「Unreal Engine 4」で“ゲームを完成させる”にはどうすればいいのか?1か月で3Dアクションを作り上げたヒストリアと、Epic Gamesに訊く 第1回
いま、“ビデオゲームを作る”の敷居は大きく下がりつつある。2015年3月の「GDC 2015」にて各ゲームエンジンの基本無料化が発表され、プロのスタジオが使用しているような開発ツールを誰もがタダで利用できるようになったためだ。ライセンスを購入したりサブスクリプション費用を支払う必要もなく、性能に準じたPCさえあれば“ゲームを作る”ことはとても簡単にできるようになった。
一方で、いざそういったゲームエンジンに触れてみても、あるいは使い方をネット上で調べたり入門書を買ってみても、“ゲームを完成させる”ということはとても難しい。ゲームを作り始めることが簡単になったとはいえ、ただ単に触ってみるのと“ゲームを完成させる”とのあいだには依然として大きな距離がある。あなたもゲームエンジンに触れてはみたものの、結局ゲームを完成させることなく放りっぱなしにした1人ではないだろうか。あるいはまだ、どうやってゲーム作りをすればいいのか途方に暮れ、入り口の前で立ち止まっているのかもしれない。
今年5月にリリースされた『ダンジョン&バーグラー』は、1人のアーティストがわずか1か月間で完成させたという3Dアクションゲームだ。ゲームエンジンには、前述のGDC 2015にて無料化が発表されたEpic Gamesの「Unreal Engine 4」が使用されている。開発者は当時ほとんどプログラミングの知識が無かったとのことで、いまからゲーム開発を始めようと思っている人とも境遇が似ている点があるだろう。
今回はこの『ダンジョン&バーグラー』を開発した株式会社ヒストリアと、国内でUnreal Engine 4を展開するEpic Games Japanを混じえ、いかにして1か月でゲームを完成させたのかをお聞きした。具体的に「完成させる作戦」を考え進められた同作の開発ストーリーは、どう開発を進めてゲームを完成させればいいのかわからないというゲーム開発入門者にとっては、必見の情報だ。
「1人、1か月」でビデオゲームを作り切る作戦を考える
――『ダンジョン&バーグラー』が開発された生い立ちを聞きたいのですが、なにか「ぶん投げられてしまった」とか……。
佐々木氏:
(笑)ヒストリアを設立してオリジナルタイトルを早いうちに出したかったんですね。ただ、やっぱり最初は受託仕事で会社を回すことに精いっぱいで、なかなかオリジナルは作れなかったんです。それが、今だったら1か月空けられるかなという時期がありまして。ちょうど仕事に調整が付けられて、「ここ1か月でオリジナル、今なら作れる」と。で、我妻が空いている。彼ならゲームは1人で作れると思っていたので、じゃあ1か月で作ってよっていうのを、ぶん投げました(笑)
あとは小さいタイトルの方が、1人1人の個性も出るんじゃないかな。というので、その人の作りたいものを作るのを1、2か月間でやったら、きっと面白いものが出来るんだろうなって思いは、ずっとあったんです。それで、ここ1か月で作れそうな人も空いていたので、やるなら今か、と。こちらからの指定は「リリースをするためのものである」ということぐらい。とにかくリリースする。あとはモバイルですね。リリースするならモバイルが一番しやすいのと、今後ヒストリアでもUnreal Engineを使ってモバイルを攻めていきたかったので、そこにどれぐらい可能性があるのかというのもちょっと占いたかった。「モバイルで1か月」、我妻にはそれだけしか指定はしてないですね。
――「1か月間で作りきる作戦」を考えたとのことですが。
我妻氏:
ちゃんと作りきるには、「少ない素材をいかに利用して作っていくか」が非常に重要かなと思いました。なるべく同じステージを使い回し……使い回しって言うと変ですけど、応用していくつもの遊びを作れるような、そういう作りにしていきたいなと考えまして。もちろん、せっかく出すものなので、それなりの時間遊べるものにしないといけない。少ないアセットでそういうことができるとなると、やり込み要素を増やしていくタイプのゲームか、昔ながらの難易度が高くてプレイヤーが何度も挑戦しないとクリアできないようなゲームか、どちらかかなと思いました。自分が後者の方が好きだったというのもあって、何度もプレイヤーがコンテニューして死にながらどんどん先に進んでいく、そんなゲームを作りたいなと。
――なぜ3Dアクションゲームを選択されたんですか?
我妻氏:
現実問題として、グラフィックアセットは購入したもので基本的に作ろうと決めていたんです。それで当時、Unreal Engine 4のランチャーから行けるマーケットプレイスにあるアセットの中で、2Dのアセットっていうのはほとんど無くて。自分はもともと2Dアーティストなので描くっていう選択肢もあるにはあったんですけど、そこにかけるグラフィックのコストや時間を考えると、現時点であるもので作る3Dっていう結論が出てきた。
あと、Epic Gamesさんの方で提供されているサンプルっていうのが3Dに特化していて、改造すると3Dのゲーム作りやすかったんです。操作方法とかいろいろ内包されたテンプレートがあって、それをベースに作っていった方が楽だろうなと思いました。楽だろうなというか、早いだろうなというか。
佐々木氏:
完成するだろうなという(笑)
我妻氏:
そうですね(笑)そういうのがあったので、3Dってのは決めましたね。
――ちなみに『ダンジョン&バーグラー』で使用されている購入アセットの割合はどれぐらいですか?
我妻氏:
主人公キャラクターは自分で作成したんですが、背景はもうほぼ100パーセント、マーケットプレイスから購入したものです。ゲーム内には敵キャラクターとかギミックとか出てくるんですが、それもほぼマーケットプレイスから購入したものを、自分で骨(ボーン)を入れて動くようにしたりとかしました。そういった加工をしながら使っていった感じになります。
「アセット」はどう選ぶのか?
――コンセプトを立ち上げるまでにかかった時間は?
我妻氏:
せいぜい1日とか2日とか、そんなものだとは思いますね。
――かなり短いですね。アートの方向性もすでにその時点で?
我妻氏:
アートスタイルはアセットから逆算して決めました。そうすると、具体的にどのアセットを使うかを選ぶところからなんですが、当時まだマーケットプレイスが出たばかりで……。
河崎氏:
マーケットプレイスが開いたのが2014年の秋ぐらいですね。
我妻氏:
『ダンジョン&バーグラー』の開発が12月にやってたので。
河崎氏:
ほぼ開店直後ぐらいですね。
我妻氏:
その当時のマーケットプレイスにあるものを見た時に、だいたい3種類に分類できるなと思っていました。Unreal Engine自体がよくFPSに使われるゲームエンジンなので、まずガチのFPSを作るのに向いたリアルなゾンビとか銃器とか兵士とか、そういった「リアル」系アセットが1つ。よくMOBAとかで使われるような、リアル調なファンタジーの「ハイファンタジー」系アセットが1つ。あともう1つが、すごい「カジュアル」なものでした。
その中で、当時のマーケットプレイスのアセットだけで完結できるものを考えた時に、やはり「カジュアル」な方向性の方がいいんじゃないかと。というのも、やはりモバイルのゲームですので、あまりハイポリゴンであったり高解像度のテスクチャっていうのは使えないだろうというのがあったんです。なのでまず、カジュアルなものをいくつかチョイスして、さらにその中から選んでいったという形になりますね。
その時選んだ背景のアセットのなかに、「Top-Down Dungeons」というアセットがあって、それがまさにダンジョンを作りやすいような内容でした。これがあれば背景はなんとかなるなと。あとはキャラクターに関しては、かわいいお化けとかコウモリとかが入った「Halloween Props」というのがあって、これを敵にすればいいじゃんと思いました。その2つを組み合わせて使っていこうという形になりましたね。このアセットと、指1本で操作できるというゲームデザインにしたかったこともあり、「攻撃の能力を持たない主人公のこそ泥がダンジョンに侵入して、トラップとかをくぐり抜けながら奥深くへ進み、お宝を目指す」という、一番最初のコンセプトができあがっていった感じですね。
――初歩的な質問かもしれませんが、アセットを購入する場合、最初に大量に買ってしまいますか。それともサンプルを見て厳選する感じでしょうか。
我妻氏:
僕の場合は、まずサンプルの画像を見て決めています。なので実際に買ってみると……というのがたまに(笑)「Halloween Props」の中にゾンビの手、緑色の手が棺桶から出てるみたいなアセットがあったんですが、てっきり動くのだろうなと思っていたら、買ってみると中にボーンが仕込まれていなくて。まったく動かない状態だった(笑)結局、あとから自分で骨を入れて動かしたという。そういうのは何度かありましたね。
――アセットの選定はスピーディーに決定しましたか?僕自身の思い込みなのですが、開発はまずこう紙にコンセプト・アートを描いて……という風にやるものだと思っていました。どちらかというと、選択肢がもう決まってあって、どれかを選ぶという感じだったんですね。
我妻氏:
それはもう、1か月で作るっていう前提があったので。あとは3Dグラフィックのモデルを作るのって時間がかかりますし、1人が付きっきりでやらなければならないことなので、なるべくそこにコストを割きたくないという思いがありました。あるものの中で、ベストじゃないにせよベターなものを選ぶみたいなチョイスをして、1つの世界観が作れるように構成していく。普通のゲーム開発とは違いますし、グラフィックにこだわりがある人から見ると結構邪道なやり方なのはもちろんです。僕自身もアーティストなので、そこにはこだわりがあります。でも、マーケットプレイスにて提供されているアセットのクオリティが高いので、それを組み合わせるだけでも十分良いものになるんじゃないかなという考えがありましたね。
――ちなみに、マーケットプレイスで購入する場合、読者にオススメできる定番のアセットや使いやすいものはありますか?
我妻氏:
ゲームにもよるんですが……特にあれですね、『ダンジョン&バーグラー』を作ってる当時は、本当に数があまりなかったので(笑)今だと、これはあった方がいいかなっていうのはいくつかあったりはしますが、結局使わなかったりも……。
どれをと言うわけじゃないんですが、アセットストアで”3Dの背景のアセット”として売られているものは、基本的に「モジュラーアセット」という考え方で作られているものが多いです。たとえば背景があったとしたら、その中には床と壁と小物が独立して作ってあって、それらを組み合わせて背景を構築していくことが出来ます。SFっぽいものや、リアル調のもの、コミカルなものなどアセットによってコンセプトはいろいろ異なるんですが、基本的にはそういう構造になっていて、組み合わせればオリジナルの背景が作れるようになっています。なので、背景はどれを買っても大丈夫なんじゃないかなって思いますね。
“絵”でプログラミングできる「ブループリント」を使う
――アセットを選定したら次はプロトタイプの開発を進められたとのこですが。
我妻氏:
そうですね。実際は同時進行というか、プロトタイプを作りながらアセットを選定して行ったという形です。ただプロトタイプ自体は、2~3日とかそのあたりで作っていたとは思いますね。
――かなり早いですね。
我妻氏:
Unreal Engine 4の「ブループリント」が、とにかく試しやすいんです。ちょっとつないで、動くのをビューポートで確認して、またブループリントの方に戻ってきて、動かない箇所を修正したりだとか。どうして動いてないかがすぐわかって、さらに今この処理がここで動いてますよというのが視覚化されています。
――あらためてブループリントとはどんなものでしょうか?
我妻氏:
やっていることは、プログラムを書いているのと一緒なんですが、その機能が1つ1つの「箱(ノード)」のようなものに収められているんです。そこからピンが出ていて、なにかの処理となにかの処理を紐でつないであげるみたいな。それをこう、マウスの操作だけでサクサクとできるんです。キャラクターを動かしたりとか、あとはキャラクターを消したりとか、エフェクトを出したりとか、そういった処理を箱をつないでいくことで作れるっていう。非常にこう……面白いというか(笑)触っていてすごく面白いものだなあと思いますね。プログラマーから見ると、やっていることは完全にプログラムと一緒なんですけど、ただデザイナーとしても視覚化されているからすごい取っつきやすくて。
――コードをまったく知らなくともブループリントは使える?
我妻氏:
箱をつないで実行すると、今ここが動いてますよみたいなのが、アニメーションでわかるので。本当にまったく知らないという人っていうとアレかもしれないですけど……。
河崎氏:
でも専門学校とかで話していると、初めてプログラムを学ぶ若い子たちにブループリントから入らせると、すごく理解が早いですってのを聞きますね。たとえばC++でイコールって使うんですけど、C++のイコールって、僕もプログラマーじゃないので聞きかじりですけど、数学のイコールと違って代入してくださいっていう意味らしいんですよ。そこで引っかかっちゃう子がかなり多いと。でもブループリントでやると、代入っていう概念が絵で、ここにこれをこう入れるんですっていうのがわかるので、それが直感的にわかる。ほかにも「オブジェクト志向」というコンセプトがまさにブループリントの特徴なのですが、これもC++と共通するものです。プログラムの概念というかコンセプトを学ぶのに、まずブループリントから入ってからC++に行くと、理解が早いですっていうお話は、何校かからうかがったことありますね。
――ブループリントは実際のプログラムから完全に離れたものではないんですね。
河崎氏:
プログラムを模式化というか図式化してるだけなので、コンセプトは同じですね。35歳以上がわかるたとえで言うと、むかし学研で電子ブロックっていうオモチャがあったんですけど、レゴみたいなのを組むとラジオができたり嘘判定器ができたりだとか。あれがすごく近いと思います。それか、いまの若い子でわかるように言うと、『Minecraft』のプログラムか。ブロック置いて、if判定したりみたいな流れになるので、あれとかはブループリントにすごく近いと思いますね。
――入門にはうってつけという感じがしますね。
河崎氏:
おっしゃるとおりですね。
テンプレートをベースにプロトタイプを作る
――実際プロトタイプを作ろうという時に、一番最初から始めるのはどこですか。
我妻氏:
まずキャラクターを移動させるロジックに関しては、上から見下ろしでキャラクターをマウスクリックで動かすデフォルトのテンプレートがあったので、それを流用しました。キャラクターが動くところまでいくと、次に試したかったのは敵を作った時にこれで遊びが成立するのかというところ。ちゃんとゲームになっているのか、もともと考えていた仕様が動いた時に、ちゃんとやり取りがあってこれでバリエーションが作れるのかとか。そういったところを検証する必要がありました。
プロトタイプでどこから手を付けたかというと、まず壁を組み立てて、キャラクターが動き回るフィールドを作って。壁や道幅がどのくらいが適切なのか、そういった基礎的な部分をまず固めて、そのあと動く敵を作りました。あとはアイテムをちょっと配置してみて、大きさが適切かとか、どういったものがあったら嬉しいのかとか、そういうったことを徐々に詰めていった感じになりますね。
佐々木氏:
新しいプロジェクを作るとき、こういったテンプレートが最初からあるんですよ。自分の作りたいものに近いものを選択して新規プロジェクト作成とするんですね。『ダンジョン&バーグラー』だと「Top Down Game」のテンプレートが近いので、これを選んで。こんな風に、もうこれぐらいプレイできる状態にはなってます。
――『ダンジョン&バーグラー』もこちらをベースに?
我妻氏:
ベースに作ってありますね。
佐々木氏:
あとはこれを、サイズを変更したり壁にしたりとかして、ちょっとマテリアル張って、それらがプロトタイプ版になっている感じですね。そうやって実行すると、もうそのまま壁になります。
――これをベースにして、テクスチャを貼って、ちょっとプログラムを付けると、ゲームを完成させられるということでしょうか?
我妻氏:
そうですね。特に1番難しいキャラクターの動かし方とか、そういところが最初から用意されているので、すごくやりやすいですね。
佐々木氏:
本当にこの『ダンジョン&バーグラー』的なものですと、コインを取るみたいな処理はこれだけでもできる。タイミング合わせてコイン取ってみたいなのと、こういう風にブロック(スフィア)を整えて作れば……。今のだけでもうプロトができちゃうんですよ。
我妻氏:
『ダンジョン&バーグラー』のプロトタイプの場合は、道幅とかキャラクターの大きさが適切なのかとかを試していましたね。あとは敵キャラクターの動きのサンプルであるとか、階段に入ったら次の階へ行くっていう仕組みが 決まっていたので、そこのその階を読み替えるような仕組みとか、そういったところをテストするのが主な目的でしたね。
――ここまででどれぐらいの期間がかかりましたか?1週間半ぐらいでしょうか?
我妻氏:
ぜんぜん、もっと早いと思いますね。
佐々木氏:
これ確か3日とかかな。
我妻氏:
アセットの選定も並行して進めていたので、あわせても1週間はいかないはずですね。
仕様を決めずに開発を進める
――プロトタイプの段階ではどの程度の完成度まで持っていきましたか?
我妻氏:
こんな感じの2枚のショットがあるんですが、これが完成版で、これがプロトタイプ版になります。プロトタイプ版は、とりあえず壁があって、Epic Gamesさんのサンプルの「カウチナイト(Couch Knights)」が歩いてるっていう。ここにコインとかが配置してあって、なんとなく全体のどのくらいカメラを引くのかとか、そういったところはだいたいできていますね。
完成版と違うところでいうと、ここに緑色のものがあるんですが、これが最初入れようと思ってた「燃料」っていう仕様でして。当初はダンジョンに侵入するときに主人公がたいまつを持っていて、時間の経過とともに徐々に火が小さくなり視界が狭まっていくというデザインだったんですね。その視界を元に戻すためには、置いてある燃料を拾わなければならないという。燃料を定期的に取っていかないと、どんどん難しくなっていくという仕様を考えていたんですが、実際に入れてみると本当に難しすぎて(笑)視界を奪われるのつらすぎて、ストレスの方が強かったので、もうそれはプロトタイプ版の段階できっぱりカットしちゃいました。まあ、この仕様の有り無しを試すために、手早くブループリントでささっと組んで入れてみたんです。これはちょっとっていうのは、ささっと省いてという。
河崎氏:
1か月の中で、ブレイクダウンした詳細なスケジュールって自分で決めてたんですか?なになにをいつまでぐらいとか。
我妻氏:
最初にがっつり仕様を決めて、これをいつまでに作るというよりは、まず1つギミックを完成させてそれに付随するステージをいくつか作ってみて、それを徐々に増やしていくっていうスタイルを採用していました。それによって、結果的に作りすぎることがなく、たとえば仕様を頑張って考えたものの作ってみたらちょっと微妙だったとか、そういうことも無く済みましたね。結果的にはこのやり方が、開発が1か月間のスケジュールに収まったという点で、すごい貢献してたんじゃないかなと思います。
河崎氏:
じゃあ物量が決まってて、それをスケジュールに落とし込んだのではなくて、ボトムアップで30日で作ろうというので決まったんですね。
我妻氏:
そうですね。なんとなく目標としては40ステージぐらいという風には決めていたんですが、作りながら仕様をスケジュールに擦り寄せていったというか(笑)そういう形で作っていきましたね。
――なんだかアセットを選定しながらのプロトタイプ構築とか、仕様を決めず開発を進めるとか、思っていたよりUnreal Engine 4が柔軟に動かせるという印象を受けますね。
我妻氏:
ですね。もともとUnreal Engine自体はグラフィックに強みを持ってるエンジンなので、グラフィックは素材をUnreal Engine 4に入れれば絶対によくなるっていうのは間違いなくありました。あとはゲーム部分がいかに素早く組めるかっていうところが重要だったんですけど、そこでブループリントが特に良くて、ちゃんとしたプログラムの経験が無い僕でも、トライ&エラーがものすごいしやすかったんです。ああ動いていない直そう、どうして動いてないんだろうって見たら、ここの線が繋がってないだとか、ここの数字が来てないみたいなのが本当にすぐわかるので。その繰り返しがすごくやりやすい。本当に短期間でちょっとしたものを作るには、ものすごい良いと思います。
やっぱりUnreal Engineっていうと、大作で使われるエンジンっていう印象が強いと思うんですけど、少人数で作ったりとか、短い期間で作ったりするなかでもすぐに試せるし、すごくクオリティが出せたりする。そこがUnreal Engineならではのいいところなのかなと思いますね。
膨大な「ノード」の数にどう対処するか
――第1回ではブループリントとテンプレート、アセットを使用してプロトタイプを固めていくという開発過程を教えていただきました。この中で、実際に開発者がつまづきそうなポイントはありそうですか?
河崎氏:
「Z-Up」とか。
我妻氏:
「Z-Up」!そうですね。
佐々木氏:
今は座標系は「Y-Up」ってのが基本的に多いんですけど、Unreal Engineの座標系は「Z-Up」なんです。3ds MAXの文化ですよね多分。
あとは……最初はやっぱり本当に本もなにも読まないと、ブループリントでどんなノードがあるかわからないっていうのはあるかもしれない。
我妻氏:
ノードっていうのは、さっきの一個一個の処理の箱ですね。
――これを入れればこういう風に動きますよ、という説明はあるんですよね。
佐々木氏:
もちろんありますし、チュートリアルとかやれば基本的なのは覚えられるんですが、見ての通り非常に数が多いんですよ。
我妻氏:
Unreal Engineを触り始めた人から、できることが多すぎてなにから手をつけていいのかわからないっていう意見をよく聞きますね。そこでデザイナー、というかアーティストの場合という話にはなっちゃうんですが……ちょっと「マテリアルエディター」を開いていただけますか。
マテリアルエディターでは、テクスチャなどを使って3Dモデルの質感を作ったり、ちょっとしたプログラム処理を加えたりする事も出来ます。作ればすぐに結果に現れるというか、テクスチャを繋げばテクスチャが出ますし、数値を変えればすぐにその数値が適応されて、すごくわかりやすい。なのでアーティストでこれからUnreal Engineを始められる方は、とにかくマテリアルエディターを1回触ってみるといいんじゃないかと。中身はかなり違うんですけど、ノードを繋いだり数値を変更するという考え方はブループリントとすごく共通しているので、そういうところから始めるとすごく取っつきやすいと思いますね。
アーティストじゃなくても、マテリアルやエフェクト、あるいはアニメーションでもいいですし、自分の興味のあるところから始めるのがいいかもしれないですね。いろんなところからスタートしていっても、すべてがブループリントへつながってゆくデザインになっているので。
――やりたいところからやっていくのが一番いいと。
我妻氏:
そうですね。自分のモチベーションを保てるところから初めていただくと(笑)結局はやっぱりブループリントに行きつきます。
佐々木氏:
最終的にはブループリントとマテリアルに行きつくかな?
我妻氏:
特にマテリアルはノードベースなので、そこである程度の知識というか操作に慣れておけば、ブループリントでも応用できることがすごくあると思います。
番外編: 一からブループリントでゲームを作る
――我妻さんは『ダンジョン&バーグラー』を開発する当時、ブループリントをどの程度使いこなせていましたか。
我妻氏:
そうですね、ちょっとしたミニゲームというか……。
佐々木氏:
「ぷちコン」だよね?
我妻氏:
そうですね。ヒストリアに入社する前に「ぷちコン」へと応募したものが、ブループリントを使った2Dスクロールのゲームでした。先ほどの「Top Down」と同じように、2Dゲーム用のテンプレートなどもあって、それをベースにミニゲームを作ったりしてたんです。そういった感じで、あるものを応用して作るみたいなことは、やっていましたね。ある程度ブループリントは触れるようになっていたかなと思います。
佐々木氏:
懐かしいですね。
我妻氏:
懐かしすぎる(笑)
河崎氏:
まだ「ぷちコン」が“ぷち”だった頃の。
一同:
(笑)
河崎氏:
今は「がちコン」になってる。
佐々木氏:
一部では確かに(笑)
――これが初めてブループリントで作られたゲームですか?
我妻氏:
本当に初めてって意味で言うと、「40分で作るブロック崩し」(※ 動画)になりますね。「Unreal Engine 4で極めるゲーム開発」という本を出されている湊(みなと)さんという方が、Unreal Engineのゲーム勉強会の時に「40分で作るブロック崩し」っていうライブコーディングを披露した際の動画がアップロードされていて。Unreal Engine 4のブループリントを使って、40分間の勉強会の自分の枠のなかで1本ブロック崩しを作るという。それがすごくわかりやすくてとても勉強になりました。それを応用してすごく簡単なものですけどシューティングゲーム作ったりとか。敵が出てきて、弾を撃って、弾が当たったら敵が死ぬ、でポイントが加算されるとか。ただそれも1か月か2か月とか勉強したぐらいで、その状態から『ダンジョン&バーグラー』を作ったっていう感じになりますね。
――過去のゲームもテンプレートから発展させていったんでしょうか?
我妻氏:
そうですね。でも「ブロック崩し」は、ゼロから40分でブロック崩しを作るっていう動画ですね。動画を一時停止しながら、ここでなにを書いているんだろうと見ながら作ってました。ブロック崩しは弾が当たったらブロックが壊れるっていう処理なんで、それを応用すればプレイヤーを動かして弾を出して弾が当たったら敵が死ぬっていうものを作れると思いました。いくつか試したりしていましたね。
――はじめてUE4でゲームを作る場合、テンプレートから作るのか一から作ってみるのか、どちらを読者に進めますか?
我妻氏:
本当にオススメなのは後者の方です(笑)動画を見て、1回自分でシンプルなものでもいいと作ってみると、すごくいいんじゃないかなと思います。ただ、テンプレ―トから始めた方が取っつきやすいです。たとえば横スクロールのテンプレートでは、歩く機能とジャンプする機能だけが入っているので、自分で改造して足場を作ったり穴を作ったり、ダメージを受ける針を作ったりだとかを追加していく。そういう感じで、『スーパーマリオメーカー』的にというか、パーツを組み合わせて作っていくこともできます。そういったところから始めると遊べるところまですぐにいくので。プレイして試してっていうサイクルが出来て、ホントすごく取っつきやすいんじゃないかと思います。
佐々木氏:
困った時は「極め本」があるからね。
――極め本がオススメ?
佐々木氏:
入り口としては極め本をオススメしてますね。まずうちも会社の研修で新しい人が入ってきた時、まずこれの頭から最後まで通してやってみてっていうのが、研修になってます。
河崎氏:
ビデオゲームってズルくて、画面にキャラクターが出て動かせるだけで、ある程度面白いってなっちゃうんですよ。でも、エンジンも使わずに素で作ろうとすると、まず画面にモノを出すところで大変だし、コントローラーの入力に合わせて動かしたり、コリジョン(衝突判定)取ったりというところで挫けちゃうことは多いと思います。その意味ではテンプレートを使っていただいて、なんか動かして楽しいってところから入って、モチベーションを維持しながら掘り下げていく方が、本当に初めて触る方にはいいのかなと思いますね。
――やる気のある方は極め本を買って。
我妻氏:
そうですね(笑)
第2回は1月初旬に掲載予定。