『The Westport Independent』レビュー 風刺におぼれたメディア
『The Westport Independent』は新聞検閲シミュレーターだ。事実を「校正」し真実を操作する。古今よりメディアとともにある「事実と真実への風刺」をゲーム化とした。しかしながら、その魅惑のコンセプトに対し、コンテンツが欠けている。語られない事実が声をあげ、真実のヴァリエーションを選べるものであったなら、忘れられない物語となったであろう。
『The Westport Independent』
開発元: Double Zero One Zero
販売元: Coffee Stain Studios
発売日: 2016年1月22日
プラットフォーム: PC(Windows/Mac/Linux)/iPone/Android
価格: 9.99ドル(PC版)/4.99ドル(App Store/Google Play)
物語は1949年、革命気運が高まる架空の統制国家ではじまる。プレイヤーは週刊の新聞社の編集長となり、政府が12週間後に施行するメディア規制法と戦わねばならない。無数の事実を組み合わせた真実を報道し、中庸をよそおいつつ市民に革命をたきつけ、政府ごとメディア規制法を倒そう。
セピア調の色使いとピクセルアートに、フィルム・ノワール調のジャズと、退廃的なアートワークが『Papers, Please』のフォローを想起する。センセーショナルな題材とあわせ、発売前から注目をあつめることに成功した。
報道しない自由で報道の自由を守れ
本作の副題は「検閲、汚職そして新聞についてのゲーム」とある。実際はステータス管理ゲームだ。メディア規制法まで12週間あり、11回の新聞発行でクリアを目指す。その条件は国民の世評を革命に傾けること。しかし、革命をたきつけると発禁度があがり、記者の逮捕・新聞の発禁をまねく。新聞の評判をあげ、効率よく世評を傾けねばならない。
編集長の仕事は大きく分けて2つある。まずはニュースの校正だ。ニュースの要約をひっぱりだし、タイトルを差し替え、章を削除する。この「報道しない自由」で真実をつくりあげる。大統領の誕生日パレードを記事にするなら、費用についての言及を削除するも、費用以外の言及をすべて削除するも自由だ。こうして都合よく校正したニュースを草稿とし、政府・革命寄りの記者に執筆を依頼する。
つぎに紙面の校正だ。記者が執筆した記事を新聞の1~4ページ目に配置する。こうして紙面の特色(芸能・工業・犯罪・社会)を出したあと、4地区(富裕地区・市民地区・工業地区・海港地区)への発行部数を決める。紙面の特色と地区の評判は直結しており、評判が高ければ国民は紙面がかもしだす世評を鵜呑みにする。この報道しない自由と、紙面の評判を鵜呑みにする国民の2要素で、メディアにまつわる風刺を手際よくゲーム化した。
反応がない読者。無能な編集長。
事実を校正し、国民に必要な真実をとどける。この行程に暗い魅力があるのは認める。しかし、それはメディア風刺の特性でありゲームから得た感動ではない。その先にあるはずのものが本作にはないのだ。
まず、読者の反応がない点だ。校正には「正解」がいくつかあり、翌週の「ファンレター」によって明かされる。政府・革命勢力や、大企業・ムービースターからの苦情・感謝だ。これは記事タイトルを差し替える、章を削除する、といった選択に応じたゲームの進展である。しかし、選択の数に対し正解はかなりすくなく、誤答時に反応がないため、物語を得ずにおわることがおおい。
つぎに、編集長が無能な点だ。記者が執筆した記事の出来映えを見てから、ニュース校正や執筆依頼のやりなおしができる。この時点でも週刊の編集長として疑わしい力量だが、その仕様をゲーム難度の緩和だとしよう。それならば、ニュースの校正、記者への執筆依頼の時点で「予想」を表示したほうがスマートだ。プレイヤーは編集長になれるが、編集長の目までは用意してもらえない。
11工程、プレイ時間40分強で得るエンディングは、ステータスに応じて物語の結末がつづられる。真実を創造するたやすさと、無責任な報道を強調すべく、プレイ中の物語を希薄にしたようだ。しかし、傍観者の道徳をたきつけるにしては印象があまりにも弱い。トライアルアンドエラーをつうじて編集長の目を養うゲームとしても、プレイ中の物語が希薄でつかみどころがない。痛烈なメディア風刺を味わう初プレイの10分は心躍るが、以降にそれを上回る感動がなく、まずいことに30分以上もつづく。
風刺におぼれ、本質を忘れたメディア
『The Westport Independent』は風刺で失敗するメディアそのものだ。新聞社の未来と編集長の椅子、ついでに国民の自由を守るため真実を操作するコンセプトで、ゲームが発売するまでは満点の出来映えだった。しかし、前章で指摘したとおり風刺以外の要素は欠け、魅力のコンセプトが色あせている。ヴィジュアルノベルにしては文章に場景はなく、それを補助する写真もない。パラメータ管理ゲームとしても、たくさんの選択肢に答えを隠した退屈な設計だ。そして風刺においても、ゲーム内外の時事・物語が希薄で、そこから洞察をみちびきだせない。抜群の素材を用意し話題を集めておきながら、風刺=表現手法だけで価値があると勘違いしたのは残念だ。
メディア風刺を題材としたゲームは本作の他にもある。その中のすぐれた見本としてフリーゲーム『The Republia Times』を紹介する。開発元は『Papers, Please』のLucas Pope氏。こちらは日刊新聞の編集長となり、制限時間内で記事と表紙レイアウトを吟味し、世評を操作するゲームだ。タイトルのフォントサイズで左右する世評と、吟味する制限時間のジレンマをつきつけ、「メディアもつらいよ」を体験できる。
本作がなしえた唯一の問題提示はその価格だ。スマートフォン版の5ドルに対し、PC版は10ドル。PC版のインストールフォルダにBGMのMP3ファイルがある点をのぞき、内容に差異はない。これをゲーム購入にまつわる情報格差、単一のディストリビューションサービスに頼る危険とするなら、物事に多角的な視点をもつ大切さをしめしたといえる。