「Unreal Engine 4」で“ゲームを完成させる”にはどうすればいいのか?1か月で3Dアクションを作り上げたヒストリアと、Epic Gamesに訊く 第3回
ゲームエンジンの無料化にともない、ゲームを作り始めることは簡単になった昨今。しかし少人数の開発チームや初心者が最後まで“ゲームを完成させる”ことはけっしてたやすくない。AUTOMATONはゲームエンジン「Unreal Engine 4」の専門開発会社である「株式会社ヒストリア」と、国内でUnreal Engine 4を展開する「Epic Games Japan」に取材し、1人のデザイナーがわずか1か月で完成させたという3Dアクションゲーム『ダンジョン&バーグラー』の誕生秘話についてお聞きした。
最終回となる第3回では、ついに開発も終盤へ。ポーズ機能やチュートリアル、各プラットフォームごとの最適化など、意外と見落としがちなリリースへ向けた各作業や、残された開発行程のお話についてお聞きした。
「Unreal Engine 4」で“ゲームを完成させる”にはどうすればいいのか?1か月で3Dアクションを作り上げたヒストリアと、Epic Gamesに訊く 第1回
「Unreal Engine 4」で“ゲームを完成させる”にはどうすればいいのか?1か月で3Dアクションを作り上げたヒストリアと、Epic Gamesに訊く 第2回
ポーズ機能などを付ける
――第3回目となりますが、第2回目の時点でゲームはほぼ完成されていたんですよね。
我妻氏:
そうですね。
――それで細かな部分やリリース周りの対応を整えていった。
我妻氏:
ゲームが出来た時点で、社内で何人かにプレイしてもらったんです。その時に出た意見を元に、「ポーズ機能」などを入れていきました。要望を取り入れたり、ちょっとチューニングしていたりした期間になります。
佐々木氏:
タイムアタックするというのがゲームの最終的な目標だったので、ポーズがないとちょっと不便かなと。なんかの拍子に声かけられた時に、待ってみたいな感じになっちゃうのではないかと考えました。
我妻氏:
実はこのとき、ポーズ機能を実装するために、“動いているもをすべて止める”って処理を、わざわざ全部のブループリントに仕込んでいたんですよ。その場でアニメーションもなにもかもピタッって止まる機能を仕込んだんですけど、あとで周りの人に聞いてみるとUnreal Engine 4のデフォルト機能でもう用意されていたんです(笑)こんな風に、結構苦労していじった割には、始めからあったねっていうのもあります。
――ポーズ機能は簡単に導入できてしまうんですね。
我妻氏:
そうですね、それはもう本当に簡単に。「Set Game Paused」といって、ポーズかポーズかじゃないかをチェックボックスを入れるだけでできるんです。すべてに処理を入れるために1時間かけて仕込んでいたんですが、ポーズで検索すればよかったなっていうのが、あとで聞いて本当に……(笑)
佐々木氏:
あるある(笑)
――ほかにUnreal Engine 4にデフォルトで入っているオプションやシステムはありますか。
我妻氏:
本当にもう色々なものが入っています。探せばあるんですけど、思い込みで無いと思って自分で作ってしまうと、検索したら意外とあったりします。ブループリントでノードを出すときって種類がたくさんあるので、リストから探すのではなく、検索をよく使うんですね。プログラマとかであればその辺は勘が働いて、どういう風に検索すればいいかがわかったりするんですが、僕みたいにプログラミングの経験がほぼ無い人であると、どうやって探せばいいかわからないところはある。そういうのは、やっぱり人に聞いたりとか、ドキュメント見たりするのが良いと思います。Epic GamesさんのWeb上で見れるドキュメントがすごくしっかりしていますので。まず探すってのはすごく大事かなと思いましたね。
河崎氏:
「AnswerHub」とか、あとFacebookの「Unreal Engineユーザー助け合い所」とかで聞くのが一番いいと思います。教える人はググれカスじゃなくて、優しく教えてくれるかなと。
一同:
(笑)
「UMG」で簡単なチュートリアルを付ける
――ポーズ機能の実装を終えて、次はチュートリアル機能を導入されたとのことですが。
我妻氏:
本当に簡単なものなんです。普通のゲームだったらもっと長い時間をかけてチュートリアルの実装を行うと思うんですが、まあ移動だけのゲームなので、どうやって移動するのかと目的だけを示しています。画像やテキストで移動はこうやってやるんだよとか、30階に行くとお宝があるよみたいなのを出しています。Unreal Engine 4にはそういう2Dの画像を出したりアニメーションするための「Unreal Motion Graphics(UMG)」という機能があって、それを使うと――。
河崎氏:
「UMG」まだ無かったんじゃないの?
佐々木氏:
いや、ギリギリあったんですよ。ギリギリ。
我妻氏:
まだ不安定なころだったので、複雑なことはさせられなかったですけどね。チュートリアルというとおこがましいですけど、メッセージみたいなのを出したりとかは、簡単に入れられましたね。これもプレイしてもらうと、何階まで行けばいいのかわからないからつらいという話があったので、じゃあ目標を示してあげたという。
――そういったものも後から入れるのは簡単にできる。
我妻氏:
入れるのはすごく簡単です。アニメーションを付けるのも、タイムライン上で始点と終点を指定してあげるだけで動かせるので直観的に操作できます。
佐々木氏:
たとえばボタンの絵を配置して文字を打てば、もうそれはボタンになります。また、ブループリントと連携してボタンを押した時の処理を組むことも簡単にできます。
――やや全体的な話にはなるんですが、ブループリントでゲームを開発する際、開発者はどの程度のアニメーションを付ける必要があるんでしょうか。アニメーション作業はかなり労力のいる仕事という印象があります。
我妻氏:
そうですね……UMGで付けるのは2Dのアニメーションだけで、3Dアニメーションの話となると、またちょっと違ってきますね。3Dアニメーションは基本的に外部ツールで作りますが、マーケットプレイスで販売されているものを使うという選択肢もあります。そういうのを組み合わせて、Unreal Engine 4内でどのアニメーションからどのアニメーションにブレンドするとかを設定します。「アニメーションブループリント」という機能なのですが、たとえば歩きながら攻撃する場合は、歩くモーションと攻撃モーションを入力に合わせてブレンドしてあげたりだとか。
我妻氏:
ほかにアニメーション的なものでいうと……なにかあったかな。あとはカットシーン作成用の「マチネ」ですね。ゲーム中でキャラクターに演技させたりカメラ演出したり、そういうことができる「マネチ」というツールがUnreal Engine 4内にあります。『ダンジョン&バーグラー』の中だと、最後のクリアした時には軽い演出を入れていますね。これもUnreal Engine内で完結していて、カメラをどう動かして、どのタイミングでエフェクトが出るみたいなのを、全て一つのタイムラインで管理しています。
――ほかにも『ダンジョン&バーグラー』では3Dグラフィックのアセットをどの程度作ったんでしょうか?
我妻氏:
僕はもともと2Dデザイナー出身だったので、実は仕事として3Dモデルとかは作ったことはないんですが、制作の途中で佐々木に「なんかキャラクターを作れ」と言われたんで、今回は主役キャラだけはモデリングしました。
佐々木氏:
言い方間違ってるよ(笑)
我妻氏:
(笑)「主役だけでも作ったら?」と言われたので、それでちょっと勉強して、頑張って作りました。
――てっきり3Dのテクニカルアーティストの方かと思っていました。
我妻氏:
いまの仕事的にはそうなります。ただ普段は3Dモデルを自分で作ったりとかではなくて、Unreal Engineの中に3Dモデルをインポートして、質感を作ったり、エフェクトを制作したりしています。そういったUnreal Engine内でやることに特化したアーティストなんです。Unreal Engineの中に入ってくればなんでもできるけど、3Dのモデルを作るってところは経験なかったので、今回そこを経験できたのは結果的にはよかったかなと。
――先ほど話に出たアニメーションなども普段はあまり触れはしない?
我妻氏:
自分で作ることはあまりないですね。なので、マーケットプレイスでさっき言った敵として出そうと思って購入したアセットに骨が入ってなくて動かせないと知った時に、どうしようか……と。結局、それを1回エクスポートして、3Dツール上で骨を入れて動くようにして、アニメーションを付けたりしました。普段は専門家がやる場合が多いので、ひととおり触れたのは本当にいい経験だったかなと。大変でしたけど。
広告も操作もデフォルトで、あるいは買える
佐々木:
あと自分から、Ad入れてくれっていうのは注文しましたね。今回のプロジェクトはモバイルの機能を試すっていう意味合いもあったんです。もともと売り上げは求めてなくて、好きなことやっていいとは言ってたんですけど、モバイルの機能を試すのは会社の経験として残したかった。モバイルの経験者がうちに多くなかったので、そういうのを1回やってみたかったです。Unreal Engineに広告機能が入っているんですけど、それもその一環として、本当にちゃんと動くのかとかいうのを試したかったんですね。そこのワークフローをひととおり踏んで、次作る時にはそれをサッと入れられるようしたいということで、広告だけは入れてっていう話はしました。
――Adまでデフォルトで用意されているんですか?
佐々木氏:
あります。
我妻氏:
もうノード1個で出せたり(笑)
佐々木氏:
ただ、全画面広告が出せなかったというのはあったね。
我妻氏:
バナーを画面上部に出すか下部に出すかはすごく簡単に設定できるんですが、最近のゲームでよくあるような全画面広告とかは、まだ対応されていなくて。プログラマーにも調べてもらったんですが……。
佐々木氏:
最近はサードパーティー製の動画広告プラグインが出ているらしいので、うちも早く試したですね。こういうところは徐々に整ってきてます。
――ほかにも開発終盤ではプレイヤーの操作部分について取り組んだとのことですが。
我妻氏:
はじめは「トップダウン」テンプレートにあるキャラクターがクリックした場所に移動するっていう移動方法だったんですが、実際に色々な人にプレイしてもらうと、指で自分が進みたい場所が隠れてしまい、遊びづらいという話があったんですね。ここはプログラマの方に相談をして、操作をコントローラー風のものに置き換えました。
――あれはプリセットにあるものですか?あまり見かけないようなタイプのものかと思いました。
我妻氏:
あれは社内でつくりました。
佐々木氏:
でも似たようなのはあるね。
我妻氏:
これと近いようなコントローラー風の入力の機能はマーケットプレイスでもいくつか見つけました。3Dアセットだけではなく、ブループリントの処理を売っていたりするというところがちょっと面白いですね。買ったものを自分のプロジェクトに組み込むこともできますし、それを見ながら改造していったりとかもできます。
――マーケットプレイスは本当になんでも売っている感じがしますね。ほかにこんなもの売っているよというのはありますか?
我妻氏:
そうですね、サウンドがすごい多いっていうのが……(笑)ゲームのテーマに合わせた音があったり、ホラーの音のセットや、モンスターの鳴き声だけたくさん入っているものとか、そういうコンセプトが面白いセットもあったりして。あとブループリントだと、本当に面白いものがいっぱいありますね。岩をよじ登る、崖をよじ登る処理が入ったブループリントなんてのも売っていて。探すだけで楽しいですね。
――そういうのを購入していろいろ組み合わせると。
我妻氏:
そうです。
佐々木氏:
ただ、うちは処理は自分たちで組むことが多いので、あんまり購入した処理を使うことはないかな。
我妻氏:
そうですね。たまに検証のために買ってみることはありますが。こういうことやりたいんだけどっていうことで、とりあえず買ってみて入れてみてみたいな。
各端末でのリリースへ向けて
――次ですが、Google Play対応を整える作業。プラットフォームごとのリリース作業ですよね。
我妻氏:
そこはもうどっちかっていうと……。
佐々木氏:
プログラマがやってたこと……ですね。1人でゲーム部分は1か月で作っているんですけど、リリース作業をやってもらってもしょうがないんで(笑)そこは自分とかプログラマとか、できる人がやったという感じですね。ただ、「実績」の組み込みはやってもらったかな。
我妻氏:
ああ、そうですね。「Google Play」でアチーブメント、実績みたいな機能がありまして、それにあわせて、たとえばコインをいくつ取ったらコイン何個獲得したらアチーブメントが解放されるみたいな。Xboxとかであるような実績機能が、Androidの「Google Play」とiOSの「Game Center」に備わっているので。
――それはUnreal Engine 4で用意されていて、簡単に設定できるようなものですか?
我妻氏:
実績解除はわりと簡単にできたはずですね。確かIDをプロジェクト設定かどこかに設定して……。
佐々木氏:
そして、ブループリントで解除命令を送ると。
我妻氏:
そうですね、この時にこのID144番の解除命令を送るみたいなことをやると、それに対応したGoogle Playのアチーブメントが解放されます。
――この画面を見て思ったのですが、iOSやAndroidでリリースする際に必要なもの、AppleやGoogleに提出しなければならないものが、設定できるようになっているんでしょうか?
佐々木氏:
そうですね、これはAndroid用の設定ですね。アイコンとかも……。ただ、リリース作業がUnreal Engine 4上で完結することはないですね。そこは、普通にGoogle PlayとかiTunesの設定のブラウザからやるようなところです。そういうところはプログラマがチクチクやってましたね。
――なるほど。
我妻氏:
リリースに向けてではなくて、実機の端末で実際に確認するみたいなところまではものすごく簡単にいきます。もうUSBでPCにつないだだけで。
佐々木氏:
つないでるとAndroidのデバイス名が出てるんで、その表示をクリックすると、そっちに転送されて実機で実行できるようになります。
――実際に『ダンジョン&バーグラー』では、iOSとAndroidの実機チェックでなにかでましたか?
我妻氏:
動きとかでは問題はほぼ起きなかったんですが、グラフィック的にはいくつか問題があり、泣く泣く切った機能がありましたね。ただ、逆に早い段階でそれが確認できていたので、実際にリリースする直前になって苦労するというよりは、徐々に問題として認識して手を打つことができました。最終的に決断をしてカットするなり、そこへ向けてなにかしら対策するなりということができる。実機ですぐ見て確認できるっていうのは、すごくやりやすかったですね。
――ちなみに、発生したバグというのは具体的には?
我妻氏:
ブルームという、ポスト処理と呼ばれる類になんですが、そういった機能がiOSで上手く出なくて。絵的にはあった方が全体的に淡い感じになってリッチな見た目になるのでぜひ入れたかったんですけど、その問題がどうしても解決できなかったので、カットしたという。そのことはEpicさんにご報告して、いつか直ることを願ってという感じです。
佐々木氏:
今もう直ってる?
我妻氏:
いや、最新のバージョンでも駄目でしたね。ただ確認はしやすいので、見逃すようなことは無いかと思います。あとは徐々に対応されているって話しでいうと、プロジェクト始めた当初はPC上でビューポートで見た時の見た目と実機で見た時の見た目が変わってしまっていたんですが、今だとビューポートの設定を実機と同じにできるっていう機能ができています。その辺り、Unreal Engineのモバイル対応というのは急速に進んでいるんだなと思いますね。
――iOSとかGoogle Playで自分の作ったゲームをリリースする時、参考にできる文献などはありますか?
佐々木氏:
リリースかあ……ググる(笑)
一同:
(笑)
佐々木氏:
でも、本当にそうですね。アプリを作るところに関しては、Epicさんのオフィシャルドキュメントを見れば普通に作れます。なんですけど、その先の細かいリリースするためのやり方って、けっこう両端末でお作法があるんですよ。たとえばiOSだと、うち法人契約なんですけど、法人用のデベロッパー登録を順番に手順踏んでやらないとできないとか、もうそういう手続き的なもんですね。こういうところは、やっぱりググる。ネットにそういう知見が溜まってるので。自分はこういうの踏んでしまったとか、これやるともう1回電話の問い合わせが英語で返ってくるから注意とか。そこはもうプラットフォームごとにお作法があるので、ここはもうしょうがないですね。これはもうモバイルだけじゃなく、もちろんほかのコンソールだって、なんでもプラットフォームごとにあるので、そこに乗っかるしかない。iOS/Androidはそこらの知見がネットで公開されているので、そこはいいですね。
我妻氏:
あとモバイルの場合ですと、特にEpic Gamesさんの提供しているサンプルであるとか、マーケットプレイスで公開されているアセットってのはモバイル用のものではなくてですね。もともとハイスペックなマシーンで動かすのを前提に作られていたりします。今回の『ダンジョン&バーグラー』で購入したものは、比較的ロースペックなものでも動くアセットというか、コミカルなものとか頭身の低いものを選んだりはしたんですが。
購入したテクスチャがすごく大きかったりだとか、そういうところで容量を……まあ無駄にというか、結局表示されるのはこんなに小さいのにテクスチャはこんなにデカいみたいなことはあるんで、そこは手動でテクスチャを縮小したり、そういった処理をしていく必要はあるかなあと思いますね。ただ、モバイルと言えばあとアレですね。いまマーケットプレイスでEpic Gamesさんが『Infinity Blade』のアセットを無料でリリースしています。
河崎氏:
あとEpic GamesからiOS/Android向けのサンプル「Unreal Match 3」がリリースされています。
デバッグする
――先ほど少し話しましたが、あらためてデバッグの話をお願いします。
我妻氏:
自分でやれる範囲は、さっき言ったようにUnreal Engineから簡単に実機に送れてしまうので、実機でプレイしながらやっていました。あとは社内メンバーの端末に転送してプレイしてもらったり。それでフィードバックを受けながら、ちょっと調整したりとかという期間があった感じですね。
佐々木氏:
デバッグ会社とかは入れてないです。社内だけで。
――デバッグは、Unreal Engine 4をインストールしたPCにiOSやAndroidを繋いで……?
佐々木氏:
それもやってたし、「Deploy Gate」っていう、パッケージをネットにアップして配信するサービスがありまして、それを使っているんですよ。自動処理でネットにアップロードして、そうすると自分の携帯に最新版が配信されましたって通知が来るんで、家とかでダウンロードして遊んでみたいな。
我妻氏:
やってましたね。それである日、画面が真っ黒になって電源を切れなくなるっていうことが(笑)それで電池パックを空けて取り出してっていうのを、外でやった記憶がある(笑)佐々木さんの携帯で。
佐々木氏:
あー。そうそう、あった(笑) アプリというか端末のバグかも。
――初めてゲームを開発する人がデバッグ作業をやるなら、友人とかと一緒に協力してできそうですね。「Deploy Gate」は一般ユーザーでも使えるようなものですか?
佐々木氏:
はい、普通に使えます。無料で使えたかは覚えてないんですけど、でも少額で。個人で払える額で使えます。
我妻氏:
ただやってもらうだけだったら、自分のPCのところに持ってきてもらって、USBで繋いで転送してしまえば大丈夫ですね。
――先ほどバグの話がありましたが、ほかに重大なバグがあったという話はありませんか?
佐々木氏:
音は聞こえるけど画面が真っ暗になるはあったよね。
我妻氏:
ああ、ロードが遅くて真っ暗になる……でもあれって本当に古い端末ですよね。Androidとかだと、iOSと違って本当にいろいろな端末があって。なので本当に、端末によってはゲームを開始したんだけどずっと真っ暗だったりとか、音しか聞こえてこないとか。
佐々木氏:
あとプレイヤーキャラが床を通り抜けて落ちてんじゃない疑惑(笑)
我妻氏:
そういうこともありつつ(笑)やっぱり低スペックの端末っていうものに対しては、本当に注意していかないといけないと。こういう『ダンジョン&バーグラー』みたいな、収益を目的としていないタイトルだといいんですが、本当に収益を目的としたタイトルだった場合、そういうところがあると評判も落ちますしね。ちゃんと事前に対策を打っておかないといけないんだろうなあというところは思いましたね。
――ソフトウェア的な問題であればUE4上に表示されると。
我妻氏:
そうですね。出力ログウィンドウを見ると、ゲーム内のログが、全部文字列としてばーっと出てくるので、赤いエラー文字や黄色いワーニングがあったら「おっと」っていう感じになります。中身を調べると原因はこの文字列から追えるようになっています。もちろんブループリントからも追うことはできるんですが、これだと一覧性も高いですし、あとから振り返ることも容易なので、そういうやり方もありますね。
――先ほどのプラットフォームごとの問題というと、(UE4上で)探すのは難しい?
我妻氏:
実際にやってみないとっていうので。
佐々木氏:
一番やっかいかもしれないですね……。まずその端末持ってるかどうかというのが。それに問題が出たとしても、特に見た目系は何が問題か特定が大変です。なのでこれが原因かなって切ってみて転送して試して、ああまだ残ってる……それじゃない他も切ってみて転送して、ああこれだったみたいな。
――デバッグというのは開発のなかで1番大きな壁ですよね。
我妻氏:
ちゃんと製品として出す場合には、絶対に必要なんですけど、なかなか……。
佐々木氏:
最悪は端末の普及率を考えて切っちゃうとかも……。やっぱりすべてに対応し切るのは、ちょっと厳しい。
我妻氏:
まあ開発中、自分の端末にすぐ転送できるのでそれでチェックはしていたんですけど、その環境に合わせてやっていると、他の端末で出した時にすごい重いとか、動かなくなる箇所があるとか。そういうのがたまに出たりするので、そういうのはやっぱり怖いなあと思いますね。なかなか個人で沢山の端末を持っていることはないので……。
佐々木氏:
別のタイトル、この次に開発したタイトルはデバッグ会社に30機種分のチェックを依頼しました。
――ある程度は見限るしかない部分ですね。
我妻氏:
そうですね。
――なおデバッグの後にはプログラマの手も借りたとのことですが。
我妻氏:
実際にプレイしたあと、コウモリみたいなキャラクターが壁をバウンドしながら移動しているはずなのに壁から抜けちゃうみたいなことがあった時は、さすがにわからないんでプログラマの方に教えてもらいましたね。こういう理屈でこういう処理を組めばいいんだよ、と。そこを取り入れはしていました
――もし1人でやるならば、先ほどあったUnrealのFacebookページなどを活用すべきだと。
河崎氏:
Facebookの助け合い所と、あとAnswerHubって公式のフォーラムがありますね。
佐々木氏:
あとはTwitterでつぶやいてると、誰かが(笑)
我妻氏:
優しい誰かが(笑)
河崎氏:
ハッシュタグを付けてもらえれば。
我妻氏:
そこはそうですね、Epicの方も見ていることがありますし。
佐々木氏:
あと、ほかにもコミュニティの優しいおじさんが一杯いるんで(笑)
佐々木氏:
そういえば、自分が気まぐれでTwitterでUE4タグを追っていて、悩んでる人に回答したのが縁で、いまヒストリアにいる人いますね。Twitter上で知り合って、こういうところの処理困ってるんだけどってつぶやきに対して、こうしたらいいんじゃないって言ったら、あっすぐできましたってなって。そのあとで教えてもらったこと公演で話していいですかという話があって、そういう縁からいま一緒にお仕事してますね。
河崎氏:
Twitterだけで、人生を踏み外してしまった……。
一同:
(笑)
佐々木氏:
そうなんですよ。この道に引きずり込んでしまった……(笑)
我妻氏:
ヤクザのような……(笑)
佐々木氏:
ある意味間違っていない(笑)建築業界のフリーの方なので、それがなければゲーム業界で働くことも無かったかもしれない(笑)
リリースを経て
――完成させた時の気持ちというか、リリースに至った時に嬉しさのようなものはありましたか?ドキュメンタリーではないんですが……。
河崎氏:
中島みゆきが流れ始めるみたいな。
一同:
(笑)
我妻氏:
ああなんかやっと終わった、という感じの方が強かったですね。たいがい開発ってそうだと思いますけど。がーっとこう、自分でいろいろなところ調べながらやってきて、やっと形になって、あとは世に出すだけってなったら、もう後はもう、なんというか、呆然とするだけみたいな。でもやっぱり達成感はありましたね。自分でやったことがないことだったのもありますし。いろいろ勉強もできたので、これの経験が後に生きていることもすごく多いので。やってよかったなと思います。
――実際に活きてるというと、どの部分ですか。
我妻氏:
あまり具体的なことは言いづらいですが(笑)、たとえばコレと同じようにゲームの核というかプロトタイプみたいなものを本当に短期間でサッと作って、それをプロジェクト化したりであるとか、そういったこともできましたし。やはり全部の工程を1回自分で触ってみるってことができたってのは、すごくよかったのかなっていう気がしますね。未経験だと不安でいっぱいだと思うんですけど、一回無理やりにしろそこは通ってるんで、まあそういったところへの不安がすごく少ないっていうのはあるかなという気がしますね。
――開発を終えた後に反省点とか、ここもっと短縮できたんじゃないかとか、っていう部分があったら教えていただきたく思います。
我妻氏:
そういうコンセプトとはいえ、あまりテストプレイみたいなものをせずに進めてしまったので、難易度が結局上がりすぎてしまって、そこは反省点としてあるのかなあと。なるべく、早い段階でフィードバックを受けながら調整していくみたいな作りにすべきだったとは思います。でもそのほかの部分で言うと、終わるように作ったという部分があるので、この期間でできるだけのことはやったかなという。
――ちなみに、実は開発1か月と言いながら、毎日徹夜して開発していたのではないかという疑惑もあると思うんですが、『ダンジョン&バーグラー』開発中は普段の生活と同じでしたか?
我妻氏:
大変ではありましたが、別に徹夜とかはせずに(笑)僕はもともと徹夜ができないタイプなので。
佐々木氏:
逆に実績のでGoogle Playにハマッて自分とプログラマが徹夜したね(笑)
我妻氏:
リリース回りでですね(笑)テストして反映されるのが何時間後だから、そんな感じになっちゃいましたが、開発している時は割と普通のペースでしたね。
佐々木氏:
しかも同時に別の仕事もう1個やってたもんね。
我妻氏:
そうですね。並行しながらっていう感じだったので、そこまで無理はしていない……。
――我妻さん的に3Dアクションゲームに思い入れはあったんでしょうか?先ほど『ドルアーガの塔』の名前もでましたが。
我妻氏:
死にゲーというか……昔のゲーム全部そうでしたけど、死んでマップを覚えたりとか、敵の出てくる出現パターンとかを覚えて、こう徐々に自分が上手くなって、先に進めていくみたいなゲームがすごく好きで。『魔界村』とかすごい好きなんですけど。まあそういう感じのものにしたいなという思いはありましたね。こういうのって確かにいまの流行りではないので、まさに自分1人で決めていいプロジェクトだから試したって感じですね。
――『ダンジョン&バーグラー』って、かなり死にやすいゲームですよね。
我妻氏:
そうですね。
佐々木氏:
死にやすいですね(笑)弱いっすねこいつ。
――『スペランカー』のような……(笑)すごく興味本位な質問なんですが、『ダンジョン&バーグラー』は仕様書を決めずに開発が進められていきましたよね。もう1か月開発期間を与えられたとしたら、どのような作品になっていたと思いますか。
我妻氏:
そうですね……。これはこれでもう1つのものにはなっていますし、あの期間でやれることはやったなという気はするんですが。あと1か月あったらか……。そうですね。1か月あったら違うゲームになるかもしれないですね(笑)たとえばですけど、後ろから触れれば敵を倒せるとか、シンプルな形でもなにかしらあればゲーム性の幅が広がるので。ま、多分それがあるとレベルデザインも作り直しになるので、またこう……っていう形になると思います。
あとは、今だとあえてやってるところはあるんですが、死んだら一番最初からなんですね。それを途中から行けるような仕組みというか、1回超えると近道を解放できるというのを盛りこむとか。その先の階で鍵を持っていて、2回目に来た時はそこが開くとか。そういったことをやっていって、徐々に短くなってくみたいなゲームデザインは、ちょっとやってみたいなという感じはありますね。
佐々木氏:
そこは議論あったね、そういえば。30階まであと少しの、27階までに行ったのに死ぬとゲーム―オーバーでまた1階からだから、それがしんどくってやめちゃうんじゃないかみたいな。ただ、1階から30階までのタイムを競うという形でスコアリングして、世界の人とそれで競うとしてたんで。ショートカットできるとそれはどうなのということがあって、結局中間からやめたんだよね。
我妻氏:
そうですね。今回は今のままでやりきろうっていう形に。もう1か月あったらもしかしたら変わっていたかもという気はしますね。
河崎氏:
30階まで行ったら、今度はカイ連れて戻ってこなくちゃダメでしょ。
一同:
(笑)
佐々木氏&我妻氏:
つらい(笑)
河崎氏:
『ドルアーガの塔』の続編の『カイの冒険』みたいな。
一同:
(笑)
――リリース後にどのような反響があったのか聞きたいと思います。開発者視点とプレイヤー視点で別々に反響があったと思うんですが。
我妻氏:
プレイされた方の話とかを聞くと、「まあ難しい」っていう。こんなのクリアできんのかみたいな。
佐々木氏:
(笑)
我妻氏:
まあ数少ないクリアしてくれた人とかからすると、たとえばあのステージがすごい鬼門だったとか、あの敵のこの動きを見切るのがすごい難しかったけど、見切るとあそこすぐ行けるねとか。そういうすごい具体的な感想が出てきてて、そこはもう本当にレベルデザイナー冥利につきましたね。まさに自分がそうしようと思って考えたことっていうのを、そこで実際に考えてくれて、じかで聞けたっていうのはすごい面白かったですね。でも大概は難しすぎるっていうご意見頂戴していましたね。
――実は自分も30階までクリアできませんでした。
佐々木氏:
17か19と、24と27が鬼門で。
我妻氏:
佐々木さんもクリアしてないですよね?
佐々木氏:
してたかな……27まで行ったのは覚えているんだけど。
我妻氏:
社内でもあんまり……(笑)
佐々木氏:
社内でも3~4人ですね、クリアしているのは。
佐々木氏:
そこは多いねえ。
我妻氏:
やっぱりプログラマじゃない人が作ったていうのがありますし、Unreal Engineでモバイルのタイトルっていうのが、多分その当時出ていなかったので。出てなかった?
佐々木氏:
出てはいた。日本で出てなかった。
我妻氏:
ああ、なるほど。ていうのもありまして、UE4を使ったモバイルタイトルってのは、すごい珍しいってのもありまして。その辺はすごい反響はあったかなあと思います。
――どの辺りが一番注目されたかと思いますか?
我妻氏:
まずそんなことできるのかみたいな反応が。
――UE4でモバイル向けで1か月で作るというのは、知らない人からすると無茶な計画だったんでしょうか。
佐々木氏:
普通そうですよね。まず1か月で作るっていうこと自体。よく他社の新人研修とかでは聞く話しですけど。
我妻氏:
まあそれも、ある程度のチームでやりますしね。あんまり1人でっていうのは……。そういう感じのことはよく言われますね。
――ただUE4を知っている側からすると勝算はあったというか。完成させられるとは思っていた。
佐々木氏:
それはそうですね。そう思って始めたところがあるので。あとやっぱり、Unreal Engine 4で簡単に作れるよってうちもいろんなところで話しているんで。それを見せなきゃなっていうのもありつつ。
河崎氏:
これが至る前に失敗に終わった、ゲームのプレイヤーみたいに死んだプロジェクトがいっぱいあって、唯一終わったこれだけを言っているというわけではない?闇に葬られた……。
一同:
(笑)
佐々木氏:
葬られたやつはいくつかありますけど(笑)……いや、違います。ペンディングです。寝かされています。まだ熟成している……(笑)
河崎氏:
「インディーストリームフェス」で展示してもらったんですけど、そこでもやっぱり、1か月で1人、あとプログラマ無しっていうのは、みんなすごい刺さってましたね。インディーストリームフェスのお客さんって開発者というか、インディーで実際に自分たちでもの作ってる人ばかりなんで、その人たちが「おお」って言ってたのは、その3点でしたね。
――UE4を使わなければ、このプロジェクトはもっと時間がかかったと言えるでしょうか?
我妻氏:
そもそもできなかったと思いますね。やっぱり僕がプログラムを組めないというところからして、まずブループリントがなければ絶対にできなかったと思いますし。
佐々木氏:
やろうと思わなかったというか。
我妻氏:
そう、そうなんです。まずやろうと思わないと思いますね。
佐々木氏:
こっちも振らないもんね(笑)ちょっとさすがにそりゃ無茶振りすぎる。
―― 最後に河崎さんの方から、なにかUnreal Engine 4で触れておくべき点はありますか。
河崎氏:
いや……僕はあまり機能とかわからないんで……。
一同:
(笑)
河崎氏:
いやまあ、使ってない機能は一杯あると思いますよ。だからどうっていうわけではないので。
――触れておくべき特徴とか……。
河崎氏:
なんというか、まとめみたいなアレになっちゃうんですけど、やっぱりその1か月で作ったっていうところももちろん素晴らしいんですけど、1か月でちゃんと完成させてリリースまで漕ぎつけてるっていうのが、一番すごいところだと思っていて。ていうのは、アマチュアとかインディーを目指している方で、ゲームを作るのが好きだって方はいっぱいいるんですけど、ゲーム作ってるのと出すのとの間には果てしない距離があるので。そこをちゃんと着地点というか、出口を最初に決めた上で1か月という時間をもうけて、しかもそれをちゃんとミートされたというのは、さすがヒストリアさんだし、さすが我妻さんだなあと思うので。そこが一番、素晴らしいプロの仕事だなあと思います。
――……素晴らしい締めの言葉でした。
一同:
(笑)
佐々木氏:
いまココロのなかで正確には1か月から漏れてるんだけどなって(笑)リリース作業だけ残しちゃって、ほかの仕事忙しくなって、若干寝かせていた時期があるんです。リリースって意味だと、1か月以上になる。開発って意味だと1か月ですが(笑)
――本当に今日聞いた話を思い起こすと、本当にUnreal Engine 4っておもちゃ箱だなという感じがしました。いろいろなものが入っていて。
河崎氏:
そうですね。英語でツールセットって言うんですけど、まさに日曜大工の道具の。なんかコストコとかで売ってる。十万ぐらいするような、そんなイメージですね。ただ一杯入りすぎていて、なにこれっていう(笑)のも時々あるという。
佐々木氏:
これ情報追うのも大変なんですよ(笑)
――先ほどの話だと、自分の好きなところからとりあえず探してみるのが一番いい判断ということでしたが、ほかにアドバイスとかありますか。調べる……?
佐々木氏:
うーん、結局、なんだかんだ言って、調べるとかの原動力は「作りたい」っていう気持ちなんで。やっぱり「作りたい」が最初にないと、なんでもうまくいかないかなって。まずそれで、やりたい機能をどんどんとね。やっぱり、ミニマムに作るとコレ付け足したいとかいうのがどんどん出てくるんですよ。そのために調べる。「作りたい」って気持ちが先にあるっていう状態が、多分、エンジン習得する意味でも一番いい形かなって思いますね。
河崎氏:
まあ各地でいろいろイベントとか地方も含めてやっていただいているので、そういう場にどんどん出ていただいて、リアルでもネットでも知り合いを増やして、まあSNSとかもそうですけど、先進んでる方を見つけて仲良くなれば、そういう情報も共有できるでしょう。そういうコミュニティに参加していただきたいと思います。
――ありがとうございました。
『ダンジョン&バーグラー』の開発行程とともにお伝えしてきた「Unreal Engine 4」を使用したゲーム開発方法、いかがだっただろうか。全3回の連載では、アップデートなどで変化する可能性がある細かいソフトウェアの解説にはフォーカスせず、「ゲームを完成にまで導くにはどうすればいいのか」という方法を、開発者側の視点からお伝えしてきた。すでに「Unreal Engine 4」や「ブループリント」の使い方に関しては、第1回目に出た「Unreal Engine 4で極めるゲーム開発」を筆頭とした多数の書籍やEpic Gamesによる公式ドキュメント、さらにはコミュニティメンバーによる無料の文献が登場しており、それらをぜひ参考にしていただければと思う。
また河崎氏が述べたように、今からゲーム開発を始めるのであれば、積極的に開発コミュニティへと参加するのも有効な手の1つだ。今回取材させていただいた株式会社ヒストリアが定期的に主催している「ぷちコン」や、今月開催予定の「Global Game Jam」など、共にゲームを開発し披露する機会も多数存在している。もし今回の記事を見てゲームを”完成させよう”という気になったのなら、ぜひ参加を検討してみるといいだろう。