“侵攻した側”であるロシアのゲーム企業は、現在どうしているのか
現在、世界情勢を揺るがしているロシアのウクライナ侵攻。その影響はゲーム業界にも波及している。ウクライナをはじめとする東欧諸国の企業のほか、欧米を中心としたゲーム企業が続々とウクライナの人々を支援し、平和を求める姿勢を示している。一方で、ロシアのゲーム企業たちは、今どのような動きを見せているのだろうか。
ロシアのウクライナ侵攻は、2月24日から始まり国内外にてその動向が一斉に報道された。その直後に、ウクライナ・キエフを本拠地とする、または拠点を置いているスタジオが続々と戦争に反対し平和を求める声明を次々に発表。また、『S.T.A.L.K.E.R. 2』開発元のGSC Game Worldが、戦火による影響で同作の開発を一時中断するなどの影響も出た(関連記事)。世界各国の企業も続々とウクライナへの支援を表明。国内では株式会社ポケモンが、20万米ドル(約2300万円)の寄付を発表している。海外ではCD PROJEKTやEmbracer Groupなどのゲーム企業が人道支援団体などへの寄付を表明。さらにはマイクロソフトやEpic Games、Activision Blizzardなどがロシア国内でのゲーム販売および商取引の停止・制限を実施している(関連記事)。
世界的にロシアへの風当たりが強まるなか、ロシア当地のゲーム企業は現在どういった状況にあるのだろうか。その反応はさまざまなようだ。まず、グローバルに展開する企業については、なんらかの声明を出す例もある。『War Thunder』開発・運営元として知られるGaijin Entertainmentは2月28日付けの声明にて、「世界の平和と安全を祈る」として政治と距離を置く姿勢を明らかにした。同社は、ロシアの首都モスクワに本拠をおきつつ、ドイツ・キプロス・ハンガリー・ラトビアにも支社を置いている。また、ロシアとキプロスにも拠点をもつOwlcat Gamesは、一連の情勢について「悲劇的な出来事」として触れ、ソーシャルメディア投稿を自粛する旨を発表。『Pathfinder: Wrath of the Righteous』のクラウドファンディング支援者向けの物品が、ロシアに対する制裁の影響で送れなくなる状況を伝えていた。これらのメーカーは国外展開しているゆえに、企業として姿勢を示した面もあるだろう。
また、比較的小規模なロシア国内デベロッパーが声をあげるケースも見られる。モスクワを拠点とし、『Pathologic』シリーズを手がけたIce-Pick Lodgeは2月28日に、声明を公式Twitterアカウントにて投稿。今回の侵攻について「ロシア側が開戦した」との見解を告げて政府を批判しつつ、平和を願う声を投じている。また、ロシアのカルーガを拠点とするEuphoria Gamesは、同国のSNSであるVKontakteにて声明を発表。ウクライナに寄り添った意見を伝え、戦争に反対する姿勢を明示し平和を訴えている。
ロシアを拠点とする組織にとって、こうした声明を発表することには懸念もある。というのも、ロシアでは言論弾圧が激しさを増しているようなのだ。今回のロシアによる侵攻を表現する際に「侵攻」や「戦争」などの表現を使った当地の独立系メディアは、ウェブサイトへのアクセス制限や罰金などにより罰せられるという。こうした影響を受けて、政権に批判的な現地メディアが解散したなどの情報も伝えられている(NHK)。つまり現在のロシアでは、政権を批判するばかりか、戦争を「戦争」と表現しただけで、何らかの制裁が加えられる可能性も十分に考えられる。そうした中で声をあげる現地スタジオは稀であり、ロシアを拠点とするデベロッパーたちは基本的に沈黙を保っている。政府から弾圧されるリスクを背負って声を大にできる組織の方が少ないだろう。
さらに、ロシアを拠点とするデベロッパーたちは経済的な苦境にも直面している。前述のOwlcat Gamesのように、ロシア内外向けの物流が途絶えるのもそのひとつだ。また、株式会社サイバーコネクトツー代表取締役の松山洋氏は2月28日、自身のTwitterアカウント上にて「ロシアへの入金ができず、仕事をしてくれたロシア語翻訳者へ送金できない」との旨を述べ、ゲーム業界にも戦禍の影響は及んでいると伝えた。ロシアの諸スタジオも、不安定な情勢による経済的打撃は避けられないだろう。
政府や企業によるロシアへのプレッシャーは、日に日に高まり続けている。ロシア経済の混乱は、現地企業への影響も計り知れない。一方で、侵攻を受けるウクライナの開発元および人々は、命の危機にも晒されている。この戦争はゲーム業界も含め、あらゆる方面に被害を与えてなおも続いている。