『グランブルーファンタジー ヴァーサス』開発スタッフ福原氏・パチ氏インタビュー。ゲームのこれまでから勝敗論まで、とにかくいろいろ訊いた

『グランブルーファンタジー ヴァーサス』福原氏・パチ氏インタビュー。同作のこれまでから、これから。そしておふたりの格ゲールーツなどを尋ねた。

Cygamesは3月3日、『グランブルーファンタジー ヴァーサス』(以下、GBVS)の本編にDLCキャラクター13体が加わった新装版『グランブルーファンタジー ヴァーサス レジェンダリーエディション』を発売する。


発売に際して、弊誌では『GBVS』のクリエイティブディレクターであり『グランブルーファンタジー』シリーズの総合ディレクターとして知られる福原哲也氏と、アークシステムワークスで『GBVS』のバトルプランナーを担当し、格闘ゲーマーの「パチ」氏として知られる関根一利氏に直接インタビューをする機会を頂いた。そこで今回は『GBVS』の現役プレイヤーで、「RAGE GBVS 2021 SUMMER」の覇者でもある強豪バザラガ使いのデバガメ氏も招き、プレイヤー目線でも開発の両氏への質問を用意していただいた。弊誌担当と合わせて総勢4名による、2時間にも及ぶ対談とインタビューの様子を、以下にお届けする。

――本日はよろしくお願いいたします。それでは最初に自己紹介をお願いします。

福原氏:
株式会社Cygamesの福原哲也と申します。『グランブルーファンタジー』シリーズのディレクターをやっていまして、『GBVS』ではクリエイティブディレクターという肩書きになっています。

福原氏のアイコン


関根氏:
アークシステムワークスで『GBVS』のリードプランナーを担当しています、関根一利と申します。バトル関連をよく担当しています。もともとはゲーム雑誌でライターをしていました。

関根氏のアイコン


デバガメ氏:
デバガメです。リリース時から『GBVS』をプレイしています!「RAGE GBVS 2021 SUMMER」では優勝しました。プレイヤーとしていろいろ話を聞かせてもらいますね!

『GBVS』の始まり

――『GBVS』はCygames企画、アークシステムワークス開発とのことですが、開発には本家グラブルのスタッフも関わっていると聞きます。スタッフ構成や開発体制は具体的にどうなっているのでしょうか?

福原氏:
Cygames側からはグラブルイラストチーム全体とシナリオチームが数名ですね。実務作業ではローカライズチームやメディアプランナー、eスポーツ室という部署など、ほかに関わっているスタッフもいます。ゲーム部分はイラストチームのリーダー、シナリオチームのリーダーと僕の3人が監修している形です。これに関しては本家『グランブルーファンタジー』(以下、グラブル)や現在開発中の『GRANBLUE FANTASY: Relink』なども合わせて、区別なくスケジュールが組まれている感じですね。ローカライズチームもここは兼任しているスタッフが多いです。

――イラストとテキストは主にCygamesさんが担当していらっしゃるんですね。格闘ゲーム部分に関しては基本的にアークシステムワークスさんに任せている感じでしょうか?

福原氏:
そうですね。僕の方からちょっとしたリクエストをする時もありますが、基本的にゲーム部分の仕様や数値の設計などについてはアークシステムワークスさんにお任せしている形になります。


――『GBVS』開発のきっかけについて改めて教えていただけますか?

福原氏:
よく聞かれるのですが、明確なきっかけと言われると難しいですね。Cygamesには「ゲーム業界全体を元気にしたい」という理念がありまして、eスポーツシーンにもその一環として注力しています。『Shadowverse』などは現在も精力的に展開しているのですが、やっぱりeスポーツの華は格闘ゲームというところがあると思います。なので、自社でもひとつは格闘ゲームタイトルを持っておきたいと。そこで看板タイトルの『グラブル』で格闘ゲームを制作し、『Shadowverse』と一緒にeスポーツを盛り上げていこうと、そういうバックグラウンドはありました。

――リリースから2年ほど経ちますが、ここまでの開発を振り返ってみてお二人が印象に残った出来事やこだわった点などはありますか?

福原氏:
リリース前の開発も含めると2年どころか5年くらいの道のりになりますね。

関根氏:
そうですね、リリース直後からいろいろと大変だったわりには、大きな遅れもなく開発を継続できていると思います。

福原氏:
アークシステムワークスさんがすごくしっかりしていらっしゃって、今のところDLCなども計画通りリリースできています。

関根氏:
新型コロナウイルス感染症やもろもろなどでEVO(Evolution Championship Series)とかも流れてしまったので、そこは残念でしたね。とはいえ大会も無観客やオンラインで開催されていますし、多くの方に参加して頂けているので、そこは良かったなと。

開発に関しては、『GBVS』はアークシステムワークスの格闘ゲームの中でもかなりハイペースでキャラクターを追加していくタイトルでしたので、特にDLC以降は開発スケジュールがタイトだったのが印象的ですね。リリースされてからはあっという間の2年間でした。

福原氏:
あとは、リリースした直後くらいから新型コロナウイルスが流行りだして、Cygamesとアークシステムワークスさんで打ち上げをしようというのが流れたままなのが、ずっと気になってます。

関根氏:
そうですね、打ち上げできる機会は待ち望んでいます。個人的なこだわりでいうと、やはり本家『グラブル』を自分でしっかりやり込んだという点ですね。『GBVS』のお話を頂いたのがちょうど2016年頃で、じゃあせっかくだからまずは本家『グラブル』をプレイしてみようとインストールしました。スタートダッシュガチャでルシオを取ったのでよく印象に残っています。そしてサプチケでは薦められるがままにヨダルラーハを取りました。

「他所様の大事な子供を預かるからには!」と始めた本家『グラブル』だったのですが、いざ触ってみたらかなりハマってしまいまして(笑)最初の頃はとにかくSSRのキャラを増やさなければと右往左往して、クリスティーナを取るためにずっとカジノをプレイしたりとか、いろいろな思い出があります。

福原氏:
打ち合わせのたびに、古戦場の戦績を報告されてましたよね。

関根氏:
発表前でプレイしているとは中々言いにくい状況だったので報告できる相手も欲しかったんです(笑)ちょうど休みを取れる日程だった時があって、「古戦場の英雄」(個人ランキング2000位以内でもらえる称号)を取ると意気込んでプレイしていました。もちろん古戦場だけではなくてテキストやストーリーもしっかり読み込んで、キャラクターの特徴や魅力をしっかり必殺技に落とし込もうというのは意識していましたね。たとえばカリオストロの解放奥義は相手を銅像にするというものですが、この演出はカリオストロ自身の姿が理想ならば、相手も理想の姿にしてしまえば…といった発想からきています。きちんと原作に触れていなければ出てこなかった発想だと思うので、そういう点はよかったかなと。


福原氏:
アークシステムワークスさん側からアイデアをいただく時は、モチーフとなった原作の要素などについてかなり詳細な資料も一緒にいただいていました。かなりしっかりと調べていただいている印象で、本家チームが口を出すようなことはほとんどなかったと記憶しています。

僕が要望として出した中で大きな要素となったのは、「コマンドリストに動画を入れて欲しい」というものですね。『グラブル』の派生作品ということでスマホから入ってこられるプレイヤーの方も多いと思いましたので、コマンド入力に慣れていない方のためにも「入力が成功して初めてどういう技か分かる」のではなく、先に動画でどういう技か分かるようにしたいなと。

関根氏:
ユーザビリティに関して、Cygamesさん側から「格闘ゲームに不慣れなプレイヤーのためにもこうしてほしい」という視点でいろいろとアイデアをいただけたのは非常にありがたかったです。それにどのキャラクターについてもCygamesさんから先に大まかなキャラクターイメージの説明はいただけていたので、あとはこちらが原作をプレイした印象と軽く擦り合わせをしてキャラクターが完成していくという感じで、とてもやりやすかったです。あとはそうですね……うちのグラフィック担当は「美形キャラのほうが監修が厳しい」と言っていました(笑)

福原氏:
絵的な要素などは多くて……アビリティ+を使用したときのキャラクターのエフェクト色を、原作と合わせて黄色にしてほしいとかですかね。仮だったとは思うのですが、最初は緑色でした。あとはライフゲージが微妙にアニメーションしているのですが、あれも僕がお願いしたものですね。『GUILTY GEAR XX』のゲージが個人的に格好良くて好きだったので、似た感じにしたいなと。本当にそういうとても細かい所が多いですね、自分から提案したのは。


ふたりの格ゲールーツ

――ありがとうございます。ではAUTOMATON編集部からの質問は一旦ここまでということで、ここからはデバガメさんにもプレイヤー目線からもいくつか質問をしていただく形となります。

デバガメ氏:
よろしくお願いします。では最初の質問なのですが、『GBVS』は開発としてはどのような部分が特徴で、どういうコンセプトで開発された格闘ゲームなのでしょうか?

福原氏:
『グラブル』が題材ということで、いわゆる「スマホユーザー」が流れてくることは見込んでいました。PS2くらいまではコンシューマーゲームをよくプレイしていたが、最近はスマホゲームしか遊んでいない…といったような層も想定して、そういったプレイヤーが『GBVS』のために久々のコンシューマー機としてPS4を買った時にも楽しく遊べるような配慮を徹底しています。□ボタンや△ボタンと言われてもぱっと位置が分からない方でもプレイしやすいように、あまり複雑なシステムにはしないようにしていました。

それと、eスポーツだと自分ではあまりプレイせず観戦メインの方もいらっしゃいます。そういった層も重要なターゲットだと思っていますので、あまりゲームの内容を知らなくても画面上で何が起きているのか、どういう勝負の流れなのか分かりやすくして、応援がしやすいようなゲームにしようというのがありました。こうした内容をアークシステムワークスさんにお話したら「ちょうどそういうのに挑戦しようと思っていた」とのことで、非常にスムーズに話が進みました。

関根氏:
最初は「うちのゲームなのに空中ダッシュも二段ジャンプもなくていいんですか!?」なんて話もあったりましたけどね(笑)とはいえアークシステムワークスとしてもいろいろなタイプの格闘ゲームをしっかりと作れる自信はありましたし、ここらで一度格闘ゲームの原点に立ち返れるようなゲームを作るのもいいんじゃないかという機運もありましたので、お互いのタイミングが合っていましたね。

デバガメ氏:
なるほど、それでシンプルなシステムで空中ダッシュや二段ジャンプもない、復帰勢の方でもとっつきやすいようなゲーム性を目指したと。

関根氏:
空中ダッシュや二段ジャンプがあったら取っつきにくいというわけではないとは思っていますけども、単純に「アークの格闘ゲーム」というとそっちのイメージが強いのではないかなと。たとえば機動の自由度が高かったり、空中コンボが多かったりみたいな。もちろんそういうシリーズも多いのですが、そうではないタイトルもあります。『バトルファンタジア』とか。『GBVS』はそういったアークシステムワークスのメインストリームのゲーム性からはちょっと外れた挑戦をするにはちょうどいい機会かなというのはありましたね。

デバガメ氏:
なるほど。ちなみに自分はアークシステムワークスさんの『BLAZBLUE』シリーズが大好きで、稼働当初からプレイしていて、今でもたまにプレイしています。お二人が格闘ゲームに最初に触れたタイトルや、ハマったタイトルはありますか?

福原氏:
僕はスーパーファミコンの『ストリートファイターII』ですね。「コミックボンボン」で見かけて面白そうだと思って興味を持ち、小学校の頃は友達の家に集まってずっとプレイしていました。その後は『餓狼伝説』シリーズや『THE KING OF FIGHTERS』シリーズを通って、『GUILTY GEAR X』をドリームキャストでプレイしてめちゃくちゃハマりました。ゲームセンターで『GUILTY GEAR XX』もロケテからプレイしていて……社会人になってからは、しばらくしてから『BLAZBLUE CALAMITY TRIGGER』も稼働間もなくの時期から遊びました。

デバガメ氏:
ゲーセンでと言われると、どうしてもどこのゲーセンか聞きたくなってしまいますね。

福原氏:
主に仙台駅前ですね。今はもう無いですがプリッズによく行ってました。

デバガメ氏:
なるほど!仙台は前に一度遠征で行ったことがあります。

関根氏:
自分が最初に触った格闘ゲームは、これは正直格闘ゲームと言っていいのか分からないのですけども、ファミリーコンピュータの『キン肉マン マッスルタッグマッチ』ですね。このゲームは対戦中にミートくんが投げる「光の玉」を取ると各キャラ固有の必殺技が使えるようになります。いわゆる対戦ゲームの必殺技という概念がそもそもこのゲームが初出なのではないかと思っているのですが、なにより選べる8体のキャラでパンチ力やキック力、足の速さや必殺技の性能が違いました。「キャラ性能の差が存在する対戦ゲーム」ということで、現在の格闘ゲームのプロトタイプという意味ではこれが原点では?と勝手に思っています。もちろんきちんとした格闘ゲームとなると自分も『ストII』が原点になりますが。あとは『サイキックフォース』や『ストリートファイターZERO2』あたりもかなりプレイしましたけど、「最初に触れた格闘ゲーム」となるとやはり個人的には『マッスルタッグマッチ』を推したいですね。

デバガメ氏:
その『マッスルタッグマッチ』というゲームのことが気になってきました……。

関根氏:
当時はブロッケンマンが最強という風潮があったのですが、自分の評価だと下から2番目くらいの強さでした。「ブロッケン使っていいよ」というとみんな喜々として選ぶのですが、こっちはそれに対してウォーズマンを使って即死コンボを決めていました。自分がゲーム攻略を真面目にやるきっかけの1つにもなったのでいいゲームだと思ってます(笑)

デバガメ氏:
『GBVS』のコンセプトや開発に大きく影響を与えた格闘ゲームタイトルはあったりしますか?

福原氏:
『ストII』や『ストIV』のような、久しぶりに触っても素直に動かせるタイプのゲームを目指しましょうというのはあったと思います。

関根氏:
そうですね。「久しぶりにこの格闘ゲームで遊ぶぞとなった時に、どのタイトルが一番出来るのか」という話題になったことがあって、そうなるとやっぱり『ストII』ですよね。今遊ぼうと思っても全然動かせると思います。もちろんアークの格闘ゲームでも手が覚えていれば遊べるシリーズはあると思っていますが、昔のシリーズで久しぶりにこのゲームやろうと言われた時に「いや、最近はちょっとやってないから……」と敬遠しちゃうパターンはあると思います。そこで『ストII』みたいな、久しぶりにプレイするとなっても躊躇わずに済むような、復帰してもすぐ手に馴染むようなタイトルを『GBVS』は目指していました。きちんとやり込んだときの奥深さや難しさは残しつつも、操作面でのハードルは下げて、復帰勢にとって選びやすいタイトルになっていると嬉しいですね。

デバガメ氏:
久しぶりにやってもコンボはちゃんと出来るし、楽しさを再確認できるという人をたくさん見るので、成功していると思います。

関根氏:
Cygamesさんから、長く運営を続けていきたいタイトルだと再三言われていたのもあって、一回脱落したら戻ってくるのが難しいタイトルにはしたくなかった。もっと激しいゲーム性にすることもできたとは思いますが、その方向性の面白さって一過性のものだったりもするので、塩梅が難しいですよね。なので、今回は復帰しやすいシンプルさを軸にしながらも、きちんと強くなるには練習量が必要で少ない手数でのヒット確認や、対空の精度などといった部分を鍛えていかないといけないような、そういうゲーム性を目指しました。

福原氏:
最近はゲームに限らず、世の中の娯楽の供給量が飽和気味だと思います。競争が激しいですし、選ぶ側としても一個のゲームでいつまでも遊び続ける理由はあまりないですよね。ゲームタイトルを長く運営していくにあたって、ユーザーに毎日張り付いてプレイしてもらうよりもスポットスポットで戻ってきて遊んでもらうという方が、逆にその方がより長く楽しめるものとなり、現代的だと感じます。大型アップデートやDLCのような節目の時期の『GBVS』が、多くの人がプレイしていて戻ってきやすいタイトルであることを目指しています。

ゲームとしての受け入れられ方

デバガメ氏:
『GBVS』でのお二人の使用キャラクターや、特に気に入っているキャラクターはいますか?ちなみに私はもちろんバザラガですけども。

福原氏:
僕もバザラガが好きですよ。

デバガメ氏:
嬉しすぎる。

福原氏:
単純にデカキャラが好きなんですよね。デカキャラとか、移動に制限があるタイプのキャラを使いがちです。ダッシュができないとか、ジャンプができないとか。バザラガは両方できますが。

関根氏:
自分はつまらない答えかもしれませんが、やっぱり全員好きですね。自分の立場でどのキャラが好きとか言うと「贔屓して調整をしているだろう!」なんて勘繰られるというのもありますけども(笑)もっと正確に言うならばどのキャラも好きというよりも、どのキャラにも好きな瞬間があるというのが正しいですね。さっきも言いましたがカリオストロの解放奥義とか、あとファスティバの解放奥義とかはお気に入りの瞬間ですね。バザラガだとしゃがみ対空からごっそり減った時とかは気持ちいいですよね。グランはドライブバーストの蹴りが大きな個性になったのも気に入っています。それにどのキャラもやっぱり、開発している時はそれが一番お気に入りになりますね。たとえばナルメアを作っている時はナルメアが一番好きでしたし、そういう感じです。

デバガメ氏:
なるほど。


――ちなみに、一人の格闘ゲーマーとしてデバガメさんから見た『GBVS』はどのようなゲームですか?これまでのプレイを振り返ってみて印象を教えてください。

デバガメ氏:
そもそも私がなぜこの『GBVS』というゲームを触り始めたかというところから始まるのですが、先程も話したようにもともと私は『BLAZBLUE』シリーズのプレイヤーでした。とはいえシリーズからは3年くらい離れていて、その間は格闘ゲームも特にプレイしていなかったのですが、『グラブル』という有名IPで完全新規シリーズの格闘ゲームがアークシステムワークスさんから出るということが話題になっていまして。

私の周りにも同じように最近は触っていないけど昔は格闘ゲームをやっていた人が多くて、そういった人たちが「せっかくだからやってみよう」と言い出し始めました。そこでそれなら自分もプレイするかと思ったのがきっかけですね。いざプレイしてみたら新規の方がとても多くてびっくりしたのですが、それ以上にいろいろな格闘ゲームシリーズの有名プレイヤーがこのタイトルに集まっていて、「格闘ゲームってまだこんなに盛り上がれるんだ」と感動したのを覚えています。それに新規の方々もこのタイトルをきっかけに他の格闘ゲームシリーズ、たとえば『GUILTY GEAR』シリーズとかに手を出すようになった方とかも、SNSでよく見かけます。総じて『GBVS』の格闘ゲーム界への影響はかなり大きかったのではないかという印象です。

シーズン1の時はかなり尖ったキャラクターたちがいて、もちろん私の持ちキャラのバザラガもかなり尖ってはいたんですが、上の方のキャラクターに比べるとちょっと尖り具合が追いついていないんじゃないかとは思っていました。シーズン2になると各キャラの個性は残しつつもキャラ差は縮まったと感じていて、とても良かったです。あと、シーズン1は派手で高火力なコンボが決まってあっという間に勝負が決まることがある、爽快感と緊張感のあるゲームバランスでした。今はどちらかというとそういった高火力コンボが決まるシーンは減っていて、上手いプレイヤーのやり込み具合がそのまま堅実に勝利に繋がるような、そういったゲームバランスに変わったと感じていますね。

福原氏:
いわゆる○○勢と言われるような、いろいろな格闘ゲームシリーズの有名プレイヤーたちが集まって遊んでくれたのは狙っていた結果ではなくて、どちらかというと嬉しい誤算という感じでした。格闘ゲームコミュニティの傾向として、新規格闘ゲームタイトルはとりあえずみんなでやってみようというのがあると思います。『GBVS』がリリースした時期はちょうど他にそういう新規格闘ゲームがなかった時期なのかなと思っていて。なので、あのタイミングで『GBVS』が鳴り物入りといった感じで出てきて、格闘ゲーマーたちの関心が一気に集まったのはある程度運もよかったのかなと感じています。

デバガメ氏:
ほかには大会の話ですけども、RAGEから間を空けずにCygames Cupも開催されていて、短いスパンで公式大会が開催されているのは私だけじゃなくて多くのプレイヤーのモチベーションに繋がっていると思います。ちなみにお二人は大会関連で印象に残っているシーンや気に入ってる場面とかはありますか?

福原氏:
「RAGE GBVS 2021 SUMMER」で試合中にデバガメさんとしおさんが笑い合ってるシーンがあって、あれは格闘ゲームならではのコミュニケーションだと思ったので、あれを見た時は「大会やってよかったな」と思いましたね。

デバガメ氏:
そんなこともありました。あれは確か私のバザラガの体力が残り僅かというところでしおさんのローアインがユグドラシルを出してきて、「これはもう絶対に助からん!」という場面でしたね(笑)

※RAGE GBVS 2021 SUMMERでの、デバガメ氏としお選手の一幕


勝敗論

福原氏:
知らない人同士のオンライン対戦だと負けるとやっぱりめちゃくちゃむかついたりすると思いますけど、昔オフラインで友達とプレイしていた時は負けてもそんなにイライラなんてしませんでしたし、そういった頃の体験を思い出してしまうシーンでしたね。

デバガメ氏:
オンラインだと、オフラインで遊んでいる時に比べてどうしても負けの苦しみが勝ってしまうシーンというのはありますね。

関根氏:
たまに考えることに「格闘ゲームに常設のランクマッチははたして必要か」というのがあります。たまに聞く話ですが、幸福は相対的に感じている人も多く、SNSで自分より幸福そうな人を見ると自分の幸福度が下がるという話に似ていて、常にランキングで他人と比較されるランクマッチはどうしてもプレイヤーの喜びにもストレスにもなりえます。じゃあどうすればいいのかというと難しいのですが、改めてよく考えるべきテーマではないのかという風には感じています。

デバガメ氏:
それを聞いて思い出したのですが、シーズン1ではランクマッチでマスターの星の数が見えず、順位しか表示されていなかったですよね。どこかのタイミングで表示されるようになったと思うのですが、それは今の話となにか関係あったりしますか?

関根氏:
最初は順位だけを表示していたのですが、反映される時間の都合で結果変動がわかりにくかった部分があるのと、星の数が見たいという要望が多かったからだと思います。あとは別の話ですが、マスターに到達したらランクマッチをやめてしまう人が思ったより多かったのは印象にあります。個人的にはマスターがゴールではなく、マスター同士で競い合ってもらえると嬉しいなと思っています。マスター内でバチバチやってもらえればランクマッチとしてはとても健全ではあるのですが、その反面でマスター同士のランクマッチは厳しさや求道的な部分も多いのでそこまで求めていいものかといった部分もありますが。あとはマスターからの降格も要望があったので実装はしていますが、さっき言ってたランクマッチの苦しみというのも理解はしているつもりなのでやっていいものかと結構悩んだところではあります。

福原氏:
対戦ゲームは苦しい側面もあるという部分は、なんとかできないかなとは思っています。

関根氏:
楽しいから、苦しいってのもあるのですが……。ニュアンスが難しいですね。

福原氏:
特に格ゲーは1対1ですから、必ず片方は不幸になりますよね。カードゲームもそうです。それを考えると責任が分散されるバトロワやチームvsのFPSのほうが時代に合っているから今日ではあれだけ流行しているのかなと思ったりはします。

関根氏:
きちんと(上達の)目標が別に設定されているなら、その過程で負けること自体は100%不幸というわけではないと思いますけどね。それにランクマッチの苦しさがある意味楽しくてやっている人というのもいますから。でもやっぱり「ランクマッチはつらい」と言っている層にどうやったら楽しさを提供できるのかという点は、ずっと課題ですよね。すべての対戦ゲーム開発者が頭を悩ませているテーマのひとつだと思います。

『GBVS』の大会で印象に残っているシーンに話を戻すと、自分は「気持ちが乗っているシーン」がすごい好きですね。なのでRAGE GBVS 2020 Winterのもっちーさんとジローさんの対戦とかはドキドキして見ていた覚えがあります。なんというか無理をして技を通している瞬間とか、この緊張感の中で精度が高かったり、ミスをしてもリカバリーができてたりとか、そういう時にやっぱり「いまのは気持ちが出ていたな」って思いますし、これこそが格ゲーだなって感じます。

※ RAGE GBVS 2020 Winterでの、もっちー選手とジロー選手の一幕


アップデートによる調整について

デバガメ氏:
Ver2.70では「全キャラ強化アップデート」が来たということでプレイヤーはみんな大喜びしていましたが、今までの下方修正多めの傾向から方向転換して今回このアップデートに至った経緯などあれば教えてもらえますか?

福原氏:
Ver2.70が『GBVS』にとって大きな節目のひとつだったというのと、次の展開まではどうしても時間が空いてしまうので、せめてその間でもみんなに少しでもいい気持ちで遊んでもらいたいというのがありました。そこで「全キャラどうにか(強化)いけませんかね?」と相談させてもらった形になります。

デバガメ氏:
そういったバトルバランスの調整をする時に、何を判断材料にしているのかなというのも気になっています。使用人口とか、ランクマッチの勝率、大会の結果などいろいろとあるとは思うのですがどうでしょう。

関根氏:
総合的に見ています。ちゃんとキャラの個性が引き出せるようになっているのか、という点では大会の内容や対戦動画を参考にすることはあります。ただ、大会の「結果」だけを考慮していることはないですね。大会結果に重きを置いてもいわゆる上級者に寄っただけの調整になってしまいますので、幅広い層が遊ぶことを前提として内容を精査しています。ネット対戦の使用率や勝率など、いろいろな要素を参考にはしていますが、全キャラクターの使用率が均等になることを目指しているわけではないです。

それに、『鉄拳』の原田さんがYouTubeの動画で詳しく話している内容なのでぜひそっちを見ていただきたいんですが、実際の統計上の勝率というのは大半のプレイヤーが思っているものとは違うことが多いです。なので、設計したキャラコンセプトがきちんと発揮されているか、キャラの個性はきちんと引き出せているかの方を重視していますね。余談ですが、本作ではマスター帯、SSS~SS帯、B帯などといった各グレードの週月ごとの勝率なども取っていたりはしますが結構結果が違ったりします。世間では最弱と評されている部類のキャラがマスター帯での勝率が高いといったこともあったりしますし。

また、今までは下方修正が多いといった印象を持たれているとは思いますが、シーズン2以降の話で言うのであれば、強化内容のほうが多かったりします。とはいえ、調整に対する反応はプラスの上方修正よりマイナスの下方修正が目立ってしまうため、実際は強化内容が多かったとしてもマイナスがあればそっちの印象を強く受けてしまうかなとも思っています。そのほかだと、例えば相対的に強くなる結果が分かっていても、そのキャラクターの強化が行われていない場合は強く感じない、といったこととか。そのあたりはいろいろと議論して進めていますが、結果がわかりにくい部分もあってなかなかに伝わりにくく、苦慮しています。

パッチノートに意図をもっと具体的に書いてほしいといった意見もあるのですが、個人的にパッチノートに開発側の想定を提示しすぎてしまうと、遊びを模索する幅を狭めてしまうのではないかといった懸念があるので、あまり具体的にこう使いましょうといったことまで厳密に言うべきではないかなとも思っています。変化した部分は触ってもらった時や使い込んで攻略を考えたり、プレイヤー間で情報交換したりするのが楽しめる部分だと思うので、そこを大事にしたいと思っています。

福原氏:
パッチノートはいつもリリース前日に出すのですが、その時点では基本的に文章での情報のみで細かい数値やデータはマスクしていることがあります。実際にゲームで動かして挙動を見るまでは、どのような変更がなされたのかの結論は出ないものだと思うのですが、その前に正解探し……極端に言えば「神か、クソか」の断定をされてしまう風潮は感じていて、いつも気になってはいます。後日「強化されてこういうことができるようになりました」といったような情報を動画で出しているので、これを最初からパッチノートに記載するべきか?とは思ったりもしたのですが、やっぱりそれはちょっと違う気もしています。かといってフレーム単位で全部記載するのもまた違いますし、そういった葛藤はありますね。

関根氏:
先程も言ったように開発側としてプレイヤーの遊びの模索を制限するのは本意ではないので、パッチノートにどこまで書くべきかというのも悩むテーマのひとつではありますね。もちろんわざわざ調べるのが面倒臭いから全部書いてくれという意見をいただくこともありますが、個人的にそういった情報って攻略価値のあるものだと思っています。そこの攻略の速さも、ゲームの上手さのひとつではないかなと。隠しているわけではなくてプレイヤー側に委ねている、やりこみの一要素と見なしているという感じです。

プレイヤーたちの活動は見ている

デバガメ氏:
あと、自分は『GBVS』をどうにか盛り上げたいと思って動画配信しながら大会を主催したりしているんですが、こういった活動はお二人の目には入っていますか?

福原氏:
もちろん存在は知っていて、タイミングが合えば見ていることもありますよ。

デバガメ氏:
本当ですか!

福原氏:
デバガメさんのゴルシで走るやつとか、サク山チョコ次郎決定戦とか。

デバガメ氏:
そんなのまで……。

福原氏:
テーマが面白いと思って。あとはこの前は仕事が終わって帰宅してから、お風呂で携帯をいじってたら、なかおさん主催の平日大会が目についたので見ていましたね。着ぐるみまで着てもらって、ありがたいなと思いながら見ていました。

デバガメ氏:
プレイヤー宛てのファンアートなども目に入ったりしますか?

福原氏:
探したりはしないのですが、よく目に入ります。特定のプレイヤーを象徴するカラーが使い手であるプレイヤーの方と紐づいたりするのとか、独特ですよね。格ゲーならではで面白いなと思っています。

なおデバガメ氏もファンアートをもらっているという。上の画像はKura氏(@kuradan717)、下の画像はℓуяιє氏(@lyrieeeee)作。デバガメ氏としてもかなり気に入っているそうだ(作者から掲載許可承認済み)。


これからの『GBVS』

デバガメ氏:
あとは少し前に「新規キャラクター希望アンケート」というのを実施していたと思うのですが、こういったアンケート以外に新規追加キャラクターを選ぶ基準のようなものはありますか?

福原氏:
原作『グラブル』の中で認知度が高いキャラであったり、戦闘スタイルが特徴的であったり、キャラ同士の関係性なども考慮して総合的に選んでいます。関係性というとランスロットとパーシヴァルのセットとか、バザラガとゼタのセットとかですね。あとは男女比とかも考えていますね。原作にはたくさんのキャラがいるので、いろいろな要素を多角的に検討して選んでいます。ただ、シーズン2でウーノ、ユーステス、シスと男キャラが3連続で追加になったのはちょっとピーキーすぎたなと反省しています(笑)

デバガメ氏:
友人が「はやく女キャラを出せよ!」と言っていたのを覚えています。

福原氏:
男女比はそれなりに気にしていて、シスを追加した段階で男女同数になったと思っていました。でもよくよく考えたら騎空団員だけ見ていたので、ヴィラン枠のベリアルとベルゼバブを計算に入れてなくて、この二人を入れると男の方が二人も多かった。ヴィラン枠は原作では仲間キャラではないので、つい別枠でカウントしちゃってました。


デバガメ氏:
よく海外のプレイヤーから「海外でも公式大会を開いてくれ」ということを言われるんですけど、どうですか?

福原氏:
公式大会の開催となると難しい話ではありますけど、日本のイベントで手に入る限定カラーなどに関しては海外でも手に入るように対応を検討中です。無料や有料で配るのもおかしいと思うので、なにかしら現地の大会だとか、コミュニティのイベントに絡められないかなと考えています。海外での公式大会の開催についても、現状ではいろいろと問題はあって詳しくは言えないのですが、なんとかしたいなとは思って検討したり準備したりはしているところですね。

関根氏:
海外に限らない話なのですが、大会を開いてほしい、特に「次も大会を開いて欲しい」という時はとにかく参加者を増やすことが一番ですね。一番分かりやすい指標なので。記念参加してくれる人って実は大会にとっては一番ありがたい層で、継続的に大会が開催されるためにはそういう記念参加を気兼ねなく出来る空気を作り上げていくことが何より大切じゃないかなと思います。

デバガメ氏:
海外つながりで、やはりロールバックネットコードを望む声が海外では根強いのですが、どうですか?

福原氏:
海外インタビューとかでも答えてはいるのですが、昨今の事情を鑑みるに入れたほうがいいのだろうなとは感じています。とはいえ導入のハードルはタイトルごとに違って、「あのタイトルで導入できたわけだからこっちでも出来るだろう」というわけではないのですよね。『GBVS』も結構な大工事になってしまうのですけども、僕は入れたいとは思っていて、今は向き合っている段階です。

デバガメ氏:
なるほど。いろいろお聞きできてよかったです!

――デバガメさんもありがとうございます。今回は『GBVS』のレジェンダリーエディションが発売ということで、このタイミングで『GBVS』をまた動かす決断に至った経緯などはありますか?

福原氏:
特に大きな決断だったわけではなく、シーズン2もちょうど終わって、新装版を出すにはちょうど良いタイミングでした。Cygamesとしては本気で格闘ゲーム制作に力を入れていくつもりで、今後も盛り上げていく気がありますので、『GBVS』はまだまだ続きます。

――最後に、今『GBVS』をプレイしているプレイヤーのみなさまや、購入を検討しているみなさまに、なにかメッセージがありましたらお願いします。

福原氏:
さきほども言いましたが、『GBVS』の運営はまだまだ続く予定となっています。現在公開しているロードマップがありまして、そこに記載されている内容のさらに次の展開まではちょっと時間をいただくとは思うのですが、ぜひ続報について楽しみにしていただけたらなと。

3月3日にレジェンダリーエディションと新価格版の「Cygames Greatest Hits」のパッケージ版が発売されます。どちらもお求めやすい価格となっていますので、ぜひ一緒にプレイできる友達を誘った上でお手に取っていただけると幸いです。大会に関しても、今年はES大会のサポートを強化しつつ公式大会も継続的に開催していく予定ですので、遊ばれる方は大会参加をひとつの目標としていただけると嬉しいなと思います。参加するだけで価値がありますし、格闘ゲームならではの空気にも触れられて楽しいのではないかなと。

関根氏:
今遊んでくださっているみなさまには、ただただ感謝の気持ちしかありません。楽しい気持ちも悔しい気持ちもひっくるめて、みんなと共有しつつ良い思い出にしていただければ幸いです。個人的には「令和の格闘ゲームのエントリーモデル」というつもりで作っているので、格闘ゲームに触れてみたいという方にとっても最適なタイトルになっていると思います。福原さんもおっしゃっていたように今後も開発は続いていく作品でもありますので、ぜひよろしくお願いします。

――本日はありがとうございました。

(c) Cygames, Inc. Developed by ARC SYSTEM WORKS

Mizuki Kashiwagi
Mizuki Kashiwagi

PCとPS4をメインで遊んでいます。自分で遊んでも、観戦していても面白いような対戦ゲームが好きで、最近は格闘ゲームとMOBAをよく遊んでいます。

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