米ゲーム保存協会が、任天堂のWii U/ニンテンドー3DSストア終了に抗議。史料保存としては死活問題
非営利組織The Video Game History Foundation(以下、VGHF)は2月18日、任天堂などに対しゲームの史料保存を訴えかける声明を発表した。任天堂が2月16日に発表した、一部コンソール向けのオンラインショップ終了予告を受けての反応だ。
VGHFは、ビデオゲームの歴史を保存・記念・教育することを目的とした非営利組織だ。ゲーム関連文献を集めた図書館の運営や、ゲームの歴史を伝える講義コンテンツの配信のほか、古いゲームのソースコード保存を目的としたプロジェクト「Video Game Source Project」を推進するなど幅広い活動をおこなっている(関連記事)。ビデオゲームは比較的新しい文化ながら、初期の商業的成功作である『PONG』が産声をあげてから早くも約半世紀が経とうとしている。文化としてもビデオゲームの成熟が進み続けるなか、かつての貴重な史料が散逸しないよう守る活動をしているのがVGHFなのだ。
VGHFによる声明の背景には、任天堂が2月16日に発表した、ニンテンドー3DSシリーズおよびWii U向けのニンテンドーeショップの段階的サービス終了の告知がある。同ストアでは、ゲーム本体や追加コンテンツなどがオンラインで購入できる。しかし、2022年8月30日をもってストア残高の追加はできなくなり、2023年3月下旬にはゲーム/DLC購入サービスも終了する予定だ。購入済タイトルの再ダウンロードについても、将来的には終了する見込みとなっている。そして、同ストアの終了によって、手に入らなくなってしまう作品もある。ゲーム作品の入手手段が消えてしまうのは、ユーザーのみならず、史料保存に心血を注ぐVGHFにとっても由々しき事態というわけだ。
今回の声明のなかでVGHFは、上述のeショップ終了について「ビジネス上の現実的な判断は理解できる」として任天堂の方針に理解を示した。一方で、販路が途絶えてしまった場合、ファンたちは一体どのようにして作品を入手すればよいのかとの疑問も呈している。またVGHFは、ESA(エンターテインメントソフトウェア協会)の主導するロビー活動(政治活動)についても問題視している。同協会は、米国において知財権などに関するロビー活動も実施しているのだ。VGHFはそうした活動が、図書館のような教育目的機関でのゲームソフト保存・提供をも妨げると主張。任天堂がESAの一員として、ロビー活動に出資・加担しているとの見解を示している。
VGHFは、任天堂がそうしたロビー活動に加担しつつもeショップを終了するのは「ゲームの歴史を破壊するかのような行為」であるとした。そして、任天堂含むESA加盟企業に対して、自分たちの立場を改めて見直し、問題に対する解決策を保存機関と協力して見出してほしいと伝えている。つまり、VGHFは一連の声明のなかで、任天堂などのゲーム企業はゲームを後世に残す活動に非協力的であり、入手手段を閉ざしているとして異議を唱えているのだ。
今回のVGHFの声明は、SNS上にて多数ユーザーによる議論にも波及している。VGHFによるツイートのコメント欄や、海外掲示板Redditの同声明を扱ったスレッドでは、コスト面などを踏まえストアの終了は致し方ないとの意見もある一方、ゲーム保存に消極的にもうつる姿勢には批判も見られる。また、多くのユーザーが言及しているのが、ゲームの海賊版への懸念だ。内容としては、「合法的な入手手段がないタイトルが発生した場合、海賊版に需要が流れるのではないか」との意見が散見される。
ストアを終了するか否かはあくまで企業の判断。しかし一方で、ゲーム史を紡ぐ作品たちが入手困難となってしまうのは、後世のためにも避けたい損失だ。デジタルストア終了によってゲームが入手不可となるのは、ニンテンドー3DS/Wii Uのニンテンドーeショップ終了に限った話ではない。ゲーム業界は、ゲームの保存という課題に答えられる日がくるのだろうか。