいと思っています。ご意見をもとにゲームをよりよくしたいですし、『ナツノカナタ』をもっと多くの方に知っていただければと思っております。

──今後の開発予定などを教えてください。

しばらくは、『ナツノカナタ』のアップデートを続けていく予定です。その後は落ち着き次第(あるいは並行して)、次の作品に取り掛かるつもりです(おそらく、ナツノカナタとは別のメンバーでの開発になるだろうと思います)。何かをお披露目できるのはまだもう少し先かと思いますが、その際はぜひ、またよろしくお願いいたします。

──ありがとうございました。

ナツノカナタ』は、PC(Steam)にて無料で配信中だ。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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