『スマブラSP』にて“スティーブの大会BAN”をめぐって議論勃発。日本人プレイヤーが強すぎて
『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、スマブラSP)界隈にて、スティーブ/アレックス(以下、スティーブ)の大会BANをめぐる議論が勃発している。発端となったのは、アメリカで開催された『スマブラSP』大会「The Gimvitational」での結果だ。この大会結果を受けて、『マインクラフト』から参戦したスティーブの大会使用禁止を求める声と、そうした声を批判する意見が生まれている。
「The Gimvitational」は、アメリカで6月17日から20日にかけて開催された、招待制の大会だ。Light選手やSparg0選手、Riddles選手やTweek選手といった世界大会の上位者たちが参加しており、日本からもリュウ使いのあしも選手、ネス使いのがくと選手、そしてスティーブ使いのあcola選手の3名が招待を受け参加。強者がひしめくなか、あcola選手が優勝を飾った。この結果を受けて、一部プレイヤーたちが、スティーブを大会から締め出すよう求める #BanSteveなるハッシュタグを使用。スティーブの処遇をめぐって議論が発生しているわけだ。
あまりにも鮮やか過ぎたスティーブ
観測できる範囲で、スティーブBAN議論の火付け役となったのは、『スマブラSP』大会などにも参加するプレイヤーKarthik “Lavish” Ganapathy氏による意見。同氏は、特定のキャラクター/スティーブを(大会で)禁止するのは、ほかの格闘ゲームでもされていることだと主張。スティーブの禁止を求める声は拡声されていき、やがて#BanSteveなるハッシュタグが生まれた。
そこに大会参加者であるLight選手やCosmos選手含めた影響力ある人々がそのハッシュタグに“のっかった”ことで、その規模はさらに膨らむ。スティーブは大会で禁止するべきか?#BanSteveを主張する人々への批判も生まれ、激しい議論が生まれているわけだ。
なぜこれほど、スティーブの処遇が騒がれているのか。それは一重に、あcola選手がダークホースとして無類の強さを誇ったことにあるだろう。実は同選手は海外大会は初出場。またスティーブは、国内外ともにトッププレイヤーの間での使用率は高くない(今回の大会ではyonni選手も使用)。使える人が限られているキャラである。そんな環境の中で、スティーブを用いるあcola選手が「The Gimvitational」にて予選から強者を撃破し続け、Riddles選手やLight選手といった名だたるプレイヤーを倒し頂点に立ったことで、どよめきが生まれたのだ。もはや混乱に近い。
クセが強すぎるスティーブ
また、あcola選手のトリッキーなプレイスタイルもまた、混乱を引き起こしている。そもそも、スティーブは非常にトリッキーなキャラクター。バトルにおいては常に資源を必要とし、コンスタントに採掘が必須。武器には石からダイヤまで複数種あるほか、ダイナマイトを使ったりトロッコに乗り込んだりと、変わり種だらけの『スマブラSP』キャラの中でも、一線を画すクセをもつファイターなのだ。
あcola選手は、そんなスティーブを完璧に使いこなしている。ブロックを使って採掘や復帰阻止をしたり、トロッコを使ってコンボを決めたり、金床を落としたり、とにかく引き出しが多彩。行動が読みづらく間合い管理もうまく、さらにパターンに入った時のコンボ威力は絶大。特に対策の用意が必要なトリッキーなファイターであり、あcola選手が変幻自在に使いこなしたことで、大会シーンに鮮烈な印象を残したわけだ。
あcola選手は、実はまだ弱冠16歳。オンラインでの大会では姿を見せ強さを発揮していたものの、オフラインで姿を見せない関係で、一部の人にのみ知られる存在だった。しかし今年に入り同選手はオフライン大会にも参加。3月に開催された関西オフライン大会「第24回スマバトSP」に参加し優勝。国内最大級のオフライン大会「篝火 #7」で名だたる選手たちを破り優勝したことで、一躍その名前は広く知られることとなった。そうした活躍もあってか、「The Gimvitational」に招待され、世界大会で優勝を飾ったことで、海外の人々にも鮮烈な印象を与えることとなった。そして現在、同選手はスティーブの禁止を求める声を受け取ることとなったわけだ。
一方で、どれだけの人が真剣に「スティーブ禁止」を望んでいるかは不透明。そもそも『スマブラSP』においては、大規模大会で優勝者が出るたびにそのキャラが“壊れ”との評価を得る傾向にある。そして次の大会には別のファイターを使った優勝者が現れ、前回大会の壊れ議論は忘れられていく。結果を残したキャラが禁止や弱体化を求められるのは、本作にかぎらず対戦ゲームではよくあることである。
そして、単純に一部の人にとっては、あcola選手の勝利を受け入れ難い側面もあるのかもしれない。自分の知らない若いプレイヤーが、奇天烈な動きを見せ、優勝を勝ち取ったことで、“強いのはプレイヤーではなく、そのキャラ”との結論に至り、面白半分に騒いでいる可能性はあるだろう。なお、#BanSteve とつぶやいたLight選手やCosmos選手はのちに「ホテルでドミノ・ピザ食べながらふざけてただけ」「あcolaは好きだよ」など弁解。一度はスティーブのBAN希望をほのめかしながらも、その後本気ではなかったと表明するプレイヤーも少なくない。
すべては今後次第
なお現在の『スマブラSP』にて“王者”とされるMkLeo選手は、今回の結果を踏まえてスティーブの対策をしていくと表明。ぶっ壊れの技をもっているとし、性能や挙動について疑問を呈しつつも、現時点では禁止するべきではないとし、今後を見守るとコメントしている。現実的に考えて、もしスティーブの性能が過剰だったとしても、大規模大会でスティーブが結果を残し続けないことには、禁止の結論を下す材料に欠く。これだけキャラが多く、大会ごとに活躍する顔ぶれが違う『スマブラSP』にて、“将来への懸念”と今回の大会での成績を根拠に禁止することは、現時点では合理的とはいえないだろう。そもそも、ディレクターの桜井政博氏は、『スマブラSP』開発チームは解散していると語っており、今後何か調整が起こるとは考えづらいが。
とはいえ、今このタイミングになってスティーブが無類の強さを誇るということそのものが面白い。スティーブは初実装時より強いとされており、しゅーとん選手がその強さを指摘したり、たろりん選手のようなスティーブ使いの有名プレイヤーも存在した。しかしスティーブは資源管理を含めて、あまりにクセが強すぎて使いこなす人々が限られていた。実装から1年半が経った今、16歳の青年が、スティーブを鮮やかに使いこなし世界大会で大活躍。優勝という鮮烈な結果を残し、スティーブのBANが求められる、そのストーリーそのものがドラマティックである。
※ 『スマブラ』の大会や実況に携わるCONEY氏は「スティーブのBANは大賛成、大会で優勝者が出るたびにどんなキャラでもBANしていき、使えるキャラがいなくなったら握手してサヨナラしていこうぜ」と、今回のBAN議論をシニカルに皮肉っている。
いずれにせよ、スティーブは扱いが難しく、また弱点がしっかりと設定されている。それらの弱点を補ってうまく扱っているあcola選手のテクニックこそが、優勝の要因である点に疑いはない。優れたパフォーマンスは彼自身の実力であり、その強さを“キャラのおかげ”にすることは敬意に欠くと言わざるをえない。
一方で、本件は『スマブラSP』競技シーンの盛り上がりを感じさせる出来事でもある。ファイター追加や調整アップデートが終了してもなお、その熱を失わない『スマブラSP』コミュニティ。そんな熱気ムンムンのスタジアムで勝利を続けるあcola選手のビクトリーロードは、どこまで延び続けるのだろうか。
※ The English version of this article is available here