『World of Tanks』開発元、ロシアの侵攻を支持したディレクターを解雇。戦火に揺れる東欧ゲーム企業
Wargamingは3月1日、ロシアのウクライナ侵攻支持を表明した主要開発者を解雇したことを明かした。同開発者はSNS上で侵攻支持のコメントを投稿した後、同スタジオから離れたことを伝えていた。Wargamingから海外メディアPC Gamerへの声明により、改めて事実と認められたかたちだ。
Wargamingは、ベラルーシのミンスクにて創業、現在はキプロスを本社拠点とするゲーム開発会社だ。基本プレイ無料の戦車対戦ゲーム『World of Tanks』のほか、海戦ゲーム『World of Warships』空戦ゲーム『World of Warplanes』と、陸海空の戦争をテーマにした作品を開発・運営している。同社は欧州に拠点を点在させており、創業地のミンスクのオフィスのほか、現在侵攻を受けるウクライナの首都キエフや、ロシア国内のサンクトペテルブルクにも拠点を構えている。すなわち、欧州の混沌とした情勢の真っ只中に位置しているのだ。ウクライナで戦火に晒されるスタッフがいる一方で、ロシア在住の開発者も在籍している複雑な状況にある。
そんな中、同社にてクリエイティブディレクターを務めるSergey Burkatovskiy氏が、自身のFacebookにてウクライナ侵攻についての意見を投稿した(現在は削除済み)。同氏は、ロシアおよび、同国が開戦の根拠としたドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)による軍事作戦を支持するとの立場を表明したのだ。DPRとNPRは、2014年にウクライナ内の親ロシア派勢力が独立を宣言した“国家”である。いずれもウクライナ政府からはテロ組織認定されており、ロシアの傀儡政権であると見られている。つまり、Burkatovskiy氏はロシアの侵攻を全面肯定する意見を投じたわけだ。
そして同氏によるロシア支持の投稿直後には、Wargaming公式からの声明も投稿された。「Burkatovskiy氏はあくまで一従業員であり、個人の見解を述べたものである」と伝え、Wargamingとしての見解ではないと強調する内容だ。また、同社は現在キエフにいる550名以上のスタッフおよびその家族を援助するため、全力を注いでいるとしている。つまり、Burkatovskiy氏とまったく異なる立場であると表明している。その後、Burkatovskiy氏はWargamingから離職した旨を伝えていた。そして今回、WargamingがPC Gamerに向けたメールにて、同氏を解雇したと認めたのだ。
Wargamingは、実際にウクライナの支援に力を注いでいる。本日3月1日には、キエフの同社拠点であるWargaming Kiyvがウクライナ赤十字社に100万ドルを寄付。また、社をあげて同地従業員への代替住居の提供、給与の早期支払い、旅行や転居を支援するための資金提供などのサポート体勢を敷いている。今回の侵攻については、その経緯から国際的にロシアへの批判が高まっているほか、多くの国々や組織がウクライナへの支援を表明・実施している。 Wargamingが国際企業としてウクライナ支援を打ち出す中で、ロシアの侵攻を肯定するBurkatovskiy氏の発言は、同社にとって見過ごせぬ懸念だったのだろう。
また、同社運営ゲームの広告にも変化があった。侵攻開始直後には、オンライン広告が世界的に停止。アセットの見直し後、各国にて広告配信が再開されたものの、ウクライナだけは配信を控えたままだ。この理由についてWargamingは、PC Gamerへのメールにて「戦争の渦中にあるウクライナにて、自社ゲームを宣伝することは不適切であるため」としている。前述の通り、Wargamingの主要作品は兵器による戦闘がテーマだ。戦争が実際に起こっているなか、戦争に関連したゲームを運営することの難しさがうかがえる。
なお、Wargamingの元本拠で、現在も拠点が残るベラルーシもロシアとの関係浅からぬ国だ。ロシアの侵攻直前には、ウクライナの国境付近にてロシア・ベラルーシ合同軍事演習が実施されていた。つまり、侵攻前後にしてロシアと一体感を増している国のひとつなのだ。戦争に分断され、極めて複雑な立場にあるWargaming。ロシアによるウクライナ侵攻の影響は、ゲーム業界にも波及を続けている。